山崎 ノンエイジ/NV(ノンヴィンテージ)とは? 味わいとおすすめの飲み方を紹介
- ウイスキー銘柄
アランモルトは、日本でも人気の高いシングルモルト・スコッチのひとつです。しかし、そのわりには、どのような環境で作られたどのような特徴を持つウイスキーなのか、あまりよく知られていません。
製造元の蒸留所自体は歴史が浅いものの、アランは伝統的な製法で作られているこだわりのスコッチウイスキーです。美味しく味わうためにも、もっとアランモルトについて詳しく知っておきましょう。この記事では、アランモルトの魅力をわかりやすく説明します。
銘柄にもなっている「アラン」とは、スコットランドの西南部、クライド湾に浮かぶ島の名前です。ストーンサークルや立石遺跡といった新石器時代の遺跡が多く残されていることもあり、観光業が主要産業になっています。鹿児島県の種子島とほぼ面積が同じなので、特別大きな島というわけではありません。
しかし、スコットランドの地形や地質の特徴をすべて備えているため、「スコットランドのミニチュア」とも呼ばれ、多くの地質学者が研究のために訪れます。夏は涼しく冬の寒さもさほど厳しくない、雨量も年間を通して安定しているという穏やかな気候です。人口は5000人ほどで、島内には13の村があります。
シングルモルト・スコッチの主な産地は、スペイサイド、ハイランド、ローランド、キャンベルタウン、アイラ、アイランズの6カ所です。アランモルトは、そのうちのアイランズに属しています。元々は、ハイランドに分類されていましたが、後に独立してアイランズと呼ばれるようになりました。
ですから、アイランズとは、スコットランド地方にある島々のうち、アイラ島を除く島で作られているシングルモルト・スコッチの総称なのです。ただし、他の産地とは異なり、味や香りについて、アイランズとしてひとくくりに語られることはめったにありません。銘柄別に語られることが多いという点も、アイランズの特徴といってよいでしょう。
アラン島は、純度の高いきれいな水を大量に確保できる地形と、年間通じて穏やで安定した気候がウイスキーづくりに適しています。そのため、かつては密造酒の一大産地でした。1800年代には50もの蒸留所が島内に点在していたほどです。
ところが、時の権力者によって、アルコール度数の高い酒に重税が掛けられると、ウイスキーも当然のように課税対象になってしまいました。経営が苦しくなった蒸留所は次々と閉鎖に追い込まれていきます。最後に残ったラッグ蒸溜所も、ついに、1837年に閉鎖することとなり、それ以降アラン島内ではウイスキーが作られなくなってしまいました。
アラン島の環境を活かし、ウイスキー作りをしたいと考える人物が現れたのは、それから1世紀以上の時を経てからです。創業者ハロルド・カリーが、島の南西部に位置するロックランザ村に「アラン蒸留所」を創立したのは、最後の蒸留所が閉鎖されてから158年後、1995年のことでした。
ハロルド・カリーは大手ウイスキー会社に勤務し、シーバスリーガルのマネージングディレクターも勤めた、スコッチ業界の重鎮とも言うべき人物です。長年抱き続けていた「自分の蒸留所を持ちたい」という夢を叶える形で、島唯一の蒸留所は創立されました。
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蒸留所創立において、最大の問題点は資金繰りでしたが、この難題を解決したのは、彼の息子・アンドリューの発想でした。現在のクラウドファンディングの原型ともいえるやり方で、無事資金を集めることに成功したのです。そのやり方とは、債権を購入した人には、醸造所の稼働5年後、8年後にブレンドウイスキーやシングルモルトを優先的に受け取る権利を与え、その後も割引価格で購入できるようにするというものでした。
当時のアラン島には、ウイスキー作りを大切な島の伝統文化として復活させたいと考える人が多かったことも後押しになりました。その結果、2000人もの投資家を得ることに成功し、途絶えていたウイスキー製造を復活させることができたのです。
蒸留所創立から3年後の1998年には、「アランモルト」が、アラン島産ウイスキーとしては160年ぶりにリリースされることとなります。そして、更に時を経て、2019年には島内2つ目の蒸留所「ラッグ蒸留所」が創立されました。
