【独占インタビュー】ロバート・バーネカー、ソナト・バーネカー夫妻<第2弾> – KOVAL
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- 蒸溜所(海外)
スコットランドの首都エディンバラより、車で約3時間ほど北上すると、ダフタウン近くにグレンフィディック蒸溜所が見えてきます。世界で最も売れているシングルモルトウイスキーの1つである、グレンフィディック蒸溜所の現地テイスティングツアーは、その名に相応しい規模を体感でき、ツアーはもちろんオフィシャルショップまで十分に堪能することができました。
グレンフィディック蒸溜所の歴史、アクセス方法から、撮影禁止の熟成庫の様子やシェリー樽熟成で使用される画期的なソレラシステムでの運用方法など、世界トップクラスの規模を誇る蒸溜所の魅力を、隅々までご紹介させていただきますのでご覧ください!
グレンフィディック蒸溜所は、1887年にウィリアム・グラントにより設立され、現在では世界で有数の蒸溜所へと成長しました。31基という蒸留器により、年間生産量は1,370万リットルと蒸溜所の中でもトップクラスの生産量をほこります。スコットランドの蒸留所約130カ所の年間生産量の合計は、約4億1,500万リットル(2021年時点)なので、グレンフィディック蒸溜所だけで、スコットランド全体の3%以上を占めていることになります。
エリア | スペイサイド |
設立年 | 1887年 |
所有者 | ウィリアム・グラント&サンズ社 |
蒸留器 | 初留x10基、再留x21基 |
仕込み水 | ロビーデューの泉 |
年間生産量 | 1,370万リットル |
ブレンド銘柄 | グランツ、モンキーショルダー |
輸入元 | サントリースピリッツ |
蒸溜所ツアー | あり(2種類) |
公式サイト | https://www.glenfiddich.com/distillery/ |
日本からのアクセスは、羽田空港もしくは成田空港から経由便で行くことができます。2023年10月現在、エディンバラ空港への直行便はありませんので、経由空港選びもぜひ楽しみの一つにしてみてください。
エディンバラ空港への経由空港は、ドーハ・ハマド空港、アムステルダム・スキポール空港、パリ・シャルルドゴール空港が主な経由地点です。普段利用している航空会社によって、利用できる経由空港が変わってきますので、ご自身のマイレージカードをぜひご確認ください。
エディンバラ空港に到着し、まずはレンタカーを借ります。空港にて直接レンタカーを借りることもできますし、タクシーで30分ほど東に行くとエディンバラ市内中心に行くこともできます。
エディンバラ空港から、グレンフィディック蒸溜所には、車で約3時間~3時間半、北上する必要があります。グレンフィディック蒸溜所へのルートとしては、A9ルートを利用されると、道中の山間に様々な蒸溜所を見ることができるので、時間に余裕があればおすすめしたいルートです。
日本から飛行機にてエディンバラ空港へ約18時間、エディンバラ空港から車で3時間の北上をし、合計約21時間と、丸1日かけてようやくグレンフィディック蒸溜所へ行くことができます。
グレンフィディック蒸溜所は、1886年ウィリアム・グラントにより、ダフタウン近くフィディック川のほとりに設立されました。創業以降、家族経営で運営されている数少ない蒸溜所であり、1920年代のアメリカ禁酒法時代でも、周囲の蒸留所が倒産する中、順調に成長と遂げています。
また、1950年代には銅器職人を蒸溜所内に常駐させたり、1960年頃には専用のクーパレッジ(樽製造場所)を設置、さらには1998年にはウイスキー製造では当時画期的なシステムとなる、”ソレラシステム”を導入し、味の安定化と大量生産を実現化し、世界一の生産量を誇る蒸溜所に成長しました。
歴史やウイスキー造りが学べるツアーに加えて、グレンフィディック12年, 15年, 18年, Gran Reserva(21年、ラム熟成)のテイスティングが楽しめます!
ツアーはもちろんのこと、ソレラシリーズやグレンフィディック15年の魅力を深く知るために8番倉庫(Home to Solera)の訪問ができます!
さらに、モルトマスターのブレンディングルームで、異なるカスクを組み合わせて15年を創り出すためのプロセスを学ぶことや、サンプルの味わいまで楽しめる!
ツアー名 | Glenfiddich Distillery Tour |
ツアー時間 | 1.5時間 |
ツアー費用 | GBP 20 |
ツアー名 | Glenfiddich Solera: Deconstructed Tour |
ツアー時間 | 2.5時間 |
ツアー費用 | GBP 75 |
グレンフィディック蒸溜所は、施設の前の大きな通り沿いに、綺麗な看板が立てかけられており、敷地内に入るときには楽しみで胸がいっぱいでした。
看板から50メートルほど緩やかな坂道を下ると、右手には仕込み水を貯蔵している池があり、その少し先の左手には、オフィシャルショップが見えてきます。
(オフィシャルショップについては、後述しています)
さらに進むと、今回の目的であるオフィシャルツアーの集合場所である、ビジターセンター(レセプション)が見え、とても待ち遠しい気持ちになってきます!
