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【イベントレポート】World Whisky Forum 2022

2022.09.10 / 最終更新日:2024.05.02

世界中に市場が存在するウイスキー業界。そこで直面する課題やこれからの可能性について、考え議論し互いに共有する場として、18カ月に1度、開催されているのがWorld Whisky Forumです。
2022年はデンマークで開催され、来場された70名の方とオンラインでも多くの方が参加されたイベントです。そんなWorld Whisky Forum 2022に今回、参加してきました!
今回のテーマである「サステナビリティ」を軸に行われたパネルディスカッションなどをご紹介したいと思います!
ぜひ最後までご覧ください!

併せてお読みください!

World Whisky Forum 2022とは

18カ月に1度のイベント

2022年6月21日~23日、第4回「World Whisky Forum」が開催されました。
World Whisky Forum(以下、WWF)とは、18ヶ月に1度開催されるウイスキー界のビッグイベントです。小規模の生産者から大手企業まで、ウイスキー生産に携わる方なら誰でも参加することができます。ウイスキーやビジネスに関する知識・意見を共有し、ネットワークを拡大させることが出来る、ウイスキー界では重要なイベントです。会場では、レアウイスキーのテイスティングなど、魅力的な機会も多く設けられています。

今回のテーマはサステナビリティ!

WWFは、毎回テーマを設定しています。今年のテーマは「サステイナビリティ」です。
具体的には、「サステナブルなウイスキー生産はどのようなものなのか」であったり、「温暖化が原料に与える影響」であったり、「ウイスキー市場の未来」などが挙げられます。このようなウイスキー生産に関わっている方なら誰しも不安になるような悩みを共有し、解決策を探していくのが目的です。

スタウニング蒸溜所での開催

開催場所はデンマークの西海岸に建つスタウニング蒸溜所です。
スタウニング蒸溜所は2005年に9名のウイスキー愛好家によって設立されました。当初ウイスキー造りの知識は全くないものの、素晴らしいウイスキーを造りたいという熱い情熱を燃やしていたといいます。

5大ウイスキー産地ではなくデンマークで開催した理由としては、近年、北欧で新興蒸溜所が増加していることが関係しています。雄大な自然に恵まれ、大麦や良質な水など、ウイスキーの原料も現地で調達することができます。また最新技術を投入した、固定概念にとらわれない、イノベーティブなウイスキー造りが魅力的です。

デンマークは世界で最も環境意識が高く、持続可能な生産で業界をリードする北欧の中心地です。中でも、スタウニング蒸溜所は、地元で栽培・収穫された原料のみを使用し、近代的な製麦技術を使用したフロアモルティングを行っています。風味を巧みにコントロールし、従来のフロアモルティング法と比較してコストと水の使用量を削減することができます。「サステイナビリティ」というテーマを考えた際、デンマーク、中でもスタウニング蒸溜所はうってつけの場所というわけです。

開催地であるスタウニング蒸溜所

モデレーターのDave Broom氏

モデレーターを務めるのは、ウイスキーライターとして著名なDave Broom氏です。
スコットランド出身のDave氏は、スターリング大学で学位を取得後、音楽関連の執筆を行った経験を通して1995年からスピリッツ専門のライターとしてWhisky Magの編集者としていくつも本を出版されています。

ウイスキーライターのDave Broom氏

初の試み

4回目の開催となる今回のWWFでは、初の試みとして、LIVE配信とバーチャルチケットの販売が行われました。会場にはヨーロッパを中心に世界各国から70人のほどの参加者が集まり、オンライン参加でも、現場の情熱と活気が伝わってきました。ウイスキーを愛する気持ちが、国境を超えて人を繋げていくのだと感じることができます。

次回のWWFは日本開催!

そして、次回のWWFは2024年2月19日~21日に長野県の小諸蒸留所で開催されます。ウイスキー業界に携わる人材が、世界中から一堂に会するWWF。日本での開催は、世界へジャパニーズウイスキーの魅力を発信する絶好の機会です。

期間中のタイムスケジュール

WWF 2022は以下のタイムスケジュールで進められました。
デンマークと日本には7時間の時間差があるため、現地の時間でタイムスケジュールをご紹介します。

開催日時 2022年6月21日~23日
登壇者 全10名
セッション数 3回

1日目

14:00 オープニング
14:30 スタウニング蒸溜所ツアー
17:00 イントロダクション「The Overall Theme: Sustainability is introduced」
キーノートスピーカー: Tommy Rahbek Nielsen (Vestas Wind Systems)
19:00 ディナー

