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【現地レポート】ローランドの女王と呼ばれるブラッドノック蒸溜所

2024.06.17 / 最終更新日:2024.06.20

スコットランドのローランドに位置するブラッドノック蒸溜所は、「ローランドの女王」という異名を持つ、とてもエレガントな蒸溜所です。

ブラッドノック蒸溜所は2015年にオーストラリアの起業家デイヴィッド・プライヤーによって買収され、その後、40年以上ウイスキーに関わっている著名なウイスキー専門家、イアン・マクミランの協力を得て改修されました。

2019年からはニック・サヴェージをマスター・ディスティラーに迎え、様々な工夫を重ねた個性あるブラッドノック蒸溜所のウイスキーは、現在注目を集めています。

今回Dear WHISKYはブラッドノック蒸溜所に実際に取材に行ってきました!ぜひ最後までお読みください!

併せてお読みください

ブラッドノック蒸溜所について

ローランドの女王と評される蒸溜所

1817年に創業された「ローランドの女王」、ブラッドノック蒸溜所は、個人所有のスコッチウイスキー蒸溜所としては最も古い歴史を持つ蒸溜所です。スコットランド南部に位置し、温暖な気候と豊富な水資源に恵まれたこの蒸溜所は、経営者やスタイルが変わりつつも、2世紀以上にわたり伝統を守り続けています。

ブラッドノック蒸溜所のウイスキーは、古典的なローランドスタイルのスコッチ・シングルモルトとして知られており、そのデリケートで洗練されたフルーティーでフローラルな香りは、彼らの品質と伝統に対する妥協しない姿勢が生み出すものです。

「ローランドの女王」と評されるブラッドノック蒸溜所

PVはこちら!

ブラッドノック蒸溜所の概要について、プロモーションビデオも併せてご覧ください!

ブラッドノック蒸溜所概要

蒸溜所名 ブラッドノック蒸溜所
オーナー David Prior
住所
Bladnoch, Newton Stewart DG8 9AB, United Kingdom
創業年 1817年
Website Bladnoch Distillery

ブラッドノック蒸溜所へのアクセス

スコッチウイスキーの蒸溜所のなかで最も南に位置するブラッドノック蒸溜所は、ブラッドノック川に隣接するブラッドノックの町にあります。

エディンバラから車で行く場合、約3時間かかりますが、最短距離でブラッドノックとエディンバラを結ぶ道を使うことはお勧めしません。特にスコットランドの道路に慣れていない場合、この道はでこぼこで曲がりくねっているため、後悔することになります。グラスゴーを経由する迂回ルートの方が、整備された広い道路を使えるのでお勧めです。公共交通機関は本数が少なく、3~4回の乗り換えを有するため、合計で4~5時間はかかるでしょう。

ブラッドノック蒸溜所のウイスキー

コアレンジ

ブラッドノック蒸溜所では、ヴィナヤとサムサラという2つのノンエイジウイスキーを中心に販売しています。

ヴィナヤはサンスクリット語で「尊敬」と「感謝」を意味し、1stフィルのバーボン樽と1stフィルのシェリー樽で熟成された原酒を使用しています。

サムサラはサンスクリット語で「再生」を意味し、バーボン樽とカリフォルニアの赤ワイン樽で熟成されたシングルモルトウイスキーです。

ブラッドノック蒸溜所が販売しているウイスキー

蒸溜所見学について

クラシックツアー&テイスト

ツアー概要  このツアーでは、206年の歴史を誇るブラッドノック蒸溜所の主要な場所を巡りながら、ブラッドノックとピュアスコット・ウイスキーがどのように造られているかを直接見ることができます。また、ツアーにはブラッドノックとピュアスコットのシリーズから選ばれたおすすめの3種類のウイスキーのテイスティングも含まれています。
所要時間 1時間
料金 £20 /14歳~17歳: £10
営業時間 火曜日~土曜日 :午前10時-午後5時
予約サイト  予約はこちらから

1,817ツアー

ツアー概要  1817ツアーはブラッドノック蒸溜所206年の歴史をより詳しく知る事ができるツアーです。このツアーでは経験豊富なスタッフとともに蒸溜所の設備を見学し、ブラッドノックの製造チームと同じ道具や設備を使って麦芽、ウォッシュ、スピリッツを分析する貴重な体験ができます。
所要時間 2時間
料金 £50
営業時間 火曜日~土曜日 :午前10時-午後5時
予約サイト  予約はこちらから

