【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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長野県中央アルプス山系「木曽駒ヶ岳」の麓、標高798mに位置するマルス駒ヶ岳蒸溜所(旧マルス信州蒸溜所)。中央アルプスの自然の恵みを生かしながら、シングルモルト『駒ヶ岳』をはじめ、各種ブレンデッドウイスキーを製造しています。
2021年4月には、秩父蒸溜所との原酒交換により、2つの蒸溜所の原酒を組み合わせた日本初のジャパニーズブレンデッドモルトを実現し、注目を浴びました。
今回は、マルス駒ヶ岳蒸溜所長の瀬崎俊広さんと製造主任兼ブレンダーの河上國洋さんに、中央アルプスの自然環境を生かしたウイスキー造りや、マルス駒ヶ岳蒸溜所のウイスキーの魅力などについて伺いました。ぜひご覧ください!
※2024年3月1日より「旧名称:マルス信州蒸溜所」から「新名称:マルス駒ヶ岳蒸溜所」に名称が変更となりました。
瀬崎 俊広 さん 1983年 本坊酒造入社、製造部門にて知覧、鹿児島、津貫の製造・開発・研究に携わる。生物工学研究所所長、鹿児島工場工場長、知覧蒸溜所所長を歴任。2022年から現在のマルス駒ヶ岳蒸溜所 所長に就任した。 |
河上 國洋 さん(製造主任兼ブレンダー) 2015年、本坊酒造に入社。マルス駒ヶ岳蒸溜所でウイスキーの製造業務に携わる。 |
Dear WHISKY:
本坊酒造株式会社がウイスキー事業に参入したのはいつですか?
河上さん:
本坊酒造株式会社は、1949年に鹿児島でウイスキーの製造免許を取得し、1960年に本格的にウイスキー造りを開始しました。
Dear WHISKY:
1960年にウイスキー造りが本格化したのはなぜですか?
河上さん:
1960年当時、日本は高度経済成長期真っ只中で洋酒の需要も次第に高まっていたため、これまで鹿児島を拠点に焼酎を造っていましたが、本格的に洋酒の製造に踏み切りました。洋酒の生産拠点として現在の山梨県笛吹市石和町に工場を新設し、ワインとウイスキーの製造を開始しました。
その際、マルスウイスキーの生みの親である岩井喜一郎氏に製造設備の設計や製造指導をしていただきました。
Dear WHISKY:
本坊酒造株式会社は焼酎造りも行っていますが、焼酎造りとウイスキー造りの類似点は何かありますか?
河上さん:
焼酎もウイスキーも蒸留酒であることです。両方とも嗜好品で、それぞれの良さがあると思います。
Dear WHISKY:
異なる点はどのようなものがありますか?
河上さん:
原料や育った風土、麦芽や麹の製法、熟成法に違いがあり、歴史も異なります。また、アルコール度数も異なり、焼酎はおおよそ25度であるのに対し、ウイスキーはおおよそ40度から60度です。
瀬崎さん:
実際に私は、鹿児島県で焼酎造りにも携わっていました。ウイスキーと焼酎にはそれぞれ歴史があり、突き詰めていくと製造過程としてここは合う、ここは合わないという点が出てきます。そのような類似点や相違点に面白さを感じたり、新しい造り方を発見したりして、お酒造りについての考え方がさらに広まりました。
Dear WHISKY:
木曽駒ヶ岳の麓に位置するマルス駒ヶ岳蒸溜所周辺の自然環境の特徴は何ですか?
河上さん:
マルス駒ヶ岳蒸溜所は標高798mの位置にあるため、1年を通して冷涼な気候をしています。そのため、熟成がゆっくりすすみ、長期熟成したウイスキーを造ることができます。
Dear WHISKY:
その他にはどのような特徴がありますか?
河上さん:
蒸溜所の周辺が森であるため、霧が発生しやすいことです。
霧が発生するということは、湿度が高いということなので、鹿児島にあるマルス津貫蒸溜所に比べて1年当たりのエンジェルズシェア(ウイスキーが樽で貯蔵されている間に蒸発で失われるウイスキーの一部のこと)も少ないです。
蒸溜所周辺の空気が非常に澄んでいるため、木の良い香りもします。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りに適した環境なのですね!ちなみに、7月頃から8月下旬にかけてウイスキーの製造を休止しているのはなぜですか?
瀬崎さん:
夏場は微生物の繁殖が盛んなため、発酵にあまり適さない時期だということもありますが、製造を休止することで定期メンテナンスの時期としています。
Dear WHISKY:
マルス駒ヶ岳蒸溜所のある宮田村の土地が「探し求めていた理想の地」と称される理由は何ですか?
河上さん:
中央アルプスの山々に降り注ぐ雨や雪解け水が、花崗岩に磨かれることによって生まれる、天然のミネラル分をバランス良く含んだ軟水を使うことができるのは、この土地ならではの魅力だと思います。また夏と冬の寒暖差が大きいという気候条件を生かして、様々な熟成方法が行えることもウイスキー造りにおいて有利に働いています。
Dear WHISKY:
熟成に大きな影響を与える樽はどのように選定しているのですか?
河上さん:
造りたいお酒によって1つの樽ではなく様々な樽を使用しています。例えば、熟成の早いウイスキーを造るには小さい樽を使い、熟成の遅いウイスキーを造るには大きい樽を使っています。
Dear WHISKY:
樽の大きさ以外にも重視している点はありますか?
瀬崎さん:
また、新樽はもちろんリフィルも使っているため、樽の使用具合や履歴も重視しています。
Dear WHISKY:
マルス駒ヶ岳蒸溜所では、どのような発酵槽を使っていますか?
河上さん:
多種多様な原酒を造るために、ステンレス製と木製の発酵槽を使用しています。
Dear WHISKY:
それぞれどのような特徴があるのでしょうか?
