【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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2024年2月19日(月)~ 2024年2月21日(水)にWorld Whisky Forum(ワールド・ウイスキー・フォーラム)が、長野県の小諸蒸留所で開催されました!
今回のテーマは「アジア太平洋:ウイスキーの新たな力」。クラフトから大規模製造まで、国・事業規模の異なる造り手達が、それぞれの視点でウイスキービジネスの発展へ向けて切り込んでいきました。
イベントレポート第3弾となる本記事では、ワールド・ウイスキー・フォーラム 2024 全3日間のうち、最終日の様子をご紹介します。
【イベントレポート】ワールド・ウイスキー・フォーラム2024<第1弾>
【イベントレポート】ワールド・ウイスキー・フォーラム2024<第2弾>
【イベントレポート】World Whisky Forum 2022
ワールド・ウイスキー・フォーラムとは、世界中のウイスキー関係者が一堂に会する国際的な業界イベントです。18か月ごとに開催され、過去にはスウェーデン ボックス蒸溜所、イングランド コッツウォルズ蒸溜所、アメリカ ウェストランド蒸留所、デンマーク スタウニング蒸留所にて行われました。
ワールド・ウイスキー・フォーラムでは、3日間にわたるセッション等を通じて、各国のウイスキーのプロフェッショナルと交流を深めることができる、大変貴重なイベントとして知られています。
今回のテーマは「アジア太平洋:ウイスキーの新たな力」(原題:Asia-Pacific:Whisky’s New Power House)。昨今のアジア・太平洋地域におけるウイスキー業界でのプレゼンスの高まりと、彼らの革新的アプローチに焦点が当てられました。
日本・インド・オーストラリア・ニュージーランド・韓国・中国など、アジア太平洋地域の各国より、大手からクラフトまで、幅広いウイスキー生産者が登壇。彼らの考えるウイスキー造りや、ゼロから蒸溜所を設立した経験を語りました。
開催日時 | 2024年2月19日(月)~2月21日(水)(3日間) |
開催場所 | 小諸蒸留所 〒384-0801 長野県小諸市甲字軽石4630-1 |
参加費 | $1,320(約20万円) ※ホテル・食事代込み |
公式HP | https://worldwhiskyforum.org/ |
言語 | 英語 |
8:45 | 小諸蒸留所への移動 |
10:00 | Session 4 「輸出者が直面する課題」 |
13:00 | ランチ |
14:00 | Session 5「ウイスキーの可能性」 |
16:00 | フォーラム終了 |
17:00 | クロージングディナー(希望者のみ) |
新規蒸溜所の設立について語られたDAY 2の次は、ビジネスの存続にとって極めて重要な「輸出」をテーマにが組まれました。
全く異なる3つの思考を用いて、輸出ビジネスを成功させた3名の登壇者が、それぞれが導き出した理論や経験を語りました。
この度のワールド・ウイスキー・フォーラム2024では、続くSession 5「ウイスキーの可能性」と併せて、インドから2名のスピーカーが登壇しました。世界で最もウイスキー消費量が多く、突出した市場規模を持つインド。消費の中心は、輸入ウイスキーではなく、インド産ウイスキーです。
スピーカーのポールさんは、多くのインド産ウイスキーの中でも、設立当初から海外市場への進出を推し進めてきたジョン・ディスティラリーズ社の創業者で会長です。
蒸溜所は、水源として名高く、美しい白浜のビーチが人気の観光地としても知られているインド西海岸中部のゴアに位置しています。
現在ではインドでは第4位の総合酒類メーカーとなったジョン・ディスティラリーズ社ですが、ウイスキー造りを始めた1996年頃には、全くの未経験者ばかり。自分達が何をやっているのかも分からなかった分、正当な手法という固定概念を破って、実験の積み重ねによる柔軟なアプローチが生まれました。
