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【現地レポート】広大な自然の中に佇むニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所

2023.09.14 / 最終更新日:2023.11.25
宮城峡蒸溜所

宮城県と山形県の県境にほど近い、宮城県仙台市の作並(さくなみ)。
奥羽山脈に水源を持つ広瀬川と新川(にっかわ)の2つの清流に囲まれたこの地に、長年日本のウイスキーづくりに丁寧かつ誠実に向き合ってきたニッカウヰスキー株式会社仙台工場の宮城峡蒸溜所があります。
今回ニッカウヰスキーを支え続けている宮城峡蒸溜所に直接お伺いし、取材させていただきましたので、その様子をお送りします!
今回の取材では、宮城峡蒸溜所の現地レポートと宮城峡蒸溜所工場長の笹村さんにインタビューをさせていただきましたので、2部構成でお送りします!
現地レポートでは、ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所の施設や普段見学することの出来ない施設などをお伝えします!
蒸溜所見学の際には、宮城峡蒸溜所工場長笹村様、総務部長小島様にご案内していただきました。
普段見学できない場所やお話などもお伝えしていくので、ぜひ一緒に蒸溜所見学をする気持ちでご覧ください!

インタビュー編では、宮城峡蒸溜所や笹村さんのウイスキーづくりに対する想い、100周年を迎えるジャパニーズウイスキーに対してなどをお伺いしました!
インタビュー編もぜひご覧ください!

併せてお読みください!

 

ニッカウヰスキー株式会社宮城峡蒸溜所とは

ニッカウヰスキー株式会社宮城峡蒸溜所とは

1918年からスコットランドでウイスキーづくりを学んだニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝さんが、余市蒸溜所につづき、設立したのがこの宮城峡蒸溜所です。
竹鶴政孝さんは、余市蒸溜所と異なる環境の蒸溜所で生まれた複数の原酒をブレンドし、より味わい深く豊かなウイスキーをつくりたいと考えていました。そのために山形との県境に近い緑豊かな地であり、広瀬川と新川という2つの清流に囲まれた峡谷に位置する宮城峡に設立しました。

ニッカウヰスキー株式会社宮城峡蒸溜所概要

工場名 ニッカウヰスキー株式会社宮城峡蒸溜所
創業(生産開始) 1934年(宮城峡蒸溜所: 1969年)
本社所在地 宮城峡仙台市青葉区ニッカ1番地
蒸溜所HP https://www.nikka.com/distilleries/miyagikyo/

 

実際にニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所に行ってきました!

①ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所

作並駅から無料シャトルバス(金土日祝日運行)で約10分。広大な自然に囲まれた中にここ宮城峡蒸溜所はあります!
豊かな美しい木々と清流に囲まれた宮城峡蒸溜所の空気は非常に澄んでいます!
ちなみに作並駅と宮城峡蒸溜所の中間地点ほどに、以前は宮城峡蒸溜所に勤めていた方の寮があったそうです。

ニッカウヰスキー宮城峡蒸溜所入口

②ビジターセンター

ウイスキーの製法や種類、宮城峡蒸溜所の特徴からニッカウヰスキーの歴史までを、映像やパネル・展示物で紹介している場所です。蒸溜所見学はこのビジターセンターで受付を行いスタートします。

正面入り口

宮城峡蒸溜所にもニッカウヰスキーのロゴがありますが、このロゴをよく見るとNIKKAの文字周辺は市松模様、左右には狛犬、中央には山中鹿之助(幸盛の兜があります。これは、スコットランドの家紋を和風にしたロゴだそうです。

蒸溜所見学始まりの場所であるビジターセンター入口

中に入って最初に目に入るものは

中に入ると少し暗めの空間があります。正面向かって左手側(写真上)には、宮城峡のウイスキーを語る上でかかせない、4つのボトルが並べられています。そして反対の右手側(写真下)には、過去に余市蒸溜所で使用されていたポットスチルが展示されています。

宮城峡を語るうえでは外せない4つのボトル

余市蒸溜所のポットスチルの展示

そのまま奥に進むと上記の写真の中央に「シングルモルト宮城峡」がショーケースの中に保管されています。その奥には、ニッカウヰスキーの歴代のボトルが並べられ、さらにその奥の壁には宮城峡のロゴがあります。直線状にこの3つが並んでいる光景は圧巻です!