瀬崎さん:
ステンレス製の発酵槽には温度調整と、手入れがしやすいという特徴があります。一方で木製の発酵槽には、木の特性として保温性が高い為、その保湿性を活かした造りができるという特徴があります。また、木に特有の乳酸菌が繁殖することで、ウイスキーに独特の風味を与えるという魅力があります。
Dear WHISKY:
マルス駒ヶ岳蒸溜所が目指すウイスキーはどのような味わいですか?
河上さん:
マルス駒ヶ岳蒸溜所は「クリーン・アンド・リッチ」を目指してウイスキーを造っています。
Dear WHISKY:
「クリーン・アンド・リッチ」とは具体的に何を指しているのですか?
河上さん:
クリーンとはすっきりとした香り、リッチとはなめらかな味わいのことを指しています。
Dear WHISKY:
マルス駒ヶ岳蒸溜所のシングルモルトウイスキーの魅力は何ですか?
河上さん:
ウイスキー造りにおいて人が関わることができるのはニューポットを造るところまでです。樽に詰めた後は自然環境に委ねることになります。
シングルモルトには他社には表現することができない、マルス駒ヶ岳蒸溜所にしかできない味だけが詰まっていることが1番の魅力だと思います。
Dear WHISKY:
駒ヶ岳の冷涼な自然環境のもとで、マルス駒ヶ岳蒸溜所特有のウイスキーを造ることができるということですね。
河上さん:
そして最後には、長年経験を積んできたブレンダーの味覚によってマルス駒ヶ岳蒸溜所のシングルモルトウイスキーが造られるというのも魅力です。
Dear WHISKY:
ブレンデッドウイスキーを造る上で、何か心掛けていることはありますか?
河上さん:
マルス駒ヶ岳蒸溜所のブレンデッドウイスキーが世間に多く出回っている今、味を一定にすることはかなり心掛けています。
Dear WHISKY:
味を一定にするためにはどのようなことをしているのですか?
河上さん:
やはりブレンダーの力量が試される場面であり、ブレンダーが味を細かく見直したり確認したりしています。また、出来上がった原酒を全て使わずに一部は残しておくといった工夫もしています。
Dear WHISKY:
『シングルモルト駒ヶ岳 2023 エディション』は何をヴァッティングして造られたのですか?
河上さん:
バーボンカスク、シェリーカスク、ポートワインカスク熟成の原酒をバランス良くヴァッティングしました。
Dear WHISKY:
『シングルモルト駒ヶ岳 2023 エディション』ならではの特徴やこだわりは何かありますか?
河上さん:
様々な原酒をヴァッティングさせたことに加えて、発酵工程で木製の発酵槽を使った原酒も使用したこともこだわりの1つです。木製の発酵槽は2019年に設置されましたので、それ以前は使用していませんでした。
そのため、『シングルモルト駒ヶ岳 2023 エディション』はマルス駒ヶ岳蒸溜所の定番のシングルモルトを見据えた商品になっています。
Dear WHISKY:
様々な原酒をヴァッティングしたり木製の発酵槽を使ったりすることによって、『シングルモルト駒ヶ岳 2023 エディション』は今までに無いものになったということですね!
河上さん:
毎年多くの方から「シングルモルト駒ヶ岳」についてお褒めの言葉を頂きますが、今回の『シングルモルト駒ヶ岳 2023 エディション』はかなり進化したウイスキーになっていると思っています。
Dear WHISKY:
10月下旬より発売された『マルスモルト ル・パピヨン ダブルカスク ミヤマシジミ』を造ろうと思ったきっかけは何ですか?
河上さん:
ウイスキーの熟成環境を形成する日本の四季折々の気候風土と自然環境の素晴らしさを、日本に生息する蝶をモチーフにして造られたウイスキーのシリーズです。蝶をモチーフにした理由の一つに本坊社長が蝶が好きだったからという点もあります。
Dear WHISKY:
そのモチーフが「ミヤマシジミ」という蝶なのですね。
河上さん:
この「ミヤマシジミ」という蝶はマルス駒ヶ岳蒸溜所周辺に特に多く生息している絶滅危惧種に指定されている蝶です。
そんな青紫色の羽が美しいミヤマシジミが深山のブルージュエリーにも例えられる姿をイメージして、シェリー樽で熟成した2つの樽をヴァッティングしました。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者に向けてメッセージをお願いします!
河上さん:
ぜひマルス駒ヶ岳蒸溜所に足を運んでいただきたいです。実際にどんな環境でウイスキーが造られているのかを体感してもらうことでマルスウイスキーへの理解がより深まると思います。
蒸溜所のイメージや自然環境の良さを感じながら飲むウイスキーは、美味しさが更に増すのでぜひ蒸溜所見学にお越し下さい!
瀬崎さん:
遠方の方だと足を運ぶのは難しいかもしれませんが、マルス駒ヶ岳蒸溜所に興味を思っていただけるだけでもありがたいです。
以上、マルス駒ヶ岳蒸溜所所長の瀬崎俊広さんと製造主任兼ブレンダーの河上國洋さんへの独占インタビューでした!今回のインタビューでは、マルス駒ヶ岳蒸溜所のウイスキー造りや、豊かな自然環境、マルスウイスキーの魅力などについて伺うことができ、どれも非常に興味深いお話でした。
また、マルス駒ヶ岳蒸溜所に興味を持たれた方は、ぜひ蒸溜所に足を運び、雄大な自然林などの自然の魅力や蒸溜所の雰囲気を感じながら、マルスウイスキーを楽しんでみてはいかがでしょうか?
マルス駒ヶ岳蒸溜所の様子や魅力をお届けする現地レポートもぜひご覧ください!