
日光街道小山蒸溜所 西堀哲也さんに独占取材!前例のない全く新しいウイスキーづくりとは?

栃木県小山市にある西堀酒造は、2022年に日光街道小山蒸溜所を設立し、ウイスキーづくりを始めました。
西堀酒造は150年以上の歴史を持つ酒蔵であり、長年にわたって栃木県内を中心に親しまれてきました。そんな西堀酒造が運営する日光街道小山蒸溜所ですが、日本酒製造で培った技術を応用し、誰も成し得なかった全く新しいウイスキーづくりに取り組んでいます。
今回Dear WHISKYは、西堀酒造六代目蔵元であり、ウイスキー製造責任者の西堀哲也さんにインタビューしました!
日光街道小山蒸溜所のウイスキーづくりや、2025年秋に発売する予定のウイスキーについてなど、多くのことをお聞きすることができました。ぜひ最後までご覧ください!
日光街道小山蒸溜所
日光街道小山蒸溜所は、栃木県小山市に位置しており、栃木県で長年愛され続けている酒蔵「西堀酒造」によって設立された、栃木県初のウイスキー蒸溜所です。創業当初より、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造しています。
「酒蔵ならではのウイスキー」を目指し、完全オリジナルの蒸留器を採用していることや、清酒酵母を100%使用した発酵など、ユニークなウイスキーづくりを行っています。
2023年よりニューボーン、ニューポットをリリースしており、2025年にはジャパニーズウイスキーの基準(※)を満たした3年熟成のウイスキーを発売します。
概要
蒸溜所名 | 日光街道小山蒸溜所 |
会社名 | 西堀酒造株式会社 |
製造責任者 | 西堀哲也 |
所在地 | 栃木県小山市大字粟宮1452 |
電話番号 | 0285-45-0035 |
公式HP | 日光街道小山蒸溜所HP |
西堀哲也さんについて
六代目蔵元 西堀哲也さん
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西堀哲也 さん
大学を卒業後、ITエンジニアを経て、2016年より西堀酒造にて酒造りに携わる。エンジニア時代の技術を活かし、醸造遠隔管理システムの独自開発や、日本初のLED色光照射発酵日本酒等を考案。2022年より「日光街道小山蒸溜所」を立ち上げ、製造責任者としてウイスキーを中心とした蒸留酒製造に着手している。
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今回は、西堀さんに日光街道小山蒸溜所の製造現場もご案内していただきました!
現地レポートでは、より造り手の詳しい部分を紹介しているので、ぜひご覧ください!
西堀さんと西堀酒造
西堀酒造に入社するまで
Dear WHISKY:
西堀さんの学生時代や、前職について教えてください。
西堀さん:
大学では哲学を専攻し、卒業後はITエンジニアとして働いていました。
Dear WHISKY:
前職はエンジニアだったんですね!エンジニアを志したのはなぜでしょうか?
西堀さん:
私は就職活動を進めていく中で、時代の最先端をいく業界に挑戦したいと考えていました。その中で、当時最も先進的で活気のある職業がエンジニアだったので、経験はありませんでしたが、「やってみたい」という気持ちが強く、挑戦しました。
Dear WHISKY:
ちなみに、哲学を専攻されたことで、今の西堀さんに活かされている部分はありますか?
西堀さん:
哲学科での経験を経て、既成概念に囚われない姿勢を学びました。
当たり前とされてきたことに対しても問いを立て、一から考え直すという姿勢は今に活かせていると思います。
Dear WHISKY:
エンジニアから今の西堀さんに活かせている部分もあるのでしょうか。
西堀さん:
試行錯誤しながら考えることです。どんなプログラムを作る時でも、一発で成功することはありません。そのため、うまくできなくて当たり前、修正を加えながら改善していくことも今に活かせていると考えています。この姿勢は、たとえば清酒酵母を使ったウイスキーをつくるという過程で非常に活きたと思います。
Dear WHISKY:
哲学の専攻、エンジニアの両方の経験が今の西堀さんを作り上げたんですね!そこから西堀酒造で酒造りに携わるようになったのはどうしてでしょうか?
西堀さん:
元々、家業である西堀酒造をいつかは継ごうと考えていました。直接的な契機となったのは、西堀酒造で働いていた私の幼馴染が体調を崩し、酒造りを続けられなくなったことです。
西堀酒造は小規模の酒蔵なので、1人でも抜けてしまうと酒造りに大きな影響が出てしまいますし、ちょうどその時期が日本酒造りの繁忙期でもあったことから、西堀酒造に戻ることを決心しました。
突然の出来事で入社したので、酒造りに関する知識はほとんど無く、ひたすら手を動かし続けることから始めました。

