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- ウイスキー基礎知識
ウイスキーは1種類の表現では足りない複雑な香りを持っています。
香りを嗅いだ時と口に含んだ時、もしくは飲み方を変えた時で違う香りがしたという経験はないでしょうか。
あの複雑な香りはどこからきているのか。
それは、蒸留所の場所・原材料の種類・製造の過程といった様々な条件に由来します。
しかし、中でもウイスキーを作る工程でも最も重要視されているのが熟成です。
熟成の過程はウイスキーに深い香りと味わいを与えます。
更に言えば、熟成に使う樽はウイスキーの味を左右するといっても過言ではありません。
ウイスキーの熟成樽はただ、ウイスキーを保存しておくためだけに用意されているわけではないのです。
ウイスキーの熟成樽はなぜウイスキーに個性をもたらす香りを与えるのか。
今回はこの樽の香りについて考察していきます。
この記事のポイント
ウイスキーの熟成樽はウイスキーの香りの中でも大きなウエイトを占めていますが、もちろん他にもウイスキーの香りの個性をつくる要素があります。
ウイスキーの香りを表す表現で「モルティー」・「ウッディー」・「エステルの香り」・「スモーキー」といった言葉をご存知でしょうか。
これらの表現はスコッチウイスキーに使われますが、ウイスキーの香りをつくる要素に関わった表現です。
ウイスキーの香りを司る要素は主に以下の4点です。
ウイスキーの香りを司る要素
「モルティー」とは大麦麦芽のもろみ原料に由来する芳醇な香りとして表現される言葉です。
ウイスキーの原材料はこの他にトウモロコシやライ麦などがありますが、原材料の香りは「モルティー」の他に「シリアル」・「穀物の香り」といった言葉で表現されます。
蒸留所の立地によって香りも変わります。
例えば、海の側の蒸留所で作ったウイスキーは潮っぽさが感じられることが多いです。
熟成樽は温度・湿度・気圧の変化などによって、木材が膨張・伸縮し、樽に外気が入ることがあります。
そのため、海に近い蒸留所の潮気のある大気がウイスキーに移るのですね。
逆に森林豊かな場所に位置する蒸留所のウイスキーは森の若葉のような新鮮な香りを感じたりします。
スコッチウイスキーをたしなむツウなファンがよく使うウイスキーの香りの表現で「スモーキー」というワードをご存知でしょうか。
「スモーキー」とは燻製のような香ばしさを感じる香りを表します。
この香りは原材料の乾燥方法が影響しています。
スコッチウイスキーの原材料である大麦麦芽を乾燥させる時、ピートの煙でいぶします。
ピートとは泥炭のことで野草や水生植物などが、炭化したものです。
現在では麦芽を乾燥させる燃料というよりはウイスキーの香り付けのために使われています。
熟成樽の木樽由来の香りは「ウッディーな香り」といわれますが、これは樽の原材料の木材の香りがスピリッツに染み渡ることからこのような表現が使われています。
熟成樽は種類によってスピリッツ(蒸留酒)の味や香りを大きく変化させます。
木樽に使われる木材の香りだけでも香りの違いはありますが、、樽には別のお酒を熟成させるのに使った樽をあえて使い、味や香りに変化をもたらす効果をねらうこともあります。
熟成で樽がウイスキーにもたらす香りはこれだけではありません。
ウイスキーのスピリットは樽の中で樽から出る成分と化学反応を繰り返し、エステルという物質を生み出すのですが、このエステルからはフルーティで華やかな香りがすることが知られています。
熟成という工程を持つウイスキーならではの香りといえるでしょう。
このあたりは次から詳しくご紹介します。
ウイスキーに深みのある味わい・香りを与える熟成の工程ですが、樽の中では何が行われているのでしょうか。
蒸留したばかりの蒸留液のはニューポットという『新酒』です。
ニューポットはアルコールの刺激の際立った無色透明の液体で、アルコール度数もかなり高いので水を加えてアルコール度数を63度にしてから樽詰めして貯蔵庫で保管します。
ニューポットの味は若く荒々しい刺激がありますが、長い熟成期間を経てウイスキー独特の深みのある香り・味わいと美しい琥珀色をまとったお酒に変身します。
ウイスキー原酒の特徴を180度変えてしまう熟成樽の内部の秘密をみていきましょう。
ウイスキーに用いられる樽の木材であるオークはポリフェノールの一種であるタンニンを多く含んでいます。
タンニンをはじめとしたや樽材由来の成分、香気成分などがアルコールと水の作用で溶け出し、熟成期間に分解された成分は甘い香りへと変化します。
また、タンニンは香りだけではく、その色素がウイスキー原酒を少しづつ琥珀色へ色付けしていきます。
ウイスキーを豊かで深みのある香りにし、美しい琥珀色に色付ける働きが樽の中で行われているのです。
熟成の間、ウイスキー原酒は気温が高くなると容量が増え、樽材も温度の高さで膨張します。
しかし、原酒の増量分を吸収するほどではありません。
そのため、未熟で刺激的な成分が樽内面の炭の層に吸着されるとともに樽の外へ蒸散します。
逆に気温が低くなると原酒の容量は減少します。
樽も収縮し、樽内の気圧が低くなることから外の空気が樽の中に吸収されます。
