【独占インタビュー】湘南初のウイスキー蒸留所!湘南蒸留所 ウイスキー製造責任者 筒井貴史さん
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
温暖湿潤な気候ゆえに、これまでウイスキー製造の聖地とはされてこなかった場所、四国。その常識に挑戦するのは、「すだち酎」で知られる徳島県の日新酒類株式会社です。
日新酒類は、徳島の恵まれた農産物を活かし、これまでに日本酒、焼酎、リキュール、ワインなど、様々なお酒を開発してきました。
その実績と地元住民の支持を背景に、2023年3月、徳島で初めてのウイスキー蒸溜所「阿波乃蒸溜所」の稼働を開始。他にはない徳島ならではの気候的特徴や、日新酒類としての独自の方針を武器に、徳島の地でウイスキー造りに励みます。
新たな挑戦を支えてきたのは、代表取締役社長 前田康人(まえだ やすひと)さんと、製造部主任の丸山恵(まるやま めぐみ)さん。今回、Dear WHISKYは、お二人にインタビューを行い、阿波乃蒸溜所設立までの舞台裏を伺いました。ぜひお楽しみください!
日新酒類は、徳島県 板野郡に本社を置く酒類総合メーカーです。
江戸時代末期より続く「前田酒造」伝承の技をそのままに、「日々新たなり」をモットーとして掲げ、清酒・焼酎をはじめ、リキュール・果実酒・本みりんなど、様々なアルコール製品を手がけています。
特に、徳島県の名産品であるすだちや鳴門金時などを活かした商品が人気で、リキュール「すだち酎」、本格焼酎「鳴門金時 里娘」で知られています。また、吉野川流域に位置する阿波の酒蔵太閤酒造場で醸造された清酒「瓢太閤(ひさごたいこう)」は、全国新酒鑑評会において通算19回金賞を受賞しています。
出典:https://www.nissin-shurui.co.jp/
徳島の名士、日新酒類の次の舞台は、激戦のジャパニーズウイスキー。
太閤酒造場の敷地内の一角に、新たに「阿波乃蒸溜所」が誕生しました。2023年4月に初めての蒸留が行われ、現在(取材日:2023年11月20日)は、製造課主任の丸山恵(まるやま めぐみ)さんと、同じく製造課の原田祥宏(はらだ よしひろ)さんの2人態勢で運営されています。徳島初、の地ウイスキーとして、全国から注目が寄せられています。
蒸溜所名 | 阿波乃蒸溜所 |
オーナー会社 | 日新酒類株式会社 |
創業(生産開始) | 2023年 |
所在地 | 〒771-1505 徳島県阿波市土成町郡176 太閤酒造場内 阿波乃蒸溜所 |
連絡先 | TEL:088-694-8166 FAX:088-694-8355 E-mail:sudachi-chu@nissin-shurui.co.jp |
日新酒類株式会社HP | https://www.nissin-shurui.co.jp/ |
蒸溜所HP | https://www.nissin-shurui.co.jp/whiskey.html |
Dear WHISKY:
四国を代表する総合酒類メーカーである日新酒類株式会社は、これまでどのような事業を行ってきたのでしょうか?
前田さん:
日新酒類は、戦後の1948年に創業し、今年(取材日:2023年11月20日)で75周年を迎えます。
もともとは「前田酒造」としてスタートし、江戸時代末期の1857年(安政4年)に前田家が徳島県阿波市の太閤酒造場で、日本酒造りを始めました。その後、私の祖父が日本酒以外も取り扱う、四国で唯一の酒類総合メーカーとして、「日新酒類」を創設しました。
Dear WHISKY:
江戸時代まで遡るのですね。現在は、どのようなお酒を製造しているのでしょうか?
前田さん:
引き続き太閤酒造場にて日本酒・本格焼酎、そして新たにウイスキーを造っています。
また、本社は徳島県板野郡に位置し、他のリキュールや洋酒も製造を行っています。
Dear WHISKY:
日新酒類といえば、徳島の恵みを活かした豊富な商品ラインナップで有名ですが、徳島の地酒を造るようになったきっかけは何ですか?
前田さん:
大きな転機となったのは、1985年にリリースした主力製品「阿波の香り すだち酎」でした。ちょうどその頃、徳島のすだちを売り出そうという動きが盛り上がり、鳴門大橋が完成して観光業もこれからというときに、「すだち酎」の販売を開始しました。
今でこそ、果物や土地の産物を使ったお酒は数多く造られていますが、当時はまだ珍しく、その走りとして引き合いも良く、成功を収めました。
「すだち酎」をきっかけに、以降はリキュール・ワイン・ジンなど、徳島の産物を使った様々なお酒を手掛けるようになりました。
Dear WHISKY:
日新酒類が、徳島産の原料にこだわる理由は何でしょうか?