現在では、多くの受賞歴を持ち、国際的にも高品質な南国生まれのウイスキーとして、話題を集めています。
最初の数年間は、国内市場では全く売らず、輸出市場のみに集中していました。国内製品よりも海外製品への信用が強く、海外で評価されているインド産ウイスキーを好むという、インド人消費者の傾向を踏まえた判断で、イギリス・フランス・日本といった世界各国での存在感を高めていきました。
ポールさんは、どのように適切なビジネスパートナーを見つけるのか、自身のビジョン(to create The Great Indian Single Malt – 素晴らしいインディアンシングル)をしっかりと理解することの重要性などを参加者に伝えました。
次は、ニュージーランドのカードローナ蒸溜所でマスターディスティラーを務めるサラ・エルソム さんのスピーチです。2015年創立のカードローナ蒸溜所は、伝統製法に則ったウイスキー造りを行う小規模クラフト蒸留所です。
原料と周辺環境が、素晴らしいウイスキーを形づくるという信念のもと、発酵・蒸留共に時間をかけて丁寧なウイスキー造りを行っています。
ニュージーランドの蒸溜所として、先駆けて国際市場に進出したカードローナ蒸溜所にとっての最初の一歩は、「ニュージーランドウイスキーとは何であるか」を消費者に教育することでした。
世界中からウイスキーのエキスパートを招待してテイスティングを提供し、「ニュージーランドウイスキー」についての会話を生み出すことに成功。徐々に認知度を拡大していきました。
島国であるニュージーランドの直面する課題は、高い生産コストです。高価格について、質を何よりも重視した上での価格設定であると、どのように消費者へ伝えるかを常に考えてきました。
カードローナ蒸溜所の輸出戦略は、まずはニュージーランドと言語が同じな英語圏かつ成熟したウイスキー市場に絞ること。オーストラリア・イギリス・アメリカといった国々へ輸出する際に直面した課題や、それぞれの国におけるパートナーとの関わり方の違いなどを、自身の体験を踏まえて参加者に共有しました。
海外セールスチームを自社内に有し、品質への評価が高いカードローナ蒸溜所は、2023年にInternational Beverage社とのM&Aが実現。より大規模な資本が入ったことで、数十年という単位での長期事業計画が立てられ、国際的な成功を収めました。
最後に、オーストラリアのスターワード蒸溜所より、クリスさんが登壇。クリスさんは、スターワード蒸溜所の創設者の1人であり、ライターとしても知られるウイスキー界に造詣の深い人物です。
「輸出の芸術&新たなマーケットで勝利する(Art of Export & Winning New Markets)」というテーマで、講演を行いました。
新規市場を開拓するのを大企業の能力と捉え、自分たちのような中小企業は、既にウイスキー市場が存在している国をターゲットとするという戦略を取っています。ウイスキー生産量は少なくとも、国としてのブランド力が高いオーストラリアを正しく理解し、スターワード蒸溜所としての基盤を構築することに成功しました。
製造面でも、オーストラリア産の赤ワイン樽と、温暖な気候を組み合わせることで、スターワードウイスキーの大胆な風味・色味を実現したのです。また、消費者第一で適正価格での販売を目指し、優秀な人材の維持を含め、何が必要であるか、歴史や事例をもとに解説しました。
セッションの最後には、デイブ・ブルームさんの進行する座談会へ。輸出戦略がウイスキー造りのアプローチにどれほど影響するのか、ウイスキー新興国においては、世界の人々がその国に対して持つイメージを、自社ウイスキーのブランディングにどのように利用できるか、「ローカルウイスキー」であることの需要などを話し合いました。
移民を多く輩出しているインドでは、各国に居住するインド系住民が、インド産ウイスキーの海外消費を促進しているといった興味深い一面もあるようです。
続く参加者からの質疑では、現地でのパートナー企業の選び方について、多くのディスカッションが行われました。
