【独占インタビュー】第1弾:世界一のウイスキーコミュニティ、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティに独占インタビュー
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嘉之助蒸溜所は、オーク樽貯蔵米焼酎「メローコヅル」で知られる小正醸造がウイスキー事業を始めるにあたり、鹿児島県日置市吹上浜沿いに建てられた蒸溜所です。
今回はそんな嘉之助蒸溜所に直接お伺いし、蒸溜所見学と所長の中村さんに独占インタビューをさせていただきました!
今回はインタビュー編として、嘉之助蒸溜所所長の中村さんに、小正醸造から続く製造の技術を活かした嘉之助蒸溜所が造るウイスキーの魅力やこれからの嘉之助蒸溜所についてなど、多くのことをお伺いさせていただきました!
Dear WHISKY:
中村さんはもともと学生時代にお酒などについて学ばれていたのですか?
中村さん:
学生時代はお酒とは全く関係のない水産関係の研究をしていました。
私の出身地が鹿児島県というのもあり、漁業と深いつながりがあったことから水産関係の研究をしていました。
Dear WHISKY:
そうだったんですね、どのようなきっかけでお酒に興味を持ったのですか?
中村さん:
元々お酒は身近なものでしたし興味もありました。ウイスキーでいうと、私の父がウイスキー好きで、サントリーウイスキーオールドなどが好きで、たまにプレゼントしていました。
そんな父の影響もあり、ウイスキーには興味をもっていました。
Dear WHISKY:
小正醸造株式会社に入社された経緯をおしえてください。
中村さん:
私は「地元の産業に関わりたい。地元で仕事をしたい。」という想いが強かったので、地元企業である小正醸造株式会社に転職しました。焼酎ブームも相まって魅力を感じていました。
Dear WHISKY:
入社直後はどのようなお仕事をしていらっしゃったのですか?
中村さん:
焼酎ブームのため多くの焼酎を造る必要がありましたので、最初は製造部門に配属されました。
主に麹の製造や発酵までのもろみの管理などの製造部門に携わっていました。
Dear WHISKY:
当初は焼酎の製造部門でご活躍されていたのですね。
中村さん:
しばらく製造部門で仕事をしていたのですが、ある時「焼酎の造りに関する話をお客様に伝えられる人」ということで、営業部に配属されました。
Dear WHISKY:
営業のご経験もされていたのですね!
中村さん:
そうですね。それからしばらくは営業に携わっていました。その頃は、鹿児島を拠点として全国の和酒専門店へ営業をしたり、居酒屋で小正醸造の焼酎を楽しむ会などを開催したりしていました。
嘉之助蒸溜所は私が営業をしている2017年に設立されました。
Dear WHISKY:
どのような経緯で嘉之助蒸溜所が設立されたのでしょうか?
中村さん:
立ち上げ当初はこんなに大きく造る予定もしていなかったというか…
夏から秋にかけては芋焼酎を造り、芋が収穫できない冬場に嘉之助蒸溜所でウイスキーの製造をすることが目的でした。
1年を通してスタッフの仕事を平準化できるイメージでの生産量で、年間の半分くらい造れるようにしたいという考えでしたね。
Dear WHISKY:
焼酎とウイスキーで1年間常に仕事をするイメージだったのですね!
中村さん:
しかし、私たちの想像以上にウイスキーの需要は高く、冬場だけではなく1年中生産をしていこうと考えたのですが、通年で焼酎製造のスタッフが、ウイスキー製造にかかわることになり、人員が足りないという問題がありました。
Dear WHISKY:
焼酎の製造とウイスキーの製造の両立は非常に難しいことだったのですね。
中村さん:
人員が不足している中で、私は焼酎の製造に携わっていた経験があったため、「鹿児島に戻ってきて、ウイスキーの製造に携わってくれないか」と声をかけていただきました。
私としても再度蒸留酒造りに関われることは嬉しかったため、2019年に嘉之助蒸溜所でウイスキーを造るために鹿児島県に戻ってきました!
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所では当初どのようなことに携わっていたのですか?
中村さん:
2019年に戻ってから1年間は貯酒の管理を行っていました。完成した原酒を樽に詰めたり、漏れがある樽の修理、さらには貯蔵庫の管理などを行ったりしていました。
Dear WHISKY:
その後どのような経緯で所長に就任されたのですか?