前田さん:
それだけ、徳島には他県にも誇れる農産物が揃っているからです。
すだちの他にも、やまもも、ゆず、鳴門金時、阿波晩茶、酒米など、豊富な農産物に恵まれています。
日新酒類では、これらの素材を精選し、こだわりの製法で商品開発を幅広く行ってきました。
Dear WHISKY:
日新酒類のコーポレートメッセージ「新たな明日のために、最高の笑顔を」に込められた想いを教えてください。
前田さん:
私自身、お酒は飲む方ですが、やはり「美味しく、楽しく」飲むことが、一番大切だと考えています。最近では、お酒に対するイメージが変わり、ノンアルコール製品の需要が高まったり、アルコールハラスメントなど、逆風に近いお話も日々耳にするようになりました。
しかし、お酒だからこそできること、表現できることがあるのも事実です。お酒が、皆さんの笑顔を創り出せるよう願いを込めて、このメッセージを策定しました。
Dear WHISKY:
「新たな明日のために」という表現は、常に未来を見据える「日新」にも通じますね。
前田さん:
当社の会社名「日新」は、中国の「礼記」大学から名付けています。
「日々新たなり」という意味で、明日を良い方向にするために、絶えず邁進するという姿勢を象徴しています。
前田康人さん(日新酒類株式会社 代表取締役社長)
日新酒類3代目(前田酒造6代目)。東京の大学の学部・大学院で、広い産業に関われる化学を専攻し、化学メーカーにて約6年間、基礎研究を担当。その後、徳島へ戻り、2005年に日新酒類へ入社。2011年に代表取締役社長に就任。 |
Dear WHISKY:
日新酒類での前田さんの役割はどのようなものですか?
前田さん:
全体的な立案・設備管理・費用・運用など、会社として大きく考えるべき部分に幅広く携わっています。
何か問題が発生した際には対応しますが、基本的には製造や営業など、各担当者に任せるスタンスを取っています。
特に製造については、何よりもしっかり取り組むべき部分ですので、常に張り付いていなければなりませんし、担当者にしっかり任せるのが良いと考えています。また、新規商品開発の際は、お互いに案を出し合い、良いものを選んで決めまています。
代表として、自分でもしっかり案を出せるよう、日頃から心がけています。
Dear WHISKY:
前田さんの好きなお酒を教えて下さい。
前田さん:
周りからもよく聞かれるのですが、いつも「自宅で、何も考えずに飲むならば『すだち酎』」と答えています(笑)。
外で飲む際は、料理によって選びますが、様々な酒類のお酒を楽しんでいます。また、その土地の地酒を積極的に味わうようにしています。
丸山恵さん(日新酒類株式会社 製造部製造課主任)
徳島県出身。徳島大学を卒業後、日新酒類株式会社に新卒で入社。これまで、主に板野郡の本社にて、洋酒系のリキュール、ワイン、ジンなどの製造に携わる。現在は、阿波乃蒸溜所のウイスキー造りを担当する。 |
Dear WHISKY:
阿波乃蒸溜所の立ち上げから運営まで、最前線で活躍されている丸山さんは、どのように幅広いお酒造りを学ばれたのしょうか?
丸山さん:
入社直後から製造部に所属し、先輩に教えていただきながら、実際に手を動かしたり、社外の勉強会に参加するなどして、製造を学びました。
太閤酒造場ではなく本社勤務が主だったため、洋酒系のリキュール、ワイン、ジンなどの製造に携わりました。
Dear WHISKY:
丸山さんは、普段どのようなお酒を飲まれますか?
丸山さん:
色々なお酒を飲みますが、前田社長とは逆で、自宅ではほとんど飲みません。
出かけた先で友人と一緒に飲む、あの空間そのものが好きですね。自社製品の中では、私が開発に携わったクラフトジン「AWA GIN」がお気に入りです。「AWA GIN」は様々な飲み方で楽しめますし、他の方にもおすすめしたい商品です。阿波を代表する植物性(ボタニカル)原料である「すだち」や 「木頭ゆず」の果皮(ピール)、阿波晩茶、国産山椒など徳島県の素材と、100%国産原材料のみが使用されています。
AWA GIN出典:https://www.nissin-shurui.co.jp/awagin.html
Dear WHISKY:
様々なお酒を造ってきた中で、ウイスキー事業に参入することになったきっかけは何ですか?
