【現地レポート】霧島の自然と75年以上の焼酎製造で培った技術を持つ横川蒸留所
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創業200年以上続く老舗酒蔵 篠崎酒造が、焼酎・ジンを製造する朝倉蒸溜所に続いて、2021年にウイスキーを製造する「新道蒸溜所」を設立しました。
この度、実際に新道蒸溜所にお伺いし取材をさせていただきましたので、その様子をお送りします!独占インタビュー編の今回は、株式会社篠崎 8代目の篠崎倫明さんへのインタビュー記事です。ウイスキー造りへの熱い想いやこだわり、今後の目標についてお伺いしました!
福岡の地で200年以上前から清酒・焼酎・あまざけなどの酒類を造り続けてきた篠崎酒造が、2021年のウイスキー事業開始に伴い新設した新道蒸溜所。
「THE QUEST FOR THE ORIGINAL(独創性の追求)」をコンセプトに、基本を押さえた上で、世の中に普通にあるものではなく、これからのスタンダードになるものを追求するべく、常に新しいことに挑戦し続けています。
化学的根拠をもって表現される「重層的な香り」のウイスキーが特徴的な、今後が楽しみな蒸溜所です。
蒸溜所名 | 新道蒸溜所 |
所在地 | 福岡県朝倉市比良松626―1 |
Dear WHISKY:
新道蒸溜所は福岡初のウイスキー蒸溜所ですが、蒸溜所のある福岡県朝倉市という土地柄がウイスキー造りに与える影響はありますか?
篠崎さん:
もちろんあります!ウイスキー造りにおいては、質及び量の担保された、「水」の確保が肝要です。
ここ朝倉市の一部では、実はまだ上水が通っておらず、地下から汲み上げた水を使用しています。
降水量も多く、時間をかけて地下水となり、それを汲み上げてウイスキー造りに使用しています。
Dear WHISKY:
お酒造りに適した土地なのですね!
雨が多いというお話でしたが、今後ウイスキーの熟成に影響はありそうですか?
篠崎さん:
そうですね。樽で熟成している原酒の度数の変化等、様々なことに影響してくると思います。
具体的には、夏は気温が40℃近くになるほど暑く、降水量も多い事など、多湿な気候ですが、冬は氷点下の気温となるほど寒く、降水量自体も少ない乾燥した気候となります。この気候がウイスキー造りや熟成にどのように影響してくるのかは、実際にやってみなければわからないところでもありますね。
Dear WHISKY:
大分県の日田市にて林業も営まれていると思うのですが、ウイスキー事業にも関係しているのでしょうか?
篠崎さん:
実は、「森から育てるウイスキー 」というプロジェクトを行っています!
Dear WHISKY:
その取り組みを始めたきっかけとして、どのようなことがあったのですか?
篠崎さん:
2017年の九州北部豪雨の際に、川に面している本社(篠崎酒造)が浸水し、かなり大変な時期を過ごした経験があります。幸いなことに弊社自体は色々な方のご尽力もあって、なんとか復興しここまでくることができました。しかし、周りの山林を見渡して見ると、樹木が脱落し、未だに茶色の山肌が露出しているのがお分かりいただけると思います。幸いなことに少し離れた場所にある弊社保有林からの流木被害などはなかったのですが、水害で近隣の山林から木々が流れ、住民の皆様の財産を傷つけたことを目の当たりにし、林業家として何かできないかと考えたことがプロジェクトを始めたきっかけです。
Dear WHISKY:
大変な時期を過ごされたご経験がおありなのですね。6年経った今でも傷跡が残っていることから、被害の大きさが伺えます。プロジェクトの内容としては、具体的にどのようなことをされているのですか?
篠崎さん:
九州大学の先生にもアドバイスを受け、水害で脱落した針葉樹が下流に流れるのを堰き止められるよう、谷筋にミズナラなどの広葉樹の植林をしています。周辺住民の皆さんが住みやすい町づくりに少しでも貢献できればな、という想いでこのプロジェクトを行っています。また、将来的には自社林で育てた木材を使用した樽でウイスキーを熟成したいと考えています。
Dear WHISKY:
篠崎酒造さんとしては、日本酒や焼酎など長年お酒を造り続けられており、200年以上積み上げられた技術をお持ちですが、新たにウイスキーを造られる上で苦労した点はありますか?