2日目

9:30 セッション①「限りある資源の利用について」
1. Magali Picard (Demptos Cooperage Research)
2. James Brosnan (Scotch Whisky Research Institute)
3. Gregg Glass (Whyte & Mackay)
11:00 パネルディスカッション
12:00 ランチ
13:00 セッション②「サステイナブルな蒸溜所建築と、サステイナブルな生産がもたらす資金面でのメリット」
1.  Annabel Thomas (Nc´nean)
2.  Bastian Heuser (Stork Club Whiskey/Spreewood Distillery)
3.  Alex Bruce (Adelphi)4. Oskar Bruno (Agitator)
15:30 パネルディスカッション
17:30 テイスティング
19:30 ディナー

3日目

9:00 セッション③「消費者とのコミュニケーション」
1.  Joanna Watchman (Content Coms)
2. Kieran Healey-Ryder (Dalmore Distillery)
3. Ryan Chetiyawardana (Mr Lyan)
11:00 パネルディスカッション
12:00 ランチ

実際のイベントの様子!

イントロダクション

イントロダクションを担当したのは、Vestas Wind SystemsTommy Rahbek Nielsen氏です。Vwstas Wind Systemsはスタウニング蒸溜所の近くに拠点を置き、Corporate Knights社が発表する世界で最もサステイナブルな会社としても表彰されています。サステイナビリティに関する世界の全体像を共有し、その中でのウイスキー産業の位置づけや課題について共通理解を深める重要なオープニングでした。

いよいよ始まったWWF

スタウニング蒸溜所ガイドツアー

ウイスキーの製造施設

スタウニング蒸溜所のツアーも対面とオンラインの両方で行われました。
オンライン上のツアーでは蒸溜所スタッフの方がカメラを持ち、フロアモルティングの様子や24個ものポットスチルなどが動く様子を実演してくれました。

スタウニング蒸溜所のポットスチル

特徴的な蒸溜所の建物

スタウニング蒸溜所の大きな特徴の1つが、1度燃やした木材を壁に使用していることです。そのような木材を使用し建物を建設することで、潮風から建物を守るための工夫が感じられます。

スタウニング蒸溜所のもう1つの特徴は、光が多く入るよう大きなガラス窓を設けていることです。目の前に広がる草原を一望すると、北欧の冷たくも爽やかな風が、オンライン上のツアーでも感じることができます。

大きなガラス窓から眺める北欧の自然

スタウニング蒸溜所で行われているサステナビリティ

普段廃棄物として処理されてしまうヘザーを焚くことで、新しく独特なアロマを生み出す工夫がなされています。地元の資源を大切にし、スタウニング蒸溜所にしか出来ないウイスキー造りを追求する姿勢は、美しさ・地球との共生に根付いた、新しい時代のウイスキー造りの到来を表しているようです。

セッション①「限りある資源の利用について」

セッション①の概要

セッションでは、資源の利用について、樽・オーク(樽に使われる木の一種)・大麦の3つの観点から、専門家によるプレゼンテーション・ディスカッションが行われました。

樽の専門家、Magali Picard 氏

樽については、Demptos Cooperage ResearchからMagali Picard 氏が登壇されました。
ワイン樽の研究を主にされている方で、ウイスキー樽にも共通する知見を、化学者の立場から分かりやすく説明してくれました。

スコッチ・オーク・プログラムを主導しているオークの専門家

次に、スコッチ・オーク・プログラムを主導している Gregg Glass氏 (Whyte & Mackay)が登壇されました。
このプログラムでは、スコットランドに樽の原料となるオークを植林し、より地域に根付いたウイスキー生産を目指しています。一方、湿潤なスコットランドでは、木材の乾燥など多くの課題があることも事実です。そこで述べていたのが、 “working with right partners is a key”―1か国では難しいことも、適切なパートナーとならば成し遂げられる気候・技術・経済状況などが異なる世界各国が、お互いの強みを活かす形で協力できれば、より新しく、責任あるウイスキー生産が実現できるのです。

この、AS LOCAL AS POSSIBLEー可能な限り地元資源を利用することの重要性は、3日間のフォーラムを通じて繰り返し強調されてきました。環境意識の高い若者、欧米の消費者は、地元の資源を使ったウイスキーを求める傾向にあります。これは、輸出入のエネルギーを節約するだけでなく、クリエイティブなウイスキー造りの源となるという強い意識が感じられました。

オークの専門家、Gregg Glass氏

出典: https://whiskymag.com/story/whyte-mackay-expands-scottish-oak-programme

生物学者による原料問題

最後のスピーカーは、Scotch Whisky Research Institute所属の生物学者James Brosnan氏

気候変動という外的要因が大麦生産に与える影響や、耐久性の高い品種を開発するに必要なことなど、スコッチウイスキーの重要な原料である大麦についての研究報告と、課題についてお話下さいました。今後ますます環境規制が厳しくなると予想されます。何か言われてから相手のルールで取組むのではなく、事前に手を打つことの重要性についても述べられていました。ウイスキーを造るためには、膨大な資源が必要となります。費やされる貴重な資源に見合う価値を創造するために、我々が見せるべき姿勢について考えさせられました。