実際にブラッドノック蒸溜所に行ってきました

蒸溜所の歴史

1817年、ブラッドノックの農家出身の兄弟ジョンとトーマス・マクレランドはウイスキー蒸留免許を取得し、ブラッドノック蒸溜所を設立しました。

マクレランド家は約1世紀にわたって蒸溜所を経営、最盛期には年間23万リットルを生産し、「ローランドの女王 」と呼ばれるようになりました。

蒸溜所内にあるブラッドノック蒸溜所の歴史を解説するパネル

しかし、1905年に法律の改正によりウイスキーの低価格生産が容易になったことで、スコッチウイスキー業界における価格競争が激化したことにより、ブラッドノック蒸溜所の経営が厳しくなり、マクレランド家は蒸溜所の売却を決断しました。その後第一次世界大戦が起き、ウイスキー業界はさらに苦境に立たされ、ローランド地方の蒸溜所の数は40箇所からわずか3箇所に減少しました。しかしそんな中でも、ブラッドノック蒸溜所はウイスキーを造り続けていました。

幾度となく苦境に立たされながらも、ウイスキーを造り続けていたブラッドノック蒸溜所でしたが、第二次世界大戦がはじまるとついに、閉鎖に追い込まれてしまいました。

18世紀のブラッドノック蒸溜所の様子

18世紀のブラッドノック蒸溜所の様子

第二次世界大戦後、ブラッドノック蒸溜所は1956年に新しいオーナーのもとで蒸留を再開しました。その後、何度かのオーナー変更を経て2015年にオーストラリアの起業家デイヴィッド・プライヤーがブラッドノック蒸溜所のオーナーに就任しました。

引き継いだデイヴィッドは、当時マスターディスティラーだったイアン・マクミランの手を借りながら、すぐに改修をはじめ、ブラッドノック蒸溜所の生産能力を10万リットルから150万リットルにまで増大させました。

イアンさんは2017年から、ニック・サヴェージさんがチームに加わった2019年まで、ブラッドノックの再建に携わっていました。

改装の際に建てられたビジターセンター

ブラッドノック川からもたらされる豊かな水

ブラッドノック蒸溜所は裏手にあるブラッドノック川から水を引いています。この立地こそが206年前にこの場所に蒸溜所が建てられた理由の一つです。

蒸溜所の裏を流れるブラッドノック川

粉砕

ブラッドノック蒸溜所は1927年から現在まで、変わらず同じボビー・ミルを使用しています。ボビー・ミルは非常に長持ちすることで知られており、100年以上使われることもあります。ミルを造ったロバート・ボビーの技術が優秀すぎたがゆえに、当時は誰もミルの交換や修理を行わなかったため、彼は自らを閉業に追い込み、専門知識が失われてしまいました。現在では、そのミルの複雑さゆえ、メンテナンスができる人は限られています。

100年近く使用されているボビー・ミル

ブラッドノック蒸溜所ではモルトの粉砕比率をハスク22%、グリッツ72%、フラワー6%の割合で粉砕しています。フラワーの割合が多いと、吸湿性が高くなってしまい、糖分の抽出速度が落ちてしまうため、糖分を素早く抽出するために粗挽きにしています。

ローランドスタイルのフルーティーな甘さはこの粉砕方法によって生まれています。

糖化

ブラッドノック蒸溜所では、5トンのステンレス製セミラウター・マッシュタンを使用し、3段階のマッシング工程を7時間かけて行います。第1段階では、5.5トンのグリストと20,000リットルの水を64℃まで加熱し、酵素を活性化させデンプンをグルコースに分解します。次に8,700リットルの水を加え、76℃まで加熱して、発酵しない糖分を引き出し、ウイスキーに甘みを加えます。最後に16,500リットルの水を90℃まで加熱し、グリストから脂肪とタンパク質を取り除きます。この際に取り除かれた脂肪とタンパク質は、近隣の農場で家畜の飼料として再利用されています。

ブラッドノック蒸溜所で使われているマッシュタン

発酵

ブラッドノック蒸溜所では6つのダグラスファー(米マツ)製のウォッシュバックを使用しています。6つとも容量は35,000Lで、発酵時間は平均80時間で行っています。

現在、多くの蒸溜所が耐久性と手入れのしやすさからステンレス製のウォッシュバックを好んで使用していますが、ブラッドノック蒸溜所では、フルーティなウイスキーを造るには木製のウォッシュバックが不可欠だと考えています。

その理由は、発酵の過程で酵母がすべて死滅した後、木の内部に生息するバクテリアによって二次発酵が起こるからです。この二次発酵によって、有機酸が余分に生成され、エステル化が進み、ウイスキーではしばしばフルーティな香りと呼ばれる芳香化合物が生成されます。この芳香化合物がフルーティーなウイスキーには欠かせません。

フルーティーなウイスキー作るために欠かせない木製の発酵槽

蒸留

ブラッドノック蒸溜所には、容量12,500リットルのウォッシュスチルが2基、容量9,500リットルのスピリットスチルが2基あります。蒸留工程には約6時間の時間をかけて行っています。