中村さん:
蒸溜所が設立されてから2年ほど経った2021年8月に、小正醸造が、小正嘉之助蒸溜所を分社化しました。
小正嘉之助蒸溜所として『製造部門をしっかりと強化し、組織としてより良くする』ということを掲げた中で、年齢が1番上だったこともあり所長に任命されました(笑)
Dear WHISKY:
所長に就任した当初はいかがでしたか?
中村さん:
恥ずかしながら当時はウイスキーに関しての知識が少なかったりと、非常に未熟な部分が多かったと思います。「ブレンデッドとは」「シングルモルトのシングルとは」「シングルカスクとシングルモルトの違いとは」といったレベルでした。
所長として蒸溜所を運営し製造にも携わりながら、お客様とのお話を通して、自分でも勉強をしたりして知識を付けていきましたが、最初は本当にウイスキー造りに関してはゼロからのスタートでしたね。
Dear WHISKY:
初めてウイスキー造りに深く携わられて、どのようなお気持ちでしたか?
中村さん:
何よりも「楽しい」という想いが強かったですね。思い返すと入社して最初の歓迎会での一言スピーチで、「いつか焼酎の製造責任者になって、世界に羽ばたいていけるようなお酒を造りたい」というスピーチをしていました。
遠くヨーロッパのバーで焼酎を飲んでいたり、日本の裏側のブラジルで陽気な人たちが一升瓶を片手に楽しんでいたり、そんなことを思い描いていました。
だからこそ、入社した頃を思い出しながら「ウイスキーは世界のどこでも通用する言語であるし、飲まれている。これは本当の意味で、入社したときの夢が叶うのではないかな」というワクワクした想いを持っていました。
楽しみでしたし、今も心から楽しいです。
Dear WHISKY:
焼酎に携わってきたからこそ感じるウイスキーとの共通点はありますか?
中村さん:
共通点としては、蒸留までの造りの流れかなと思います。
単純に工程を見ていくと、「でんぷんを糖化し発酵させた後に、蒸留して原酒を造る」という一連の流れは、基本的に一緒ですね!
Dear WHISKY:
逆に焼酎とウイスキーの違いはありますか?
中村さん:
でんぷんを何で糖化するかの違いもありますが、蒸留した後が決定的に違います。焼酎は約2週間かけて蒸留まで行った後に貯酒タンクで3か月~6か月ほど貯蔵すると製品化でき、比較的早い段階で皆様にお届けできます。
しかし、ウイスキーの場合は「時間が造るお酒」です。原酒が誕生してから3年以上の月日をかけて樽熟成することで「ジャパニーズウイスキー」になります。
Dear WHISKY:
そのような違いがある中で、苦労などはありますか?
中村さん:
長い熟成でおきる変化の予測やイメージをすることです。何が必要でなにが不要なのか、原酒を造る時から突き詰めていかなければなりません。先を見据えながら造る難しさは、ウイスキーだからこそですね!
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所の名前の由来は何ですか?
中村さん:
地名がついている蒸溜所が多い中で、嘉之助蒸溜所には人の名前がついています!小正醸造が手掛ける樽熟成の米焼酎「メローコヅル」の生みの親である二代目嘉之助の名前がついています。
嘉之助蒸溜所の設立された場所は、嘉之助さんの思い描く夢や焼酎の樽熟成の歴史が詰まった場所です。
嘉之助さんの孫にあたる4代目の小正芳嗣が「祖父の夢の続きを追いたい」という想いで「嘉之助蒸溜所」と名付けました。
Dear WHISKY:
日置市に蒸溜所を建設したのは何故ですか?
中村さん:
元々日置市が小正家の出身地であり、長きに渡って焼酎造りをしてきた場所です。
思い入れのあるこの土地で造ったウイスキーで世界と勝負をしたいと感じたからこそですね。
Dear WHISKY:
思い入れのある土地で蒸溜所を建設する中での苦労はありましたか?
中村さん:
お酒造りに欠かせない取水に課題がありました。
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所は海に近いですが、どのような課題があったのですか?
中村さん:
海に近いからこその課題といえるかもしれません。
汲み上げた井戸水の塩分濃度が高く、仕込みに適した水が豊富に出る場所ではなかったといえます。
Dear WHISKY:
どのようにその問題を乗り越えたのでしょうか?
中村さん:
山の方の水源地から水を引いてその水を仕込み水として使用しています。
Dear WHISKY:
仕込みで使う水はどのような水ですか?
