【独占インタビュー】ロバート・バーネカー、ソナト・バーネカー夫妻<第2弾> – KOVAL
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- 蒸溜所(海外)
「日本で本物のウイスキーをつくりたい」という創業者・竹鶴政孝氏の情熱からはじまったニッカウヰスキーのウイスキーづくりは来年で創業90周年を迎えます。
今回は、ウイスキーのさらなる未来を実現するために、ニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝さんがニッカの第2の蒸溜所として築き上げた宮城峡蒸溜所に伺い、蒸溜所を支える工場長の笹村欣司さんに独占インタビューを行いました!
宮城峡蒸溜所や笹村さんのウイスキーづくりに対する想い、100周年を迎える日本のウイスキーに対してなどを伺いました。ぜひ最後までご覧ください!
宮城峡蒸溜所の様々なことを知ることができる、宮城峡蒸溜所現地レポート編もご覧ください!
蒸溜所名 | ニッカウヰスキー株式会社宮城峡蒸溜所 |
創業(生産開始) | 1934年(宮城峡蒸溜所 1969年) |
本社所在地 | 宮城峡仙台市青葉区ニッカ1番地 |
工場電話番号 | 022-395-2111 |
工場長 | 笹村 欣司 様 |
その他 | 蒸溜所HPはこちらから 蒸溜所見学についてはこちらから |
Dear WHISKY:
余市に続く、第2の蒸溜所を設立した背景したのはなぜだったのでしょうか?
笹村さん:
創業者である竹鶴政孝の想いに応えるためにも設立しました。
竹鶴政孝はスコットランドに留学し本場のウイスキーづくりを学びました。その経験を活かして日本国内で蒸溜所を設立しようと考えたようです。
Dear WHISKY:
そうなんですね!蒸溜所を設立する際に特に意識していたポイントなどはありましたか?
笹村さん:
スコットランドの特徴と似せることを意識していました。最初余市に蒸溜所を設立したのもスコットランドの気候に似ていたからです。
また、竹鶴政孝の『違うタイプのモルトをつくりたい』という想いもあったので、余市蒸溜所がハイランドタイプ、宮城峡蒸溜所がローランドタイプとして設立することになりました。
Dear WHISKY:
他に蒸溜所設立において大切な条件であったものありましたか?
笹村さん:
自然が豊かであることと、水がきれいであることだと思います。
余市蒸溜所は海と川に囲まれている蒸溜所なのですが、逆に二つ目の蒸溜所を設立する際は緑に囲まれた自然豊かな山のある土地につくりたいという想いがあったと思います。
竹鶴政孝の息子である竹鶴威が新工場設計の責任者として様々な候補地を用意したと聞いています。
Dear WHISKY:
様々な候補地の中でなぜこの宮城峡の地をお選びになったのでしょうか?
笹村さん:
決めては水です!
竹鶴政孝は最初に訪れた宮城峡の地で、持っていたブラックニッカを新川(にっかわ)の水で割って水割りを飲みました。
その水割りのあまりのおいしさに感動し、他の候補地を訪れず宮城峡での工場設立を決めました。
Dear WHISKY:
新川の水質で決められたんですね!
笹村さん:
新川の良い水質を味で感じたようです。また実は、ヨーロッパ系の水は硬度の高いものが多いですが、新川の水は軟水です。
ちなみに、蒸溜所内の蛇口をひねると出てくる水はこの新川の水ですので、竹鶴政孝と同じようにブラックニッカの水割りも楽しめますよ。
Dear WHISKY:
その水質がウイスキーにどのような影響を与えていると思いますか?
笹村さん:
軟水を使用しているので柔らかな味わいになると考えています。
軟水と硬水というのはかなり違う特徴を持ちます。例えば、日本茶をヨーロッパなどの硬度が高い場所の水を使って淹れようとすると日本茶の良さがでません。
それと同様に日本でつくるウイスキーは硬度の高い水よりも軟水の方が適していると思います。
Dear WHISKY:
なるほど!ちなみに、どのような自然環境が宮城峡に良い影響を与えていますか?
