【現地レポート】焼酎の技術と樽を活かしたウイスキーを造る嘉之助蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
壮大な自然と、それに長年寄り添って築き上げてきた歴史のある文化。その2つが共存することで有名な、イギリスの湖水地方にあるレイクス蒸留所は、蒸留所自体もまさにその文化が反映された、美しい石造りの建物を改装したものです。
そのような美しく歴史のあるレイクス蒸留所は、東京で行われたTWSC(東京ウイスキー&スピリッツコンペティション:世界各国のウイスキーを審査する、日本で唯一の品評会)にて、ベストディスティラリー賞というタイトルを受賞されました!
そこで今回は、マッカラン蒸溜所で活躍したのちにレイクス蒸留所のウイスキーメーカーとしてウイスキー造りに励むサラ・バージェスさんに、取材をさせていただきました!
全2弾構成となるうちの第1弾では、レイクス蒸留所の歴史や環境、そしてサラさん自身にとってのウイスキーへの想いなどをお伺いさせていただきましたので、どうぞお楽しみください!
ナイジェル・J・ミルズさんと、Isle of Arran Distillery(アイルオブアラン蒸溜所)も父親と共に創設したポール・カリー さんが、共同で創設しました。 レイクス蒸留所が位置している、イギリスの湖水地方は、自然と文化が讃えられ、UNESCO にも登録されています。
また、レイクス蒸留所のウイスキーは世界的にも称賛を得ていて、World Whiskies Awards (ワールドウイスキーアワード)2022 The World’s Best Single Malt Whisky(世界一のシングルモルトウイスキー賞)、 最近ではTWSC (東京ウイスキー&スピリッツコンペティション 2023 the Best Distillery of the World(世界一の蒸溜所賞)、 そして ISC (インターナショナルスピリッツチャレンジ) 2023 金賞なども受賞しています。
蒸溜所 | the Lakes Distillery レイクス蒸留所 |
創設年 | 2011年 |
管理会社 | The Lakes Distillery Company plc レイクス蒸留所公開有限会社 |
公式HP | https://lakesdistillery.com/ |
現在のレイクス蒸留所のチーフウイスキーメーカー。21年間Diageo(ディアジオ)という飲料会社で働いていた間、Glenkinchie(グレンキンチー蒸溜所)と Clynelish (クライネリッシュ蒸溜所)を担当したのち、2017年にMacallan(マッカラン蒸溜所) にて、チーフウイスキーメーカーを務めました。また、クリエイティブディレクターとして、クライゲラキーホテルの元、Craigellachie Collection(クライゲラキーコレクション) を制作しました。
Dear WHISKY:
「レイクス蒸留所」の名前の由来はなんですか?
サラさん:
「The English Lake District(湖水地方)」という場所が名前の由来になっています。創設者であるポール・カリーさんは、スコッチウイスキー業界で長年働いた後、新しい蒸留所を建設したいと思っていました。イギリスの湖水地方は、ポールさんの家族がいつも休暇を過ごす場所であったので、そのご縁のある湖水地方で蒸留所の場所を探し始めました。
Dear WHISKY:
創設者ポールさんにゆかりのある地なのですね!
サラさん:
そうですね!そこでポールさんは共同創設者であるナイジェル・J・ミルズさんに出会い、二人で一緒にレイクス蒸留所を設立しました。そのため、湖水地方という場所は、レイクス蒸留所にとって、とても大切で思い入れのある場所であり、名前もその地域にある蒸留所という意味を込めています。
Dear WHISKY:
湖水地方の中でも酪農場に蒸留所を建設したのは何故ですか?
サラさん:
酪農場では、牛や他の家畜のために、綺麗な水源が必要です。レイクス蒸留所である元酪農場の横には、ダーウェント川という綺麗な水源があるため最適でした。また、大きな車や設備などが行き来できるような大きなスペースもあったことも理由の一つです。
Dear WHISKY:
想いと環境が合った蒸留所なのですね!そのような素晴らしい蒸留所の建設の際に苦労などはありましたか?
サラさん:
酪農場の建物を残したまま蒸留所に建て替えたため、費用が通常より大幅にかかってしまったことが大変でした。蒸溜所を建てる一番簡単な方法は、機械や設備などを集め、最適な配置を決め、それに合う建物を作ることだと思いますが、私たちは既存の建物を残したまま、蒸留所に建て替えました。
しかし、私たちはレイクス蒸留所の建物はもちろん、酪農場としての長い歴史や文化も大切に残していきたいという想いがあったため、この苦労は無駄ではなく必要不可欠だったと思います!
