カルヴァドスは飲み終わったらどうする? 中のりんごの活用方法を紹介
- ウイスキー基礎知識
この上ない幸せな時間を、人は「至福の時」と表現します。
私にとって、それはウイスキーをオン・ザ・ロックスで嗜む時間です。
幾重にも反射する美しい琥珀色を眺めながら、ウイスキーならではの深い香りと、味わいの変化をゆっくり愉しむ。
今日は、3つの「量」から、ウイスキーの魅力を考えてみたいと思います。
至福の「ウイスキーの記憶」は、なぜかいつも鮮明です。
筆者がウイスキーと出会ったのは、仕事が中堅にさしかかった30代半ばのことでした。
上司とBarへ行った際、鼻腔を突き抜けるような芳醇な香りと、重厚感、そしてその上品さに圧倒されたことを、今でもはっきりと覚えています。
その当時、ウイスキーの知識はまったくなく、口にした銘柄はわかりませんでした。
しかしながら、その日からさまざまなシーンでウイスキーを嗜むようになっていきます。
なかでも、ストレートに近い味わいから、時間の経過とともにまろやかになっていく過程をゆったりと愉しむことができるオン・ザ・ロックスが好きです。
この記事のポイント
ウイスキーに関する情報収集をはじめるとまず、国内外ともに近年ウイスキーが人気を博していることを知ります。
令和3年度の国税庁資料をみると、日本における酒類全体の製成数量は、年々減少しています。
ですが、ウイスキーの生産量・消費量は2008年から増加の一途をたどり、約2.5倍に増加しています。
輸出額については、2012年から10倍以上に急増し、前年(2020年)比39.4%の増加率が示されています。
国外に視野を向けると、世界中で新たなウイスキー蒸留所が建設・再稼働中で、「世界5大ウイスキー」と表現されるスコットランド、アイルランド、アメリカ、カナダ、日本だけでなく、現在世界の28か国以上でウイスキーがつくられています。
中でも着目されているのが、インドや台湾、フランスなどの国々。
日本で商品として流通している数はまだ少ないものの、製造技術の進歩や世界の企業の参入によって、今後のさらなる発展が期待されています。
毎年、蒸留酒ランキングを発表しているイギリスのドリンクス・インターナショナル誌「The Millionaire’s Club」の報告によると、対象となる100万ケース以上のスピリッツにおいて、ウイスキーの上位30銘柄の販売合計額は増加傾向が継続。
増加のスピードは、12年間で約2倍です。国別にみると、販売量・消費量ともにインドがトップで、生産量の世界ランキング10位のうち7ブランドを占め、世界のウイスキーの約半量が消費されています。
日本については、2007年約1%のシェアから約4%に販売量が増加し、カナディアンウイスキーとアイリッシュウイスキーを超えるシェアとなっています。
2017年の日本の消費量は、世界第4位。
まさに、国内外においてウイスキー市場が拡大中です。
このような世界的ブームから、愛飲者だけでなくビジネスや投資においても熱いまなざしが注がれているウイスキーですが、需要の拡大に伴って引き起こされる問題があります。
「木樽での長期間の熟成」を経てつくられるウイスキーの特性ゆえに生じる「原酒不足」。
ここでは、ウイスキーの製造に関する基本的な情報をみていこうと思います。
ウイスキーの産地となるその土地の穀物、水や環境。
ウイスキーも人と同じく、生まれ育った場所によってその特徴が異なります。
また、各地域でウイスキーがつくられた歴史的、社会的背景が流通とも複雑に絡み合っており、各国における法律・規程には差異があります。
(ここでは言及しませんが、それゆえに、国をまたいだウイスキーに纏わる問題も生じています。そして、そのための対応や調整も求められているのです)。
ウイスキーの原料は穀物であり、基本的にその土地で安定して多く栽培・収穫することのできる穀物が使われます。
例えば、約5000年前から麦が存在していたスコットランドでは麦、トウモロコシが大量に栽培されているアメリカでは主にトウモロコシが使用されています。
原料の種類によって、モルトウイスキー(大麦麦芽のみを使用)、グレーンウイスキー(小麦、大麦、トウモロコシなどの穀物を使用)、ブレンデッドウイスキー(モルトウイスキーとグレーンウイスキーを混合)の3種に大別され、全体の9割はブレンデッドウイスキーになります。