笹村さん:
宮城峡は新川と広瀬川に囲まれているため、湿気が多く日によっては霞がかかります。その湿気が多いという特徴がウイスキーの熟成に良い影響を与えると感じます。
多湿だから貯蔵に向いているため、この土地を選んだのではないかなと思いますね。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所の工場長として蒸溜所を見たからこそ感じる、宮城峡の土地の良さはありますか?
笹村さん:
私はこの宮城峡に、2015年から4年間製造部長として、去年の3月から工場長として勤務しております。
製造という点から離れてしまいますが、湿気の多さによって生まれる霞がかる幻想的な景色がいいなと感じます。
Dear WHISKY:
工場長になる前から製造部長としてご活躍なさっていたんですね!
笹村さん:
余市には余市ならではの、宮城峡には宮城峡ならではの良い部分があると思っています。だからこそ、それぞれで良いものをつくり、いろいろな個性のある原酒をつくれたらいいと思っています。竹鶴政孝もその土地で貯蔵してその土地のエッセンスが入ったものが商品になればいいのではないかと考えていたと思います。
Dear WHISKY:
土地の起伏に沿って蒸溜所内の建物が建てられていると感じたのですが、施設を建設するときに建物の標高差を平坦にせず自然体のまま建設したのはなぜですか?
笹村さん:
竹鶴政孝の『自然の形を残した形で木などを伐採せずに蒸溜所を建設したい』という想いがあり、ありのままの土地の特徴を利用して施設を建てました。
Dear WHISKY:
他にもそのような自然への配慮はあるのでしょうか?
笹村さん:
電線や電柱がないことです!厳密に言うと見えないように地中に埋めています。
竹鶴政孝はこの蒸溜所を訪れて見て楽しんでいただける場所にしたいという想いのもと、その景観を守るために創業当時から電線を埋めて見えないような工夫をしていました。
また、竹鶴政孝は絶対に水田だけは残さなくてはならないという話をしていたようです。
Dear WHISKY:
どうして水田だけは残さなくてはならないと話されたのですか?
笹村さん:
当時はこの周りに水田が少なかったそうで、『水田はお米を作る際に使われてきた日本の大切な財産だ、だからこそ水田だけは残すように』と言っていたそうです。
Dear WHISKY:
地域の環境に配慮した蒸溜所なんですね!
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所は国内で2番目の広さを持つ蒸溜所ですが、どのような施設があるのでしょうか?
笹村さん:
モルトウイスキーをつくるためのモルトを貯蔵する棟、モルトを粉砕するものが置いてある棟、粉砕したモルトを仕込みする棟、発酵タンクがある棟があり、その後蒸溜して樽詰めをし貯蔵できる棟、さらにそれらをブレンドする棟があります。昔はビン詰めをしていたのでその施設もありました。
貯蔵庫については、平屋の低層貯蔵庫と中層貯蔵庫が蒸溜所内にあります。
Dear WHISKY:
なるほど!他にはどのような施設がありますか?
笹村さん:
あとは、グレーンウイスキーをつくるために、材料であるトウモロコシを粉砕して、水と混ぜ、もろみの状態にするための醸造設備、グレーンウイスキーを蒸溜するカフェ式連続式蒸溜機の入った建物があります。すべての工程が終了すると生じる麦の残渣を加工・貯蔵するための設備もあります。
さらに新川の水をウイスキーづくりに使用しているので、新川の水を飲み水にする処理設備や工場から出た排水を法令に則ってきれいにして戻す排水処理設備もあります。
Dear WHISKY:
今もなお自然に配慮しているんですね!
