
【国内蒸溜所向け特別イベント】2025年4月28日開催:英国クーパレッジ特別セミナー&熟成用空き樽即売会
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ラフロイグは、個性豊かなウイスキーの代名詞とも言える存在です。スコッチウイスキーの中でも、特に好き嫌いが分かれると言われるアイラモルトの代表格であり、その圧倒的な個性で知られています。
「スモーキー」という表現だけでは語り尽くせない独特な味わいは、世界中のファンに愛され続けており、ウイスキー愛好家の聖地アイラ島でもとりわけ多くの訪問者を誇る蒸溜所です。
本記事では、実際にラフロイグ蒸溜所を訪問し、ラフロイグウイスキーづくりの魅力や、熟成庫内でのテイスティングの様子をお届けします。ぜひ最後までご覧ください!
(2024年3月取材)
ラフロイグ蒸溜所は、1815年に創業されたアイラ島南部の老舗蒸溜所です。アイラ島内で2番目のウイスキー生産量を誇り、シングルモルト販売量では堂々の島内1位を記録しています。
「惚れ込むか、大嫌いになるかのどちらか」と評される強烈な個性は、世界中のファンを魅了し続けるラフロイグの特徴です。アイラ島のスモーキーなウイスキーを象徴する存在であり、チャールズ国王の皇太子時代に英国王室御用達を授与された初めての蒸溜所としても名高い歴史をもっています。
蒸溜所名 | ラフロイグ蒸溜所 |
創設者 | ドナルド・ジョンストン、アレクサンダー・ジョンストン |
住所 |
Laphroaig, Isle of Islay, PA42 7DU
|
創業 | 1815年 |
公式HP |
ラフロイグ蒸溜所公式HP |
公式SNS |
Instagram:@laphroaig |
アイラ島南部に位置するラフロイグ蒸溜所は、島内最大の村ボウモアから車で20分、アイラ空港からも車で15分と、アクセスの良い場所にあります。
ラフロイグ蒸溜所に向かうまでの道中にはピート畑が広がっており、到着すると美しい海を望む最高のロケーションが迎えてくれます。
ラフロイグ蒸溜所の入り口の門をくぐり、足を進めていくと、目の前にロッホ・ラフロイグ(ラフロイグ湾)が広がります。
蒸溜所の裏に広がるラフロイグ湾
「ラフロイグ」という名前は、ゲール語で「広い入江の美しい窪地」を意味し、まさにその名を冠するにふさわしい風景が訪れる人々を出迎えます。潮風と共に、製造が行われている建物からは香ばしいピートの香りが流れてきており、蒸溜所建物内へ入る前から心が躍ります。
ディスティラリーショップの看板
建物に入ってすぐのディスティラリーショップを抜けて奥へと進むと、ラフロイグ蒸溜所の歴史を紐解く資料館が併設されています。ここでは、創業者一族にまつわるエピソードや蒸溜所の歩んできた歴史を深く知ることができます。
蒸溜所の歴史上、重要な人々の紹介パネル
現在、スコッチ蒸溜所151か所中、自社でフロアモルティングを行うのは8か所のみ
ラフロイグ蒸溜所は、精麦の工程において、現在でも伝統的な「フロアモルティング」と呼ばれる製法を採用している数少ないスコッチ蒸溜所です。効率化された近年のモルティングに比べ生産効率が低く重労働なため、他の蒸溜所では使用されることが少なくなってきました。
ラフロイグ蒸溜所では、1800年代から変わらず自社でのフロアモルティングを行い、稀有な味わいと風味を生み出しています。
発芽が始まっている大麦
現在は製造に使用するモルトの20%ほどを自社製造のモルトで賄っており、ラフロイグの味わいの根幹を担う重要な要素となっています。
フロアモルティングの工程だけで6~7日間を要するという手間のかかるプロセスですが、歴史ある伝統的な製法を守り続けています。
フロアモルティングにおいて、浸水させた大麦を発芽させるために広げておく場所をモルティングフロアと言います。この大麦を床一面に広げる様子から、「フロア(床)」モルティングという名がつけられました。この作業では、スコップや特殊な器具を使って大麦をかき混ぜながら、発芽状態になるのを待ちます。