これら3つの分類に加えて、よく登場する「シングルモルト」という言葉は、単一の蒸留所で(複数の樽から)つくられたモルトウイスキーを表します。
「シングルモルト」と類似した言葉で「シングルカスク」「シングルバレル」と表記されるものは、たった1つの樽からボトリングされるシングルモルトウイスキーです。
原料となる大麦麦芽の深みやコクが強く、独特のクセがあるモルトウイスキーに対して、グレーンウイスキーは香味が乏しいがすっきりと軽く、飲みやすい特徴を持っています。
グレーンウイスキーは、モルトウイスキーよりも効率よく生成、原価を抑えることができることから、モルトウイスキーと混合させたブレンデットウイスキーが誕生。
複数樽の両者を混合することで香味の均一化・安定化を図るとともに、ウイスキーの大量生産と低価格での販売が可能となったのです。
多くの量を供給することができるブレンデッドウイスキーに対して、1つの蒸留所や樽でボトリングされ、個性的な味わいをもつシングルモルトはウイスキーファンの間で人気が高く、限られた原酒は争奪戦となります。
日本では、近年の国内需要の回復と、海外需要の拡大によって原酒不足が生じており、出荷制限によって国内供給量を減少。
あるいは、原酒を日本国外から樽のまま輸入し、国内でブレンド・ボトリングして出荷する対応がとられています。
ジャパニーズウイスキーとは一体何なのか?そんなギモンも生まれます。
ウイスキーの定義であり、最大の特徴でもある「木の樽での熟成」に利用される樽は「カスク」と呼ばれ、さまざまな種類が存在します。
ウイスキーの香味と美しい琥珀色は、カスクによってつくられるのです。
カスクの原料となる木材は、基本的にすべてオーク材。
日本では楢(ナラ)の木にあたり、世界中では約300種類以上もあります。
カスクには、スパニッシュ・ヨーロピアンオーク、アメリカンホワイトオーク、フレンチオーク、ミズナラ(ジャパニーズオーク)などが使われており、甘いスパイスや香辛料、ドライフルーツやナッツ、アロマを思わせる芳醇な香りがウイスキーに宿され、命が吹き込まれます。
ウイスキーに付加されるフレーバーは、カスクに利用される樹種によって異なり、同じ樹種でも、使われている木の部位や年月、カスクの大きさや、貯蔵時のカスクの位置、その土地の自然条件や環境の影響を受けます。
また、スコットランド、アイルランド、日本などでは、ウイスキーを熟成させるカスクには新樽ではなく、一度何かのお酒の熟成に利用された古樽(その多くがバーボンの空樽)が用いられています。
そのほか、ウイスキーの熟成にはシェリーやラム、コニャック、マディラ、ワインなど、さまざまなお酒を貯蔵していた樽が用いられ、樽に使われている木の香りと、元々貯蔵していたお酒の風味が樽内の原酒に溶け込みます。
熟成済のウイスキーを、さらに香味豊かに、かつ複雑にするために、別のカスクでさらに熟成させることもあります。
それぞれのカスクの大きさもさまざまで、貯蔵容量によって熟成のスピードは変化し、熟成庫の温度や湿度の影響も受けます。
その結果、たとえ同じ原料や環境であっても、3年、5年、10年と長い時間をかけて、ひとつひとつのカスクそれぞれに異なる個性をもったウイスキーが育まれることになります。
木樽でつくることが世界共通のルールとされ、カスクごとにちがう味わいに出会うことができるウイスキーは、一期一会という言葉で表現されます。
中でも、造り手が選りすぐった「とっておきの一樽」をダイレクトに味わうことのできるシングルカスクは、一樽から数百本しかボトリングすることができず、当然のことながらその希少性は高いと言えます。
2020年3月、日本産の某シングルカスク(52年熟成)がイギリス、サザビーズのオークションで36万3000ポンド(4960万円)で落札されたことは記憶に新しいのではないでしょうか。
もちろん、これは破格的な高騰例ではありますが、シングルカスクは各蒸留所のプレミアム商品として販売され、基本的に入手は困難です。
ウイスキーの熟成に欠かせないカスクの種類について知りたい方はこちらの記事をチェックしてください。
至福のオン・ザ・ロックスに話を戻しましょう。
私自身は、前述したようなウイスキーの特徴をふまえて、味の嗜好性、手に入れやすさや価格などを総合的に俯瞰し、「自分好みのウイスキーに出会うこと」を大切にしています。