笹村さん:
私たちは新川の水をお借りしてウイスキーをつくらせていただいているので、戻した水を水田などで使用する方が困らないようなきれいな水にしていくのも私たちの使命だと考えています。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所特有の施設についてお聞きしたいです。
笹村さん:
宮城峡蒸溜所では、蒸溜の際に間接蒸溜方式を使っています。
Dear WHISKY:
ちなみに、余市蒸溜所ではどのような方式を使用しているのですか?
笹村さん:
石炭直火蒸溜方式です。石炭で燃えた火力が800度から1,200度くらいで、熱がダイレクトに釜に伝わります。またポットスチルの形は、ストレートで上がってアームも下に落ちているのでかなり力強いものになるため重厚な味わいになります。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所の特徴である間接蒸溜方式はどのような蒸溜方法なのでしょうか?
笹村さん:
宮城峡蒸溜所の間接蒸溜方式とは、間接加熱というもので120度から130度の柔らかい熱を釜に伝えています。それに加えてラインアームが上向きで何度も還流が起きるので、軽やかなものになります。
Dear WHISKY:
やはり蒸溜方式が異なると味わいも変化しますか?
笹村さん:
同じもろみで蒸溜しようと思ったとき、余市蒸溜所の蒸溜方法と宮城峡蒸溜所の蒸溜方法では全く異なるウイスキーになりますね。蒸溜の違いはウイスキーづくりにおいて大きい影響を与えると思います。
Dear WHISKY:
またなぜ宮城峡蒸溜所では、バルジ型のポットスチルを使用しているのでしょうか?
笹村さん:
理由としては、余市蒸溜所のウイスキーとは異なる柔らかいタイプのウイスキーをつくりたかったからです。
余市蒸溜所は力強い味わいが特徴として挙げられるので、異なるタイプのウイスキーをつくるのであれば異なる蒸溜方法を用いるべきという考えですね。
1969年の生産開始当初からこのバルジ型のポットスチルを使用しています!
Dear WHISKY:
宮城峡の特徴としてカフェ式連続式蒸溜機もありますが、この特徴はどのようなところにありますか?
笹村さん:
カラムという塔はその塔を通るたびに不純物をとったり嫌な臭いや成分をとるものなのですが、宮城峡蒸溜所で使っているのは一般的なものよりも少ない2つしかカラムがないため、原料の特徴が残りやすいです。
Dear WHISKY:
最初から原料の特徴を残そうと思っていたのですか?
笹村さん:
そうです。竹鶴政孝がスコットランドに行ったときに現地の蒸溜機を見て、『何塔もカラムがあり原料の特徴がなくなるより、少ないカラムで原料の特徴を残したものをつくりたい』と感じ、その想いを繋ぐためにも現地の蒸溜機と同じ形の物を設置しました。
Dear WHISKY:
キルン塔(乾燥塔)ではどのような特徴がありますか?
笹村さん:
現在は海外から購入した麦芽を使用していますが、以前はキルン塔(乾燥塔)があったので購入したものに加え自分たちでも麦芽を作っていました。作っていた当時は、大麦を購入し水を吸わせて発芽させ乾燥するという製麦の工程もありました。
Dear WHISKY:
いつ頃までキルン塔で麦芽を作っていたのですか?
笹村さん:
1969年から6年か7年ほどは製麦を行っていました。
ちなみに麦芽を最後に乾燥させていたのは耐久性を上げるためです。水分が多いと腐ることがあるので一定の水分量にすることで長く保存することができます。
またキルン塔でピートを使用することもあり、ピート香のある麦芽を製造していました。
Dear WHISKY:
その後に行うマッシングとはどのような工程なのでしょうか?
笹村さん:
乾燥した後は麦芽を粉砕します。粉砕の度合いを調節して最適な形にしていきます。その後、水と粉砕したものを混ぜ合わせます。
混ぜ合わせたものを麦汁というのですが、麦汁は濁りのあるものよりもない方が良いものが出来るので、濁らないように粉砕の度合いや濾過の方法を調節する必要があります。
Dear WHISKY:
他にもマッシングで気を付けている点はありますか?