Dear WHISKY:
湖水地方という場所はレイクス蒸留所にどのような影響を与えていますか?
サラさん:
蒸留所やウイスキーのコンセプトに大きい影響を与えていると思います。酪農場の建物は、至る所に歴史を感じられる装飾があり、特にQuatrefoil(四つ葉の飾り)が多くあります。先ほど説明した通り、このQuatrefoilは湖水地方の文化で大切にされているマークであり、酪農場からレイクス蒸留所に改築したときも、その装飾は全て残されました。そして、Quatrefoilはレイクス蒸留所のウイスキーボトルの底の形でもあります。
Dear WHISKY:
Quatrefoilはレイクス蒸留所の信条に大切そうに感じられますが、どのようにそのマークは運営に反映されているのですか?
サラさん:
Quatrefoilは、湖水地方の文化で重要なマークであり、「信仰」「希望」「運」「愛」という想いを表しています。
レイクス蒸留所の設立や運営において、ポールさんやナイジェルさんの前には多くの困難が待ち受けていました。しかしそのような中でも、2人は自分たちのやり方を「信じ」、「希望」を持ち続けることで素晴らしい蒸留所となりました。そして「運」は、レイクス蒸留所を通して出会えた方々との出会いです。いま日本で皆さんにお会いしていることもまた偶然の積み重ねによる運ですね!
最後に「愛」は、ウイスキーそのものです。ボトルの蓋を開けて、同じ味わいを世界中の皆でシェアすることで愛を分かち合うことが出来ます!
Dear WHISKY:
他にも大切な想いとして、 “Artistic Ethos”(芸術精神)という言葉がありますが、これにはどのような想いが込められていますか?
サラさん:
ウイスキー造りにおいて、クリエイティビティや創造力が大切だという想いです。私が出演した「The Amber Light」という映画は、デイビットブルームというウイスキーについて書くライターが作ったのですが、その映画の中でもこの話をしました。
ウイスキー造りはただ単にウイスキーを造っているわけではなく、芸術作品のように感じることがあります。絵画が様々な色や風景を混ぜれば綺麗になるという訳では無いのと同じく、ウイスキーも味や匂いの丁度良い組み合わせを創造力を持って考えなくてはいけません。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りは芸術なのですね!そのような創造力はどのように生まれますか?
サラさん:
頭を空っぽにすることで創造力が生まれます。頭を空っぽにするためにも、散歩をして自然を体感したり、芸術に触れたりしています。
また、スコットランドからレイクス蒸留所まで移動に5時間かかるのですが、その時間も考えをすっきりさせるのに活用しています。
Dear WHISKY:
芸術の中で音楽はサラさんのウイスキー造りにおいてどのような影響を与えていますか?
サラさん:
様々な影響を与えていますが、場面や状況によっても異なります。例えば、ウイスキーを造る際にウイスキーの香りを鼻だけではなく、耳も澄まして聴きたいので、音楽などは聴かず静かな環境で行います。
しかし、音楽を聴きながらウイスキーを嗜むことで、音楽に合ったウイスキーを造りたいと思いにふけることもあります。
Dear WHISKY:
絵画ではウイスキー造りにどのような影響を与えますか?
サラさん:
実を言うと私は、絵画から閃きや影響を受ける事が多いです!昔マッカラン蒸溜所にいた際に、絵画の大事な要素である色に関わるプロジェクトに参画させていただいたことがありました。Pantone Colour Institute(パントン・カラー研究所:色のコンサルティングサービスも提供している機構)と組んで、マッカラン蒸溜所特有の色を作りましたが、ウイスキーと「絵画」や「色」は非常に密接だなと感じました。
Dear WHISKY:
レイクス蒸留所でも、絵画などの芸術が関わるプロジェクトを行いたいと思いますか?
サラさん:
レイクス蒸留所は既に芸術的要素を取り入れていると思いますので、そのようなプロジェクトには非常に興味があります。実際にレイクス蒸留所のラベルはとても華やかです。例えば、新しい「The Whiskymaker’s Edition」というコレクションの「Iris (アイリス) 」は、華やかで明るいラベルが施されています。
これから、より多くのアーティストを見つけつつ繋がりを深め、レイクス蒸留所のラベル製作に協力いただける方が増えると良いなと思います!私とそのアーティストで共に創造力を高め、ウイスキー造りに活かしていくのが理想です!
