【現地レポート】アードナッホー蒸溜所 : ハンターレインがアイラ島に待望の自社蒸溜所を設立
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エディンバラの中心部からわずか1キロほど離れたところにあるホーリールード蒸溜所は、およそ100年ぶりに市内に設立されたウイスキー蒸溜所です。
人々を惹きつけるのは、その立地やユニークな外観だけではなく、製品の品質の高さと実験的なハウススタイルもこの蒸溜所に注目を集めています。
今回はそんなホーリールード蒸溜所の蒸溜所マネージャーであるカラム・レイさんにインタビューさせていただきました!インタビューではカラムさんのユニークな経歴からウイスキー造りにおけるホーリールードの哲学まで様々なお話を伺うことが出来ました!
ホーリールード蒸溜所のウイスキー製造とツアーの詳細については、現地レポート記事をぜひご覧ください!
蒸溜所名 | Holyrood Distillery |
設立年 | 2019年 |
創設者 | ロブ・カーペンター、ケリー・カーペンター、デビッド・ロバートソン |
住所 | Holyrood Distillery, 19 St Leonard’s Lane, Edinburgh. EH8 9SH, United Kingdom |
公式サイト | ホーリールード蒸溜所公式HP |
Dear WHISKY:
ご自身の経歴を教えていただけますか?
カラムさん:
私はデスメタルバンドのサウンドエンジニアとしてキャリアをスタートしたのですが、ウイスキーに興味を持ったきっかけはあまり覚えていないんです。この業界での最初の仕事は、ファイフ地方にあるウイスキー蒸溜所での梱包アシスタントとしての仕事で、ここからウイスキー業界で働くようになりました。
Dear WHISKY:
どのような経緯で造り手として携わるようになったのですか?
カラムさん:
梱包アシスタントとして働いた後、エデンミル蒸溜所のツアーガイドになりました。仕事は楽しかったのですが、自分は製造サイドで働くほうが好きだということに気づき、ブリュワー(醸造担当)として働くようになりました。その後、エディンバラに来て、ボニントン蒸溜所の立ち上げに携わりました。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所にはどのようなきっかけで入られたのですか?
カラムさん:
私がエディンバラのボニントン蒸溜所の設立に携わっていたとき、ちょうどホーリールード蒸溜所が出来たのです。
ホーリールード蒸溜所の革新的かつ進歩的なハウススタイルに惹かれて、ここで働いてみたいと強く思いました。
2021年にホーリールード蒸溜所のシニア・ディスティラーとなり、2023年に蒸溜所マネージャーの職に昇進しました。
カラムさんとのインタビュー中に、ホーリールード蒸溜所の共同創設者であるロブ・カーペンターさんにお会いすることができ、ホーリールード蒸溜所誕生の背景についてお伺いしました!
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所を設立する前からウイスキー業界で働いていたのですか?
ロブさん:
私は主にエネルギー業界で働いてきたので、蒸溜所で働いた経験はありませんでした。しかし、エディンバラに1年間住んだ後、妻とカナダに戻ったとき、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティのカナダ支部を設立しました。
その頃からエディンバラにウイスキー蒸溜所を設立する構想はありました。
Dear WHISKY:
ホーリールードのプロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか?
ロブさん:
2013年末から蒸溜所を造ろうと考えていました。妻のケリーと私はエディンバラに1年間住んでいましたが、その経験が私にエディンバラで蒸溜所を開くきっかけを与えてくれたのです。カナダやスコットランドの他の地域に蒸溜所を建設するというアイデアもありましたが、最終的にはエディンバラに建てることにしました。
Dear WHISKY:
蒸溜所設立の準備はいつから始めましたか?
ロブさん:
2016年ごろに古い廃機関車庫を発見し、資金を集め、この敷地を入手しました。2018年9月に建設が始まり、翌年8月に蒸溜所がオープンしました。
Dear WHISKY:
蒸溜所の建てるまでに困難などはありましたか?
ロブさん:
建物のスペースが限られていたため、ウイスキーの製造設備、特にポットスチルを設置するのが困難でした。
ポットスチルを設置するときには、正確な大きさを測った上でスチルを分解し、建物内で組み立て直す必要がありました。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所のウイスキー造りには、何か決まったハウススタイルなどはあるのでしょうか?
カラムさん:
我々には決まったハウススタイルはありません。それが蒸溜所設立時からの創業者の当初の考えでした。蒸溜所のコアスタイルで安定した味わいのウイスキーを提供しながらも、誰もが自分のお気に入りを見つけられるよう、多様な味わいのウイスキー造りを目指しています。
このようにして、お客様のさまざまな好みに応え、ユニークな体験を提供したいと考えています。
Dear WHISKY:
製造工程はどのように管理されているのですか?