これを機に、それまで唯一の蒸留所としてアラン島のウイスキー作りを牽引してきたアラン蒸留所は、「ロックランザ蒸留所」と改名することになります。島に2つの蒸留所ができたことにより、ブレンデッドウイスキーの生産も可能になったのです。
アランは原材料にも製造方法にもさまざまなこだわりが見られます。たとえば、モルトの風味を決定づける大麦麦芽は、オプティックという品種です。モルト用として開発された比較的新しい品種で、2000年ごろからスコッチウイスキーの原材料として広く用いられるようになりました。
この品種の特徴は、410~420という高いアルコール収率です。仕込み用の水は、ロック・ナ・ダビーを水源とする湧き水で、ピートや花崗岩の層を通ってイーサン・ビオラック川に流れ出る際に、ミネラル分を適度に含んだウイスキー作りに向く柔らかい水になります。
ポットスチル(蒸溜器)は、単式のものが2基で、ウォッシュバックは4槽です。近年新設された蒸溜所の多くは、連続式のポットスチルを選ぶのが主流ですが、あえて風味や香りが残りやすい単式の蒸溜器を選んで設置しています。
アランに独特の香りや味わいを与える熟成樽は、新樽がヨーロピアンオーク材、リフィル樽がワイン樽、シェリー樽、ポート樽などです。樽や蒸留器の管理を行うスチルマンは5人で、マスターディスティラーが原酒のバッティングレシピ等を決定する権限を持っています。
アランモルトには、多くの種類が存在します。2021年8月の時点で手に入るものは、既に蒸留所からの出荷が終了している旧ボトル8種と、2019年以降に販売が始まった新ボトル6種の計14種です。
旧ボトルには、1年に1度だけ発売される特別なカスクストレングス・ボトルもあり、運が良ければそれが手に入る可能性もあります。ここからは、それぞれの特徴について紹介していきましょう。
アランモルトの旧ボトルは全8種で、既に蒸留所からの出荷は完了しているものです。時間の経過とともに、巷に出回っている数も減っていくことでしょう。特別なカスクストレングス・ボトルはさらに希少です。旧ボトルを愛飲していた人や、新ボトルとの飲み比べをしてみたいという人は、見つけたときに購入しておきましょう。
「アランモルトを試すならこのボトルから」というほど、スタンダードなボトルです。オーク樽特有のバニラ香と、シトラス系の爽やかな甘い風味を楽しめます。遅れて現れるビターな味わいとアイランズ特有の塩味。熟成期間10年らしいフレッシュさと共に、10年物とは思えないほどモルトの旨味をしっかり味わえるボトルです。
14年物の原酒を使用しているため、10年物とは、香りや甘味の質が異なります。10年物のシトラス系とは明らかに異なる、ブドウやプルーンのような甘みや香りが特徴です。熟成が進んでいるため、10年物と比較するとフレッシュ感は薄まっていますが、その分、アイランズ独特の塩味や熟成の進んだとろみは感じやすくなっています。
バーボン樽とシェリー樽でそれぞれ熟成した18年物の原酒をばバッティングして作られています。カラメルやシロップを感じさせる甘い香りとオレンジピールに近いシトラス系のフルーツ感が特徴です。口に含むと、シリアルとミルクチョコレートを掛け合わせたような香ばしさと甘さも強く感じられます。複雑かつ奥深い味わいを楽しめるボトルです。
18年物と同様、バーボン樽とシェリー樽でそれぞれ熟成させた21年物の原酒をバッティングして作られています。9,000本限定でリリースされた特別なボトルです。濃厚な甘みと香りの奥からショウガを思わせるスパイシーな風味が現れます。贅沢感や満足感を味わえるウイスキーです。
ソーテルヌとは、蜂蜜のような甘さが特徴の貴腐ワインです。アランソーテルヌカスクは、異なる種類の樽で熟成させた原酒をかけあわせたうえで、ソーテルヌ樽で後熟させています。ブドウのような甘味や酸味、麦芽の香ばしい香り、クッキーのような甘味、ショウガに近いスパイス感などが同時に感じられる、複雑な味わいを楽しめるボトルです。
ヨーロピアンオーク樽で熟成させた原酒を、イタリア産のアマローネ樽で後熟させています。アマローネは名前が示す通り苦味が特徴の希少価値の高い赤ワインです。そのようなアマローネの熟成に使われた樽で、後塾させているため、ドライフルーツのような濃厚な甘さや風味が感じられます。また、冷却ろ過をしていないノンチルフィルタード・ボトルなので、アランモルトの持ち味である力強さも損なわれていません。