セッション②「サステイナブルな蒸溜所建築と、サステイナブルな生産がもたらす資金面でのメリット」

セッション②では、ヨーロッパの4つの蒸溜所が、それぞれにとってのサステイナビリティとは何か、その資金調達の方法について紹介していました。

ノックニーアン蒸溜所

最初の登壇者は、ノックニーアン蒸溜所のAnnabel Thomas氏です。

ロンドンで経営戦略のコンサルタントとして働いていた経歴をもつ彼女は、2017年に新しく設立されたノックニーアン蒸溜所でも、その手腕を発揮しています。
サステイナビリティを数値化することで、水資源の保存活用、完全循環型経済、生物多様性を目指した漸進的な取組み―炭素排出・廃棄ゼロ、100%スコットランド産のオーガニック大麦の使用、100%リサイクルのボトルなど―が紹介されました。地球、人、社会にも優しいビジネスを行うことでCSR遵守を徹底し、投資家や消費者からの注目を集めることに成功した事例と言えるでしょう。

ノックニーアン蒸溜所の様子

アデルフィー蒸溜所

続いての登壇者は、アデルフィー蒸溜所のAlex Bruce氏
元々、小規模の独立系ボトラーとして働いていたというBruce氏。供給を他の蒸溜所に左右されてしまうボトリング業に課題を感じ、自分の手で蒸溜所を設立することを決心したそうです。
当時、スコットランドの人里離れた集落では、過疎化が深刻だったと語ります。Bruce氏は、「人と場所の持続可能性」を追及すべく、良質な水源・広大な土地を保有する集落ではなく、あえて挑戦的な土地を選んで蒸溜所を構えました。
アデルフィー蒸溜所は、地元への貢献に強い信念をみせています。中でも画期的なのは、信託銀行へ樽を販売し、地元の子供たちの手へわたるようにした後、子供たちが成人したタイミングで蒸溜所が樽を買い戻すという仕組みです。樽の保有を通じて、子どもたちが蒸留への知識と経営的な視野を身に着けることを目指しており、地域の活性化に貢献しています。

環境保護としては、節炭器を通じたエネルギー効率化や資源の地産地消を紹介していただきました。経営から社会を変えていこうとするアデルフィー蒸溜所の姿勢は、地域との関りが密接なウイスキー業界に新たな刺激を与えています。

アデルフィー蒸溜所

出典:https://www.adelphidistillery.com/

アジテイター蒸溜所

3番目は、ウイスキー業界の異端児、スウェーデンのアジテイター蒸溜所からオスカー・ブルーノ氏が登壇されました。スウェーデン語のアジテイターは、Rebellion―反抗、反乱―を意味します。その名の通り、ウイスキー界の常識を覆すような斬新さが特徴的です。
彼らの信念は、アジテイターのマニュフェストにも表れています。

What if you could make whisky taste better.
With the right mix of experiment and bold approach, we believe it’s possible.
Our whisky is distilled under vacuum to enhance the flavor, a technique used by few other malt whisky distilleries.
When it comes to ingredients and aging methods, we focus on taste rather than tradition.
We hope you’ll join us as we agitate for a different way to make whisky. Taking a new approach.Asking ourselves: What if?
もし、ウイスキーをもっと美味しくすることができるとしたら
実験と大胆なアプローチの適切な組み合わせが、それを可能にすると信じている
 私たちのウイスキーは、他ではほとんど使われていない、真空蒸溜によって風味を高めることが可能である
原料や熟成方法に関しても、伝統よりも味に重きを置く
私たちは、ウイスキー造りの異なる、新しい方法を提案する私達は問い続ける「もし、こうだったら?」

真空蒸留(vacuum distirallation)とは、エネルギー効率を格段に高めるための蒸留方法のことです。美味しいウイスキーを追求し、伝統とは全く異なる蒸留方法・機材を試しているのが特徴的です。(醸成時に高圧力をかける、原材料に使う麦芽を変える、発酵日数を長めにとるなど、様々な方法が紹介されていました)

その分、関係する学術論文の読み込みや情報収集にも余念がありません。
ウイスキーとは何かという、哲学的な問いからはじめるほど、強いこだわりが伝わってきました。自分たちの言葉に対する責任を感じさせるような、知見収集や試行を重ねる向上的な姿勢が印象的です。消費者からの高評価は、彼らの唯一無二で独創的なウイスキー造りによるものでしょう。