西堀酒造では、世界で初めてLEDを照射させて発酵した日本酒を醸造しています
ウイスキーとの出会い
Dear WHISKY:
次に、ウイスキーと出会いについて教えてください。
西堀さん
西堀酒造に入社後、バーでウイスキーを飲んだことがきっかけで興味を持ち始めました。ウイスキーの味がすごく美味しくて、感覚的に自分に合っているお酒だと思いました。
Dear WHISKY:
今まで飲んだ中で印象に残ったウイスキーはありますか?
西堀さん:
「ロイヤルハウスホールド」(※)です。とてもなめらかな印象で美味しく、今でも記憶に残っている一本です。

「ロイヤルハウスホールド」 (出典:https://www.syurui.co.jp/products/0331)
ウイスキーづくり
Dear WHISKY:
ウイスキーづくりをはじめたきっかけを教えてください。
西堀さん:
ウイスキーづくりを始めたのは、ウイスキーを通して日本酒造りに光を当てたかったのと、ウイスキーづくりに魅力を感じたことが理由です。
Dear WHISKY:
ウイスキーを通じて日本酒造りに光を当てたいと考えたのはなぜでしょうか。
西堀さん:
私たちの本業は日本酒造りです。
年々日本酒の消費量は落ちていて、最盛期に比べ四分の一ほどの消費量だと言われています。このような現状を踏まえ、一企業の単位ではなく、業界としても日本の酒蔵が存続するためには新しい事業を行わないといけないという危機感がありました。
そこで、もともと五代目の父が酒蔵に戻る前、ウイスキーメーカーに勤めていたことや、個人的な興味として持っていたウイスキーに着目し、日本酒造りの知見を生かしたウイスキーをつくり、そこから日本酒にも興味を持ってもらい、より多くの人たちに日本酒を知ってもらいたいと思いました。
加えて、旧来型の杜氏制度(※)の衰退による通年雇用の必要性もあります。日本酒は冬季のみしか製造できないため、夏季にも製造できるものを考えた時に、ウイスキーをつくろうと思いました。
Dear WHISKY:
次に、ウイスキーづくりの魅力について教えてください。
西堀さん:
日光街道小山蒸溜所では、日本酒製造で欠かせない清酒酵母を使用したウイスキーづくりを行っています。
Dear WHISKY:
清酒酵母を使用したのはなぜでしょうか?
西堀さん:
ウイスキーづくりの発酵をもっと深掘りできると考えたからです。全原料を国産とする(オール)ジャパニーズウイスキーをつくれないかと考えたとき、ボトルネックになるのは酵母であるとわかりました。一般的にウイスキーの発酵は、海外から輸入したディスティラリー酵母を使って行われますが、私はそこに注目し、日本固有の清酒酵母で発酵させてみたいと考えました。
私たちが得意とする日本酒造りで使う清酒酵母をウイスキーづくりに応用することは、新たなジャパニーズウイスキーの在り方を秘めているのではないかとも考えました。
さらに、他の酵母を使用せず、清酒酵母のみでウイスキーをつくる試みは、これまでほとんど誰も行っていませんでしたので、挑戦する価値がありました。
Dear WHISKY:
挑戦してみてどのように感じましたか?
西堀さん:
最初は全くうまくいかず、本当に大変でした。
一般的に使われるウイスキー酵母を使用すれば、アルコール度数7%程度のもろみが出来上がります。
しかし、ウイスキーの一般的な製法ですと、清酒酵母を使用したもろみは、アルコール度数1〜2%程度にしかなりませんでした。
そのため、このままでは蒸留工程へと移ることができません。何としてでも清酒酵母をウイスキーづくりに使用したかったので、数百キロものモルトでの小仕込み試験と、約1年もの時間を費やして方法を編み出し、結果的に清酒酵母を100%使用したウイスキーづくりに成功しました。
Dear WHISKY:
他にもウイスキーづくりに魅力を感じるところはありましたか?
西堀さん:
熟成の領域です。樽熟成による味の不確かな変化や、価値が上がっていくことは、日本酒業には無い領域なので、とても魅力を感じました。
熟成は日本酒にも応用してみたいと考えていて、それを行うためにはウイスキーが熟成という工程で培ってきたノウハウを知りたいと思い、ウイスキーづくりに着手したという背景もあります。
Dear WHISKY:
実際にウイスキーづくりをこれまで続けてきて、印象的だった取り組みを教えてください。
西堀さん:
沢山ありますが、和樽熟成を始めたことです。
洋樽の形の必要性を一から問い直し、日本酒製造で使用していた桶型の樽をウイスキーに転用してみてもいいのではないかと思いました。実際に、日光東照宮の御神木を使用し、2024年の12月初旬には日光市内にて樽に原酒を入れる「樽入れ式」の式典を行いました。当日は、日光東照宮の宮司様や、国会議員の方をはじめ、多くの方々にお集まりいただきました。
実は、式典を開催した建物をウイスキー熟成庫として整備し、今後の製造拠点の一つともしていきたいと考えています。

