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【イベントレポート】コニサークラブ 発足記念イベント<第2弾>

2023.11.17 / 最終更新日:2024.02.01

2023年10月15日(日)東京都 EBiS303 イベントホール にて『コニサークラブ 発足記念イベント』が開催されました!

コニサークラブ発足記念イベントは、2023年7月に新たな会員組織として発足した「ウイスキーコニサークラブ(WCC)」の第1回記念大会です!
Dear WHISKYは今回、実際に会場へ行ってきましたのでイベント当日の様子をお伝えします!

第2弾では、世界の蒸溜所に関する、ウイスキー文化研究所代表の土屋守さんの基調講演の内容をお伝えしていきます。
日本国内から世界に至るまで様々な蒸溜所を訪れるなど、ウイスキー事情の最前線を知る土屋さんならではの知見をうかがい知ることができる貴重な時間でした。ぜひご覧ください!

併せてお読みください!

イベント概要

ウイスキー文化研究所が主宰するコニサ―クラブ発足を記念した第1回記念大会です。参加資格はウイスキーエキスパート(WE)、プロフェッショナル(WP)、レクチャラー(WL)などのコニサ―資格を持っている方のみで、先着300名のみの限定イベントです。
イベントでは、土屋さんによるジャパニーズウイスキー100周年を迎えた歴史ある日本のウイスキー最新情報や、ウイスキーの始まりであるスコッチウイスキーなど世界各国のトレンドまでの貴重な講演を伺うことができます。

日時 2023年10月15日(日) 11:00~18:00
会場 東京都渋谷区恵比寿1-20-8 エビススバルビル3階
EBiS303 イベントホール
主催 ウイスキー文化研究所
公式SNS Instagram:ウイスキー文化研究所
X(旧Twitter):ウイスキー文化研究所 (JWRC) 【公式】
HP ウイスキーコニサーHP

今回参加したセミナー

今回の取材では、土屋さんによる全2回の基調講演すべてに参加させていただきました。
全2回の講演を通して、土屋さんが数々の取材で得た日本や世界における最新のウイスキー事情を知ることができました!

ウイスキー文化研究所代表の土屋 守さん

第1部基調講演「世界のウイスキー事情と最新の蒸留所情報、そのトレンド」

タイトル 世界のウイスキー事情と最新の蒸留所情報、そのトレンド
登壇者 ウイスキー文化研究所代表 土屋 守 様
時間 11:30~12:40

現在に至るまでのクラフト蒸溜所設立の歴史

スコットランドの蒸溜所縮小の動き

ウイスキーコニサーの資格試験を始めたのは今から20年前の2004年からですが、その頃は試験問題の99%以上がスコッチウイスキーに関するものでした。その当時、実際にスコットランドで稼働していた蒸溜所は80ほどだったと思います。スコットランドの蒸溜所は、1970年代後半をピークにスコッチウイスキー業界全体が低迷していた時代がありました。その頃、スコッチウイスキーの蒸溜所の数は徐々に別の蒸溜所同士と統合されて減少していました。

コニサー会員の皆さんは土屋さんの話に熱心に耳を傾けます

スコッチウイスキーの低迷期に訪れた転機

そのような中、1995年にスコットランドに新しくアラン蒸溜所ができました。当時は、こんなウイスキーが売れない時代に新しい蒸溜所を建てたところで上手くいくはずがないと揶揄されていました。それから2005年には、キルホーマン蒸溜所がアイラ島では約130年ぶりの蒸溜所として設立しました。

そのような流れの中、2012年にイギリスの関税当局のある方針がスコッチウイスキー業界に転機をもたらしました。それは、2,000リットル以下のポットスチルの使用を認めないという慣習法の廃止です。この決定によってロンドンで200年ぶりに2,000リットル以下の小さなポットスチルを使用したジンの蒸溜を開始しました。ビールをはじめとする世界的なクラフトムーブメントが生まれたのは、ちょうどこの時期です。やがてこの流れは、ウイスキーをはじめとする蒸溜酒造りにも波及するようになり、イギリス国内だけではなくアイルランドやアメリカなど世界各国でクラフトウイスキーが続々と誕生しました。このような背景があり、2,000リットル以下の小さなポットスチルを備えた現在の「クラフト蒸溜所」が各地に誕生するようになりました。