フロア内の温度調節は窓の開閉によって行われますが、窓から入り込む潮風さえも、ラフロイグの味わいを形作るとされています。
窓に加え、外気を取り込むファンも備えている
床に敷かれた麦芽に手を入れると、ほんのりと温かく湿っていました。これは、発芽の際に大麦が発熱する現象が重なり合い、モルティングの層全体を温かく保っているためです。フロアモルティングはとても繊細な製法であり、下階の室温などの影響を強く受けやすいため、モルティングフロアの下にあるショップやバーでは真冬でも暖房を使用できないことが多いそうです。
大麦に刺さっていたり天井から吊り下がっていたりする温度計から、温度管理の重要性が感じられる
ラフロイグ蒸溜所では、現在2つのフロアを使用しており、1週間で20トン以上もの大麦をモルティングしています。
発芽が均等に進んでいることが確認されると、麦芽はキルンへと移されます。特徴的な屋根を持つキルンは、伝統的なスコッチ蒸溜所の象徴として古くから知られる設備で、湿った麦芽を乾燥させるために使用されます。
ラフロイグ蒸溜所では、一度の乾燥工程で7トンの大麦を使用し、12〜14時間かけてゆっくりと乾燥させていきます。
中央に見える、背の高い特徴的な屋根の建物がキルン
ラフロイグのスモーキーな香りは、このキルンでの乾燥工程において、熱源としてピート(泥炭)を使用することで生まれます。
キルン内部に入ってみると、まだほのかに暖かく、ピートと香ばしい麦芽の香りが漂っていました。ツアーガイドの方に勧められて麦芽を口にしてみると、とてもスモーキーでありながら甘さも感じられる、芳醇な味わいがしました。
キルン内部。床が網目状になっており、ピートの煙が通る
キルンの天井を見上げると、屋根や柱に黒い塊が付着しているのが見えます。これらは繰り返し使用されることで、ピートの煙が何層にも積み重なり凝固したものだそうです。一年に一度、掃除と壁の塗り直しが行われますが、新しく塗られた壁が見えるのはほんの一瞬で、すぐに再びピートの煙が付着していくとのことです。
キルンの天井部分
ラフロイグ蒸溜所では、他の蒸溜所やモルトスターとは異なり、湿った状態の麦芽をピートの煙にさらすことで、特有の濃密な香りと後味を実現しています。
モルトが詰められたキルン内部
ラフロイグ蒸溜所で使用されるピートは、アイラ空港周辺で採掘されています。このピートは海藻や苔を多く含む稀少なもので、塩っぽく薬を思わせる独特の味わいや香りを演出します。かつては「ラフロイグピート畑」として大きな看板と共に宣伝されていましたが、観光客によるいたずらが増えたため、現在では採掘場所は非公開となっています。
一年に一度、約250トンものピートが採掘され、一日の乾燥工程では500キロ以上のピートが使用されるそうです。
繊維質でさまざまな植物などを含んだピート
ピートの採掘は以前は全て手作業で行われ、特殊な刃がついたスコップを使って一つ一つ切り取っていたそうですが、近年では効率化が進み機械化されています。その結果、ピートは従来のブロック状ではなく、粉状に近い形で採掘されることが増えました。ピートが細かいことで釜内で炎が大きくなりすぎず、結果的に乾燥プロセスをゆっくりと進めるのに役立っています。
ピート採掘所にて、手作業でピートを採掘する様子
ピートが少し水分を含んでいる方が煙が立ちやすく使いやすいため、ラフロイグ蒸溜所では麦芽の乾燥に湿ったピートを使用しています。アイラウイスキーの中でも特にスモーキーで個性の強いラフロイグ。その秘密を探るために世界中からファンが訪れますが、このキルンとピートのエリアは一番人気のスポットとなっています。
釜の周りに積み上げられていたピート
キルン内の熱源となるピート釜は、麦芽を設置する床から約17メートル下に位置しています。
麦芽から距離があることで煙が冷えるため、程よい温度でゆっくりと香りを麦芽に移すことができるそうです。
ピート釜内部から上を見上げた様子
蒸溜所でスタッフが最も煙たがる仕事の一つが、ピート釜内の清掃作業だそうです。灰を取り除いて詰まりを防ぐこの作業は、小さな釜の中に体を入れて真っ黒な埃まみれになりながら行わなければならないもので、ほぼ毎日繰り返される非常に大変な業務です。
