【イベントレポート】Tri Carragh(チカラ)テイスティングイベント
- 造り手
- ボトラーズ
山形県遊佐町は、目の前には日本海が広がり、背後には雄大な鳥海山がそびえたつような自然豊かな土地です。鳥海山の伏流水による湧水が豊富で「水の街」として知られる街に月光川蒸留所が設立されます。事業を手掛けている、江戸時代末期の1832年に創業の老舗酒造楯の川酒造の代表取締役の佐藤淳平さんに今回独占インタビューをさせていただきました。
今回はウイスキー事業を始めたきっかけやジャパニーズウイスキーにかける想い、そしてこれから設立する月光川蒸留所についてまでお伺いしました!
ぜひお楽しみください!
楯の川酒造は、山形県酒田市に位置し、天保三年(1832年)創業の歴史ある酒蔵です。六代目蔵元で、代表取締役の佐藤淳平さんは、「楯野川」「光明」といった純米大吟醸に特化した蔵で事業を拡大しています。伝統的でベーシックな日本酒に加え、高精白とヴィンテージの新しい価値を生み出した日本酒や日本酒飲用を通じて、田園風景を守ることに貢献すべく「稲作指標」を取り入れた新ブランド、さらにヨーグルトと日本酒を掛け合わせた商品など、高品質で挑戦的な商品を創出してきました。Made in Japanのお酒を世界に届ける事を目指す同社はこの度、世界的な人気を博しているジャパニーズウイスキーの製造に挑戦することを決定したと宣言されました。
山形県遊佐町という自然が豊かな土地に月光川蒸留所が設立される予定です。その月光川蒸留所を運営しているのが、1832年から創業している楯の川酒造株式会社です。
遊佐町のある庄内地方は美しい自然環境と歴史的背景、伝統文化が混在しています。その土地環境を活かし、丁寧な手仕事でひと樽ごとに豊かな表情を造り出そうとしています。月光川蒸留所は2023年の秋頃より蒸留開始予定です。
蒸留所名 | 月光川蒸留所 |
会社名 | 月光川蒸留所株式会社 GAKKOGAWA DISTILLERY, Inc. |
親会社 | 楯の川酒造株式会社 |
代表取締役社長 | 佐藤 淳平 様 |
問い合わせ先 | 0234-25-3971 |
公式HP | 月光川蒸留所公式ホームページ |
代表取締役 佐藤 淳平 様 楯の川酒造6代目蔵元・代表取締役。 東京農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業後、神奈川の酒類問屋に出向。2001年10月、23歳で楯の川酒造に戻り、当時危機に瀕していた酒蔵の経営の建て直しを図る。 |
Dear WHISKY:
ウイスキー事業を開始したきっかけは何ですか?
楯の川酒造さん:
当社は、Made in Japan のお酒を世界に広める事を目標にしています。日本酒だけでなく、ウイスキーやリキュールを造ることで、より世界を見据えた事業展開をしていきたいと考えています。特に、ウイスキーは年々輸出量・輸出金額が大きく伸びています。ジャパニーズウイスキーには大きなチャンスがあると考えました。
Dear WHISKY:
蒸留所の設計などはどのように決められたのですか?
楯の川酒造さん:
蒸留所のコンセプト開発と設計には、建築家兼美術家の佐野文彦氏が携わっています。ウイスキーの熟成という時の流れと経年変化する木材を重ね、関わる人達と「共に育てる」事をコンセプトとしたデザインを検討しています。
Dear WHISKY:
ウイスキーにも目指している味などはあるのですか?
楯の川酒造さん:
ピュアでエレガントなウイスキーを造りたいと考えています。楯の川酒造は洗練された、とにかく「綺麗」という言葉がぴったりの日本酒を造っています。それを軸として、ウイスキーも同様に綺麗な酒質のものを造っていく予定です。原料は地元庄内産のものを使っていきます。既成概念とは少し違う、日本酒造りの知見・蔵人ならではの感性もウイスキー造りに役立てていきたいですね。
Dear WHISKY:
長年積み上げてきた日本酒造りにおいてウイスキー造りに活きている点はありますか?
楯の川酒造さん:
原料処理に関しては、これまで精米歩合50%以下の純米大吟醸に特化し、精米歩合1%の商品も開発してきたので、繊細な醸造技術や職人的な感覚を持っています。精密な原料処理の技法は、ウイスキー造りにも活かすことができると考えています。
Dear WHISKY:
他にもそのように繋がっている工程などはありますか?