スピリットスチルには銅との接触を増やすボイルボール(還流ボール)が搭載されている上、背が高く設計されているため、スピリッツの中でも軽い成分のみが抽出されます。このデザインにより、滑らかで果実味豊かなウイスキーが作られます。

ブラッドノック蒸溜所のポットスティルのデザインは、1世紀以上の間同じ形を受け継がれており、現在のポットスチルは生産能力を高めるために、デザインはそのまま、大型化されたものが使用されています。

フォーサイス製の2つのポットスティル

屋外に保管されている樽

蒸溜所の外には、空き樽が山積みになっています。実は、樽を外に保管することは樽の保存において大きなメリットを生みます。ブラッドノック蒸溜所付近の気候は湿度が高く、雨もよく降る気候のため、外に置いておくと樽が濡れた状態になります。このように樽を濡れた状態で保管することで樽が割れるのを防ぐ事ができるのです。

さらに、樽を濡らしておくことで、シェリーやバーボンなどの原液が木にしみ込んだ状態を保つことができ、それらの原酒が蒸発してしまう乾燥した場所に比べて、樽をよい状態で保存することができます。

熟成庫の横に保管されている空き樽

熟成

ブラッドノック蒸溜所には10棟の貯蔵庫があり、そのうち8棟半がウイスキーで埋まっています。ここでは、大小様々な樽が取り揃えられています。

容量が1,000リットルにもなる大型の樽は、木と原酒との接触が少ないためゆっくりと熟成する傾向があり、その結果、穏やかでフローラルなウイスキーが生まれます。一方、小さい樽は熟成が早く進み、より力強く、木の香りが前面に出たウイスキーができあがります。

蒸溜所で最も古い貯蔵庫

ブラッドノック蒸溜所は、1年ごとにリリースするウォーターフォールシリーズを造るために、特別に大きな樽を使用しています。

このシリーズは非常に人気があり、世界中に多くのファンを持っています。

この特別に大きな樽は次のリリースに使用される予定です

ブラッドノック蒸溜所は、多くの種類の樽を使用することにもこだわっています。主にヨーロピアンオーク樽2種とアメリカンオーク樽2種を使用しており、特に主力商品にはシェリー樽を多く使用しています。さらに、ミズナラ樽も多く所有しており、樽を変えることで様々な種類の原酒を造り分けています。

ブラッドノック蒸溜所が所有するミズナラ樽

熟成庫を見渡すと、壁や天井に黒いカビが生えているのに気づくでしょう。

これは、樽から蒸発するアルコール分である「エンジェルズ・シェア」の結果です。

ブラッドノック蒸溜所のエンジェルズ・シェアは年間約2%です。これはスコッチ・ウイスキー蒸溜所としてはごく標準的な量です。このパーセンテージだけ見ると少なく感じるかもしれませんが、昨年、スコッチウイスキー業界全体では約5000万本分のウイスキーが「エンジェルズ・シェア」によって失われています。実は「エンジェルズ・シェア」はウイスキーの熟成に大きな影響を与えているのです。

エンジェルズ・シェアによって貯蔵庫のいたるところに黒カビが付着している

テイスティング

蒸溜所の設備の見学が終わると、ブラッドノック蒸溜所の主要製品であるヴィナヤとサムサラ、そして驚くほどフルーティーで口当たりのよいニューメイク の試飲をさせていただきました!試飲したウイスキーは世界中で購入可能ですが、ツアー後に蒸溜所現地で行うテイスティングは、まさに唯一無二の体験でした!

製造工程を間近で見学した後、すぐにその蒸溜所のウイスキーを飲む経験は何か不思議な魅力がありますね。

蒸溜所見学の終わりには試飲もできます!

ツアー最後に楽しむことができるテイスティング

まとめ

今回の取材で、ブラッドノック蒸溜所の、理想のウイスキーを造るためには妥協のない姿勢と、伝統あるローランドスタイルの繊細な風味を受け継いでいく想いを感じる事ができました!彼らは伝統的なウイスキー造りと、現代的なウイスキー造りを巧みかつ正確に融合させ、常に挑戦し続けています。

復活から8年目を迎えようとしている今、ブラッドノック蒸溜所は進化を続け、世界中のウイスキーファンを魅了する個性ある商品を生み出しています。

蒸溜所を訪れれば、ブラッドノック・ウイスキーの1本1本に込められた豊かな歴史とこだわりぬかれた造りを目の当たりにすることができ、ウイスキー愛好家やスコッチ・ウイスキーの伝統に興味を持つ人々にとって、時を超えて没入できる旅となるでしょう。

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