ショーケースに飾られている「シングルモルト宮城峡」

ウイスキーの製造過程や樽による違いを学ぶこともできる

ビジターセンターでウイスキーの製造工程を知ることで、蒸溜所見学がより一層楽しくなります。

ウイスキーの製造工程の流れを学ぶことも出来ます

また、熟成させる樽や期間による色の違いや、風味や香りの違いを示すものなど、ウイスキーの奥深さを知ることができます。

熟成させる樽や期間による色の違い

実物の樽も展示されていて、樽の種類だけではなくサイズまで多種多様だと学ぶことができます。

実際の樽も展示されています

ニッカウヰスキーの歴史を楽しむ

一番奥にはこれまでのニッカウヰスキーの歴史を体現するボトルの実物が並べられています。
第1号のニッカウヰスキーの商品やブラックニッカなどが誕生秘話と共に楽しむことができます。

これまでのニッカウヰスキーの歴史を体現するボトルの実物

 

また、ワールド・ウイスキー・アワード2019でワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキーを受賞した「竹鶴25年」など、歴代の様々なボトルを見ることができます。

ワールド・ベスト・ブレンデッドモルトウイスキーを受賞した「竹鶴25年」など

 

③キルン棟(乾燥棟)

キルン棟は工場が出来た当時からある建物で現在は使用されていませんが、特徴的な「パゴタ屋根」と風格のある佇まいは、蒸溜所のシンボルになっています。
キルン棟は、発芽した大麦を乾燥させるための場所です。ウイスキーの独特なピート香は、大麦を乾燥させるときにピートを燃料として使用することで、ピートを燃やしたときに出る煙の香りが大麦に染み込むことで香ります。
実際のピート(泥炭)を嗅がせていただいたのですが、燃やす前だと匂いは全くしませんでした!

キルン棟内にある実際のピート(泥炭) 

 

④蒸溜棟 / カフェ式連続式蒸溜(一般見学不可)

ここでは、トウモロコシを主原料にグレーンウイスキーをつくっています。
カフェ式連続式蒸溜機は昔から仙台工場にあったわけではなく、もともと兵庫県の西宮工場にあった蒸溜機ですが、のちに宮城峡へ移動したとのことです。蒸溜機が非常に大きいため5階建ての建物の下から上まであります。
魚のうろこのように続いている黄色のパイプに沿って蒸気が5階部分まで上がっていきながら蒸溜されます。最終的には受け口となる下のタンクなどに貯蔵されていきます!

魚のうろこのように続いている黄色のパイプを伝って蒸気が移動します

1960年代に導入した伝統的なカフェ式連続式蒸溜機は、原料由来の豊かな香味をもつなめらかな口当たりのウイスキーを生み出しています!
1号機は1963年に建てられたもので、2号機は1966年に建てられたものです。1号機をよく見ると1963年グラスゴーと記載されています。
このカフェ式連続式蒸溜機は1930年に発明されたものからほぼ変わらず昔ながらの製品を使用し続けています。

1963年グラスゴーのカフェ式連続式蒸溜機

このカフェ式連続式蒸溜機には丸形と角形がありますが、スコッチウイスキーのつくりを尊重していた竹鶴政孝さんは、スコッチウイスキーで伝統的な角形の蒸溜機で即決したそうです。丸形の方が洗浄や加工などしやすいからこそ主流ではあるが、あえて角形にすることによって角形でしか出ない特有の味わいがあるそうです。

ちなみに2023年度のニッカディスカバリーシリーズのニッカ ザ・グレーンやカフェグレーンなどにおいても、このカフェ式連続式蒸溜機から生まれたグレーンウイスキーをキーモルトとして使用しています。

 