笹村さん:
麦芽の種類が変わっても粉砕の状況を一定にすることです。
色々な国の麦芽を使うと、当然それぞれの硬さなど状態が異なるものが出てきます。しかし完成する麦汁は濁りのないきれいなものをつくりたいので、粉砕する段階で確認をしながら麦汁を作っています。
Dear WHISKY:
実際に粉砕の状況を変えるのはどのような時ですか?
笹村さん:
麦芽を粉砕するときにロールの間隔があるので、その間隔を調整して一定の粉砕にするようにしています。
粉砕を変えるというよりは、生産年が変わると今まで使用していたものとは異なった特徴が出てきたり、大麦も日本のお米のように品種改良することがあるので、その変化点を確認して調整しています。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所には8つのポットスチルがありますが、床の高さが異なるのはなぜでしょうか?
笹村さん:
入り口から4つ目のポットスチルまでの床のほうが、残り4つのポットスチルの床よりも高いです。
宮城峡蒸溜所ではポットスチルを2回に分けて設置しました。最初は1969年に4つ設置し、その6年後の1975年に残り4つのポットスチルを設置しました。最初の4つのものに比べて、後に設置した4つは容量拡大のためサイズを大きくしました。
同じ施設内に設置するためには床を下げて高さを合わせる必要があったので、同じ建物で床の高さが違うところに合計8つのポットスチルが設置される形になりました。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所ではどのような貯蔵方法を行っているのですか?
笹村さん:
樽を棚にいれ最大5万樽貯蔵できる貯蔵庫と、樽を積み重ねず保管している貯蔵庫の2つがあります。
本当は重ねていない貯蔵庫であっても、2段3段と積むことは可能です。しかし現在は高層の貯蔵庫に貯蔵することができているので、1段積みの形をとっています。高層の貯蔵庫は自動で動かすことができます。
Dear WHISKY:
積み重ねて保管する場合と積み重ねずに保管する場合の違いは何ですか?
笹村さん:
高層で貯蔵したものと低層で貯蔵したものでは熟成度合いが異なりますが、各原酒を官能して、酒の特徴に合わせて使い分けてブレンドしています。逆に言うと貯蔵の違いが、原酒のバラエティーになり、様々な味わいのお酒をお客様に提供できます。
Dear WHISKY:
貯蔵庫内は窓がついていましたが、寒暖差によって熟成にはどのような影響を与えますか?
笹村さん:
寒暖差によって熟成のスピードが違います。
ただ、色々なタイプのお酒があるので熟成スピードはどれほどがいいのかというのはありません。
貯蔵庫が変わっても、貯蔵する場所が高層であっても、低層であっても、そこで生まれる様々なタイプの原酒をもとに良い商品をつくりたいという考えです。
これが出来るのは日本のウイスキーのブレンド技術が高いからこそだと思います。
Dear WHISKY:
様々な原酒が誕生する中で、新たな開発として宮城峡で考えていることはありますか?
笹村さん:
一緒に働いている若いスタッフは新しい取り組みをやってみたいと話しています。
スタッフ全員が新しいことに挑戦したいという気持ちを持っているので、定期的にブレンダー室と意見交換をしています。
将来の宮城峡のためにも、挑戦することをやめずに新しい原酒づくりをしています。
Dear WHISKY:
未来の宮城峡スタッフに託すためにも、挑戦し続けるのですね!
笹村さん:
また、日本では他社との原酒の交換や購入が難しいということもあります。
スコットランドでは原酒交換や購入の文化がありますが、日本ではこのような文化がないため自社で豊富な種類の原酒をつくるしかありません。
ただ、このような文化があるからこそお互いに切磋琢磨できるとも思っています。
Dear WHISKY:
もし日本に原酒の交換や購入の文化があった場合に原酒交換したい場所はありますか?