篠崎さん:
以前からウイスキーを造りたいという想いがありましたが、ウイスキーは日本酒や焼酎などと違い、「始めたい」と思っても教えてくれる教本がないんです。そこが大変でしたね。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りを教えてくれる教本もない中で、どのようにウイスキー造りを始められたのですか?
篠崎さん
正直、最初はどうしようか悩んでいました。他の蒸溜所さんのお話を聞いたり、先輩方のクラフトの造り方を参考にすることもできるな、と思っていた時期もありました。しかし、弊社のウイスキー造りにおけるフィロソフィーとは何か?と問われた時に、自然環境だけを売りにし、日本の地で、日本の水を用いて、原酒製造を行うだけでは不十分だと思い至りました。私たちがもともと携わっている日本酒・焼酎・甘酒などもそうですが、やはり日本のアルコール業界の強みの本質とは、微生物のコントロールなどにあると思うのです。そのような想いを口にしたところ、ご縁あって同じ哲学をお持ちのウイスキー造りに精通した方をご紹介していただくことができ、ウイスキー造りを始めることができました。
Dear WHISKY:
「NEW MAKE」はマイナーな香りを大切にした“重層的な香味”が特徴的とのことですが、香りを出すためにこだわった点はありますか?
篠崎さん:
もろみを独自に形成管理して、多様な香りの成分を醸成することにこだわりました。全体におけるごくわずかな香りですが、そこにこだわることがとても重要です。
Dear WHISKY:
ボトルにはどのような想いが込められているのですか?
篠崎さん:
挑戦をすることの大切さですね!
「THE QUEST FOR THE ORIGINAL(独創性の追求)」とラベルにも書いてあるのですが、挑戦する人に対して寛容な社会、国、業界であって欲しいという想いを込めています。
Dear WHISKY:
2023年でジャパニーズウイスキー100周年を迎えますが、造り手としてどのようなご感想をお持ちですか?
篠崎さん:
クラフトの新興蒸溜所なので、まずは先輩の皆様が作っていただいた道を汚さないよう努めていきたいと考えています。
Dear WHISKY:
次の100年に向けて、新道蒸溜所のこれからの意気込みをお聞かせください。
篠崎さん:
中小企業として、大手ではできないような新たな挑戦を続けていきたいです。
伝統を守ることはもちろん大切ですが、既成の概念から抜け出すことがなければ、業界が発展せず、何よりお客様を魅了することができないと思うからです。新たなチャレンジや偶然から生まれることもきっとあるのではないかと思います。新道蒸溜所は、「THE QUEST FOR THE ORIGINAL(独創性の追求)」をコンセプトに掲げており、お客様にワクワクしていただけるような商品やサービスを提供したいという想いがあります。今後は、海外のお客様も含め、ジャパニーズウイスキーだから買いたいというのではなく、「新道蒸溜所のウイスキーだから買いたい」と思っていただけるような存在として成長していきたいです。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者に向けてメッセージをお願いします。
篠崎さん:
これから、私たちも色んなウイスキーに出会ったり、教えていただいたりして、どんどん経験を積んで行かなければいけない立場なので、造り手であると同時に、皆さんと同じようにウイスキーのファンでもあります。ウイスキーファンの皆様と一緒にウイスキーというカテゴリーを盛り上げていけるようになればいいなというように思っています!
以上、インタビュー記事でした。
先を見据え、新しい挑戦を続けられる姿がとても魅力的で、お話を聞いていてとてもワクワクしました!
新道蒸溜所の今後の取り組みやウイスキーの完成がとても楽しみです。
篠崎さん、貴重なお話をありがとうございました!
今回お話いただいた新道蒸溜所の工場部分の見学も行ってきましたので、ぜひお読みください!