輸出のリスクである、自社ブランドのコントロールの低下や、あらゆるトラブルの対処、高い市場参入コストについては、実際に現地へ足を運び状況をしっかりと確認すること、タイミングや市場機会の見極め方などのアドバイスがなされましたが、いずれにしても時間・コストを要することへの覚悟が必要とのことでした。
最後に、効果的であったマーケティング戦略については、各々の国の立地や生産規模を踏まえた見解が引き出されました。招待やイベント等、実際に飲んでもらう機会を多く設けることや、パッケージの工夫、立地や哲学を重視した卸先店舗の選び方など、貴重な経験談を伺うことができました。
ワールド・ウイスキー・フォーラム2024最後のセッションは、「ウイスキーの可能性(原題:What Can Whisky Be?)」。
初めに、フォーラム2回目の登壇となるサントリーチーフブレンダー 福與 伸二さんが、サントリーが考える、ウイスキーのあるべき発展の姿についてプレゼンテーションを行いました。
スコットランド(アイルランドという説も)から始まり、移民によってアメリカ大陸をはじめ世界中に広まったウイスキー生産。
しかし、日本においては事情が異なります。竹鶴政孝という一人の若き男性が、ウイスキー造りを学ぶという確固明確な目的を持って、スコットランドに渡ったことから、昨年100周年を迎えたジャパニーズウイスキーの歴史が始まりました。
2000年代には、ジャパニーズウイスキーが国際的に大きな注目を集めました。そこには、サントリーを含む日本企業のたゆまぬ努力があったのです。
今回は、サントリー社が品質向上のために行った技術調査・実験や、それらの結果をどのように生産ラインへと反映していったのか、ジャパニーズウイスキーが国際的な地位を確立するまでの歴史と合わせて、細やかに説明してくださいました。多くの造り手が聞き入り、積極的に知識を吸収していく様子が見られました。
サントリーの哲学は、徹底した品質主義です。目まぐるしく変わり続けるウイスキー業界では、ローカル化・差別化など、多くの重要な価値が生まれています。新たな価値を重要視しながらも、この100年間貫いてきた、「美味しいウイスキーを造ること」への真っすぐな職人としての姿勢を、参加者に印象付けました。
次に登壇したのは、インドの大手アムルットのマスターディスティラーであるアショク・チョカリンガムさんです。
”What Can the Whisky Be?” を、360度の角度から捉えられる質問だと述べながら、先駆けてインドでウイスキー生産を始め、現在58か国にて販路を持つ彼らの経験と知恵を共有しました。
アムルットが所在するベンガルは、インド北部ヒマラヤ山脈の恵みを受けた肥沃なパンジャーブ地方から、「大麦のシルクロード」が伸びています。
水の影響よりも、原料や製造過程こそが味わいに影響を与えると考え、樽への自由なシーズニングなどを通じて、市場の求めるものを考え続けてきました。
エンジェルズシェアが年間12%~16%(スコットランドでは通常2%~3%)で熟成が早く進むというインディアンウイスキーの利点を認識し、ウイスキーの可能性を押し上げてきたアショクさんの知見・哲学を共有しました。
続いて、メンタイ蒸溜所の代表取締役であるリチャードさんが、中国のウイスキー市場と、彼の建てたメンタイ蒸溜所について語りました。2021年に、計35トン以上に及ぶ1つの蒸溜所設備を丸ごとスコットランドから中国の内モンゴルに移動させたことで話題となったメンタイ蒸溜所。当初から、“globally award-winning whisky”を創ることを念頭に、大規模な戦略を組み立てていきました。
ウイスキーのホームであるスコッチウイスキー業界から、ウイスキー造りの神髄を学び、中国の消費者へウイスキー文化を届けることを目指しています。
リチャード・リン・ルーさんは、この一大プロジェクトの貢献者として知られています。メンタイ蒸溜所を中心とした近辺地域の壮大なスケールでの開発についても、その経緯と効果を参加者へ共有しました。
