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- ウイスキー基礎知識
ウイスキーにはモルトウイスキーとグレーンウイスキーの2種類があり、それらをブレンドしたブレンデッドウイスキーがあるということは、多くの人が知っていることでしょう。では、シングルモルトウイスキーの他にピュアモルトウイスキーというものがあるのですが、この違いは何でしょうか。
いずれも同じモルト原酒を使ったウイスキーのようですが、はっきりと違いを説明できる人は案外少ないでしょう。この記事では、シングルモルトとピュアモルトの違いについて解説します。
この記事のポイント
ウイスキーは、原料の違いでモルトウイスキーとグレーンウイスキーに分かれます。モルトウイスキーは大麦麦芽をアルコール発酵させたウイスキー、グレーンウイスキーはトウモロコシやライ麦など、穀類をアルコール発酵さあせたウイスキーです。
ウイスキーは、異なる特徴を持った原酒を複数混ぜ合わせることで、強すぎる個性を抑えて飲みやすくしたり、深い味わいを出したりします。モルト原酒同士、グレーン原酒同士を混ぜ合わせる作業はヴァッティング、モルト原酒とグレーン原酒を混ぜ合わせる作業はブレンディングです。
巷に出回っているウイスキーの多くは、複数の蒸留所でつくられた原酒を混ぜ合わせています。それぞれの蒸留所の持つ個性を活かしあって味わいを深くするのです。ただし、モルト原酒同士を混ぜ合わせる作業はブレンドではなくヴァッティングと呼びます。
そのため、異なる蒸留所の原酒を混ぜ合わせても、それはブレンデッドウイスキーにはなりません。ブレンデッドウイスキーと呼ぶのは、モルト原酒とグレーン原酒をブレンドした場合のみです。この場合はヴァッティングしているだけなので、単にモルトウイスキーと呼びます。
モルト原酒同士を混ぜ合わせるのは、熟成させる樽によって原酒の性質が少しずつ異なるからです。仕込んだ年、樽の材質や大きさ、前歴などさまざまな要素の影響を受けます。それらを混ぜ合わせて深みを出しているのです。
樽によって原酒の性質が異なるという現象は、同じ蒸留酒内でも起こります。同じ原材料を使い、同じ作業工程でつくっても、熟成させる樽によって微妙に差ができるのです。ですから、他の蒸留所に頼らず、同じ蒸留所内の原酒をヴァッティングすることでも、理想の味わいを実現することができます。
シングルモルトのシングルとは、蒸留所が1つという意味です。単一の蒸留所内のモルト原酒のみをヴァッティングしてあるということをあえてわかりやすくするために前にシングルと付けています。
ですから、シングルモルトは、個性の異なる他の蒸留所の原酒を混ぜていないため、蒸留所が持つ個性を活かしたまま味わいに深みを出すことが可能です。シングルモルトには、それぞれの蒸留所がもつこだわりが込められています。
ピュアモルトとは、異なるシングルモルトを混ぜ合わせたウイスキーです。単にモルトウイスキーと呼んでもよいのですが、シングルモルトに対比させる形であえてピュアモルトと呼んでいます。
これは日本だけの呼び名です。海外では、このようなつくり方をしたものをブレンデッドモルト、ヴァッテッドモルトなどと呼びます。要は混ぜるというイメージの捉え方が海外と日本では違っているのです。
日本ではシングルモルトに対するプラスイメージが大きいことから、そうでないものは評価が低くなってしまう傾向があります。しかし、シングルモルトも単一蒸留所内ではヴァッティングを行っているわけで、ピュアモルトの方は同じような作業を他のシングルモルトと行っているだけの違いです。
ブレンドの技術を活かしてつくり上げてはいるものの、世界的に使われているブレンデッドウイスキーとは違います。そこで、マーケティング戦略として、100%モルト原酒であることを強調する形でピュアモルトという呼び名が誕生したのです。
ピュアモルトは、日本のみで使われている言葉です。モルト100%ウイスキーの意味として使用するなら、シングルモルトもシングルカスク(1つの樽からとった原酒のみを瓶詰したもの)も、ブレンデッドモルトもヴァッテッドモルトも、全部ピュアモルトと呼べることになります。実際、「ピュアモルト」の定義は不明確です。そのため、解釈の仕方が時代とともに変化しています。
元々、ピュアモルトという言葉は、シングルモルトを指すものでした。かつて日本では、日本人でも飲みやすいブレンデッドウイスキーが全盛だったので、ブレンデッドウイスキーとは異なるモルト100%のウイスキーであることを強調していたのです。
ところが、その後シングルモルトが一般的な呼び方になっていきます。世界に通用するシングルモルトウイスキーも出てくると、ピュアモルトという言葉はあまり使われなくなりました。
そこで今度は、シングルモルトにイメージで差をつけられかけていたヴァッテッドモルト、ブレンデッドモルトを指す言葉に変化します。100%モルトウイスキーを指すのですから、問題はないということです。そのため、今やピュアモルトはブレンデッドモルトを指すことがほとんどになっています。ブレンデッドウイスキーとの混同を避けられるため、この使い方がよいということで定着しているのでしょう。