ビジターセンターに入ると、正面には受付カウンターがあり、左右の壁一面に、グレンフィディック蒸溜所の創設者一家の家系図や、創業からの歴史をまとめた記事が書かれております。
ツアーの集合場所はこのエントランスホールです。参加したツアーは「Glenfiddich Distillery Tour」で、約1.5時間の蒸溜所内ツアー&ウイスキーテイスティングとなります。
蒸溜所ツアーは、一般的にウイスキー製造工程の流れに沿って案内をされることが多いです。グレンフィディック蒸溜所も、同様の流れでツアーが組まれておりますが、1.モルティング(麦芽製造)と、2.ミリング(粉砕)については施設内は回らず、3.マッシング(糖化)の工程から施設内見学がスタートしました。
1.モルティング(麦芽製造)※施設無し
2. ミリング(粉砕)
3.マッシング(糖化)※ツアーはここから
4. ファーメンテーション(発酵)
5. ディスティレーション(蒸留)
6. マチュレーション(熟成)
ツアーの最初は、外観よりかつてモルティングをしていた施設を眺めることから始まります。モルティングとは、原料の大麦を発芽させ、大麦麦芽にする工程で、広大な土地と多くの時間を必要とします。現在、多くの蒸溜所は、自社でモルティングをすることはほとんどなく、モルトスターというモルト生産社より購入します。
グレンフィディック蒸溜所で使用する大麦麦芽は、かつてはグレンフィディック蒸溜所内で、自社内フロアモルティングにて生産をしていた時期もあったようですが、現在は、地元生産者を利用することを大切にしており、地元のモルトスターを利用しているようです。
利用しなくなったフロアモルティングの施設は、現在はテイスティングルームとして今も大切に使用されているとのことです。
乾燥されたモルト(大麦麦芽)は、ミルルームにてミリング(粉砕)が行われます。ミリングは、モルトを3種類の大きさに粉砕しふるいにかけ、グリストセパレーターによってその大きさにごとに「ハスク(粗)・グリッツ(中)・フラワー(細)」と分類されます。この3種類を「2:7:1」で調合、こうして出来たグリストと呼ばれるものは、次のマッシング工程(糖化)に利用されます。
今回のツアーでは、ミルルームは見ることが出来なかったため、マッシング工程から撮影ができました。
次に案内されたのは、高い天井と小さな蒸溜所が1つは入るほどの広い敷地で、中に入ると冬の時期でも汗をかくほどの熱気を感じます。麦汁(ウィート)の香りが強く感じるマッシングの工程です。マッシングは、ミリングにより造られたグリッツに大量の仕込み水を加え、64度まで加熱することで、グリストが糖化され、約6時間後には上質でピリッとした辛味を備えた麦汁を生み出す工程です。
この時使われる水を仕込み水といい、グレンフィディック蒸溜所では地元の「ロビーデューの泉」を仕込み水として利用しています。このロビーデューの泉は、グレンフィディック蒸溜所があるダフタウンの名水で、山岳地の雪解け水から生成される湧き水のためミネラルも豊富で、ウイスキー造りには最適な仕込み水です。
このグリストと水を混ぜるために、マッシュタンと呼ばれる大きな糖化槽を利用します。グレンフィディック蒸溜所のマッシュタンはステンレス製で、世界の蒸溜所でも指折りの大きさで、マッシュタンの容量は1基あたり約8万リットルになるそうです。この大型マッシュタンが現在は3基あり、歴史を感じる色合いの1基は1990年代から利用されていたもの、残りの綺麗なマッシュタン2基は、2019年代に新調した設備とのことです。
次の工程は、ファーメンテーション(発酵)になります。ここでは、先ほどのマッシングにより生成された麦汁をろ過し、17度まで冷却し、ウォッシュバックと呼ばれる発酵槽に入れ、発酵槽1基あたり225リットルの酵母と混ぜ合わせることで麦汁の糖分がアルコールに変換されます。グレンフィディック蒸溜所の発酵槽は、ダグラスファーの木材を使いハンドメイドで製造されています。この発酵槽が、グレンフィディック特有の香りづけができている理由のひとつだそうです。しかし、木製のため、(長いと思いましたが)約30年しか利用できないとのことです。
この特大の発酵槽では、1つあたり約4万リットルの麦汁(ウィート)を投入できるそうなのですが、なんとその数は合計で48基もあるそうです。日本最大級の蒸溜所でも、発酵槽は8基ほどですので、その規模の大きさを感じることができますね。
一般的な発酵期間より少し長い2-3日間の発酵によりグレンフィディック特有の軽くスッキリとした味わいになり、出来上がるウォッシュ(もろみ)のアルコール度数は最大約9度ほどになるそうです。これを次の工程の蒸留に利用していきます。
ウイスキーの製造工程でも非常に重要となる、ディスティレーション(蒸留)の工程は、蒸留所現地ツアーでも目玉の一つです。
グレンフィディック蒸溜所では、容量が9,000リットルのウォッシュスチル(初留器)が10基、容量4,500リットルのスピリットスチル(再留器)が11基、設置されています。発酵工程で造られたウォッシュ(もろみ)は、まずはウォッシュスチルにて蒸留され、その後、スピリットスチルにて2度目の蒸留が行われます。
