【現地レポート】江戸から続く伝統を礎に、自由な発想をもとに挑戦を続ける朝倉蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
日本のモノづくりを長年支え続けた吉田電材工業の誇る「Made In Japan」は、日本の品質の高さを象徴するブランドです。
戦後の高度経済成長期を「モノづくり」で支えた技術力と情熱を現在はウイスキー造りに注いでいる吉田電材蒸留所。
今回は日本初のクラフトグレーンウイスキー専業の蒸留所である吉田電材蒸留所の代表取締役社長松本さんとセールスマーケティング部チーフ榎本さんに独占インタビューを行いました!今回の記事は2段構成となっており、第1弾では吉田電材蒸留所のウイスキー事業の起源やMISSIONに焦点を当てていきます!
工業という異業種からの参入をした吉田電材蒸留所が想い描く「ジャパニーズウイスキーをもっとジャパニーズウイスキーにする」というMISSIONについても深く知ることができるので、ぜひ第1弾の記事をお楽しみください!
吉田電材蒸留所は2022年3月26日に日本初のクラフトグレーンウイスキー専業の蒸溜所として設立され、同月30日にウイスキー製造免許を取得しました。
昭和15年から80年以上にわたって「日本のモノづくり」に貢献してきた吉田電材工業の技術力と情熱を、「ジャパニーズウイスキーをもっとジャパニーズウイスキーにする」というMISSIONを掲げ、現在はウイスキー造りを行っています。
会社名 | 吉田電材蒸留所(吉田電材工業株式会社) |
取締役社長 | 松本 匡史 様 |
本社所在地 | 新潟県村上市宿田344-1 |
電話番号 | 0254-75-5081 |
蒸留所見学 | 見学についてはこちらから |
Dear WHISKY:
吉田電材株式会社とは何を行っている会社ですか?
松本さん:
名前に「電材」とあるのですが、電材の仕事は実は全体の5%ほどしかありません。医療用のレントゲンの機械を筆頭に様々な産業機器の設計や制作などを行っております。吉田電材蒸留所で働かれている一部の方からは、よく本業の電材では何をやっているのと聞かれます。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りと電材は異業種だからこそ、皆さん気になるのですね。
松本さん:
他にも、なぜ社長の私が「松本」という苗字なのに「吉田電材」なのかと質問されることが多いです。これは初代社長の私の祖父が「吉田」だったことがきっかけです。祖父は子どもが5人いてみんな女性でしたが、5人とも男性の家に嫁ぎ、吉田姓が居なくなりました。しばらくして吉田電材工業を誰が継ぐのかとなった時に、私の両親である「松本」家が社長を継いだので、苗字と社名が異なっています。
苗字と社名は異なるものの創業して83年になりますから、社名への愛着もありますので社名は変更せずにやっています。
Dear WHISKY:
産業機器メーカーとしての歴史が長い中でなぜ異業種であるウイスキー事業に挑戦しようと考えたのですか?
松本さん:
蒸留所のきっかけとなる工場ですが、本来は本業の仕事を拡張しようと思って購入しました。しかししばらくしてコロナウイルスが流行し始め、本業である産業機器の事業も足踏み状態だったため、新工場に既存事業を広げる事が出来ない状況でした。もちろんこの時はウイスキー製造をしようと思っていたわけではありませんでした。
Dear WHISKY:
なるほど!もともとは本業拡張のための工場だったのですね。
松本さん:
そうですね。ただそれと同時期に、新潟亀田蒸溜所さんがハンコ屋から異業種参入でウイスキー造りを行うというネットニュースを拝見しました。そこで稼働させていない工場があるなら新しいことをしようと決めました。
私自身、15年以上にわたってウイスキーを飲んでいるくらいに好きだったので、ウイスキー事業への参入を決めました。
食品工場で製造現場の管理を3年間ほどやっていた経験から多少の知見もありましたので、ウイスキー造りを始めることについてのハードルは普通の人より低かったのかもしれません。
Dear WHISKY:
松本さんご自身がウイスキー愛飲家だったのですね!
松本さん:
ウイスキープロフェッショナルの資格を取得したり、Barにもたくさん通っていました。
Dear WHISKY:
HPにある「正直でち密な技術のウイスキー」という言葉にはどのような意味が込められているのでしょうか?