釜からは香ばしいピートの香りがします
ピート釜の隣にある裏口から外に出ると、目の前には海が広がっていました。
左手には真っ白な壁に大きな文字で”LAPHROAIG”と書かれた熟成庫があり、ウイスキーファンの間では有名なフォトスポットとなっています。
潮の香りを含んだ強い風が感じられ、改めてアイラ島の熟成環境の特殊さに驚かされました。
海岸からわずか数メートルの位置にある熟成庫
ラフロイグ(広い入江の美しい窪地)の名前の由来となった美しい入江を前にすると、その昔沖合から見ていた船乗りがそのように呼び始めた理由が納得できます。
この入り込んだ湾の形状により、道路からは蒸溜所がちょうど隠れて見えなくなっています。1815年の創業当初、蒸溜所に対する規制が依然として厳しかったため、このロケーションの目立たなさが決め手となり、設立場所に選ばれたと言われています。
天気には恵まれたが、風はとても強く、潮の香りが漂っていた
ラフロイグ蒸溜所では、ポーティアス社製の一般的なミルを使用し、粉砕比率は伝統的なハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1に近い比率で行われています。
ポーティアス社製のミル
蒸溜所外の地面には金属の扉のようなものが設置され、その周りにはモルトが散乱していました。これはモルトの搬入口で、トラックで運ばれてきた麦芽はこの扉からつながるパイプを通り、粉砕工程の部屋まで直接送られます。
一帯に散らばっていたモルト
続いては糖化工程です。蒸溜所には、2つのスタンダードな5.5トンのマッシュタンと、8.5トン容量の大型マッシュタンが備えられています。一度の糖化工程は約4〜5時間かかり、3回お湯を注ぎ入れ、3度目のお湯は次のマッシュに回すというスコットランドの伝統的な製法を採用しています。この方法で、麦芽が生み出した糖分を余すことなく利用することができます。
容量8.5トンの巨大マッシュタン
基本的には、1日2回のマッシングが毎日行われ、シフト交代制で途切れることなく製造が進められています。
マッシュタン内部、マッシュが注ぎ込まれている様子
この際に使用される水は、ラフロイグ蒸溜所から約500フィート(約150メートル)ほど登った場所にあるキルブライド貯水庫の水です。ピートをはじめ、さまざまな成分が溶け込んだこの水が、ラフロイグの味わいの根幹を支えているそうです。
ラフロイグ蒸溜所には現在、8基のステンレス製ウォッシュバックがあります。かつては伝統的な木製の大きなウォッシュバックを使用していましたが、1980年代頃から生産効率を重視し、ステンレス製に切り替えられました。
蒸溜所内の至る所にある説明パネル
ラフロイグ蒸溜所では、伝統的には発酵時間を55時間として製造を行っていましたが、近年ウォッシュバックを2基増設し、現在は8基体制となりました。これにより、発酵時間を70時間に延長することが可能になり、ラフロイグが目指していた少し酸味の強いウォッシュを安定して製造できるようになりました。
酸味と甘みを感じられる力強い香りがするウォッシュ
発酵時間を20時間近く延長することは生産量の低下に直結するため、以前の設備数では困難でしたが、増設によって延長が可能となり理想の味わいに一歩近づくことができたそうです。
手前側、大きな3つがウォッシュスチル
ラフロイグ蒸溜所は、奇数の7基のスチルを備えており、その内訳はウォッシュスチルが3基、スピリットスチルが4基です。
ウォッシュスチルはストレート型、スピリットスチルはランタン型で、アイラ島の他の蒸溜所に比べると小ぶりなものが多いのが特徴です。
特に注目すべきはラインアームの角度で、長く高いアームをゆっくりと昇っていく蒸留工程が、クリアでライトな酒質を実現しています。
4,700リッター容量のスピリットスチルが3基
初留ではアルコール度数が25~35%程度まで引き上げられ、ローワインタンクに移された後に再留に進みます。ラフロイグの蒸留プロセスで最も特徴的なのが、この再留の際のカットポイントです。