楯の川酒造さん:
発酵に関しても、ウイスキーの方が高温で行う必要がありますが、共通する部分はあります。実際にやってみなければ分からないことも多いですが、日本酒造りの経験は必ず活きてくると思います。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りの準備を進める中で、ウイスキー業界の横の繋がりを感じることはありますか?
楯の川酒造さん:
月光川蒸留所の予定地のすぐ近くに株式会社金龍さんの遊佐蒸溜所がありますが、事前に蒸留所の設立の相談をしたところ、歓迎してくださいました。遊佐町はかなり小さい街なのですが、ここに蒸溜所が2つできるということで、「一緒にウイスキーの町として盛り上げていこう」と言葉をかけてくださいました。
Dear WHISKY:
新たな観光資源の一つとして、遊佐町全体でウイスキーを造っているのですね!
楯の川酒造さん:
蒸留所の見学やテイスティングを積極的に行ったり、近くの施設と連携しイベントなどを開いたりすることで、観光客の呼び込みにも役に立てればと考えています。また、遊佐町は水が綺麗な街として知られています。ウイスキー造りは町のイメージとも上手くマッチすると考えています。
Dear WHISKY:
蒸留所開設にあたって、特に苦労した点はありますか?
楯の川酒造さん:
場所を見つけることが大変でした。地下水の水質にこだわりながら、蒸留に必要な水量を確保できる場所、景観が良い場所ということで、場所選びに2〜3年ほどの時間がかかってしまいました。
Dear WHISKY:
この場所の決め手は何ですか?
楯の川酒造さん:
月光川蒸留所の近くには、月光川という川が近くに流れています。月光川の水系の地下水はかなりの軟水で、綺麗で柔かいことで有名です。質の高い水源を確保できるということは大きなポイントでした。
Dear WHISKY:
日本と海外を比較すると、自然環境はウイスキー造りにどのような違いを与えていますか?
楯の川酒造さん:
スコットランドやアイルランドは、かなり緯度が高く気温が低いため熟成に時間がかかります。一方、日本はそこまで緯度が高くないため、積算温度で考えると日本の方が熟成に時間がかからないと考えています。さらに、台湾でもウイスキー造りが盛んになってきていることから、これから徐々に暖かい地域でのウイスキー造りが多くなるのではないかと考えています。
Dear WHISKY:
日本の中でもここ庄内の自然環境が月光川蒸留所のウイスキー造りに与える影響はどのようになると思いますか?
楯の川酒造さん:
月光川の地域は夏と冬の寒暖差が大きいのが特徴です。その寒暖差がウイスキー造りにどう響くのか、今後検証していこうと考えています。
Dear WHISKY:
2023年の秋頃に蒸留開始の予定のことですが、初リリースは何年頃を予定していますか?
楯の川酒造さん:
ブレンデットは2024年予定で、オリジナルのシングルモルトは2027年頃になる見込みです。一方で、シングルモルトは少し寝かせてから発売する予定です。他にも色々な施策を考えておりますので、ぜひお楽しみにしてください。
Dear WHISKY:
ウイスキーは国内と海外のどちらがメインになるのですか?
楯の川酒造:
基本的には、海外をメインに販売していく予定です。生産量があまり多くないため、希少なウイスキーとしてブランディングしていきたいと考えています。中国をはじめ全世界へ発信していきたいです。
Dear WHISKY:
ジャパニーズウイスキーを世界に広めていく上での課題は何でしょうか?
楯の川酒造:
去年、ジャパニーズウイスキーのガイドラインが出来ました。しかし、原材料が海外から調達していることが多く、樽や水は国内のものを使用していてもそれ以外は海外産だったりするため、テロワールとは中々言いにくい状況です。いかに上手く国内産の原料を使っていくかが重要だと考えています。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者へメッセージをお願いします!
楯の川酒造さん:
まずは何よりも私たちのファンを増やしていきたいと考えています。自分達のスタイルを5年ほどかけて造っていき、観光客が来てくれるような体制やイベントを進め、ファンを増やしたいと思います。
また、日本酒製造の経験、原材料の加工技術などを活かして、出来るだけ高品質なウイスキーを造っていきたいとも考えています。派手なウイスキーではなく、繊細でやわらかなウイスキーを造りたいです。
以上、ウイスキー事業を手掛けている楯の川酒造株式会社の佐藤淳平さんへの独占インタビューでした!
今回のインタビューでは、これから始まる月光川蒸留所の方向性や施設、さらには佐藤さんが思い描くこれからの展望などについてお伺いしました。
日本酒の醸造をしているからこその「造り方」や遊佐町一体となったイベントの開催など、今後の月光川蒸留所から目が離せません!
ぜひ皆様も山形県遊佐町に足を運んでみてはいかがでしょうか?