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英国のCPTPP加盟とスコッチウイスキー産業の変化:近年の輸出動向と蒸溜所買収の実態

2025.06.16 / 最終更新日:2025.06.16

2024年12月、EUを離脱した英国が正式にCPTPP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定)へ加盟しました。

これにより、英国と加盟各国との間で新たな経済的枠組みが構築され、関税や貿易ルールの見直しを通じて、さまざまな産業に変化が生まれています。中でも大きな注目を集めているのが、世界的なウイスキー生産国である英国、特にスコットランドのスコッチ業界です。近年、スコッチの需要はアジアをはじめとするCPTPP加盟国でも高まっており、同協定の発効によってさらなる輸出拡大が見込まれています。

本記事では、英国のCPTPP加盟がスコッチ業界にもたらす影響と、今後の輸出動向について、関連情報を整理してご紹介します。

CPTPPとは

CPTPP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定)とは、アジア太平洋地域を中心とした12か国が参加する経済連携協定です。

関税の撤廃だけでなく、サービス・投資の自由化、知的財産の保護、電子商取引、金融サービス、国有企業の公平な競争条件の整備など、幅広い分野を網羅し、高い水準のルールを構築することを目的としています。単なる自由貿易協定を超え、域内の経済活動をより円滑にし、長期的な経済成長を支える枠組みです。国境を越えた経済活動をより円滑にし、域内の経済成長を促進することが期待されています。

出典:内閣官房

2025年6月8日時点での加盟国(12か国)

日本、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、メキシコ、シンガポール、ベトナム、マレーシア、ブルネイ、チリ、ペルー、イギリス(2024年12月正式加盟)

英国加盟の背景と意義

2024年12月15日、英国はCPTPPに正式加盟しました。

これは、EU離脱後の新たな経済戦略の一環として、国際的なプレゼンスを高め、経済的利益の拡大を図る動きでもあります。英国は、今後の成長が見込まれるアジア太平洋地域との関係強化を目指してCPTPP加盟を推進。長期にわたる交渉を経て、ついに加盟が実現しました。

これにより、インド太平洋地域との経済的結びつきが強まり、輸出入の拡大やサプライチェーンの多様化など、さまざまな経済的効果が見込まれています。英国の加盟は、CPTPP加盟国や域内経済にも大きな影響を与える重要な転換点となっており、今後の動向にも注目が集まっています。

TPP加盟前と加盟後の英国から環太平洋地域への酒類の輸出量

ウイスキー産業への影響

英国のCPTPP加盟は、ウイスキー産業にとって輸出機会の拡大、コスト削減、ブランド保護といった多方面でのメリットが期待されており、今後、各国との具体的な貿易取り決めや流通の実務面での変化に注目が集まっています。

特にスコッチウイスキーやスパークリングワインなどの英国産酒類は、2025年時点ですでに、CPTPP加盟国であるシンガポール、マレーシア、日本で好調な売上を見せています。

この背景には、多くの英国製品が関税ゼロで輸出可能となったことがあります。酒税全体の撤廃はないものの、ウイスキーに関しては段階的に関税が撤廃されることが見込まれており、今後もイギリスから加盟国へのウイスキー輸出量は大きく伸びると予想されています。

スコッチ・ワイン・ジンの具体的な輸出効果

スコッチ

  • シンガポールへの輸出額は、前年に比べて31%増加し、約38,000万ポンドを記録
  • マレーシアへの輸出額は43%増加し、約1,100万ポンドを記録

スパークリングワイン

  • 日本への輸出額は、前年に比べて140%増加し、2,600万ポンドを記録

ジン

  • シンガポールへの輸出額は56%増加し、300万ポンドを記録

出典:GOV.UK

スコッチウイスキー産業の成長

パンデミックからの回復

新型コロナウイルスのパンデミックにより、一時的な打撃を受けたスコッチ産業ですが、その後は力強い回復を遂げ、現在では順調な成長軌道に乗っています。

スコッチウイスキー協会(SWA)によると、2022年には、スコッチウイスキーの世界輸出額が約62億ポンド(約1兆円)に達し、過去最高を記録しました。同時に、閉鎖されていた蒸溜所の再建も各地で行われており、2023年から2024年の10年間で約40の新しい蒸溜所がオープンしています。

また、近年スコッチウイスキー蒸溜所の買収が活発であり、スコッチウイスキーの世界的な人気と将来的な成長性が期待されています。

出典:Scotch Whisky Association

スコッチ蒸溜所の買収動向

データとして正確な集計はないものの、2020年以降20以上のスコッチ蒸溜所の買収が行われており、小中規模の蒸溜所の買収は今後も行われていくと予想されています。

2000~2025年に買収の動きがあった蒸溜所(抜粋)※アルファベット順

蒸溜所名 買収年 買収者
BenRiach Distillery 2016 Brown–Forman
Bladnoch Distillery 2015 David Prior
Braeval Distillery(元Chivas Brothersが所有) 2001 Pernod RicardがChivas BrothersをSeagramから買収
Bruichladdich Distillery 2000 個人投資家数名
Bruichladdich Distillery 2013 Rémy Cointreau
Eden Mill St Andrews Distillery 2021 Inverleith LLP
Edradour Distillery 2002 The Signatory Vintage Scotch Whisky Company
Glen Grant Distillery 2005 Campari Group
Glendronach Distillery 2008 The BenRiach Distillery Company Limited
Glenglassaugh distillery 2013 The BenRiach Distillery Company Limited
Glenmorangie Distillery 2004 Moët Hennessy Louis Vuitton
Glen Moray Distillery 2008 La Martiniquaise
Glen Scotia 2014 Loch Lomond Group
Laphroaig 2014 サントリーホールディングス
Longmorn Distillery 2001 Pernod Ricard
Rosebank Distillery 2017 Ian Macleod Distillers Ltd
Scapa Distillery 2005 Pernod Ricard
Strathearn Distillery 2019 Douglas Laing & Co.
Strathisla Distillery 2001 Pernod Ricard
Tamdhu Distillery 2011 Ian MacLeod Distillers
Tormore Distillery 2022 Elixir Distillers
Tullibardine Distillery 2011 Picard Vins & Spiritueux

まとめ

英国のCPTPP加盟は、スコッチウイスキー産業にとって輸出拡大や市場多様化の大きな追い風となっています。関税の削減や撤廃により、シンガポールや日本などアジア太平洋地域への輸出額が大きく伸びており、今後もさらなる成長が期待されます。また、蒸溜所の新設や買収も活発で、スコッチ産業全体の拡大傾向が見て取れます。今後の動向からも目が離せません。

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