松本さん:
本体である吉田電材工業は日本の高度経済成長期をモノづくりで支えてきました。
日本のモノづくりが世界的に信頼されている背景には「品質の高さ」があります。この品質とはモノづくりに対する「正直さ」だと考えています。
Dear WHISKY:
「正直で」という言葉はモノづくりの品質から込められている想いなのですね!ち密な技術はどのような意味が込められてますか?
松本さん:
後半の「ち密な技術」も品質に関係しています。吉田電材工業では、品質の高さを保ち続けるち密さや繊細さ、そして技術に対するこだわりを大切にしています。
実直にウイスキーと向き合いモノづくりの会社という利点を活かし、良いモノを造るために私たちは妥協しないからこそ「正直でち密な技術のウイスキー」という言葉を大切にしています。
Dear WHISKY:
日本初のクラフトグレーンウイスキー専業の蒸溜所とのことですが、そもそもグレーンウイスキーとはどのようなウイスキーですか?
松本さん:
グレーンウイスキーとは、とうもろこし、ライ麦、小麦などの様々な穀類を主原料とし、そこに大麦麦芽を糖化酵素として加え製造されたウイスキーのことを指します。ブレンデッドウイスキーにおけるモルト原酒の相方として利用されるときに求められる一面や、風味が軽い穏やかな性格をとらえて「サイレントスピリッツ」と呼ばれることもあります。
Dear WHISKY:
なるほど!サイレントスピリッツとも呼ばれているのですね!
松本さん:
ただ、この言葉によって個性が無いというイメージが浸透していると私は感じます。
連続蒸留器で大量生産されることが多いこれらのグレーン原酒のイメージが、グレーンウイスキーの可能性を覆い隠してしまっているのではないかと思います。
Dear WHISKY:
それでは、可能性を多く秘めているグレーンウイスキーの魅力とは何ですか?
松本さん:
「サイレント」な味わいも「ラウド」な味わいも多彩に表現できることです。「サイレントスピリッツ」とも呼ばれている一方で、バーボンやライウイスキーに代表されるような「サイレント(おとなしい)」とは真逆の「ラウド(主張の強い)」なウイスキーもたくさん存在します。
グレーンウイスキーだからこそ、製法や原料の配合を工夫することで「サイレント」な味わいも「ラウド」な味わいも多彩に表現できることが魅力だと考えています!
Dear WHISKY:
HPにある「ジャパニーズウイスキーをもっとジャパニーズウイスキーにする」というMISSIONとはどのような想いでしょうか?
松本さん:
ジャパニーズウイスキー文化をこれからも発展させていきたいと考えています。そのことを「ジャパニーズウイスキーをもっとジャパニーズウイスキーにする」と表現しています。
そしてそのための第一歩として、原料を100%国産にすることが進むべき方向なのではないかと私は考えています。
Dear WHISKY:
全ての原料を国産にですか!
松本さん:
吉田電材蒸留所はグレーンウイスキーを専業としています。日本国内で展開しているモルトウイスキー蒸溜所は国産の大麦麦芽を大量に供給できる十分なインフラがないため、原料はほとんどが海外産です。
これに対し、吉田電材蒸留所はグレーンウイスキーを造ることを選択したことで、日本で採れる様々な穀物を原料に出来るのです。
もちろんジャパニーズウイスキーの基本的な製法として、原料のデンプンを糖化するために大麦麦芽を入れる必要はあります。
ただ私たちの場合、その割合は多くても15%ほどで、現時点で主原料の70%が国産原料(北海道産デントコーン)であり、その意味でも安定して国産100%生産することが達成しやすいと考えています。
Dear WHISKY:
グレーンウイスキー専業だからこそ国産100%を目指しているということですね!
松本さん:
そうですね!それを踏まえて、3つのMISSIONを掲げています。1つ目が「ジャパニーズウイスキーの『多様性』をひろげる」、2つ目が、「クラフト蒸溜所への原酒供給でALL国産原酒ブレンデッドの実現」、3つ目が「原料から日本産100%オール国産原料のウイスキーを造る」です!
Dear WHISKY:
MISSION 1として「多様性」をあげていましたが、これはどのような意味でしょうか?
松本さん:
日本固有の多種多様な穀物を使用した原酒を造ることで、ジャパニーズウイスキーとしての幅を広げたいという想いがあります。
様々な原料をもとに様々なウイスキーを生み出し、新しい製法を作りあげ独自性を持つことこそ、「ジャパニーズウイスキーの幅を広げる」という提案を行うことができる。
これが1つ目のミッションの意味です。
Dear WHISKY:
MISSION 2として「原酒供給」をあげていましたが、これはどのような意味でしょうか?