⑤ミル棟

白い筒状のものがサイロと言われるもので、原料の麦芽を格納しているタンクになります。1本で200トンほどの麦芽を貯蔵できるサイロが18本あります。麦芽を粉砕して(これをミルという)粉々になった麦芽が写真中央のパイプを通って隣の仕込棟に移っていきます。
非常に量が多いこともあり、麦芽の搬入はタンクローリーなどを使い行っているとのことです。

原料の麦芽を格納しているタンク

⑥仕込棟

仕込棟では、糖化や発酵をしています!
ミル棟で粉砕された麦芽(グリスト)が先ほどのパイプを通ってこちらのマッシュタンに運ばれてきて糖化が行われます。
マッシュタンではグリストとお湯と一緒に混ぜ合わせられることででんぷんが糖に分解され甘い麦汁が生成されます。仕込みが終わったものを蒸溜するとウイスキーになりますが、蒸溜をせずホップを入れるとビールになります。そのため、ドイツ製のビール生産で使用しているものと同じマッシュタンを使用しています。

壁の色が一部違う部分があったのですが、そちらはマッシュタンを搬入する際に壁を壊して搬入した名残なんだそうです!

マッシュタン

その後糖化工程でできた麦汁を発酵槽で発酵させます。発酵槽では麦汁に酵母を加えることにより発酵が進み泡が立ちます。その後発酵が終わりに近づくにつれ泡が消えていきます。発酵が終わった液体をもろみといいます。

発酵樽

⑦蒸溜棟 / 単式蒸溜 

もろみをポットスチルと呼ばれる単式蒸溜器で2回蒸溜します。宮城峡蒸溜所のポットスチルは銅製でかつ蒸気を熱源とする間接加熱で、軽快で華やかなモルトウイスキーがつくられます。

※蒸溜棟には上部まで上がることは出来ませんが、下から見学することは可能です。

間接蒸溜方式を用いている宮城峡のポットスチル

間接蒸溜方式を用いている宮城峡のポットスチル

蒸溜していると泡が出やすいので、それを確認するための覗き窓やセンサーを設置しています。また、2回目の蒸溜(再溜)で使うポットスチルには覗き窓を設置されていないのですが、これは1回蒸溜をしたことで固形分が無くなり、泡が出にくいからとのことです。

ポットスチルの近くに下記写真のボックスがあったのですが、蒸溜中はボックス内を蒸溜液が流れていて、そこから蒸溜液を取り香りや味の確認を行っているとのことです。
また、ボックス内にある緑色はポットスチルに使われている銅の成分が酸化したものとのことです。
実際にボックスを開けていただいたのですが、ウイスキーのいい香りを感じました!

蒸溜液を取り香りや味の確認を行うためのボックス

下記写真の中で手前の4基は1969年ごろに、奥の4基は1975年に完成し、1976年に完成式を行いました。また手前と奥で段差があると思いますが、これは追加で建設した名残で、元々薄い壁があった場所を抜いて増築したためです。元々あったポットスチルより大きめなものを入れるために半地下のような形になりました。

宮城峡にある全8基のポットスチル

 

⑧貯蔵庫

蒸溜後のウイスキーは樽に詰められ、貯蔵庫で長い期間熟成させます。貯蔵庫では、樽の種類や熟成によるウイスキーの色や香味の変化が起きます。
各貯蔵庫は密集しておらず、間が空いているのは、万が一火事が発生したとしても延焼しないようにするためです。

 

⑨樽の製造工場

ニッカウヰスキー全体の製樽部門の主力なのが、この宮城峡の製樽工場です!
1つ1つ丁寧に職人の手によって手作りしています。この際に用いるトンカチは非常に重たいため、製樽部門に入りたての方々はまずは使うことになれることから始まるそうです!
そして最後には、チャーといって樽の内面を焼きます

1つ1つ丁寧に職人の手によって手作りしている様子

私も実際に持たせていただいたのですが、持つだけでも大変でこれを使って樽を作っている職人の方の強さを体感しました!
ちなみに全ての樽を焼いているのではなく、樽のタイプや入れる原酒の種類など様々な要素をブレンダーの方と相談したうえで決めているそうです。