Distillery manager Oskar Bruno, Photo © Lars Ragnå

出典:https://distilling.com/distillermagazine/high-tech-agitator-distillery-goes-after-fast-maturing-whiskey/

ストーククラブウイスキー(スプリーウッド ディスティラーズ)

最後に、ストーククラブウイスキー(スプリーウッド ディスティラーズ)より、Bastian Heuser氏が登壇されました。ドイツにあるこの蒸溜所では、カーボンフットプリント削減、地元から主原料を調達、再生可能エネルギーの導入など、環境に配慮した取り組みを幅広く行っています。

特に印象的だったのは、自身のためではなく周囲(消費者、サプライヤー、従業員)のために持続可能な経営を考えているという発言です。サステイナビリティを前面に押し出すというよりも、経営の一部として環境に配慮した取り組みを心がけているように感じられました。

実際に、カーボンフットプリント削減することで300.000の投資が受けられたといいます。環境への姿勢がそのまま銀行や投資家の評価に現れる今、周りの人々のため、社会のために、ウイスキー蒸溜所が向き合うべき課題について、重要な視点を与えてくれました。

ストーククラブウイスキー

出典:https://www.distillery.news/places/germany/brandenburg/schlepzig/distilleries/spreewood-distillers/

セッション③「消費者とのコミュニケーション」

セッションでは、サステイナビリティを巡る消費者とのコミュニケーションについて、議論が行われました。

マーケティング視点から見るウイスキー市場

1人目の登壇者は、Content Coms社からJoanna Watchman氏です。

ウイスキーに限らず、サステイナビリティに関するマーケティング戦略を専門とする方で、若者の認識がいかに変容しているか、マーケティングチームの重要性についてお話してくれました。また、透明性を高めていくことで、グリーンウォッシュを防止する必要性も述べられていました。これもまた、1社や1か国では出来ないことであるため、持続可能なウイスキー生産という同じ方向を向いた、横断的な協力関係が求められます。

セクション③を聞いている来場された方々

ビジネスモデルの必要性

続いて、ダルモア蒸溜所のKieran Healey-Ryder氏です。サステイナビリティの観点から商品が評価されることが増えていく中、ビジネスモデルとしてレジリエンスを高めていく必要性について述べられていました。
特に印象的だったのは、サステイナビリティを考える際には「人」の要素が欠かせないということです。技術だけではなく十分なコミュニケーションがあってこそ、目標や満足のいくウイスキー造りを行うことができます。そのためには、行っている取組みを、共通言語であるSDGsに繋げて発信することが重要となります。同時に、スピリッツに対して現在課されている税金の状況他の酒類と比較し、不当に高額であることについても説明し、政府との対話を進める必要性についてもお話されていました。ウイスキーを単なるボトルではなく、その背景にあるストーリーを含めて魅力を発信することが重要です。

ダルモア蒸溜所の風景

斬新な視点

最後に、Mr LyanからRyan Chetiyawardana氏が登壇されました。バーテンダーとして、経営者として、イギリスを中心にビジネスを展開するhetiyawardana氏。これまでのフォーラムの内容を踏まえた上での、斬新な視点をもたらします。造り手と飲み手をつなぐ、繋ぎ手としてのバーテンダーの役割についてお話されていました。飲み手を教育し、理解を深めてもらうことも必要だと考えています。今後、サステイナブルかつ生産者・消費者の両方が納得するウイスキー生産を実現できるかを考えるうえで、繋ぎ手が果たす役割は大きいと考えられます。

Ryan Chetiyawardana氏

出典:https://www.forbes.com/sites/karlaalindahao/2019/08/22/ryan-chetiyawardana-brings-lyaness-to-new-york-city-at-priceless-mastercard-2019/?sh=42a5199361ea

まとめ

以上、WWFのイベントレポートでした!
ヨーロッパでは、持続可能な取り組みというものは、既に当たり前、新たな社会の常識になっています。その場所で造る意味を問い直し、ローカルな原料を使用することへの強いこだわりが感じられました。技術面、マーケティング面において、環境保護に向けた蒸溜所の取り組みを可能にし、正しく消費者へ伝えるためには、世界各国の横断的な協力が必要不可欠です。パンデミックの影響もあるのでしょうが、フォーラムを通じて、やはり日本・アジアの存在感の低さを感じずにはいられませんでした。

次回は日本で第5回 WWFが開催されるそうなので、軽井沢ウイスキーに世界的な注目が集まる今、ジャパニーズウイスキー全体の魅力を世界に向けて発信していく必要があるでしょう。

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