アイラ島におけるオーバーツーリズムの懸念

アイラウイスキーの現状

2023年9月現在、スコットランドで稼働している蒸溜所は145か所あります。その中でアイラ島で造られるウイスキーと言えば、ブナハーブンやカリラ、アードベッグ、ラガヴーリン、ラフロイグ、ボウモア、ブルックラディ、キルホーマンといった蒸溜所が有名です。しかし私が何回かアイラ島へ取材に行くと、島民の方が口をそろえて「新しい蒸溜所はアードナッホーで終わりだ」と言っていました。そのような言葉の背景には、アイラ島にある蒸溜所は2005年にキルホーマン蒸溜所が出来て8か所になり、すでに十分な量を生産しているという主張があります。彼らは2018年のアードナッホー蒸溜所の建設にも反対していました。

アイラ島の自然風景

年々増加する観光客

現在、スコッチのモルトウイスキーの全生産量の5%はアイラ島で造られています。人口3,400人ほどの小さな島に9か所の蒸溜所が存在し、その中でも最大規模のカリラ蒸溜所では年間650万リットルのウイスキーを生産するなど、アイラ島では非常に多くのウイスキーが造られています。そんなアイラ島に年間で訪れる観光客の数はなんと20万人にものぼります。こうした観光客の目的はアイラ島の蒸溜所ツアーです。

蒸溜所と島民の共存

当初、アイラ島民は自分たちの島が有名になることを好意的に捉えていました。しかし、5~6年前から彼らの生活に影響が出始めました。1トンの麦芽から生産できるウイスキーは400リットルほどであり、アイラ島では年間600万リットルほど生産されるため、本土のブリテン島から年間8万トンほどの麦芽を仕入れる必要があります。麦芽の運搬トレーラーが1度に運べる量は28.7トンに規格統一されているため、このトレーラーが1つのフェリーに10台ほど乗って毎日アイラ島にやってきます。さらに蒸溜所で蒸溜したスピリッツは、トレーラーとは別のタイプの運搬車に積まれ、本土に渡り樽詰めされます。そこで問題となるのが、多くのトレーラーと島民が生活するために使用している車が何度も交錯し日常生活に影響が出ている点です。本土とは異なり、アイラ島の道は細い一本道のようになっているのでこのような問題が発生しています。アイラ島の蒸溜所とそこに住む人々との共存はこれからの課題になるでしょう。

スコットランド全体で見ると年間100万トンの麦芽がウイスキー造りに必要だという

スコットランドの最新の蒸溜所情報

ガートブレック蒸溜所

近年、大手酒造メーカーの「ペルノ・リカール社」がアイラ島のガートブレックに蒸溜所を新しく建設すると発表しました。ペルノ・リカール社は現在、グレンリベットやストラスアイラなど12か所の蒸溜所を所有していますが、1か所を除いて全てスペイサイド地方に集中しています。しかし、スペイサイドの蒸溜所だけではペルノ・リカール社が提供しているシーバスリーガルやバランタインといったウイスキーは出来ません。構成原酒にアイラウイスキーが必要になるためです。今までアイラウイスキーを融通していたアードベッグ蒸溜所との古い契約がいつ失効になるか分からない状況で、アイラモルトをどこで手に入れるかがペルノ・リカール社の長年の課題でした。

私は5~6年前に建設予定地に行ってみましたが、その地で蒸溜所を操業するには2つ問題があると感じました。まず、蒸溜所に至る道が狭すぎてポットスチルなどの資材を搬入するためのトレーラーが入れません。また、場所が波打ち際にあるためウイスキーの仕込み水が手に入らないこともあり、ウイスキーの蒸溜をするにはまだまだ課題が山積みだと思います。