このように未熟で刺激的な成分が出され、新鮮な酸素を吸うことはウイスキーの呼吸とも言われています。
この呼吸でスコッチウイスキーでは年平均2~3%ほど樽の中のウイスキーの容量が減りますがこれは、エンジェルズシェアと呼ばれています。
「天使の取り分」とか「天使の分け前」という意味になりますが、遊び心のある言葉ですね。
この呼吸があるからこそ、熟成香味を持つ成分を濃縮した、雑味のないウイスキーができるのです。
ウイスキー中の脂肪酸とアルコールが反応してできる化合物をエステルといいます。
エステルは芳香成分でバラのようなフローラルな香りから、化学反応を繰り返してバナナ、パイナップル、洋梨、リンゴなどのフルーティな香りを生み出します。
エステルは熟成中にウイスキーの一部が酸化することで生成される物質で、非常に時間を要します。
エステル臭は熟成の過程があるからこそできる産物といえるでしょう。
熟成が進んだウイスキーはまろやかな口当たりになります。
これは樽内でアルコールと水の会合という作用がはたらいているためです。
アルコールは口に含むとスパイシーな味覚と甘い味覚を感じる性質があります。
このスパイシーさと甘さはアルコールと水の割合が関係しています。
樽の中でアルコールが水と混ざり合い、割合が変化するのです。
ウイスキーの樽に使われる木材はオークです。
日本語では楢の木といえばわかりやすいでしょう。
家具などにも使われており、世界では約300種類のナラ材があるといわれています。
ウイスキーの木樽に使うオークの種類と香りをご紹介します。
北アメリカ産のホワイトオークは樽の木材に最も多く使われています。
ウイスキーの他、バーボン樽やシェリー樽としての流通も多いです。
熟成に使うとウイスキーに蜂蜜のとろけるような甘いフレーバーをもたらします。
香りもココナッツやバニラといった濃厚な甘さを感じさせるのが特徴です。
ヨーロッパ産の2大オークの一つでセシルオークとも呼ばれます。
ワイン樽で使われたのが最初です。
ポリフェノールの一種でもあるタンニン量が多く含まれているので渋みがあり、ウイスキーにスパイシーな香りを与えます。
日本が主な生産地です。
丈夫で良質な北海道産のミズナラは「ジャパニーズオーク」と呼ばれ、数も少なく貴重です。
その名の由来でもあるように、水を多く含んでいて、燃えにくい性質を持っています。
白檀(びゃくだん)や伽羅(きゃら)のといったお線香でも慣れ親しんでいる香木のような香りが特徴です。
ヨーロッパ産の2大オークの一つでコモンオークとも呼ばれます。
ポリフェノールやタンニンを豊富に含んでいるため、ウイスキー原酒に、甘くてフルーティーな香りを与えます。
前章でご紹介したような木材を使って樽を作り、ウイスキーを熟成させますが、1個の樽の寿命は約50年ほどといわれています。
その間熟成は約4~5回程度行われます。
樽はウイスキーの個性を作るので多様な使われ方をします。
樽の種類による味や香りの特徴をご紹介しましょう。
まだお酒を熟成させたことのない新樽の方が一般的に木材の個性である香りや渋みが原酒に強く影響されるといわれています。
これは、木材に多く含まれているタンニンという成分が100%あり、消費されていないためです。
新樽は香りだけでなく、色も濃いのが特徴です。
新樽の木材っぽい樽香は人を選ぶので、どちらかというとツウ好みといえるかもしれません。
香りの強い新樽で造ったウイスキーはこちらのジャックダニエルです。
ジャックダニエルはすべて自社で製造した新樽を使っています。
これは樽も味の一部だと考えているためで、樽の製法にも自社特有のこだわりが見られます。
バニラやカラメルのようなまったりとした丸みのある甘さでアルコールは高いのに渋みは少なく飲みやすいです。
新樽熟成ならではのウッディーな香りが楽しめます。
20世紀後半頃、スコッチのブランドや日本のウイスキーメーカーが、使用済みのバーボン樽(バーボンウイスキーを貯蔵するための樽)を使ってウイスキーを造り始めました。
1回使われた古樽を別のお酒に入れ替えて前のお酒の個性を加えることで、ウイスキー原酒に深みのある香りや味わいをもたらす効果がうまれたのです。
樽の使用回数は増えていくごとに樽から染み出るタンニンの量は減りますが、2回ウイスキーを熟成した古樽は、木香も落ち着き、長期貯蔵モルトウイスキーの熟成に適しています。
例えば、マッカランなどはシェリー樽を熟成樽に使用していたので、美しい琥珀色でシェリー樽を受け継いだドライフルーツのようなフルーティな香りが魅力となっています。
使用回数が多くなり、樽の成分が出にくくなった古樽は、再び火を加えて焼き直しすることで、樽の成分を再活性化させることもできます。
樽がウイスキーにもたらす香りは木材臭の移りの他、熟成のメカニズムや古樽の再利用・熟成回数など様々な要因が重なっていrうことがわかりました。
ウイスキーの製造において原酒はほとんどの時間を熟成に費やします。
ウイスキーの香りの源は他にもいくつかありますが、香り全体の約6割は木樽での熟成が占めています。
ウイスキーは熟成樽なくしてはいいウイスキーは作ることができないといってもいいでしょう。