シングルモルトは単一の蒸溜所でつくられた原酒のみで構成されているため、蒸溜所のこだわりや個性が色濃く出ます。好き嫌いがはっきり分かれますが、一度気に入るとそのシリーズすべてを網羅したくなるため、世界中に根強いファンが多いウイスキーばかりです。日本の代表的な銘柄を挙げると次の4つになります。
サントリーの山崎蒸留所でつくられたモルト原酒のみでつくられています。日本のシングルモルトを代表する銘柄で、国際的な酒類のコンペティションでも最初に高い評価を受けました。華やかかつ甘い香りと、複雑で深い味わいが特徴です。どのような飲み方にも対応できる力強さも持ち合わせています。
山崎について詳しく知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
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南アルプスの麓に広がる森の中で育まれたシングルモルトです。世界的にも珍しい森の蒸留所は、同社の山崎蒸留所とは環境が異なるだけでなく製法にも違いがあります。そのため、芳醇な香りと甘味が特徴の山崎とは異なり、白州はやや辛口でクリアな味わいです。同じサントリーのシングルモルトでありながら、タイプが異なるため、それぞれに根強いファンが付いています。
ニッカウヰスキーの余市蒸留所でつくられるシングルモルトです。サントリーのシングルモルトと異なり、ピーティーで力強さがあります。伝統的なスコッチウイスキーの製法にこだわって作られているのが特徴です。好き嫌いがはっきり分かれるタイプのウイスキーですが、蒸留所のこだわりが感じられます。
ニッカウヰスキーの2大シングルモルトの1つです。宮城峡は余市とはかなりタイプが異なり、対極的な印象さえうけます。グラスに注ぐと洋ナシやリンゴを思わせるようなフルーティーな香りが立ち上り、口に含むと真っ先に感じられるのはドライフルーツのような甘味です。優しい口当たり、爽やかなも余韻がバランスよく感じられます。
ピュアモルトは、モルト原酒を高いブレンド技術を用いてさらに飲みやすく、味わい深くしたウイスキーです。ウイスキーに慣れていない人や、初めて飲む人なら、シングルモルトよりもピュアモルトの方が飲みやすいでしょう。とくに、日本のピュアモルトは、国際的な酒類のコンペティションでも高く評価されているものが揃っています。
ニッカウヰスキーには2つの蒸留所があります。余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所です。余市蒸留所でつくられるモルトが持つ力強さと、宮城峡蒸溜所でつくられるモルトは華やかさや柔らかさを融合させることにより、奥深さや厚みと飲みやすさの両立を実現させています。WWAやISCなどの国際的な酒類のコンペティションでも高い評価を受けている、ピュアモルトを代表する銘柄です。
藤御殿場蒸留所は、蒸溜所内でモルト原酒とグレーン原酒のつくり分けをしている珍しい蒸留所です。本来はグレーンウイスキーの蒸留に使われる「ケトル」と呼ばれる単式蒸留器でモルト原酒をつくっています。軽くすっきりとした味わいが特徴のピュアモルトウイスキーです。
国内で蒸留したモルトと、世界各地から選び抜いたモルトをブレンドした、山梨県サン・フーズのピュアモルトウイスキーです。日本の原酒のみを使っているわけではないので、ジャパニーズウイスキーの範疇からは外れます。富士山の伏流水をブレンド水に使用しているのが特徴です。辛味と酸味が強めな点が他のピュアモルトと大きく違います。
富士ケ嶺と同じ、山梨県のサン・フーズが手掛けるがピュアモルトウイスキーです。香りに力強さがあり、味わいも厚みがあり豊か。それなのに口当たりは滑らかで柔らかいところがクセになります。しかし、甘いようでいてしっかり辛味もあるという他にはない味わいです。かなり個性的なピュアモルトウイスキーといってよいでしょう。
福島県の酒蔵、笹の川酒造が作っているピュアモルトウイスキーです。東北地方唯一の地ウイスキーとしても人気があります。250年以上の歴史を持つ酒蔵で、ウイスキーづくりの免許を取得したのも戦後すぐの1946年です。熟成期間20年以上のモルト原酒を使って、ノンチルフィルター、無着色で仕上げています。シェリー樽熟成の甘くフルーティーな香りと、ピート香の強いモルトを絶妙なバランスでヴァッティングしているのが特徴です。
シングルモルトとピュアモルトはどちらかが上でどちらかが下ということはありません。ブレンダーのヴァッティング技術がそれぞれ活かされています。
個性が表面に出てきているウイスキーが好みなのか、調和がとれているウイスキーが好みなのかによっても選ぶものが変わってくるでしょう。シングル、ピュアという言葉が持つイメージに左右されず、自分の好みかどうかを判断基準にしましょう。