松本さん:
日本で造られた原酒のみを使用した、ブレンデッドウイスキー造りを支える存在でありたいという想いがあります。
ジャパニーズウイスキーの定義の中で特徴的な項目の1つが、「海外原酒を混ぜるとジャパニーズウイスキーと呼称できない」ということです。日本でグレーン専業蒸溜所を持っているのは大手企業しかなく、またクラフトモルト蒸溜所は大手からグレーン原酒を購入することが難しいため、自社のモルト原酒を使ってブレンデッドウイスキーを造ろうとすると、海外のグレーン原酒を使用する選択肢しかありませんでした。
そこで、吉田電材蒸留所は国内クラフトモルト蒸溜所に対して、グレーンウイスキーを供給し、ALL国産ブレンデッドウイスキーに貢献することで「ジャパニーズウイスキーをもっとジャパニーズウイスキーにする」という目標を達成していきたいと考えています。
Dear WHISKY:
グレーンウイスキー専業だからこそ、100%国産を目指すための価値を提供できるということですね!
松本さん:
そうですね。基本的に、従来のブレンデッドウイスキー用のグレーンウイスキーは大量生産される設備で造られるため、単価が安く、よりサイレントな酒質のニュートラルスピリッツに近い原酒になってしまいます。私たちは「ハイブリッドスチル」を選択しているおかげで「ラウド」から「サイレント」まで多彩なウイスキーを表現できます。
また、日本独自の原料で、ブレンドした際によりウイスキー全体の味わいを押し上げる、高付加価値のあるグレーン原酒にも挑戦しています。
こうした取り組みを促進し、先ほどお話ししたALL国産ブレンデッドウイスキーの後押しをしたいと思っています。
Dear WHISKY:
MISSION 3で「オール国産原料」をあげていましたが、改めてこれにはどのような想いがありますか?
松本さん:
これまでお話しさせていただいた中での「もっとジャパニーズウイスキーにする」に直結しています。
ジャパニーズウイスキーは2023年に生誕100年を迎える節目になりますが、次の100年、ジャパニーズウイスキーがさらに地域的な特色を獲得して世界に発信していくためには、原料から日本産のウイスキーを造ることが重要であると思っています。先ほど説明したように、この蒸留所ではマッシュビルですでに北海道産のデントコーンを70%使用しています。
北海道産のコーンを使用することで、海外産と比べると通常2~3か月かかる輸送期間が数日で済むため、過酷な海上輸送に伴う品質劣化のリスクが大幅に軽減され、その結果、非常に新鮮なデントコーンを使用できるのも魅力です。
このようなメリットがあるからこそ、今後国内の農家との協働も視野に入れ、デントコーンでは北海道子実コーン組合(柳原孝二代表)とタッグを組んで進めていますし、その他の穀物原料についても今後進めていきたいと思っています。
Dear WHISKY:
北海道産のコーンを70%も使っているのですね!他に日本産100%を目指す上で今行っていることはありますか?
松本さん:
モルティングマシーンの開発に着手しました!
お話しした通り、ジャパニーズウイスキーの原料のほとんどが海外産である理由は、国内に大麦を大麦麦芽に加工する会社が少ないためです。そのため自分でモルティングマシーンを作ってしまおうと思っています。
ちょうど良いことに、蒸溜所を運営する母体である「吉田電材工業」は産業機器の設計開発を生業とする会社です。モルティングマシーンはどちらかというとプラント機器で少し分野は違いますし、多くの開発費用がかかるのですぐにとはいかないかもしれませんが、本業とのシナジーを生かしてモルティングマシーンを開発したいです。そして、この蒸溜所で使用するモルトを自分たちで製麦するだけでなく、出来上がった設備を他のクラフトモルト蒸溜所に販売することで、「モルトウイスキーも100%国産原料」に貢献できたらいいなと思っています。
以上、吉田電材蒸留所の代表取締役松本さんとセールスマーケティング部チーフの榎本さんへのインタビュー第1弾でした。
第1弾は、ウイスキー事業のきっかけや思い描いているMISSION、そしてグレーンウイスキーの魅力まで、様々なことをお伺いしました。
ジャパニーズウイスキーやグレーンウイスキーに対する深く熱い想いを非常に感じるお話でした。
第2弾では、グレーンウイスキー製造の秘密やジャパニーズウイスキーに対する想いなどについての想いを赤裸々にお伺いしました!第2弾もぜひお楽しみにしてください!