中村さん:
鹿児島の真ん中に桜島がありますが、このあたりの土地は大昔に噴火した火山灰が積もって出来たシラス台地です。そこを通った水なので、軟水ですが特にシリカ(ケイ素)が多いです。
ミネラル分が比較的多い水のためお酒造りの中でも特に発酵に向いていると思います。
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所の位置する鹿児島県はどのような自然環境ですか?
中村さん:
鹿児島県は、夏は非常に暑く、冬は逆にとても寒くなる特徴があります。本場のスコットランドや北海道に比べて寒暖差の大きい地域です。
Dear WHISKY:
その中でも海沿いにある日置市はどのような環境でしょうか?
中村さん:
時期によっては海霧が発生するといった特徴もあり、特に季節の変わり目に霧が立ち込めることが多いです。
冬場には、海から吹く潮風によりミネラルを含んだ空気が漂うため、発酵工程などで影響を与えている可能性があります。
熟成工程においても、ミネラルを含んだ空気を取り込み、海を感じるようなウイスキーに仕上がったら面白いと思いますね。
Dear WHISKY:
実際に熟成が進む中で、「海」を感じる事はありますか?
中村さん:
環境によるものかは確実ではありませんが、塩味を感じることがありました!
Dear WHISKY:
小正醸造は、140年続く焼酎蔵ですが、ウイスキーを造ると決めたきっかけは何ですか?
中村さん:
焼酎ブームの頃は、海外在住の日本人が焼酎を楽しんでくださっていたので、海外への輸出も多かったです。しかし焼酎ブームが落ち着くと、現地日本人の焼酎の飲酒量が少なくなってしまいました。
一方で、海外には蒸留酒を食中酒として飲む文化がないため、日本人以外の方には、焼酎というお酒の理解がなかなか深まっていきませんでした。
Dear WHISKY:
焼酎に対する日本人と海外の方の認識や文化の差があったのですね。
中村さん:
小正芳嗣社長は、「焼酎を世界に発信をしていきたい」という強い想いをもっていましたので、まずは今までの蒸留酒造りの技術の高さを持って、世界の共通言語であるウイスキーを造っていこうと決めました。
嘉之助のウイスキーを評価していただけるように努力し、これを入口に、少しでも鹿児島の焼酎のことを世界にも知っていただけるのではないか?という想いがあったことも確かです。
Dear WHISKY:
長年培ってきた焼酎造りの経験はウイスキー造りにどのような影響を与えていますか?
中村さん:
私達は、「焼酎造りの技術と伝統を日本のウイスキーの新しい幕開けへと繋げる」という言葉を大切にしており、長年積み上げてきた焼酎造りの技術に誇りを持っています。
ウイスキー造りに、焼酎造りで培ってきた技術を活かせたことはいろいろありますが、1つ目は蒸留器です。
ポットスチルを3つにし、1つは初留、1つ再留、もう1つは初留と再留のどちらにも使える少し特殊な構造にしています。
Dear WHISKY:
蒸留器ですね!焼酎造りの経験がどのように活かせたか教えてください。
中村さん:
小正醸造の焼酎蔵には、合計7つの蒸留器があり、それぞれの蒸留器の形やヘッドの形、アームの角度で、多彩な原酒を生み出せることが分かっていました。
そのように、小正醸造の多様な原酒造りで培ってきた経験をウイスキーでも活かそうと3つの蒸留器を導入しました。
Dear WHISKY:
他にも焼酎造りの経験がもとになっていることはありますか?
中村さん:
ウイスキーの熟成に使う「樽」で米焼酎「メローコヅル」を熟成した焼酎樽も使用していることです。
メローコヅルを熟成した焼酎樽で熟成したウイスキーが嘉之助蒸溜所のウイスキーを代表する原酒となっています。
Dear WHISKY:
2018年にリリースされた「嘉之助ニューポット 2018」はどのような商品ですか?
中村さん:
このニューポットは、蒸溜所を設立してから間もない4月に発売した最も初期の商品といえます。
3つのポットスチルで造り分けた原酒をバッティングしたものが「嘉之助ニューポット 2018」です。
ボトルもクラフト感のあるプラモデルのパーツのような可愛らしいデザインで、設立当時の原酒を詰めこんだ1本ですね。
Dear WHISKY:
初期の商品とのことでしたが、「嘉之助ニューポット 2018」はどのような味わいですか?
