【現地レポート】ブッシュミルズマスタークラスで歴史とこだわりを実感!
2024年11月22日(金)の午後、日本橋マンダリンオリエンタル東京にて、「ブッシュミルズ」マスタークラスが行われた。
2024年10月下旬から銀座にてポップアップバーを開催している「ブッシュミルズ」。
この日は、バーテンダーをはじめとする飲食店関係者に向け、「ブッシュミルズ」のこだわりや熱意を詳細に伝えるため、蒸溜責任者であるコラム・イーガン氏によるマスタークラスが開かれました。
マスタークラスとは、エキスパートが高度な知識や技術を教える特別なセッションのこと。今回はイーガン氏によるテイスティングセミナーと質疑応答の2部構成での開催です。
この度、Dear WHISKYも本イベントに参加させていただき、イーガン氏からブッシュミルズの“変わらない”こだわりや、「ブッシュミルズ シングルモルト」シリーズの特徴や楽しみ方をお聞きしてきました!
ブッシュミルズ概要
アイリッシュウイスキーの一つである「ブッシュミルズ」は、近年のアイリッシュウイスキーブームに背中を押され、日本を初め世界中で人気を獲得しています。
ブッシュミルズ蒸溜所といえば、創業以来こだわり抜いてきた地場の高品質な原料や伝統の3回蒸溜に加え、1608年創業のアイリッシュ最古の認可蒸溜所であることを思い浮かべる人も少なくないでしょう。
また、2024年10月には「ブッシュミルズ シングルモルト」シリーズに新たに「ブッシュミルズ シングルモルト25年/30年」の2種が数量限定で加わるなど、話題に事欠かない注目のブランドでもあります。
ブッシュミルズマスタークラス
日本橋マンダリンオリエンタル東京の3階で開かれた本イベント。会場入口にも「ブッシュミルズ」のボトルが並べられ、厳かな雰囲気が漂います。
大きな拍手と共に登壇したのは、ブッシュミルズ蒸溜所の蒸溜責任者であるコラム・イーガン氏。軽快なジョークを交えた自己紹介で、厳かだった雰囲気は和やかで暖かな雰囲気に変化しました。
蒸溜所の歴史をはじめ、原料や製造工程、新蒸溜所へのこだわり、シリーズ各種のペアリングに至るまで、「ブッシュミルズ」の魅力を存分に語ってくださいました。
コラム・イーガン氏について
2002年よりブッシュミルズ蒸溜所の蒸溜責任者(マスターディスティラー)を務めており、今年で22年目となります。
大学卒業後、故郷アイルランドを離れたロンドンの地で、ビール関係の仕事に従事していた時に、現在の妻となる人物と出会い意気投合。招待され向かった彼女の実家から、20km離れた場所にブッシュミルズ蒸溜所は存在し、そこで見学に訪れたことが彼とブッシュミルズ蒸溜所の初めての出会いでした。
ウイスキーを飲む際のお気に入りの場所は、蒸溜所近くのコーズウェイの岩場。
太古の昔から変わらぬ景色を見ながら、変わらぬ味わいや香りの「ブッシュミルズ」を傾けることが好きなのだそう。
ブッシュミルズ蒸溜所の歴史
アイルランド島の北端、イギリス領北アイルランド・アントリム州。
雨が多く降るウイスキーづくりに適したこの地にブッシュミルズは産声をあげました。
今から1000年も前から蒸溜自体は行っていたブッシュミルズ蒸溜所ですが、1608年にアイルランド王室によって初めて正式に認可を受けたことで、アイリッシュ最古の蒸溜所としての歴史を歩み始めます。
ロシアのニコライ2世にも愛飲されたというブッシュミルズですが、日本との関係は実は100年以上前からあったといいます。
1890年にウイスキー輸送船として自社で所有されていた「S.S.ブッシュミルズ」のクルーメンバーに長崎出身の日本人がおり、1891年4月には横浜港に来航した記録が残っているそうです。