カラムさん:
ホーリールードには、蒸溜所内の多くの工程を制御するヒューマンマシンインターフェイス (HMI) があります。これにより、加熱にかかる時間から香りを生む分子が生成されるタイミングまで、すべての傾向を追跡し、その進行をモニターすることができます。
さらに、手動バルブも多数備えており、デジタル技術とアナログな雰囲気の素晴らしい組み合わせを生み出しています。
Dear WHISKY:
これらの背が高く、特徴的な外観のポットスチルは、ホーリールード蒸溜所でどのように使用されているのでしょうか?
カラムさん:
背の高いポットスチルは一般的に軽やかな酒質のウイスキーをつくるのに使われます。しかし、熱量などを調節することで、重厚かつオイリーな味わいのウイスキーもつくることができます。
ホーリールードでは、さまざまな好みに合わせて多様なウイスキーをつくることを目指しています。
Dear WHISKY:
ホーリールードの実験的なウイスキーづくりは製造工程にどのように反映されているのでしょうか?
カラムさん:
主にモルトや酵母などの原料の使用に見られます。
まだ比較的新しい蒸溜所ですので、熟成の過程でいろいろなことを試すのではなく、多種多様なモルトや酵母を使い、さまざまなニューメイクを造ろうとしています。
過去には日本酒酵母も使用したこともあります。
Dear WHISKY:
これらのユニークなモルトと酵母から造られたウイスキーと樽をどのように合わせるのでしょうか?
カラムさん:
今はまだ試行錯誤の段階ですが、これらのモルトと酵母をテストするために、新樽を使用することがよくあります。 バーボン樽やシェリー樽などの他の樽と比較すると、新樽がウイスキーの味に与える影響は限られています。
このため、バージンオークは実験に最適な樽になります。
Dear WHISKY:
特に印象に残っている実験はありますか?
カラムさん:
私は「日本ウイスキーの父」と呼ばれている竹鶴政孝の物語に魅了されました。彼の旅にインスパイアされ、ここでは日本酒酵母と、竹鶴がキャンベルタウンで使用していたものに近い、シュヴァリエ・ヘリテージ・モルトを使用してみたりもしました。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所には、カラムさん以外にもウイスキー業界以外の経歴を持つスタッフはいるのでしょうか?
カラムさん:
ホーリールードでは、スコットランドのテコンドーチャンピオンや中世史の学生、元家具職人など、ウイスキー業界を超えたバックグラウンドを持つ多様なスタッフがいます。
Dear WHISKY:
さまざまな経歴をもつスタッフがいることでホーリールードのウイスキーづくりに何か影響を与えていると思いますか?
カラムさん:
色んなバックグラウンドを持つスタッフがいることは、ホーリールード蒸溜所の考え方やハウススタイルにぴったりだと思います。
ホーリールードにはさまざまなバックグラウンドを持つメンバーがいることで、伝統や常識にとらわれない創造性が生まれ、自由なウイスキーづくりができていると思います。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所では、新しく加わったスタッフに対してどのような研修を行っているのですか?
カラムさん:
ホーリールードでは、充実した研修プログラムを実施しています。一例として、蒸留チームに新しく加わるメンバーは、3か月間の集中研修プログラムを受けます。
Dear WHISKY:
集中研修プログラムではどのような教育が行われるのですか?
カラムさん:
研修教育のほとんどは製造現場で行われ、スタッフはウイスキーの製造工程を段階的に学びます。研修後、製造スタッフのほとんどは、より幅広い知識を得るために、スコットランドのIBD (醸造・蒸留研究所) が実施している蒸留に関する資格を取得します。醸造学で有名なヘリオットワット大学でコースを受講したメンバーもいます。
Dear WHISKY:
充実した研修プログラムの成果は出ていると感じますか?
カラムさん:
もちろんです。ホーリールードの段階的な教育プロセスは、スタッフが自信をつけ、さらにチームとしての自信を築くのに役立ちます。
ホーリールード蒸溜所の製造チームは本当に素晴らしく、うちのスタッフはどのウイスキー蒸溜所でも通用する実力を持っていると確信しています。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所の職場環境の雰囲気はどのようなものですか?
カラムさん:
様々なことに対してスタッフ主導で取り組んでいます。ホーリールードのディスティラー(蒸留担当)は製造工程の大部分に関与しているため、モルトや酵母のレシピを考案したり、ラボでの官能分析に参加したりするなど、積極的に関わっています。
Dear WHISKY:
スタッフの自主性とチームワークはどのようにして両立しているのですか?