笹村さん:
難しいですね(笑)
私としても他社さんのウイスキーでいいなと思ったりすることもありますし、宮城峡蒸溜所とは違うタイプだなと思うときもあります。ただいいなと感じたウイスキーが将来的に違う形になる可能性があるので、自分たちでも様々なタイプの原酒を持っているのが良いのかなと感じますね。
一つの原酒で商品にするのは難しいことですが、原酒を一部だけ混ぜ合わせるとガラッと味が変わるので選択肢が増えると思います。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所で意外な特徴を持つウイスキーはありますか?
笹村さん:
宮城峡のピーテッドでしょうか。
当時、ブレンダーと定期的に打ち合わせをしておりました。
それまではライトピートの麦芽を使っていたのですが、宮城峡蒸溜所でもヘビーピートでつくってほしいという話をもらったのがきっかけのウイスキーです。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所では珍しいピーテッドづくりにはそのような背景があったのですね!
笹村さん:
ただ実際製造するとなると、色々悩みは尽きませんでした。
ヘビーピートをつくることで、においが残り他の原酒をつくるときに影響が出てしまうのではないかという心配をしました。
初めてピートが強い原酒をつくることに挑戦したので、不安なところは余市蒸溜所のスタッフに相談しました。
Dear WHISKY:
なぜ余市蒸溜所の方々に相談したのですか?
笹村さん:
宮城峡蒸溜所に比べて余市蒸溜所ではピートが効いたものをつくっているからです。製造した際に原酒に強いピート香が残るのではないかというところが1番心配だったのですが、洗浄すれば問題ないということを教えてもらったりしました。
Dear WHISKY:
宮城峡蒸溜所のウイスキーの特徴は何ですか?
笹村さん:
複数のキーモルトがあり、その中にフルーティー&リッチやモルティ&ソフト、シェリー&スイートがあります。これらの特徴は柔らかくて優しい味わいですが、華やかなエステル香を生産する酵母を使うなど、優しい味わいだけではなくモルトの特徴を残すつくりをすることもあります。
Dear WHISKY:
宮城峡のウイスキーを支えるキーモルトはどのようにつくられていますか?
笹村さん:
フルーティリッチに関しては、果実のような香りが出るような酵母を使っています。
モルティソフトについては、麦芽の特徴を活かしていけるようなつくりをして、原料の特徴が残るようにしています。
Dear WHISKY:
笹村さんの印象に1番残っている商品は何ですか?
笹村さん:
どれもすごく印象に残っていますが、1番となると『ザ・ニッカ40年』というニッカ創業80周年記念の時に販売されたものだと思います。当時はビン詰め工場に勤務していたのでビン詰めの時に少し試飲しました。非常に美味しかったです!
Dear WHISKY:
ニッカディスカバリーシリーズとして、今まで大々的に出すことが無かったブレンデッドのグレーンウイスキーが決まった時はどのようなお気持ちでしたか?
笹村さん:
私たちはカフェ式連続式蒸溜機を使ったグレーンウイスキーを使っていますが、どちらかというとモルトウイスキーの方が上でグレーンウイスキーの方が下に見られがちな印象があります。
しかし私としてはカフェ式連続式蒸溜機でつくったグレーンウイスキーを飲む機会が多く、バニラの香りのする甘くてとても良いものが出来ていると自負しています。
だからこそ何より嬉しい気持ちでしたね!
Dear WHISKY:
本年発売された、ニッカ ザ・グレーンとはどのような商品ですか?
笹村さん:
宮城峡蒸溜所の原酒と生産機能移管する前の西宮工場の原酒に加えて、主に焼酎を製造している門司工場とさつま司蒸溜蔵のグレーンウイスキーをブレンドした商品です。
Dear WHISKY:
九州の方でもウイスキーを製造しているのですね!
笹村さん:
それぞれの工場でウイスキー原酒をつくっているのは知っていましたが、まさかそれを混ぜて1つのものをつくろうということになるとは思いませんでした。
Dear WHISKY:
新しいニッカが誕生するということでしょうか?