「おいしさ」には絶対的な正解や物差しはない上、環境などの外部的要因や、気分や体調などの内部的要因によっても大きな影響を受けます。
だからこそ、Barで味わうにせよ、自宅で味わうにせよ、そのウイスキーがつくられた土地や原料、蒸留や熟成の方法、飲む雰囲気や状況、酒器や使う氷・水によって驚くほど異なるウイスキーの風味を思う存分愉しみたいと思っています。
オン・ザ・ロックスのレシピはウイスキーと氷の2つ、いたってシンプル。
そのシンプルさゆえに、ロックにおいて氷は命ともいえます。
いうまでもなく、Barでプロがつくる氷は芸術品のように美しいです。
用いるグラスと飲むスピードに応じて、緻密に計算された大きさと形は絶対に真似できません。
ですが、自宅でもウイスキーのロックを愉しみたいものです。
その上で、氷にこだわることは、自分のための特別なウイスキー時間をつくる重要ポイントになります。
ロックをロックでキリっと愉しむには「純度が高く、透明感があり、かつ溶けにくい氷」が適しており、冷蔵後の製氷機ではなく、市販のロックアイスを用いたいところ。
筆者のさらなるおすすめは、「My氷」です。
氷が溶ける速度は体積ではなく、氷の表面積に関係し、同じ体積でも表面積が小さいほど溶けにくくなります。
したがって、割った氷、塊の四角氷、丸型の氷、の順に溶けるスピードは遅くなります。
また、氷全体を浸水させることなく、自身の飲むスピードに応じて少量ずつ愉しむことで、ロックの「意図せぬ水割化」を防ぐことができます。
逆に、よりマイルドに飲みたい場合には、小さい氷やウイスキーと同量の水を加えたハーフ・ロックを選ぶと良いでしょう。
宅飲みロッカーのニーズに応じてか、今は自宅でも簡単に「透明感のある丸型氷」をつくることのできる用具が手に入るようになりました。
氷を買いに行く手間と、自分でつくる手間、コスパはどちらがよいか、という問いに対して、筆者は自分でつくる、という方法を選択しています。
自ら氷をつくる一工程によって、ロックをよりおいしく、よりゆっくりと味わうための愉しみがひとつ増えること、さらにロックへの愛着がわくことも理由のひとつです。
氷の次は、グラス。
ウイスキーのロックグラスは、正式には「オールド・ファッションド・グラス」と呼ばれます。底は厚いのに対して、飲み口の部分は薄くなっています。
そんな特徴をもつ、背の低い小型グラスが古くから酒器として使われてきました。
厚底の構造によって、グラスを持つ手の温度でお酒の温度があがったり、氷が早く溶けたりするのを防ぎます。
また、グラス全体の強度を高め、グラスにカットなどのデザインを施すことができます。
飲み口の薄さについては、唇にグラスがふれたときに、違和感なく滑らかにウイスキーを味わうための形状となっています。
ウイスキーのロックを愉しむためには、ロックのためにデザインされ、クリスタルガラスのように透明感と頑丈さを兼ね備えている高品質なグラスを選ぶと長い間愛用でき、使い勝手もよいです。
温かみや安らぎを感じるデザインや、涼しげでクールなデザイン、あるいは、近未来的なデザインなど、グラスチョイスの選択肢は多岐にわたります。
大量生産の方法でつくられるグラスではなく、オールハンドメイド、熟練の職人によってつくられるグラスも極めて魅力的。
有名・高級メーカー品である必要はなく、自分好みであり、手に持った時にしっくりとなじみます。
愛する人との出会いのような、そんな感覚をグラス選びでも大切にしたいものです。
事前に冷やしたグラスに氷を入れて、ウイスキーを注いだら、マドラーで混ぜることはせずに、ストレートも味わいながらロックを愉しむのが、個人的には一番好きな飲み方。
筆者が自分のためのロックに選ぶウイスキーは、1.シェリー樽、2.長期熟成、3.高アルコールのもの。
その理由や、おすすめのウイスキーについては、また別の機会にご紹介させていただければと思います。
お酒はその国や地域の文化と深く結びつき、時々刻々と変化する社会情勢や経済状況とも密接に関連しています。
換言すれば、時代や個人の価値観を色濃く反映する鏡でもあり、各酒の背景にあるドラマは極めて奥深いもの。
今宵も、ウイスキーのオン・ザ・ロックスで至福なひと時を。乾杯!