1889年に開かれたパリ万博ではウイスキーで唯一金賞を受賞。そのような輝かしい歴史の中、地域密着での貢献を続けてきたことを評価され、現在では一企業でありながらもアイルランドのお札の絵柄にもなっています。
コーズウェイ蒸溜所
近年の市場拡大を受け、2023年にはコーズウェイ蒸溜所をオープン。
このコーズウェイ蒸溜所は、製造キャパシティを増やすことを目的として建築されているため、ブッシュミルズ蒸溜所を複製したような製造設備を持っています。
ブッシュミルズの伝統である「全く同じ製法、味、個性を引き継ぎ、繋いでいく」を守ることが蒸溜責任者としての責務だと語るイーガン氏。
コーズウェイ蒸溜所建設にあたり、先代、先々代にもアドバイスを受けに行くなど、並々ならぬ熱量を注いだプロジェクトだったといいます。
ブッシュミルズについて
全てがアイルランド産の原料
ウイスキーの要である麦芽と水。ブッシュミルズ蒸溜所では、100%アイルランド産の大麦麦芽と、蒸溜所の近くを流れるブッシュ川の水が使われています。
伝統のノンピート麦芽と、玄武岩よりミネラル分が多く含まれる河水の2種によってブッシュミルズの美味しさが生まれるといいます。昨今、世界中で食物の原産地を気にする風潮がある中、全ての原料がアイルランド産であることも「ブッシュミルズ」の自慢の一つだそう。
また、麦汁をつくった際にできた残りカスは地域の家畜の飼料として再利用するため、地域のサスティナビリティにも貢献しています。
こだわりと伝統の製法
ブッシュミルズ蒸溜所には、ネックの細長い銅製の小型ポットスチルが10機あり、それらを利用して伝統の3回蒸溜が行われます。ブッシュミルズの特徴であるスムースさは、この3回蒸溜によって生まれるんだそう。
酵母のみの力だと8%前後だったアルコール度数も、1回目の蒸溜で22%、2回目で70%、3回目になると85%にまで上昇します。また熟成後の味わいや香りの状態が一番良くなるよう、樽に詰める際60%になるよう加水しています。
その後のボトリング作業を含め、全ての工程を完結して行っている蒸溜所は珍しいといいます。
“変わらない”こだわり
「ブッシュミルズ」は400年間同じ味わいのウイスキーを、淡々と、しかし情熱を持ってつくり続けてきました。
これまで働いてきた方々が、頑固で、時代の流れにも簡単に考えを変えなかったからこそ、昨日飲んだものと、来月、来年飲むものが変わらないウイスキーをつくることができるのです。
当時から“変わらない”ことこそが「ブッシュミルズ」のこだわりであり誇りだといいます。そしてそれを次世代に繋ぐことが蒸溜責任者としての使命だと語ります。
ブッシュミルズシリーズ
アイルランドにおいてブッシュミルズは、毎日飲むウイスキーというよりも少し特別な日に飲むもの。
イーガン氏の子供時代、彼の父親のお酒棚の最上段にはブッシュミルズが置かれていたそう。
アイリッシュウイスキーをゆっくり鼻に近づけると、他のウイスキーの場合に感じるアルコールの刺激がなく、 まるで友達のように「元気?」と語りかけてくれるような気さえすることから、「フレンドリーウイスキー」だとイーガン氏は語ります。
ブッシュミルズ シングルモルト10年
バーボン樽とシェリー樽で10年以上熟成。バーボン樽由来のとてもクリアな色で、香りにもそのニュアンスが強く出ています。
イーガン氏が「喉を過ぎ、戻る感じがする」と評すこの一本は、スムースで飲みやすいながらもフィニッシュは特徴的で、実際に飲むとドライさを感じた後、フルーティーかつバニラのようなアロマが口の上方に蘇ります。
個性が強いスコッチウイスキーやバーボンウイスキーとは異なり、親しみやすく全ての場面で使いやすいため、ウイスキーと食べ物それぞれを補完し合うことができるといいます。
10年は全ての飲み方に適していますが、中でもおすすめはハイボール!魚系の料理やデザートのミルクチョコレートと共にお楽しみください!