再留の初回カットは、蒸留開始から45分後に行われます。これはウイスキー業界でも一番遅いとされており、ラフロイグのスモーキーな香りを作り出す根幹を担っています。
この製法は、ピートを活かした煙っぽいウイスキーを作る蒸溜所でよく使われますが、ラフロイグ蒸溜所はその中でも特に強いこだわりを持ち、揺るぎない個性を追求しています。
蒸留工程でカットを行うスピリットセーフ
効率的とは言えないエネルギーを大量に消費する製法ですが、ラフロイグが目指す味を作り出すために必要不可欠なこだわりです。
1960年代より採用された、2倍容量のスピリットスチル(左)
ラフロイグ蒸溜所では、ニューメイクをアルコール度数約63.5度に加水した後、週に400〜500樽ほど樽詰めしています。
樽は大型トラックで週に2回運び込まれ、9割はバーボン樽に詰められますが、近年ではシェリー樽をはじめとする様々樽を使ってバリエーションを増やしているそうです。
フィリングルーム内は見学できず
バーボン樽のほとんどは、ラフロイグ蒸溜所を所有するサントリーグローバルスピリッツ傘下のジムビームやメーカーズマークの樽であることが多いそうです。
ゲートの奥には、大小様々な樽が眠っている
熟成庫No.1には40年分の樽が眠っており、その固く閉じられたゲートの先にはあらゆる樽が並んでいる様子が伺えました。
ラフロイグでは、定番の10年ものに加えて多くのリリースが行われており、熟成庫内の樽のラインナップがその豊かなバリエーションを物語っていました。
2015年、ラフロイグ蒸溜所設立200周年記念の樽も
まず初めにテイスティングしたのは、ラフロイグ蒸溜所のニューメイクです。70%でボトリングされており、シリアルなどの香ばしい香りが特徴的な、とても飲みやすいニューメイクでした。スプレーボトルに詰められていたので、手にもスプレーして擦り合わせ、その後香りを嗅いでみると、とても甘く軽やかで心地よい香りが広がりました。
テイスティング前には、ウイスキーを樽から自分の手でサンプリングさせていただいた
ここで試飲できる3種のウイスキーは、商品化される一般的なラフロイグとは一風変わった味わいを持ち合わせており、来訪者にとても好評だそうです。
左から、フィノカスク、バージンフレンチオークカスク、バーボンカスク
テイスティングの1つ目は、バーボンカスクで7年間熟成した比較的若いラフロイグです。メーカーズマークのファーストフィル樽を使用しています。若いこともあり、ピート感が強めですが、後味は柔らかく飲みやすいウイスキーでした。
ヨーロピアンオークとも呼ばれる木目がタイトな木材で作られた樽で熟成されたこちらのラフロイグは、年間のエンジェルズシェアが約2.5%と非常に少ない、珍しい樽です。さらに特筆すべき点は、樽の内側がチャーリングされていることです。
この処理により、煮詰めたフルーツジャムのような独特な甘さが、程よいスモーク感と相まって、定番のラフロイグらしさを感じさせない新しい味わいが楽しめます。
蒸溜所スタッフに非常に人気だったため、蒸溜所限定ボトルとして300本限定で販売されました。
シェリー樽の中でも特に珍しい、フィノシェリー樽を再度チャーリングした樽で熟成されたラフロイグは、他の二つと比べてさらに甘さが引き立つ、面白い味わいでした。
6年熟成と比較的短い熟成期間にもかかわらず、美しい赤みがかった色合いを呈し、今まで味わったことがないラフロイグの新しい顔を感じることができました。
以上、アイラモルトの王、ラフロイグ蒸溜所の訪問レポートをお届けしました!
世界中で愛されるその味わいの背後には、200年以上続く伝統を重んじ、時代のトレンドに流されることなく独自の進化を遂げ、こだわりを貫くラフロイグ蒸溜所の信念がありました。
アイラモルトウイスキーを代表する蒸溜所として、その味を守り続ける彼らの取り組みを知った後では、再びその味わいを楽しむ際にもきっと新たな発見があることでしょう。ラフロイグファンの皆様も苦手だった方々も、ぜひ再度その味をお楽しみください!