カラムさん:
スタッフの自主性だけでなく、チームとして働くことも大切にしています。ここで働く人は皆、自分でアイデアを出し、それを実行することができますが、だからといって、自分で何でも決められるわけではありません。
Dear WHISKY:
アイデアが出た時は構想から実現までどのように進むのでしょうか?
カラムさん:
例えば、あるディスティラーがアイデアを思いついたら、製造スタッフだけでなく、熟成庫スタッフや事務スタッフも含めて全員で議論することになっています。これを体現するように、ホーリールード蒸溜所にはマスターブレンダーもマスターディスティラーもいません。
Dear WHISKY:
ファーストリリースウイスキー「Arrival」を出したときの気持ちはどうでしたか?
カラムさん:
チームとしては非常に緊張していましたが、興奮が緊張を上回っていました。3年熟成のウイスキーだったので比較的若いですが、熟成年数短さについてあまり心配したり気にしたりはしませんでした。
Dear WHISKY:
ウイスキーの熟成年数表記についてどう思いますか?
カラムさん:
私も含めて、ウイスキーを飲む人はその情報や見た目で先入観を持ってしまうことがしばしばあります。個人的に言えば、人々は味ではなくラベルに記載されている情報を気にしすぎているため、我々はラベルを熟成やそれに類するものであまり強調したくありませんでした。そのためホーリールードのウイスキーには「Arrival」を含め、ラベルに熟成年数を記載することはありません。
Dear WHISKY:
マーケティング活動を重視するのにはどのような背景があるのですか?
カラムさん:
新しい蒸溜所として、ブランド認知度を確立し、メッセージとストーリーを効果的に伝えることが重要だと考えています。
ホーリールードのラインナップの幅広さや、さまざまな好みや好みに対応できる製品を提供している背景はこの考えにあります。
Dear WHISKY:
消費者から見たホーリールードの一番の魅力は何でしょうか?
カラムさん:
ホーリールード蒸溜所は典型的なスコッチ蒸溜所ではなく、他にはない独自の取り組みがあるので、ウイスキーづくりにおけるホーリールードの独自の取り組みが、消費者や投資家の目に魅力的に映っている思います。
Dear WHISKY:
ホーリールード最大の魅力は何だと思いますか?
カラムさん:
情熱だと思います。私たちはは自分たちの仕事を愛していますし、それが本物であると感じられます。自分たちの仕事を心から楽しみ、それを強く信じています。我々の情熱と愛は、製品を通じて消費者に伝わっていると信じています。
Dear WHISKY:
何かユニークなPR方法やイベントを企画したことはありますか?
カラムさん:
はい、香水ショップやアートギャラリーなどでテイスティングイベントを行ってきました。私たちは伝統に縛られるのではなく、自由にウイスキーを宣伝したいと考えています。
Dear WHISKY:
なぜホーリールード蒸溜所は蒸溜所ツアーに力を入れているのでしょうか?
カラムさん:
エディンバラにあるホーリールード蒸溜所はスコットランドで最もアクセスしやすいウイスキー蒸溜所の1つであるため、蒸溜所見学と観光はホーリールードにとって重要な要素です。さらに、ウイスキーツーリズムはスコットランドに約200万人の観光客をもたらすため、スコットランド観光全般の中心となっています。
Dear WHISKY:
革新的な蒸溜所として、伝統的なウイスキー蒸溜所をどのように見ていますか?
カラムさん:
私たちは世界中のウイスキーから多くのことを学び、インスピレーションを受けてきましたが、常にスコッチウイスキーの伝統を尊敬してきました。「ホーリールードは伝統的な手法を軽視している」という風に思われたいわけではありません。スコッチウイスキーの伝統と高品質を心から尊敬しています。
私たちは既存の蒸溜所を目立たなくさせようとしているわけではなく、むしろその伝統を尊重しながらも革新と興奮をもたらすことを目指しています。
Dear WHISKY:
ホーリールード蒸溜所の今後の展望について教えてください。
カラムさん:
これからもどんどん力をつけて、新しくてエキサイティングなものを生み出していきたいと思っています。今後どんなにウイスキーづくりが拡大しても、初心を忘れることなく、この並外れたウイスキーの新しい世界を追跡する旅を続けたいと考えています。
ホーリールードは比較的新しい蒸溜所であるにもかかわらず、実験的なウイスキー造りと卓越したチームワークを通じて魅力的なウイスキーを生み出しています。
今回のカラムさんへのインタビューでは、ホーリールードのウイスキーの魅力だけでなく、そのユニークな製造方法や職場環境などについても知ることができました!
製造からマーケティングに至るまで、どこか独特でありながらも魅力的なハウススタイルを持つホーリールード蒸溜所の今後の展開から目が離せません。
また、カラムさんの案内によるホーリールード蒸溜所現地レポート記事もぜひご覧ください!