【イベントレポート】ワールド・ウイスキー・フォーラム2024<第3弾>
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- 繋ぎ手
- イベント(国内)
- 飲み手
4月1日は「ジャパニーズウイスキーの日」。
2021年に「ジャパニーズウイスキーの日」と正式に承認されて以来、今年で3度目の開催となる「ジャパニーズウイスキーの日乾杯イベント」が都内のCIVI研修センター日本橋N6ホールで開かれました。
第3弾となる今回は、第3部のスペシャルトークショー&乾杯イベントの様子をお届けします!スペシャルトークショーでは、土屋守さん、サントリー株式会社名誉チーフブレンダーの輿水精一さん、日本のクラフト蒸溜所の方々からウイスキー造りに関する貴重なお話を聞かせて頂き、日本のウイスキーの素晴らしさや今後の課題について知ることができました!
また、日本初の本格国産ウイスキー「サントリーウヰスキー」(通称「白札」)が発売された1929年にちなみ、19:29には全国一斉乾杯が行われ、会場参加者には、スペシャルブレンデッドジャパニーズウイスキーが振舞われました。
スペシャルトークショー&乾杯イベントの第3部では、土屋守さん(ウイスキー文化研究所 代表)、トムセン陽子さん(ラジオDJ/MC)、輿水精一 さん(サントリー株式会社名誉チーフブレンダー)がMCとして登壇しました。
そして全国のクラフト蒸溜所の方もゲストとして出演し、これからのウイスキー業界の展望やウイスキーに込める想いを語っていただきました。
ウイスキー文化研究所代表 | 土屋 守さん |
サントリースピリッツ株式会社 名誉チーフブレンダー |
輿水 精一さん |
ラジオDJ/MC | トムセン 陽子さん |
厚岸蒸溜所 | 樋田 恵一さん 立崎 勝幸さん |
遊佐蒸溜所 | 佐々木 雅晴さん 佐藤 亮さん |
日光街道 小山蒸溜所 | 西堀 哲也さん |
羽生蒸溜所 | 大川 周良さん 横地 良太さん |
長濱蒸溜所 | 伊藤 啓さん 屋久 佑輔さん |
丹波蒸溜所 | 友國 聡さん 野口 勝弘さん |
海峡蒸溜所 | 米澤 仁雄さん |
御岳蒸留所 | 眞喜志 康晃さん |
Cedarfield | シュメルザイスさん |
乾杯イベントでは、乾杯用スペシャルブレンデッドジャパニーズウイスキーが使われました。このボトルは、安積蒸溜所、嘉之助蒸溜所、遊佐蒸溜所、江井ヶ嶋酒造、SAKURAO DISTILLERYの各蒸溜所から提供していただいた貴重な原酒と、ウイスキー文化研究所オリジナルジャパニーズウイスキーなどを、土屋守さんがブレンドしたものです。
<構成内容>
(上段左から)YAMAZAKURAシングルモルト 安積 2022 EDITION/シングルモルト嘉之助/YUZA シングルモルト ジャパニーズウイスキー セカンドエディション2022/ホワイトオーク あかし シングルモルト/シングルモルトジャパニーズウイスキー桜尾/シングルモルトジャパニーズウイスキー戸河内
(下段左から)秩父 ウイスキーフェスティバル10周年記念*/グラバーコレクション ガイアフロー静岡*/グラバーコレクション 安積*/グラバーコレクション 津貫*/ジャパニーズウイスキーの日2021開催記念ブレンデッドジャパニーズウイスキー*
*マークはウイスキー文化研究所オリジナルボトルです
出典:https://jw-day.org/
土屋守さんが特別にブレンドしたウイスキーで19:29に一斉乾杯が行われました!