ブッシュミルズ シングルモルト12年
およそ11年間をバーボン樽とシェリー樽、最後の6ヶ月間をシチリア産のマルサラワイン樽を使用して熟成。
シェリー樽のニュアンスが強いこの一本は、飲むと少し余韻が残る印象を受け、口の中で泳がすと、ハチミツのようなスイートさや、まろやかさが楽しめます。
来日のたびに日本人のハイボール好きに驚かされるというイーガン氏。この12年はハイボールがおすすめです!寿司などの魚料理や、ダークチョコレートとのペアリングがマッチします。
ブッシュミルズ シングルモルト16年
前半の8年間をバーボン樽とシェリー樽、後半の8年間をポートワイン樽を使用して熟成。ポートワイン樽によってより濃い色になっています。
イーガン氏もとりわけ好きという香りは「ブッシュミルズ」特有のフルーティーさに加え、アーモンドやチョコレートのようなニュアンスが強く出てきます。
ポートワイン樽によって、喉越しには暖かさが、戻ってくる時にはフルーティーさが生まれます。舌の上から両脇に広がるようにアーモンドやチョコが広がって、またきゅっと戻ってくるような感じがするとイーガン氏は語ります。
普段スコッチを愛飲している方に特におすすめしたいのがこの16年。
ブッシュミルズ シングルモルト21年
19年間をバーボン樽とシェリー樽で、最後の2年間をマディラワインの樽で熟成。
既に紹介した10年12年16年の3本にはミルクチョコレートの感じがありますが、こちらはダークチョコレートの感じになっています。甘さのニュアンスも、フルーティーさから離れ、干したレーズンを使ったケーキなどのものに変わっていることが印象的でした。
少し特別な日の食後や、お祝いやパーティーの日に楽しむなら16年や21年がうってつけ!ペアリングとして、フードには牛肉料理、デザートにはダークチョコレートがおすすめです。
ブッシュミルズ シングルモルト25年
最初の4年以上をバーボン樽とシェリー樽で熟成させた後、21年間をルビーポートワインの樽で仕上げました。このポートワイン樽からはエレガントさが生み出されるといいます。
チェリーやりんごなどの果物に、砂糖の甘みを加えた味わいが特徴です。
長期熟成はデリケートで難しいため、斬新な発想と、思い切ってやってみようという気持ちがなければ生まれなかったイーガン氏は語ります。
ブッシュミルズ シングルモルト30年
バーボン樽とシェリー樽で14年間熟成させた後、残りの16年間をペドロヒメネスのシェリー樽で熟成。
シリーズ全てのものは一線を画し、甘さとしてはフルーツの中でも色の濃く、重厚で味も濃いデーツやブラックベリーなどを連想させます。キャンディーでいうとキャラメルの味の強いトフィーの味がします。
質疑応答
質問者:
ブッシュミルズが現在保有している樽の数は全部でどれくらいですか?
イーガン氏:
新しいものから50年前のものまで合わせて、およそ60万樽ほどあります。他の蒸溜所にこの数は保有していないでしょう。
質問者:
ボトルが四角になっているのはなぜですか?
イーガン氏:
詳しい理由はわかりませんが、船で輸送する際に安定するからという理由と、丸のボトルより四角のボトルの方が製造が難しいことから、プレミアム感を演出するためという理由が考えられます。
イーガン氏が飲んだという1882年産のビンテージも四角のボトルをコルクと蝋で固めており、香りや味わいのみならずボトルの形すらも“変わらない”といいます。
締めの挨拶
イベントの締めとして、イーガン氏による乾杯の挨拶(スローンチェ=アイルランド語で“乾杯”)で幕を閉じました。
イーガン氏:
ウイスキーを運ぶのに、背の高い船(tall ship)もある、長さも長い船(long ship)もある。
しかし、長い航海を共にするのならフレンドシップ(friendship)だ。
今後我々もそうなっていきましょう!
参加者:
スローンチェ!
Dear WHISKY読者へメッセージ
イベント終了後、イーガン氏よりDear WHISKY読者の皆様へ向けてメッセージをいただきました!
最後に
原料や製造工程、働く方々の情熱を真っ直ぐに感じ取ることができた今回のイベント。
400年以上もの時が経てど、造り手達によって繋がれてきた“変わらない”に対する熱意によって、今も同じ「ブッシュミルズ」を味わうことができていると考えると、胸を打たれます。
そんな「ブッシュミルズ」を、五感で楽しむことができるポップアップバーが、銀座にて期間限定で開かれています。本記事で少しでも興味を持っていただけた方は、樽の実物展示やオリジナルカクテルやフードも満載のこのバーに、ぜひ一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
そちらのバーの現地レポートもありますので、ぜひ併せてご覧ください!