ヨーロピアンオーク樽で原酒を熟成させ、更にポートワイン樽で後熟させています。冷却ろ過していないノンチルフィルタード・ボトルという点もこのボトルの特徴です。オーク樽特有のバニラ香と、シナモンを振りかけた焼きリンゴのようなスパイシーな風味を同時に楽しめます。
マディラは、ポルトガル領のマディラ諸島で作られている酒精強化ワインです。アランマディラカスクは、マディラを熟成させた樽を後熟に用いています。ヨーロピアンオーク樽で熟成させた原酒を、マディラ樽で後熟させているため、干しブドウやプラムのような甘味の強いフルーツ感と、パンケーキのような香りが強めです。
7年間バーボン樽で熟成させた原酒を、アメリカンオークのクォーターカスクに移しさらに2年間後熟させています。トロピカルフルーツのような力強く甘い香りとシトラス系のさわやかさ、華やかでリッチな味わいを同時に味わえるフルボディのウイスキーです。一口で複雑な味の変化を楽しめます。年に1回だけ発売される限定品として注目されていました。
2019年にリニューアルされた新ボトルは6種類です。ここからは、新ボトルのアラン6種を紹介していきます。
旧ボトルのアラン10年のリニューアル版です。旧ボトルと比べると、アルコールによる刺激感が弱まり、口当たりが優しくなっています。アランモルトのよさを残しつつ、ウイスキー初心者でも飲みやすくなったといってよいでしょう。
旧ボトルのアラン18年のリニューアル版です。バーボン樽とシェリーホグスヘッド樽でそれぞれ熟成した18年物の原酒をバッティングし、ボトル詰めしています。旧ボトルの18年物と比べると、シェリー樽由来の香りや風味が強く華やかです。
旧ボトルのアラン21年リニューアル版です。シェリーホグスヘッドの新樽とセカンドフィルを用いて、それぞれ熟成した18年物の原酒をバッティングしています。シェリー樽に由来する果実感豊な香りと風味と、スパイスの効いたドライなな口当たりを同時に楽しめるボトルです。
シェリーホグスヘッド樽で熟成した原酒のみをボトル詰めしています。フルボディのリッチな味わいと強いアタック感の後から、アランならではのシトラス香と干しブドウのような甘みが追いかけてくる複雑な味わいが魅力です。
バーボン樽で7年熟成した原酒を小型樽に移し替え、更に2年間後熟させたカスクストレングス・ボトルです。アランの中では口に含んだ瞬間のアルコール感が強く、パイナップルのような独特の酸味も感じられます。しかし、フィニッシュに向かっては、トフィーのような甘さが迫ってくる、独特の味わいを楽しめるボトルです。
バーボン新樽で7~8年間熟成させた比較的若い原酒のみをボトル詰めしています。若い原酒ならではのスパイス感やフレッシュ感が持ち味です。シトラス系のさわやかな香りで、飲み口が軽いので、ウイスキー初心者でも抵抗なく飲めるでしょう。
アランは、全体的に飲み口が軽やかでウイスキー独特のクセがあまり強くありません。ウイスキー初心者でも比較的飲みやすいので、水や炭酸水などで薄めず、ストレートで味わうことをおすすめします。ロックにすると、ウイスキー独特の刺激が弱まるので、飲みやすくなるでしょう。冷やすことでモルトの旨味や香りもはっきり感じられ、のど越しもよくなります。
オーク樽特有の甘い香り、シトラス系のさわやかさ、麦芽が醸し出すほのかな甘み、そしてかすかに感じられる塩味。バランスの良さを感じながら、スタンダードラインを10年から順に飲み比べていくと、熟成の進み具合によって、味や香りが変化していく様子を楽しめます。
アラン独特の香りやかすかに塩気を含む甘味が好みなら、樽違いのカスクフィニッシュを飲み比べてもよいでしょう。熟成させる樽の違いが、スパイス感や果実感を変化させることがよくわかります。ラインナップが豊富なので、飲み比べてみることで、自分好みの一杯が見つかるかもしれません。
コスパのよさで選ぶなら、バレルリザーブかシェリーカスクがおすすめです。こちらも、ロックで味わいましょう。ウイスキー初心者なら、アランらしいスパイス感とフルーツ感を楽しめるバレルリザーブ、飲みなれている人なら、コクがあり深い味わいのシェリーカスクがおすすめです。
アランは、こだわりの製法で作られているシングルモルト・スコッチとして人気です。しかし、ウイスキーを飲みなれた人しか味わえないクセの強い銘柄ではありません。
これからウイスキーにチャレンジしてみたいという人や、ウイスキーはあまり得意でないという人にもお勧めできます。まずは10年物をロックで味わってみてはいかがでしょうか。シングルモルト・スコッチの魅力を堪能できるはずです。