立崎勝幸さん:
堅展実業株式会社が設立した厚岸蒸溜所は北海道に拠点を置く蒸溜所です。
フォーサイス社の伝統的なポットスチルを2基備え、ピーテッドバーレイを使用してアイラ島のような強いピートの個性を持つシングルモルトを生産しています。海霧が発生しやすい湿原の中心に位置する蒸溜所は、夏は比較的涼しく、冬は非常に寒いという気候の恩恵を受け、熟成中に海の空気によるヨードスプレーの影響を受けることで、香り豊かなウイスキーの生産を可能にしました。
厚岸蒸溜所でウイスキー造りを始めてから8年が経ちます。厚岸蒸溜所の特徴としては、主にファーストフィルの樽を使っていることが挙げられます。セカンドフィルは超熟向けの原酒に使っています。超熟の原酒を造る際は、樽由来の香りや味わいが出すぎるのは良くないと思っています。新樽を使うなら、一回洗ったり、フィニッシュに使いたいと考えています。
佐々木雅晴さん:
遊佐蒸溜所の本社である「株式会社金龍」は、山形県酒田飽海地区の日本酒メーカー9社の出資により1950年に設立されました。出資会社は、品質への強いこだわりを持つメーカー揃いで、数多くの品評会で入賞経験があり、各社の日本酒の品質は、国際的にも高く評価されています。株式会社金龍は、この「品質本位」の精神と「最高の酒をつくる」という情熱を、長年にわたり受け継いできました。遊佐蒸溜所のウイスキー造りでも、それは変わることなく、品質への強いこだわりと酒造りへの熱い想いで、最高水準のウイスキーを目指しています。
現在全体の80%がセカンドフィルの原酒、残り20%がファーストフィルの原酒を造っています。味わいとしては、バニラ感が感じられるウイスキーを造りたいです。将来的には世界基準に匹敵する良いウイスキーを目指しています。製造にあたって手間暇やコストを無視して努力していきたいと考えています。
西堀哲也さん:
栃木県小山市内において創業150年の日本酒造りの伝統と技術を継承してきた「西堀酒蔵株式会社」が、酒造りの哲学を活かし、2022年春に「日光街道 小山蒸溜所」を設立しました。敷地内の既存蔵(旧精米蔵)を基に、木造建築の味わいを残しながら製造設備を導入し、蒸溜所として改築が行われました。國酒・日本酒を醸す酒蔵ならではの醸造技術を土台として、ウイスキーだけでなくウォッカやジンなどの蒸溜酒の製造に取り組んでいます。
小山蒸溜所の本社である「西堀酒造株式会社」は、今年で創業151周年を迎えます。日本酒造りの伝統と技術を継承し、日本酒蔵ならではのウイスキーを造りたいと考えています。発酵工程においては、純国産である「清酒酵母」を使用し、日本酒造りのノウハウを取り入れています。ウイスキー事業という立場から、日本ならではの酒造りについて世界中の方に知ってもらえるように努力していきたいと考えています。
大川周良さん:
羽生蒸溜所の本社である「株式会社東亜酒造」は1946年に羽生のウイスキー製造免許を取得し、1980年から自社でモルトウイスキーの蒸溜を開始しましたが、ウイスキー市場の低迷により2000年に操業を一旦停止しました。しかし2021年、クラウドファンディングを経て20年ぶりに羽生蒸溜所が復活しました。閉鎖前の設計図をもとにポットスチルを再現することに成功し、再びモルトウイスキーの蒸溜を開始しました。
2021年から自社蒸溜を再開しました。ピート、ノンピートの両方の原酒を仕込んでいます。使用する樽は基本的にバーボン樽です。まだリリースはしていませんが、今年中に何らかの商品をリリースできればと考えています。3年後にはシングルモルトもリリースしたいと考えています。
伊藤啓さん:
長濱蒸溜所は約8坪の日本最小の蒸溜所です。長濱蒸溜所の本社である「長浜浪漫ビール」は地元の人々や観光客に愛され、長浜市やその近郊で楽しめるクラフトビールとして人気を集めてきました。2016年、同社は国産ウイスキーの需要に応えるべく、長濱蒸溜所を設立しました。2018年には輸入原酒を用いたブレンデッドウイスキー「アマハガン」を発売し、2年後の2020年に「シングルモルト長濱」をバーボン樽・シェリー樽・ミズナラ樽のそれぞれ異なる樽で熟成させた3種類のシングルモルトを発売しました。「World Whiskies Awards」でも高い評価を受けています。
長濱蒸溜所は、年間300日間稼働しており、現在は30年以上のスコッチをブレンドしたものも発売しています。また、昨年は長濱原酒をブレンドしたウイスキーもリリースできました。蒸溜所見学ツアーなどの体験型のイベントにも力を入れております。「長濱ウイスキーラボ」というプロジェクトでは、「ブレンディング体験」を通じて、全国の方々にウイスキーの魅力を伝えていければと考えています。
友國聡さん:
丹波蒸溜所の本社である「黄桜株式会社」は1925年に清酒メーカーとして創業を開始し、1995年のビールの製造免許の規制緩和により京都で1番目の地ビールメーカーとしても名をはせてきました。黄桜が培ってきたお酒造りの技術・経験を活かし新たな挑戦として、2018年より丹波蒸溜所にてウイスキー造りをスタートしました。日本酒造りにも通じる繊細な熟成を基に、丹波蒸溜所では「華やかで芯のある味わい」を持つウイスキー造りを行っています。