2024年12月に行われた式典の様子 参照:https://nishiborisyuzo.com/nikko-taruireshiki-15033.html
日光街道小山蒸溜所の特長
Dear WHISKY:
日光街道小山蒸溜所の特長について教えてください。
西堀さん:
完全オリジナル蒸留器と、清酒酵母を100%使用したウイスキーづくりです。
蒸留器は「酒蔵ならではのウイスキー」を作るために、薮田産業さんと独自で作り上げました。また、清酒酵母100%使用も日光街道小山蒸溜所蒸溜所の特長です。
Dear WHISKY:
「酒蔵ならではウイスキー」とはどのようなものでしょうか?
西堀さん:
日本酒造りで培った酒造りの丁寧さ、繊細さを込めたウイスキーです。私たちの根底にあるのは日本酒造りなので、その部分を大切にしていき、私たちのウイスキーを通して多くの方々に日本酒についても関心を抱いてほしいと思います。
Dear WHISKY:
日本酒造りに光を当てたい、という想いがとても伝わってきます。
完全オリジナル蒸留器は、一般的な蒸留器とはどのように異なるのでしょうか?
西堀さん:
一般的な銅製ではなく、ステンレス製のものを採用しているところです。
日光街道小山蒸溜所のウイスキーづくりには減圧蒸留が欠かせません。しかし、一般的な銅製蒸留器では、減圧蒸留をすると蒸留器がへこんでしまうため、常圧蒸留しかできません。そこで、私たちはステンレス製の蒸留器を採用することで、減圧蒸留と常圧蒸留の両方を可能にしました。
Dear WHISKY:
なぜ減圧蒸留が欠かせないのですか?
西堀さん:
減圧蒸留の特徴として、蒸留時の沸点が下がるため、もろみ本来の風味を損なわずに仕上げることができます。その結果、清酒酵母が生み出す吟醸香がより際立つウイスキーをつくることができました。
Dear WHISKY:
清酒酵母の特長を活かすために、減圧蒸留を可能とする蒸留器を作り上げたのですね。
西堀さん:
その通りです。清酒酵母特有の風味は繊細で高温にすると熱変性してしまい、消えてしまうため、100℃付近でもろみを熱する常圧蒸留よりも、約30℃で蒸留する減圧蒸留の方が清酒酵母との相性が良いと考えました。

蒸溜所の特長について熱く語ってくれました!
日光街道小山蒸溜所のウイスキー
Dear WHISKY:
日光街道小山蒸溜所のウイスキーの味わいの特長を教えてください。
西堀さん:
清酒酵母がもたらす、和三盆のような優しい甘みが特徴的です。口当たりも優しく飲みやすいので、ストレートやロックで味わってもらいたいです。この特徴はモルトウイスキーよりもグレーンウイスキーに顕著に表れていると感じます。
Dear WHISKY:
グレーンウイスキーも製造しているんですね!グレーンウイスキーづくりで工夫している部分はありますでしょうか?
西堀さん:
使用する穀類の中に、酒米を磨いた際に出る米粉(吟醸粉)を使用していることです。これにより、先ほどお話しした和三盆のような優しい甘みがモルトウイスキーよりも強く感じることができます。