Dear WHISKY:
ちなみに、レイクス蒸留所についてはどのような経緯で知ったのですか?
サラさん:
実はレイクス蒸留所に知り合いがいたわけではなく、営業部長のカースティーから直接連絡が来たのがきっかけです。
当初私としては、単純に製造について教えて欲しいということだけかと思って気軽な気持ちでした。しかし実は、レイクス蒸留所で一緒に働こうというお誘いでした!
今となってはこの勘違いも笑い話で良い想い出です。カースティーと交流を深めレイクス蒸留所の想いなどに共感し実際に働くことを決めました。
その理由としては、レイクス蒸留所で働くことによって、スコッチウイスキーに左右されずに自由に自分の創造力を活かせると感じたからです。そして、きっとその先に新しい製造方法への挑戦などまだ見ぬ世界へ行くことが理想だったので、働くことを決めました。
Dear WHISKY:
レイクス蒸留所で働くことになったのは、ちょうどコロナ禍でしたが、大変だったことなどはありますか?
サラさん:
もちろん大変な面は多かったのですが、私としては悪い面よりもむしろ在宅での勤務が可能になったという良かった面が大きいです。
私がスコットランドに住み続けながらイギリスにあるレイクス蒸留所で働けるのは、在宅が可能だからです。現在は1か月のうち3週間は在宅で働き、残りの1週間はレイクス蒸留所にて実際にウイスキー造りを行っています。
Dear WHISKY:
ウイスキーメーカーの仕事の魅力何ですか?
サラさん:
魅力はもちろん、 自由に自分のクリエイティビティを活かせることです。自分が思うような味、香りなどを美しいウイスキーに造り変えることはとても楽しいと感じます。
Dear WHISKY:
では、ウイスキーメーカーの仕事の苦労は何ですか?
サラさん:
魅力の反面、 そのウイスキーがお客様に受けなかったときのことを考えてしまうときもあり、プレッシャー、恐れを感じてしまいます。 自分のウイスキーを子供のように思っているので、その子供たちのことを批判されるのは辛い時もあります。それでも、自分の創造力を活かして自由に作れる楽しさの方が苦労よりも大きいです!
Dear WHISKY:
数々の苦労を乗り越えられるのは何故ですか?
サラさん:
いつも、「今の自分よりも更に上に行ける」と自分を奮い立たせているからです。今日よりも明日、明日よりも明後日というように何度も挑戦することは大切だと思います。また、「楽しみ飽きないこと」によってもずっと続けられると思います。レイクス蒸留所のエレヴァージュは、知らないことが多くてとても面白いので、この仕事に飽きるということは無く常に新鮮ですね!
Dear WHISKY:
サラさんにとってのウイスキーの魅力を教えてください!
サラさん:
ウイスキーには多様性があり、それが大きな魅力の一つだと思います。ウイスキーには本当に色々な飲み方や味があるのです。
ウイスキーを凍らせることもできるのですよ!ウイスキーが嫌いだと言っていた人でもこの凍らせたウイスキーはとても好まれて、みなさん飲んだ後にそれがウイスキーだと知って、驚いていました。それを見て、わたしもあなたもウイスキー好きじゃないか!と、とても嬉しくなって、多様性を活かして人それぞれの好きな形にし、ウイスキーが嫌いだと言っていた人たちを驚かせるのはとても楽しいと思えます。
Dear WHISKY:
サラさんはいつもどのようにウイスキーを飲まれているのですか?
サラさん:
スコットランドの気候はとても寒いのですが、そういう寒い環境では、わたしはウイスキートニックなどの長く飲めるドリンクを、ピートが効いたウイスキーやシェリー樽のウイスキーなどで飲みます。
Dear WHISKY:
サラさんにとって理想的なウイスキーの味とはどのようなものですか?
サラさん:
バランスが整ったウイスキーが理想的な味だと思います。ピートが効いたもの、効いていない軽いものなどいろいろありますが、そのウイスキーの後味、香りなど色々な要素がバランスよく揃っていることが理想です!
第一弾では、レイクス蒸留所の歴史や理念、そしてサラさんご自身の秘める想いをお伺いしました!
第2弾では、レイクス蒸留所のウイスキー造りや、ウイスキーコレクション、そして世界市場への繋がりなどについて紹介します!地方営業担当マネージャーのクレアさんも登場しますので、ぜひお楽しみに!