最後のスピーカーは、オーストラリア アーチー・ローズ蒸溜所のマスターディスティラーであるデイブ・ウィッチャーズさん。
元々、ワイン農家に生まれたというデイブさん。幼少期から家業を手伝っていた彼は、毎晩ディナーテーブルでワイン造りの歴史、場所の歴史、ワイン業界等について聞きながら育ちました。
彼にとって、ワイン、ラム、ジンやウォッカなどのお酒ではなく、ウイスキーを「ウイスキー」たらしめるものは、大麦を原料に使用していることでした。
農家からディスティラーへとキャリアを転換し、土からのウイスキー(Whisky from the soil)を信念とする彼は、土壌が次の世代にも、健全に受け継がれていくよう尽力してきました。
通常の蒸溜所が、Commercial Barleyと呼ばれる単一品種を利用しているのに対し、アーチー・ローズ蒸溜所では6種類もの大麦を組み合わせてウイスキー造りを行っています。大麦は、その一粒一粒が異なり、実は無限のバラエティがあります。過酷な自然環境でこそよく育ち、その土地の気候に適応します。
農場で学び、その大麦を最大限活かすように全体のウイスキー造りを設計するという革新的なアプローチを取るアーチー・ローズのニューメイクは、大麦の種類に合わせてなんと20種類もの数があります。
セッションのテーマである「ウイスキーの可能性(What can whiskies be?)」に対しては、どこからそのウイスキーが来たのかを理解すること(to understand where the whiskies come from)、そして、・素晴らしいウイスキーは、蒸溜所ではなく土壌からその命が始まる(The great whiskies start its life in the field, not distillerues)と述べ、スピーチを締めくくりました。
ワールド・ウイスキー・フォーラム2024の締めくくりとなる座談会では、ウイスキー業界の将来について、各国の蒸溜所、モルトスター、マーケター、様々な立場から意見交換がなされました。
特に、前回のワールド・ウイスキー・フォーラムのテーマでもあった、サステイナブルな発展をどう成し遂げるかという点に焦点が当たり、大麦利用について農家との向き合い方などが話題にあがりました。
3日間にわたるワールド・ウイスキー・フォーラム2024はこちらで正式に締めくくられましたが、希望者向けに、小諸市によるクロージングディナーが開催されました。
華やかなディナー会場に入ると、大浅間火煙太鼓の皆さんが、体の芯まで響き渡る圧巻の太鼓パフォーマンスでお出迎え!思いがけないサプライズに、乾杯の前から笑顔が溢れていました。
さらに、小諸商工会議所会頭 塩川秀忠さん、小諸市長の小泉俊博さん、花岡 隆さん、田中尚公さんによる乾杯のご挨拶がありました。
会場では、小諸市の飲食店・自治体(小諸商工会議所・音羽・ビストロアオクビ・保持鳥・ビデリカテッセン山吹・金寿司・山吹味噌・嬉鶴・やまさだ・小宮山酒店・松沢農園・風味堂・大地農園・こもろ布引いちご園)によるお食事が提供され、参加者の皆さんは、名残惜しそうに最後の夜を共に楽しんでいました。
これらのおもてなしは全て、ワールド・ウイスキー・フォーラム2024の参加者のために、小諸市が自ら企画・提案したそうです。さらに、翌日の2月22日(木)には、小諸市によって参加者向けの特別ツアーも実施。温かく出迎えてくれました。
以上、ワールド・ウイスキー・フォーラム2024最終日のイベントレポートでした!ホストとして、何か月もの間、通常の蒸留所運営と並行して準備を進め、宿泊地の手配・飲食・ロジスティクスなどを担当した、成功の貢献者である島岡夫妻・イアン・チャンさん・小諸蒸留所チームと、市をあげてサポートした小諸市。そして、オーガナイザーのワールド・ウイスキー・フォーラム運営局の皆さん、ありがとうございました!
次回のワールド・ウイスキー・フォーラムは2025年6月23日~25日フランスのメゾン・リネティ蒸溜所にて実施予定です。続報をお見逃しなく!