2024年に発売されたシングルグレーンウイスキー ニューボーン
今後の日光街道小山蒸溜所
Dear WHISKY:
現在、蒸溜所ツアーなどは行われているのでしょうか?
西堀さん:
現時点では予約制で一部行なっておりますが、2025年夏ごろには蒸留ワークショップ体験などを開催する予定です。蒸留体験をより多くの方に体験していただき、「蒸留とは何か」を肌で体感していただきたいです。

蒸留体験で使用される予定の蒸留器
Dear WHISKY:
2025年秋に発売予定のジャパニーズウイスキー「西堀哲也シリーズ」ついて教えてください。
西堀さん:
「西堀哲也シリーズ」ですが、実は名前を変えようと思っていまして。
「哲」シリーズとする予定です。
一言でいうと「日本ならではのウイスキーとはどんなものか」を試行錯誤しながらつくっていくシリーズです。
Dear WHISKY:
さらに詳しく教えてください!
西堀さん:
ウイスキー製造工程における違いなどの細かい部分を、テーマごとにシリーズ化していき、手の込んだウイスキーをお届けしようと考えています。哲シリーズの「哲」という漢字には、私の名前の「哲也」の「哲」と、私のアイデンティティに影響を与えた哲学の「哲」の意味を込められています。
例えば蒸留とは根本的に何なのか、発酵とは何なのか、日本固有のジャパニーズウイスキーとは何なのか、等ををとことん追求し、様々試行錯誤していく中でウイスキーの味にどのような変化があるのかを発掘するシリーズです。
Dear WHISKY:
当たり前とされてきたことを問い直す姿勢が現れているんですね。
西堀さん:
そうなんです。
哲シリーズだけでなく、気軽に手を出せるウイスキーの販売もゆくゆくは行う予定なので、ウイスキーを飲み始めの方も楽しんでいただけると思います。
Dear WHISKY:
今後、日光街道小山蒸溜所はどのような方向性のもと、進んでいくのでしょうか?
西堀さん:
まずは2025年秋ごろを予定しているジャパニーズウイスキーの発売を成功させたいと考えています。日光街道小山蒸溜所初となるジャパニーズウイスキーのリリースなので楽しみです。
また、本当のジャパニーズウイスキーとは何かを追究していきたいとも考えています。
Dear WHISKY:
今の西堀さんにとっての本当のジャパニーズウイスキーとは何でしょうか?
西堀さん:
まだ答えにはたどり着けていないのが現状です。今は「本当のジャパニーズウイスキーとは?」という問いの状態にあるため、日光街道小山蒸溜所らしさを表現してウイスキーづくりを行うことが、質問の答えになるのではないかと思います。先人たちが繋いでくれた歴史を継承し、発展させるためにもこの試みは意味のあるものだと考えています。
Dear WHISKY:
西堀さん自身の今後の展望についても教えてください。
西堀さん:
今はとにかく酒造りに集中したいと考えています。具体的な目標もありますが、考え方は変わることもあるので、変わったのならそれを受け入れていこうと思っています。
歩んでいるうちにアイデアが浮かんだり、チャンスが巡ってくるかもしれないので、一つの考えに囚われずに、柔軟性を持って過ごしていきたいです。
ただ、日本酒をはじめとする日本の酒造りの文化を世界に伝えたい想いは生涯変わらないので、この蒸溜所らしさを出せるように、引き続きウイスキー、日本酒造りに注力していきたいです。
Dear WHISKY読者へ
Dear WHISKY:
Dear WHISKYの読者にメッセージをお願いします!
西堀さん:
日本の酒造文化と哲学を体現した、日光街道小山蒸溜所のウイスキーをぜひ楽しんでほしいです。
そして、私たちの造る日本酒にも興味をもっていただけたらと思います。
最後に
今回は日光街道小山蒸溜所の製造責任者である、西堀哲也さんにインタビューしました!
「酒蔵ならではのウイスキー」を目指し、試行錯誤を重ねながら作りあげたウイスキーが、いよいよ今年の秋にジャパニーズウイスキーとしてリリースされます! 6月ごろには蒸留ワークショップの開催など、これからの動向に目が離せません!
そして、日光街道小山蒸溜所のウイスキーを通じて、西堀酒造の日本酒にも注目してみてください!!