樽の内面を焼く(チャー)工程の様子

⑩蒸溜所見学の道中にて

敷地内を走る車

ウイスキーは樽に入れて熟成されますが、樽は数十キロ~100キロ近いものまであるので、これを人の手で運ぶのは難しいです。そのため、この樽を運ぶための輸送車が敷地内を駆け巡っています。

敷地内を駆け巡る樽を運ぶための輸送車

あるはずのものがない宮城峡蒸溜所

蒸溜所の敷地内を歩いていると、当然のものが無いことに気付きました!
それは電柱や電線がないということです!竹鶴政孝さんが蒸溜所を建設する際に、自然や景観を大事にしたいという想いから、電線は全て地中に埋めたそうです。つくることはもちろんですが、風景を楽しむことも考えられた蒸溜所だと感じます。
ちなみに、蒸溜所内で建物が建っている位置に高低差があり、坂になっているのも同様の理由です。自然をそのまま残したいという想いから、蒸溜所全体を平坦にせず、元の地形を残したまま各建物をたてたとのことです。

あるはずの電柱や電線がない宮城峡

 

新川について

新川の水質とは

地元の人をはじめ多くの人々から新川(にっかわ)は親しまれています。
見学に行った日は雨が降っていたため水が少し濁っていますが、新川の水質はヤマメが住み着いているくらいに綺麗です。水質としては軟水の傾向にあります。さらに、新川と広瀬川の合流地点が近く異なる水温が交わるため、湿潤な気候になります。ウイスキーづくりに非常に良い環境です。
また、新川という名前はニッカウヰスキーとは関係なく、偶然同じ「にっか」が入っていたとのことです。

ヤマメが住み着いているくらいに綺麗な新川

宮城峡蒸溜所建設の決め手となった新川の水を使った水割り

竹鶴政孝さんが初めて宮城峡を訪れた時に、新川の清流でブラックニッカを割って飲み、味わいを確認してすぐに蒸溜所建設を決定したと言われています。そして、この蒸溜所内で使用する水は全て新川の水となっているため、宮城峡に訪れた方々も竹鶴さんと同じように水割りを楽しむことが可能です!

ブラックニッカとの水割りで宮城峡の決め手となった新川

蒸溜所竣工にまつわる秘話その① ~建設会社からのプレゼント~

蒸溜所を建設した建設会社から竣工記念に何が良いかと竹鶴さんに尋ねたところ、新川の片隅にあった大きな岩を池に移設してほしい、という希望があったようです。当時は20tクレーンしかなく、そのまま池に移動させるのは不可能でした。そこで、小さく割って、その一部を大変苦労して池に設置していただいたそうです。

プレゼントである新川に佇んでいる巨石の半分

蒸溜所竣工にまつわる秘話その② ~県知事からのプレゼント~

他にも当時の県知事さんからは「住所変更」をプレゼントしていただいたそうです。そのため、宮城峡蒸溜所の工場の住所は「ニッカ1番地」になっています!

 

次回は宮城峡蒸溜所工場長笹村さんへのインタビュー

宮城峡蒸溜所工場見学の様子はいかがだったでしょうか?
普段入ることや目にすることが出来ない場所の数々や、新川にまつわる竹鶴政孝さんとの秘話まで1人のウイスキー好きとして忘れられない1日となりました!
読者の皆さんにも体感していただけたら何よりです!

さて、次回のインタビュー編では、宮城峡蒸溜所工場長笹村さんにお話をお伺いしました!宮城峡のウイスキーの特徴やニッカディスカバリーシリーズの裏話、そして笹村さんご自身がどのような想いで宮城峡蒸溜所の工場長を務めているのか、ウイスキーづくりへの想いなど様々なお話をお伺いさせていただきました!
ここでしかお伺い出来ないお話ばかりでしたので、ぜひみなさんご覧ください!

併せてお読みください!

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