現在、アイラ島で収穫されている大麦は年間3,000トンにも満たない状況です。例えば、ブルックラディ蒸溜所は年間約3,500トンほどの麦芽を必要としていますが、将来的には全てアイラ産の麦芽で賄いたいという計画を立てています。ブルックラディ蒸溜所は現在、テロワール(フランス語で「その土地ならでは」を指す言葉)の概念を導入し、地元スコットランド産の大麦のみを使用していますが、その中でアイラ島産の大麦が占める割合は半分ほどです。つまりこうした新たな蒸溜所の建設の背景には、各社が販売するブレンデッドウイスキーの生産にアイラモルトが重要であることを示唆しています。

8ドアーズ蒸溜所

スコットランド最北の地ジョン・オ・グローツには8ドアーズ蒸溜所が新設されました。この蒸溜所は最近、オープニングイベントにテープカッターとしてチャールズ国王が訪れたことで有名になりました。チャールズ国王が訪れた理由は、蒸溜所の近くにエリザベスⅡ世の母の母であるクイーン・マザーのお城があるからかもしれませんが、非常に注目を集めている蒸溜所の一つであると感じます。

8ドアーズ蒸溜所 外観

グレンモーレンジィ蒸溜所

グレンモーレンジィ蒸溜所は、先日「グレンモーレンジィ トーキョー」というウイスキーを発売したことで話題になりました。バーボン樽熟成の原酒、スパニッシュオークのシェリー樽熟成の原酒、そして15年間バーボンバレル樽で寝かせた上に4年間ミズナラ樽でカスクフィニッシュさせた原酒をそれぞれブレンドさせたボトルです。Distillery Visit: 8 Doors Distillery Guided by Kerry and Derek Campbell(近日公開)

ちなみにグレンモーレンジィの最高蒸溜製造責任者のビルさんによると、日本のミズナラは、「自らをねじりながら成長する」特徴があるそうです。そのため、大雑把に切ってしまうとミズナラの道管(根から吸い取った水分・養分を上へ送る管)も切ってしまい、その状態で作った樽に原酒を入れると切った道管から原酒が漏れ出てしまいます。これを防ぐため、例えば秩父蒸溜所ではミズナラを樽に加工する際に木のねじれに沿って慎重に割ることで、水漏れがほとんどない樽を作っているそうです。

併せてお読みください!
Distillery Visit: 8 Doors Distillery Guided by Kerry and Derek Campbell(近日公開)

ディスティラーのクラフトマンシップ

スコットランドの蒸溜所の方はよく、スコッチウイスキーは最低でも12年寝かせなければならないと言います。私はずっと世界の蒸溜所を取材していますが、スコッチウイスキー250年の歴史を背負う彼らの「クラフトマンシップ」が、スコッチウイスキーが世界のウイスキーのシェアの6割を占めている一つの要因なのだと常々感心しています。

生産量、売上ともに世界トップに君臨しているスコッチウイスキー

まとめ

第2弾では、ウイスキー文化研究所代表の土屋さんによる世界の蒸溜所に関する基調講演の様子をお届けしました!

日本、そして世界の最新の蒸溜所情報を、数々の蒸溜所を取材してきた土屋さんならではの視点から解説されていて非常に興味深い講演でした。特にアイラ島におけるオーバーツーリズムの問題については、ジャパニーズウイスキーの世界的な需要から今後日本にもっとたくさんの外国人の方が訪れることを鑑みると、決して無視できない問題だと思いました。

第3弾では、引き続き土屋さんの日本の蒸溜所に関する基調講演の内容をお届けします。ジャパニーズウイスキーの定義に関するダブルスタンダードの問題や、最新の国内蒸溜所情報など盛りだくさんの内容となっています。お楽しみに!

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