ウォッシュスチルとスピリットスチルを合わせてポットスチルと言いますが、このポットスチルは様々な形状があります。ストレート型、バルジ型、ランタン型などがあり、グレンフィディック蒸溜所は様々な形状のポットスチルを利用しています。また、各ポットスチルの形状やサイズは、創業時から現在に至るまで忠実に引き継ぎ、現在では全てハンドメイドでメンテナンスをしているそうです。一般的なポットスチルより、すこしサイズが小さいことも特徴の一つになります。
ポットスチルによって熱された蒸気を液体化するために、冷却するための水も、創業時からロビーデューの泉を利用しており、利用後は浄化し川に戻すことで、自然の豊かさを守っているそうです。マッシング工程からディスティレーションまで、様々な場面でロビーデューの泉を利用するなど、地元生産と自然保護にこだわりを持った製造工程は、世界中から愛される蒸留所の所以かもしれないですね。
スピリットスチルにて蒸留された液体は、スピリットセイフと呼ばれる金色の箱を通ります。その際に、蒸留課程の最初と最後を捨てて、中心の液体のみを熟成させることができる、ニューポット(もしくはニューメイクなど)を造り出します。スピリットセイフにて切り取られる最初をヘッド、真ん中をハート、最後をテールと呼ばれ、このハートのみを切りだすことを、ミドルカットと言い、グレンフィディック蒸溜所ではアルコール度数65-75%で切り出しを行っているようです。
蒸留棟の次は、最終工程のマチュレーション(熟成)です。グレンフィディックの熟成庫は完全撮影NGのため、熟成庫内の様子をお届けできず申し訳ありません!ぜひ、実際に足を運んで、その壮大で歴史を感じる熟成庫を楽しんでいただきたいと思います。セキュリティは本当にしっかりしてて、うっかり、カメラを手に持ちながら熟成庫に入ってしまったら、セキュリティの方2名に取り囲まれてしまいました、汗笑
今回、見ることができた熟成庫は、43棟ある熟成庫のうち、8番熟成庫で、伝統的なダンネージ式の樽管理を行っています。床は歩く通路以外は土や石でできており、天井も低いため、古き良き熟成庫の土の香りと程よい湿気がとても居心地よく感じました。
ちなみに、グレンフィディック蒸溜所は、43棟で最大80万樽の貯蔵が可能と言われております。
入り口入ってすぐ左には、タン(樽の最大サイズ)で熟成されたグレンフィディック18年が20樽は置かれていたかと思います。タンサイズは1つで約1,000リットルと最も大きい樽サイズのため、圧巻の迫力でした。
入り口入って右側には、バットサイズやホグスヘッドサイズの樽が100樽以上は置かれていたと思います。すぐにボトリングの予定があるのか、積み上げられてはなく、1樽ずつ床に横たわっており、その更に奥には、三段積み上げのダンネージ式で樽が保管されており、広大な熟成庫を感じることができました。
グレンフィディック蒸溜所で利用している樽の多くは、グレンフィディックで直接採用しているクーパーズ(樽の製造職人)が製作・修理を行います。一人前になるまでに、最低でも4年は必要とのことですが、自社内で採用することでダフタウンへの貢献にも役立つそうです。
熟成庫の奥に進む道は、床に置かれた樽と樽の間約30センチほどの幅の狭い道を歩いて進みました。細い道を超えてやがて見えてきたのは、マリーングタンと呼ばれる大きな熟成樽です。マリーングタンについて説明するには、まずはグレンフィディック蒸溜所の特徴の一つである、ソレラシステムについて説明いたします。
8番熟成庫は、グレンフィディックに革新を起こした、ソレラシステムが置いてある熟成庫になります。この8番熟成庫には、グレンフィディックの熟成樽のみ保管しているようですが、ほかの熟成庫では、グレンフィディック以外の他の蒸溜所の樽も保管しており、周辺蒸留所とも樽の交換などもおこない、協力し合い災害対策をしているようです。
ソレラシステムとは、1998年にデイビット・スチュワート氏により、ウイスキー蒸溜所として世界で初めて導入された仕組みです。ソレラシステムの熟成方法は、空になることのない大きな桶(ソレラバット)で様々なグレンフィディックの原酒をマリッジ(複数の原酒を混ぜること)させ、マリーングタン(マリッジさせた原酒専用の樽)に移し替え熟成をしていきます。
このソレラタンクからマリーングタンに原酒が移し替えられ、容量の半分ほどになると、再びこのソレラタンクに15種類ほどの新しい原酒が継ぎ足しされ、空になることはないそうです。この手法により、味の複雑性を生み出しつつも、安定したクオリティーで熟成原酒を造り出すことに成功したそうです。
余談ですが、8番熟成庫にある最も古い樽は、1950年代のグレンフィディックがあり、元グレンフィディックのモルトマスターの60歳記念にボトリングしたようです。売り物ではないですが、、、との前置きがありつつも、1本あたりに価格相場を聞いてみると、なんと122,000ポンド(約2,250万円 ※185円/ポンド)とのことなので驚きです、、、!