前田さん:
実は、何年も前から検討はしていました。
ジャパニーズウイスキーの国際的な需要が急速に高り、供給が追い付かない状況で、多くの問い合わせを受けていたのです。
また、全国で新しい蒸溜所が立ち上がる中、徳島、もっと言えば四国ではなかなか進展が見られませんでした。
そこで、四国でも、日本酒以外の製品もメインで手がけている私たちが頑張らなければと、前向きに踏み切りました。
Dear WHISKY:
四国を代表する酒類総合メーカーとして、周りの期待にも背中を押されてのスタートだったのですね。
前田さん:
実は何十年も前に、「ヤングセブン」というブレンデッドウイスキーを製造した経緯から、ウイスキーの製造免許は既に持っていたのです。
同じころ、調査の結果、徳島でも可能なウイスキー造りの形が見えてきました。さらに、コロナ渦で助成金など使えるものも出てきたところで、2023年に製造を開始するに至りました。
Dear WHISKY:
なぜこれまで四国では、蒸溜所が生まれなかったのでしょうか?
前田さん:
ダントツの理由として、暖かい気候です。私たちが、当初ウイスキーを避けてきた理由も気候にあります。発酵・蒸留などは普段から取扱っていましたし、コントロールが可能だと考えていました。
しかし、私たちに決定的に欠けていたのは、①麦芽を粉砕して扱うこと、そして②木樽に貯蔵することの2点でした。
Dear WHISKY:
温暖な瀬戸内海と太平洋挟まれた温暖な気候で農産物に恵まれている阿波市ですが、木樽の貯蔵は従来行われていなかったのですね。
前田さん:
九州では一部の酒蔵で木樽を使用しているところもありますが、四国のような南国の気候では、木樽貯蔵を行っている酒蔵は限られているのではないでしょうか。
ウイスキーは、いかに寒冷な気候で造るかという点がPRされてきたこともあり、四国エリアでは動きにくかったのです。
Dear WHISKY:
木樽貯蔵への不安を抱える中、あえて挑戦するに至ったのは何故でしょうか?
前田さん:
色々な人とお話しする中で、最近では暖かい地域でも、ウイスキー造りが可能であることが分かりました。
樽の置き方、貯蔵環境など、工夫の方法も色々と考えられるようになりました。また、インド産のウイスキーを飲ませていただいた際、南国気候でもこんなウイスキーが造れるのかと感銘を受け、真剣に検討するようになりました、
Dear WHISKY:
製造部の丸山さんは、蒸溜所設立の話を聞いたとき、どのようなお気持ちでしたか?
丸山さん:
前々からお話は上がっていましたので、「ついにやるのか」という感じでした。2021年12月に蒸溜所の設立が決定し、それから各々、場所の決定、設備の選定であったり、あらゆる情報を急ピッチで集めました。
ですので、わくわくすると同時に、不安も半分ずつ抱えていました。
Dear WHISKY:
蒸溜所新設にあたり、苦労した点は何でしょうか?
丸山さん:
まずは、時間との戦いでした。
補助金を受け取るには、完了報告までの期限が明確に決まっていました。
さらに、海外から設備を取り寄せるにあたり、遅延も発生しました。今でも、ウイスキーを実際に造りながら大変なことは次々に出てくるので、悪戦苦闘の毎日です。
Dear WHISKY:
経営者としての、前田さんのご意見はいかがでしょうか?
前田さん:
全国的には後手に回りましたので、不利になった部分もあります。
設備や原料について、以前はすぐに安価で手に入ると聞いていましたが、価格がうなぎ上りになりました。また、本当に欲しいものが、価格に関わらず手に入らないという話も増えています。現在では、一通りのことをできる環境は整いましたので、効率や品質管理の向上など、まだまだこれからの部分を練り上げている段階です。
以上、日新酒類の代表取締役社長である前田さんと、製造課主任の丸山さんへのインタビュー編第1弾をお届けしました!
徳島県民の想いに背中を押され、徳島初のウイスキー造りに挑む阿波乃蒸溜所の創立秘話をお聞かせいただきました。
第2弾となる次回は、阿波乃蒸溜所のウイスキー造りの裏側や、前田社長が考えるジャパニーズウイスキーへの向き合い方など、Dear WHISKYでしか読めない貴重なお話が盛りだくさんです。ぜひ、最後までお楽しみください!