丹波蒸溜所では、将来的に弊所としても見学ツアーなどの体験イベントも企画できればと思いますが、まずは製造に専念して邁進していきたいと思います。
野口勝弘さん:
私自身は元々ビール会社におりました。現在のウイスキーブームと同じような地ビールブームもありましたが、一部品質が非常に劣る商品を造っていた方々もいらっしゃいました。現在、空前のウイスキーブームですが、後ろを走る我々がしっかりとした品質のウイスキーを造っていかなければいけないと考えております。
米澤仁雄さん:
明石海峡にあることから海峡蒸溜所と名付けられたこの蒸溜所は、美しい山、海など豊かな自然に囲まれ、温度湿度のバランスもよくウイスキーの製造に適した環境をしています。海峡蒸溜所の本社である「明石酒類醸造株式会社」は、近年では海外にも進出しており、イギリスでも名の知れた酒造メーカーとして知られています。「日本の酒造りのセンスと信念を、本場の伝統と掛け合わせる」をモットーに2017年からウイスキーの製造を開始しました。
基本的には、ノンピートの原酒を造っていこうと考えています。また、誰が造っても同じ味わいが出せるように、同じものを毎日造っています。まずは、ベンチマークとなるようなウイスキーを造っていきたいです。
眞喜志康晃さん:
御嶽蒸留所は1845年創業の「西酒造株式会社」によって設立されました。毎分1,000ℓ以上の天然軟水が湧き上がる、錦江湾と御岳(桜島)を望む丘の上にあり、豊かな水と、西酒造が焼酎造りで培ってきたオリジナル酵母によって、世界に誇れるジャパニーズウイスキー作りを行っています。蒸留の工程では、重たい香味成分を落とし、スチル上部まで辿り着いた「フルーティで深い香味成分」だけを取り出しています。その結果、出来上がったニューポットは、優しいすっきりした口あたりに、芳醇なフルーツの香りが漂い、喉を滑るようなクリアな飲み口となっています。
御岳蒸留所は綺麗で香り高く味わい深いウイスキーを目指しています。発酵工程での香りをどのようにして蒸溜で活かしていくかを重視しています。熟成工程では、マデイラ、マンサニージャシェリー、ミズナラ、サクラ、栗、アメリカンホワイトオークの新樽など様々な樽を使用しています。蒸留所見学なども行っており、イベント企画にも力をいれています。
輿水精一さん:
日本でウイスキー造りが始まってから今年で100年目がたちました。そして、現在日本国内には100ほど蒸溜所があります。私は長年ウイスキー造りの仕事に携わってきましたが、ウイスキー事業は非常に参入障壁が高く、リスクも高いものだと思います。それにも関わらず、これだけ多くの蒸溜所が誕生し、品質も非常に高いウイスキーが造られているのはとても素晴らしいことだと感じています。
日本酒やビールの醸造の世界で酒造りの経験がある会社もありますが、ウイスキー事業に参入してすぐに品質が非常に高いウイスキーを造ることのできる日本のクラフト蒸溜所は素晴らしいです。3、4年の熟成でここまでの熟成感を出せるのは素晴らしいです。
しかしその一方で、このまま10年や12年と熟成を重ねていったときに熟成がうまく進むかも心配なところです。
土屋守さん:
ジャパニーズウイスキーには、スコッチにはないような個性の豊かさがあります。日本では春夏秋冬の季節の変化や、地方ごとに気候の特徴も大きく変わります。このような様々な要因によって、日本のウイスキーの豊かさを生み出していると思います。
土屋守さん:
2004、2005年からスコットランドのウイスキーの造り手たちは口を揃えて、「Education」という言葉を言い始めました。近年ウイスキーの蒸溜所は急激に増加していますが、造り手が不足しているというのが厳しい現状です。そこで、ウイスキー文化研究所として、「ウイスキー大学」をいつか創設したいと考えております。具体的には、実際に蒸溜所を造って、現場でウイスキーを勉強できるような環境を作りたいです。ウイスキーの歴史などの座学も含めて、総合的にウイスキーの勉強ができる教育機関が必要なのではないかと思います。
輿水精一さん:
私も造り手を養成する機関は必要だと思っていました。サントリーやニッカウヰスキー、キリンのようなウイスキーを長年造ってきた企業で活躍してきたブレンダーや技術者の方々のノウハウを継承していかなければいけませんね。
以上、第3弾のスペシャルトークショー&乾杯イベントの様子をお届けしました!
全国のクラフト蒸溜所の皆様のウイスキー造りに対する熱い思いや土屋守さんの「ウイスキー大学」のお話は非常に興味深く、そして熱い想いが伝わってきました。
輿水精一さんからは、日本のクラフト蒸溜所が持つ素晴らしさやその中にある課題について、ウイスキー愛飲家として興味深いお話を聞くことができました。これからの日本のクラフト蒸溜所のウイスキーがとても楽しみです。蒸溜所見学やイベントにも注目していきたいです!