中村さん:
今の商品と比べてスッキリとして、「ニューポットだけど飲みやすい」綺麗な酒質でした。
Dear WHISKY:
「嘉之助ニューポット 2018」に込めた想いなどありますか?
中村さん:
蒸溜所が設立し、4月にオープニングイベントを行ったときに発売しました。
だからこそ「ようやく完成しました。お待たせしました。」というお披露目の想いが強かったです。
完璧なウイスキーが出来たとは思っていなく、本当に最初の1歩としてのニューポットですね。
嘉之助ニューポット 2018 はその年のWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)2019で、ベストジャパニーズニューメイクをいただきました。ありがたいことに品質の評価もいただくことが出来た最初の商品になります。
Dear WHISKY:
最初の1歩でもあった「嘉之助ニューポット 2018」を造るときに、苦労された点はありましたか?
中村さん:
麦芽の粉砕比率や発酵や蒸留が上手く出来ているのかなど、本当に手探りの状態だったので苦労は多かったですね。具体的にこういう酒質にしたいというイメージを持って造ったというよりも、必死に良い酒質を目指して思考錯誤する中で誕生した商品です。
Dear WHISKY:
2021年にリリースされた「シングルモルト嘉之助2021 FIRST EDITION」の魅力を教えてください。
中村さん:
ブレンドに使った原酒は、すべてメローコヅルを熟成させていた焼酎樽で熟成させた原酒を使っています。
そのような意味でも、メローコヅルのDNAだけで造られた最初のウイスキーです。
3年間焼酎樽で熟成した原酒、2年間焼酎樽で熟成した後赤ワイン樽やバーボン樽で1年間追加で熟成させたもの、シェリー樽で2年熟成した後に、焼酎樽で1年熟成させたものなど様々です。
Dear WHISKY:
製造工程ではどのような苦労がありましたか?
中村さん:
当初3年熟成された原酒が少なかったことですね。
2021年6月にリリースしましたが、2020年10月時点で3年熟成した原酒は少ししかなく、リリース予定の6月を見越して仮のブレンドをやってみようとしましたが、3年熟成された原酒が焼酎樽とシェリー樽だけでした。
そこで、フレーバーを重ねるため、「カスクフィニッシュ」の技法を取り入れました。
焼酎樽からワイン樽やバーボン樽に移し後熟することで、様々なフレーバーを重ねることができるのではないかと考え、フィニッシュをかけて準備をしていこうとなりました!
Dear WHISKY:
味わいの特徴をだすために、カスクフィニッシュに挑戦したのですね!
中村さん:
そうですね。
そして本番のブレンド直前に味わいをテイスティングなどしてチェックしたところ、赤ワインの表情を持ちつつシェリー樽の味わい、そしてバーボン樽特有の蜂蜜のような味わいがうまくマッチしたことでフレーバーの幅が広げられました!
嘉之助蒸溜所らしさにはメローコヅルの焼酎で使った焼酎樽は欠かせないと思うので、それだけで表現したというのは苦労もありつつ非常に思い出深いですね。
Dear WHISKY:
そのときのブレンドは中村さんが担当されたのですか?
中村さん:
そうですね、基本的にブレンドは私を含めた3人のブレンダーチームで行っています。最終的には完成したものをスタッフでチェックし、決めています。
Dear WHISKY:
多くの想いが詰まったシングルモルト嘉之助2021 FIRST EDITION は、どのような味わいですか?
中村さん:
焼酎樽由来のニッキや八ツ橋に近い「和」の感じがし、栓を切った開けたては、力強すぎるぐらいのパワフルなウイスキーですね。
最初はアルコールの刺激を強めに感じると思いますが、空気と触れ合わせていくと徐々にまろやかな甘さになります。
当初は、もう少しフルーティーさが欲しいと思っていましたが、開栓して時間を置くと、甘さと少し酸味を感じるフレーバーが出てくるため非常にバランスが良いと思います。
開けたてを飲む場合は少しお水を足すとおいしく飲めると思いますのでぜひお試しください!