笹村さん:
そうですね。実際に私も飲んだのですが、非常にいいものができていました。ぜひ味わってください!
Dear WHISKY:
ウイスキーづくりに携わるきっかけは何でしたか?
笹村さん:
入社後の約10年間はビールづくりに携わっており、その後はビール以外のお酒を扱うようになりました。当時働いていた工場の横にウイスキー工場があったことや、ウイスキーを普段から飲むこともあり、いずれはウイスキーと関わった仕事がしたいと思っていたのがきっかけです。そして念願が叶って宮城峡蒸溜所の製造部長としてウイスキーづくりに携わることが出来ました!
Dear WHISKY:
製造部長として実際に宮城峡蒸溜所に配属された時はどんなお気持ちでしたか?
笹村さん:
何よりウイスキーづくりに携われる喜びでいっぱいでした!
またちょうど2015年がマッサンの放映でウイスキーブームになっている時期だったので、当社としてもウイスキーが注目されていました。その時期に部長をさせていただけるということは嬉しかったですね。資金もいただけたので、どうやって増産するか考えたりして、とてもやる気に満ち溢れていた瞬間だったと思います!
Dear WHISKY:
ビール製造に長年携わってきたということですが、ビールとウイスキーで通ずるところはありますか?
笹村さん:
濾過をすることで綺麗な麦汁をつくりたいという考え方や発想は一緒です。ビールは商品によって麦芽100パーセントではないのに対して、ウイスキーは100パーセントでつくっている点は異なりますが、粉砕や濾過などの調整をする際はビール製造で得た経験が役に立ちました。
Dear WHISKY:
他の種類のお酒の製造からウイスキーの製造に携わるようになって大変だったことはありましたか?
笹村さん:
やはり、蒸溜工程は大変でしたね。他にもビール製造にはない工程や難しさになれるのも大変でしたし、ウイスキー用語は正直あまりわからなかったです。
しかしその中で、新しい経験を沢山できましたし、何年もかけてつくり上げるウイスキーにはロマンも感じました。
Dear WHISKY:
笹村さんは工場長としてどのようなお仕事をなさっていますか?
笹村さん:
工場をうまく回すのが私の仕事ですが、製造部長をはじめとしたメンバーのおかげで問題なく工場が回っています。またウイスキーは何年もかけて完成させるお酒なので、幹部の人たちと2年後3年後の工場について考えます。
しかし一番考えるのは工場の『人』についてですね。
定年する社員も多い中でどのように若い社員を育成するか、働いている社員のキャリアアップのために何をすればいいかということなどを考えています。
Dear WHISKY:
工場長として働く中での楽しさはどのような点ですか?
笹村さん:
今まで自分が製造に携わってきた原酒が今実際に商品になって、お客様に届いていることです。自分だけではなくて先輩方がつくったものなどが受け継がれていくというのも嬉しいです。
実際に商品をみて「あ、本当に自分の原酒が入っている」と再確認したこともあり、その時は何とも言えない感動を感じましたね!
Dear WHISKY:
国内外で日本のウイスキーの人気が高まってきていると思うのですが、1人のつくり手としてその理由はなぜだとお考えですか?
笹村さん:
良いウイスキーを多くの方に飲んで頂きたいという情熱を強く持ってウイスキーをつくっていることだと思います。
近年コンテストなどで日本のウイスキーも評価されはじめたのは、一人でも多くの人に本物のウイスキーを飲んでほしいといった想いを持って懸命にウイスキーづくりに励んできたからですね。
Dear WHISKY:
そのような日本のウイスキーの特徴は何でしょうか?
笹村さん:
日本のウイスキーの製造面での特徴はブレンドする技術に長けている点だと思います。ニッカウヰスキーにおいてはスコットランドでベン・ネヴィスという蒸溜所を持っており、ベン・ネヴィスにはその特徴にあった原酒をつくるため日本のウイスキーにはないウイスキーもつくっています。
だからこそ、このような多種多様な原酒のブレンド技術がニッカのウイスキー、ひいては日本のウイスキーの特徴だと感じます。
Dear WHISKY:
今年は日本のウイスキーが100周年を迎えますが、ウイスキーのつくり手としてどのような想いで100周年を過ごしていきたいですか?
