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【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所

2024.12.11 / 最終更新日:2024.12.11

アングロ・サクソン人によって築かれたノーサンブリア王国。七王国の中でも最北に位置し、その伝説は今も語り継がれています。この地に200年以上途絶えていたウイスキー蒸留の伝統を再び目覚めさせるため、アドゲフリン蒸溜所は誕生しました。

「ディステル・ノーサンブリア(ノーサンブリアを蒸留する)」をコンセプトに、豊かな大麦の生産地であるこの地域に蒸溜所を設立。

歴史とウイスキーづくりを見事に融合させたビジターエクスペリエンスは、他の蒸溜所とは一線を画す特別なものです。今回は、Dear WHISKYが実際にアドゲフリン蒸溜所を訪問しました!

アドゲフリン蒸溜所について

アドゲフリン蒸溜所とは

アドゲフリン蒸溜所は、イングランド・ノーサンブリアの中心に位置し、古代アングロサクソン文化を紹介する博物館とウイスキー蒸溜所が一体となっています。

200年以上眠っていたノーサンブリアのウイスキー蒸留の伝統を再び甦らせるため、地域の豊かな考古学的遺産や昔ながらのおもてなし、そして現代のクラフトやアート、地元の特産品を大切にしています。多事業を手掛ける実業家ファーガソン家による家族経営が行われています。

アドゲフリン蒸溜所概要

蒸溜所名 Ad Gefrin Distillery
設立年 2013年
創設者 Alan and Eileen Ferguson
住所 South Rd, Wooler NE71 6NJ, United Kingdom
公式サイト アドゲフリン蒸溜所 公式HP

創業者のアラン・ファーガソンさんにインタビュー!

Dear WHISKY:
自己紹介をお願いします!

アラン・ファーガソンさん:
アドゲフリン蒸溜所の創業者のアラン・ファーガソンです。

Dear WHISKY:
アドゲフリン蒸溜所の土地・建物と、ファーガソン家の関わりについて教えてください。

アラン・ファーガソンさん:
この建物は、1880年頃に建てられたもので、もともとは救世軍(Salvation Army)という慈善活動で知られる団体によって建設されました。建物の形は今も当時のままです。

その後、1920年代に妻の祖父がこの土地を購入し、それ以来、約100年間にわたって妻の家族が所有しています。

Dear WHISKY:
ウイスキー蒸溜所を創業したきっかけは何でしょうか?

アラン・ファーガソンさん:
私たち夫婦は結婚を機に、妻の会社と私の会社を合併しました。その後、新会社をニューカッスル近郊に移転させたことで、ここが空き物件となりました。

次の一手を考える中で、ノーサンブリアがイングランドで最もモルト用大麦の栽培に適した地域であることに気付きました。

Dear WHISKY:
地元の資源を活かすという発想から生まれたのですね。
まさにウイスキー蒸溜所にぴったりの場所だと思います!

アラン・ファーガソンさん:
この地域にはヨーロッパ最大級のモルト工場であるシンプソンモルト社があり、地元の畑で収穫された大麦がそこで加工されています。

畑からモルト工場、さらに蒸溜所までの移動距離はわずか25マイルで済み、環境への負荷も最小限に抑えられます。

こうした地元資源の強みを活かせると確信し、ウイスキー事業に乗り出すことを決意しました。

実際に蒸溜所を訪問しました!

エントランス

庭園

庭園

アドゲフリン蒸溜所に足を踏み入れると、まず目に飛び込んでくるのは手入れの行き届いた美しい庭園です。約140年前に建てられた歴史あるレンガ造りの建物と、木を基調とした新築の建物が調和し、ノーサンブリアの黄金色の大麦畑や緑豊かな木々を背景に、独特の風景を生み出しています。

メインエントランスに立つビジターエクスペリエンスディレクター クリストファー・ファーガソンさん

メインエントランスに立つビジターエクスペリエンスディレクター クリストファー・ファーガソンさん

メインエントランスのある建物へ入ると、モダンで洗練された建築デザインが広がり、思わず息を吞みました!