Dear WHISKY:
「シングルモルト嘉之助2023 LIMITED EDITION」の魅力を教えてください。
中村さん:
FIRST EDITIONは焼酎樽、SECOND EDITIONはバーボン樽の原酒が主体でした。なので、次に造った2022 LIMITED EDITIONは「シェリー樽の風味をどう生かしていくか?」というテーマでブレンドを行いました。
2023 LIMITED EDITIONは、ピーテッドモルトの原酒で4年近く熟成されている物もありましたので、ピートの原酒を使って「嘉之助らしいメロー感をどう表現するか?」と考えながら造りました。
ニューポット以来のピートを主体にした初のシングルモルトですね。
Dear WHISKY:
味わいやボトルはもちろんですが、化粧箱も非常に印象的ですね!
中村さん:
ありがとうございます!私たちとしても商品としてその外観である箱も大切にしています。
実はFIRST EDITIONの箱の横は、砂浜をカメラで接写しています。
箱自体も砂を触ったようなザラザラとした材質にしています。
Dear WHISKY:
FIRST、SECOND、2022、LIMITEDで箱が異なりますが、残りの2つはどのようなデザインですか?
中村さん:
SECOND EDITIONは、吹上浜をドローンで空撮した写真を利用しました。海の部分はツルツルとした材質、砂浜はザラザラとした材質になっています。2022 LIMITED EDITIONは、シェリーの温かみのある感じや少し赤いイメージをもとにして、夕日をモチーフにしています!
Dear WHISKY:
ちなみに、2023年発売のウイスキーの箱はどのようなデザインですか?
中村さん:
色はピートをイメージして黒いエチケットにしています!
横には、日置市の風景や少し冬場の荒涼とした砂浜の草木の感じなど、ピートを連想させるような草木と海を重ねています!
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所はポットスチルが特徴的ですが、蒸溜所設立当初から同じものを使用しているのですか?
中村さん:
2017年当初から3つのポットスチルを導入し、3つのポットスチルを使い分けることで、ニューメイクの造り分けを行っていますが、基本的にヘッドがストレート型の2つのポットスチルで蒸留しています。
本格的に使い分けを始めたのが、2019年の後半からでその時期からヘッドがランタン型のポットスチルで再留した原酒が少しずつ出てきました。
Dear WHISKY:
ヘッドがランタン型のポットスチルで蒸留した原酒はどのような味わいですか?
中村さん:
ランタン型で再留した原酒はとても軽やかです!
今後は、「今回は少し軽めに仕上げたい」「重めに仕上げたい」などのイメージを、3つのポットスチルを使いコントロールできるようになるとブレンドの幅が広がるかなと思っています。
完成する原酒はそれぞれ個性的なものなので、これからも非常に楽しみです!
Dear WHISKY:
3つある中で真ん中にあるポットスチルは初留で使う場合と、再留で使う場合があるという事でしたが、どのような使い分けをしているのですか?
中村さん:
2020年くらいまでは、ビール用のモルトやチョコレートモルトといった焙煎したモルトなど、様々なモルトを使い仕込みを行っていました。今後の原酒造りに活かしていければ良いという想いで試験的に挑戦していたような感じです。
通常諸流で使用しているポットスチルのサイズは1tなのですが、このような実験的な仕込みの際は半量の500kgサイズの真ん中にあるポットスチルを使用します。
モルトを変えることで仕上がるフレーバーや酵母の変化などの様々な点を、実際に造りながらテストができるのが非常に心強いですね。
Dear WHISKY:
実験的な仕込みの際の初留に使用しているのですね!
中村さん:
そうですね。現在は、年間の生産量をしっかりと確保することが最優先ですが、将来的には定期的に様々なことにチャレンジし、革新的なことにも挑戦していく予定です。
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所で冷却に使用している冷却装置のワームタブとはどのようなものですか?
中村さん:
冷却装置のワームタブというのは、蛇管式(ワーム式)の伝統的なコンデンサーで大きなタンクの中に細長い銅線が張り巡らされている装置です。スコットランドでもワームタブを採用しているところがあり、大体は屋外にあると思いますね!
Dear WHISKY:
多くの冷却装置は屋外に設置する中で、何故嘉之助蒸溜所では屋内に設置しているのですか?
中村さん:
嘉之助蒸溜所のワームタブが屋内にあるのは、海が近いため外に置くと設備の劣化が早いことや、焼酎の製造でのスタイルを踏襲したという理由があります。ワームタブの特徴として、現在主流のシェルアンドチューブに比べると、もろみやローワインに含まれるフレーバーが残りやすいのが特徴です。
それにより生まれるパワフルな原酒は、暖かい環境で熟成のスピードが早い鹿児島においても良い影響を与えるのではないかと考え、ワームタブを使用しています。
Dear WHISKY:
蒸溜所の施設全体がコの字型になっていますが、このような形にしたのは何か理由があるのですか?