笹村さん:
皆がこのタイミングでウイスキーづくりに携われるわけではないので、100周年という節目の年に工場長という立場で携わることができるのはありがたい限りです。
しかしスコッチウイスキーの歴史に比べたら日本のウイスキーの歴史はまだまだ若いので、情熱を持って長く続けていきたいと思っています。
さらに海外のお客様からも高い評価をいただいているので、日本のウイスキーの高い評価を落とさないようにしながら、多くの人に飲んでもらえたら嬉しいです。
Dear WHISKY:
来年ニッカウヰスキーも創業90周年という節目の年を迎えますが、工場長としてどのような想いでしょうか?
笹村さん:
節目の年にこの場にいられるっていうことはとても貴重な機会だと思っています。これを機に「創業90周年のあの行動によって、変わったよね。」と思えるために今何ができるのかをみんなで考えています。
Dear WHISKY:
工場長としてこれからどのようにウイスキーづくりに携わっていきたいですか?
笹村さん:
節目の年の工場長だからこそ責任感はありますが、とにかく自分が持っている力を全て出していきたいと思います。また先ほども言ったように創業90周年というのはまだまだ短い歴史なので、原酒を先人から自分、そして後継者に繋いでいかなければいけません。
竹鶴政孝の『一人でも多くの人に本物のウイスキーを飲んで欲しい 』という想いや、単身でスコットランドに乗り込んでウイスキーについて学んだという情熱的なところと、伝統的なところをうまく噛み合わせて繋いでいきたいです。
Dear WHISKY:
竹鶴政孝さんは日本人に本物のウイスキーを届けたいという想いを持っていたと思いますが、笹村さんはどのような想いがありますか?
笹村さん:
まだウイスキーを手にする人は少ないと思うので、まずは手にとっていただける機会を増やしたいですね。ウイスキーを含めた飲酒人口が減ってきているので、我々はウイスキーを通じてお酒の良さを国内外に発信していけたらと思っています。あと宮城峡蒸溜所の認知度をあげて1人でも多くの方に来ていただくのが我々のミッションでもあると思っています。
Dear WHISKY:
笹村さんにとってウイスキーはどんな存在ですか?
笹村さん:
やはりウイスキーは人と人を結びつけてくれるものだと思います。ウイスキーに関わったことで、この宮城峡蒸溜所で勤務できていますし、同業他社さんとも繋がりができました。
自分がつくった原酒が後世に繋がれていくからこそ、ウイスキーが色々なところと繋げてくれる1つの木のような存在です。
Dear WHISKY:
最後にDear WHISKYの読者の向けてメッセージをお願いいたします!
笹村さん:
現在日本のウイスキーの人気が非常にあって、ウイスキーブーム前からファンだった方々にも十分な商品が供給できていないことを非常に申し訳なく思っています。しかし数年経てば現在原酒をつくっている分の熟成が完成できるので、商品不足ということも減るかと思います。竹鶴政孝の『本物のウイスキーを皆さんに飲んでいただきたい 』という想いを受け継ぎ、国内外の皆さんに満足していただけるものを出せるようになるまでぜひ楽しみにお待ちいただけますと幸いです!
以上、宮城峡蒸溜所の笹村さんでした。
ウイスキー以外のお酒づくりから始まった笹村さんと、お酒づくりの関わり合いから次の世代に繋いでいくウイスキーづくりへの想いまで様々なことを伺いました。
美味しいウイスキーをつくるために、そのウイスキーをつくる人とどう繋がっていくのか、そして竹鶴政孝さんの想いをどう守るか、日々試行錯誤されるその姿に感銘を受けました。
宮城峡蒸溜所の笹村さん、ありがとうございました。