さて、ここまでご説明してきた熟成庫ですが、熟成庫内は撮影禁止のため、実際の写真はお伝えすることができません。しかし、少しでも熟成庫を訪れた感覚になっていただきたく、記憶を呼び起こしながら描いた、熟成庫のレイアウト図を掲載させていただきます!(樽配置は常に変わり、実際とは異なる可能性がありますので、ご了承ください)
熟成庫の入り口には、地元アーティストの作品も展示されており、ダフタウンで活躍するローカルアーティストを蒸溜所内に常駐してもらい、様々なブランディング活用に協力してもらっているようです。
最後は、テイスティングルームでの試飲です。テイスティングルームはかつてのフロアモルティング施設を改装して利用しています。
内観は優雅なラウンジのようでとても綺麗で、部屋に入ると右手にはバックバーにはグレンフィディックの様々な年数ボトルが置かれたミニバーがあります。テイスティングをする部屋は、そのミニバー横の螺旋階段を上り、2階へと進みます。
今回テイスティングをすることができたのは下記のラインナップとなります。
特に印象的だった1つは、「グレンフィディック15年 ソレラ」。先ほどのソレラシステムを実際に目で見てから味わうウイスキーは格別の味がしました。ウイスキー業界で初めて導入されたソレラシステムは、バーボン樽・ホワイトオーク樽・スパニッシュオーク樽の3種の樽で熟成されたウイスキーを、ソレラバット(大桶)で後熟しています。
また、「グレンフィディック23年 GRAND CRU」も、現在の6代目モルトマスター(ブレンダー最高責任者)であるブライアン・キンズマン氏が生み出した作品で、シャンパンに使われる発酵樽に、アメリカンオーク樽とヨーロピアンオーク樽で熟成された原酒を詰めて後熟させたため、香りは華やかなのにコクや重みがしっかりある味わいを感じられました。
現地ツアーを終えたあとは、併設しているオフィシャルショップを尋ねました!オフィシャルショップの規模も、一般的な蒸溜所ショップよりも広く、様々なアイテムやボトルの発売がされておりました。
ショップ奥には、ハンドフィルボトルの販売もされており、樽からオリジナルのボトルにその場で詰めて購入することができます。どこにも発売されていない、世界で1本のボトルをぜひ制作してみてください!
グレンフィディック蒸溜所の周辺ダフタウンには、多くの蒸溜所がありますので、ぜひ色々な蒸溜所へ立ち寄っていただければと思います。ツアーの有無や営業時間などはバラバラですが、いくつか周辺蒸溜所をご紹介いたします。スペイ川を中心に、スペイサイド地域には多くの蒸溜所があり、ウイスキー好きとしては何日あっても周り足りなくなりますね。
世界に誇るグレンフィディック蒸溜所の現地ツアーはいかがでしたでしょうか?地元ダフタウンを愛し、仕込み水、原材料、職人、アーテイストまで、地元への貢献を続けているからこそ、ダフタウンだけではなく、世界中のウイスキー愛好家から愛される蒸留所へと成長をしていったのだと思います。
ポットスチルは創業から形状を変えず、発酵槽は木材を利用している数少ない蒸溜所であるなど、古き良き伝統を守りながらも、ソレラシステムなどの画期的な仕組みを造り出すグレンフィディック蒸溜所へ、みなさんも足を運び、その感動を感じてもらえれば嬉しく思います。