中村さん:
「ビジターセンターを充実させて、訪れるお客様に満足して帰っていただきたい」という想いと、蒸溜所の前に立ったお客さんを、温かく迎えられるような「ようこそ!」「ウェルカム!」という想いを込めてコの字形にしています。
Dear WHISKY:
確かに入口に向かうときに盛大に迎え入れていただける気持ちになりますね!
中村さん:
他にも、見学の導線が取りやすいということもあります。
歴史から始まり、仕込みや蒸留の工程を見学し、貯蔵庫を経て、最後にメローバーで嘉之助のウイスキーを味わっていただくというように、工程に沿った見学がしやすくなっています。
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所のショップではウイスキーを購入できるとのことですが、どのような種類のウイスキーが購入できますか?
中村さん:
定番のウイスキーは常時販売しております!それ以外ですと、蒸溜所限定販売のシングルモルトウイスキーをリリースしています。
種類としてはワイン樽やピートが効いたものなど様々な嘉之助蒸溜所のウイスキーが楽しめるので、お客様は楽しみにしながら蒸溜所に来てくださいますね。
Dear WHISKY:
他にもオリジナルグッズなどがありますが、反響はいかがですか?
中村さん:
嬉しいことに皆様から好評をいただいています。特にメローコヅルを熟成していた樽の廃材を使用したトレーやコースター、ペン立てなどは好評です。他にも色々なグッズを販売しています!
Dear WHISKY:
いくつかある貯倉庫にも嘉之助蒸溜所ならではの秘話があるとお聞きしたのですが、詳しく教えてください!
中村さん:
嘉之助蒸溜所の貯蔵庫のひとつに閉校した小学校の体育館を活用しています!
鹿児島だけではなく全国的に小学校が合併して、元々の小学校は廃校になるケースが多いです。
地域の教育やコミュニティーの場として長年使われてきた小学校を廃虚にしてしまうのは惜しいという想いから、廃校になる小学校を小正醸造が買い取りました。
Dear WHISKY:
小学校を買い取るなんてすごいですね!
体育館以外の場所はどのように使用しているのですか?
中村さん:
2023年6月1日から日置市との共同事業として、コミュニティセンターのようにカフェやコワーキングスペースとして活用されています。例えば、鹿児島に住んでいながら東京の方とオンラインで仕事ができるようなスペースになっています。
他にも地元のお祭りを行う場所として校舎や校庭を使用していただいたりしています。例えば6月には、「せっぺとべ」(意味:精一杯、跳べ)という、豊作祈願のイベントをこちらで行いました。そのイベントに合わせて屋台も構えるなど非常に活気に満ちていましたね。
Dear WHISKY:
様々な方法で使用しながら地域と密着しているのですね。なぜ貯蔵庫として活躍する体育館を貯蔵庫にしようと考えたのですか?
中村さん:
私たちが貯蔵できる場所を探していたのですが、そんな時に廃校になった小学校の話を聞きました。ウイスキーが廃校の体育館で眠る面白さがウイスキー造りや、将来的に嘉之助蒸溜所の魅力を知っていただく機会の何かに繋がるのではないかという想いがありました。
それに加え私たちがウイスキーを造ることで、何らかの形で地元に還元ができればと強く思っています。
Dear WHISKY:
体育館は熟成環境としてはいかがですか?
中村さん:
皆さんご存じのように夏場の体育館は暑くなることが多いので、夏場の体育館の暑さが熟成にどう影響してくるかは楽しみです。
Dear WHISKY:
嘉之助蒸溜所の今後の目標を教えてください。
中村さん:
嘉之助蒸溜所のウイスキー、ジャパニーズウイスキーを世界中の皆様に楽しんでいただきたいという想いがあり、2021年にディアジオと提携しました。ジャパニーズウイスキーが「世界五大ウイスキー」として認められたことで、より世界が近くなっていると感じます。
だからこそ、歴史あるウイスキーの価値を高めて、世界で楽しんでいただけるように、これからも丁寧にウイスキーを造り皆様にお届けしたいというのが目標ですね。
Dear WHISKY:
具体的に今後はどのようなウイスキーを造っていきたいですか?
中村さん:
日本国内でいろいろな蒸溜所が設立される中で、それぞれが何かを目標にしたり色々な想いを持ったりして蒸溜所を立ち上げていると思います。
そのような中で私たちはあえて、「○○のようなウイスキーを目指す」というものを目標にしていません。私たちはこれまで培ってきた焼酎造りの技術や発想を駆使して、鹿児島発の嘉之助蒸溜所らしいウイスキーを造っていきたいというのが目標です。
「嘉之助らしさ」を大切に、ウイスキーを飲んでいただいたときに「これは嘉之助だね」のように言われるような存在感のある皆様に印象深いウイスキーを造りたいです。
Dear WHISKY:
2023年はジャパニーズウイスキー100周年の年ですが、この節目の年にどのような気持ちで臨みましたか?
中村さん:
偶然ですが、小正醸造としても創業140年の年なので節目の大事な年だと感じました。
竹鶴政孝さん(ニッカウヰスキー創業者)がスコットランドに渡って、日本でウイスキー造りを始めてから100年間続いている過程で、多くの方々によってジャパニーズウイスキーが世界中で高評価されるような礎を築いてくださいました。
だからこそ、それに敬意を示しつつ汚さないことを大事にしたいです。
これからも堂々と胸を張って「ジャパニーズウイスキーだ」と言えるものを造っていきたいです。
Dear WHISKY:
ジャパニーズウイスキーの評価を落とさないように丁寧に造り続けたいということですね。
中村さん:
はい。スコットランドではハイランドやローランドなど地域によって味わいに特徴がありますが、日本も同様に北海道の亜寒帯から沖縄の亜熱帯まで幅広い様々な気候の中で「九州のモルトウイスキーはこんな感じだ」みたいなものが生まれれば嬉しいですね。
日本の中でもそれぞれの場所で個性的なウイスキーが根付いていったら良いなと思います。
Dear WHISKY:
ジャパニーズウイスキーの魅力を中村さんはどのように表現しますか?
中村さん:
幅広い地域や環境でウイスキーが造られているので、何より面白いです。
それぞれの地域で個性的な造り手がいますので、同じジャパニーズウイスキーでも、多種多様なウイスキーが飲める楽しさが今は魅力であり私自身もワクワクしてます。
Dear WHISKY:
ジャパニーズウイスキー次の100年に向けて嘉之助蒸溜所としてはどのような気持ちで造りに励みますか?
中村さん:
何より末永く造りを続けていきたいです。私たちもまだ「嘉之助スタイル」がきまっていないので、ウイスキーを造り続ける中で、いずれ「嘉之助蒸溜所らしさ」を造っていきたいと思います。
そのため「ハウススタイル」を導くバトンを次の世代に渡していけるように、きちんとしたものを私たちが残し、次の世代に繋げまた新しい世代の嘉之助蒸溜所のウイスキーを造って欲しいと思います。
焼酎メローコヅルの製造から始まったこの歴史は、創業当時からの多くのこだわりや想いが繋がっています。
「焼酎を世界に広げたい」という想いもあるので、いつか竹鶴政孝さんのように海外の若者が日本に来て「焼酎を造りたい」と言って、麹造りを学び、そこからその人の母国で焼酎造りが始まったら嬉しいですね。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者に向けて、メッセージをお願いします!
中村さん:
鹿児島には、嘉之助蒸溜所だけではなく、他にも新しい蒸溜所があります。どこも焼酎製造を母体としている蒸溜所なので、ぜひ鹿児島のウイスキー文化に触れてもらいながら、鹿児島の焼酎文化にも触れてもらえると、また人生の楽しみの幅が広がると思います。
ぜひ鹿児島にお越しいただいて、いろんな蒸溜所や鹿児島の蒸留酒文化に触れてみてください。お待ちしています!
以上、嘉之助蒸溜所所長の中村さんへのインタビューでした。
南国鹿児島ならではの焼酎・ウイスキーに対する熱い想いを伺うことができました。
中村さんへのインタビューは施設内にあるバー「THE MELLOW BAR」にて行なわせていただきました。日本三大砂丘の一つである吹上浜が一望できるとても景色と雰囲気の良い場所でした。
みなさんも小正醸造から続く歴史やウイスキーへの熱い想いを感じに、嘉之助蒸溜所を訪れてください!