木の温もりが感じられる空間は、円形のホールを中心に広がり、緊張も自然と和らぎます。

ノーサンブリア博物館

アドゲフリン蒸溜所の見どころのひとつは、その圧倒的スケールのビジターエクスペリエンスです!

特に、ノーサンブリアの文化・歴史・コミュニティを発信する併設の博物館は、それだけでも十二分に楽しむことができます。

この大規模プロジェクトを成功に導いた立役者が、ビジターエクスペリエンスディレクターのクリストファー・ファーガソンさんです。

彼はオックスフォード大学で考古学の博士号を取得し、オックスフォードのアシュモレアン博物館でキャリアを積んできました。15年以上にわたる博物館や文化遺産分野での経験を持ち、今回のプロジェクトでも、その専門知識が大いに活かされています。

グレートホール

グレートホール

グレートホール(出典:Ad Gefrin蒸溜所

展示の最初では、ノーサンブリア王国の偉人たちが紹介され、オーディオビジュアル技術を駆使して最盛期の姿が再現されます。

巨大なスクリーンに映し出されるのは、かつての王や女王たち。まるで彼ら自身が時代を語りかけているかのような迫力です。

コレクション

コレクション

コレクション

続いてのエリアでは、アングロサクソン時代の歴史がさらに深く掘り下げられています。

特に目を引くのは、Gefrin Trustによって貸与された宝石、陶器、武器、芸術品などが中心をなすコレクションです。

これらは蒸溜所が建つイェーバリング地域や、その近郊で発掘された工芸品に加え、北東部やイングランド各地から集められた貴重な品々で構成されています。1400年前にこの地に暮らした人々の生活と、当時の華やかな宮廷文化や職人の技術を生き生きと伝えてくれます。

キャッスル・エデン・クロー・ビーカー

キャッスル・エデン・クロー・ビーカー

ハイライトとなるのは、大英博物館の中世初期の宝物であるキャッスル・エデン・クロー・ビーカーです。また、シェイクスピア生誕地トラストから貸し出されたグレート・スクエア・ヘッド・ブローチやシールド・ボスといった重要な遺物も展示されています。

こうした博物館間のパートナーシップにより、アングロサクソン時代のノーサンブリア黄金時代が、鮮やかに蘇ります。

来場者を惹きつける内装

内装

内装

美しい内装とともに、丁寧でわかりやすい解説が訪問者を魅了していました!長い間、日の目を見なかったノーサンブリア地域の文化遺産がこうして再び人々に注目され、考古学的にも大きな価値を持つ展示となっているのです。

蒸溜所ツアー

ビジュアルイメージを利用した蒸溜所の概要説明

ビジュアルイメージを利用した蒸溜所の概要説明

アドゲフリン蒸溜所のツアーは、「The place where alchemy happens(錬金術が起こる場所)」というキャッチフレーズの通り、参加者をワクワクさせる体験が詰まっています。

少人数のグループで進行し、スタッフが丁寧にガイドしてくれるので、まるでプライベートツアーのような感覚を味わえます。広々としたガラス窓から見えるノーサンブリアの美しい自然を眺めながら、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚の五感で楽しむことができます!

目指すウイスキーづくり

蒸溜部門ディレクター ベン・マーフィーさん

蒸溜部門ディレクター ベン・マーフィーさん

アドゲフリン蒸溜所のウイスキーづくりは、スコッチウイスキーの厳格な規定にとらわれることなく、伝統的な手法と現代的な感性を融合させた独自のスタイルを追求し、業界のフロンティアを開拓しています。

一つひとつの工程に細部までこだわり、丁寧につくり上げる姿勢が特徴です。

原料

「ディステル・ノーサンブリア(ノーサンブリアを蒸留する)」

アドゲフリン蒸溜所は、ノーサンブリアが英国屈指の大麦生産地であることにインスピレーションを受け、設立されました。「ディステル・ノーサンブリア(ノーサンブリアを蒸留する)」というコンセプトのもと、使用する大麦と水を地元産にこだわっています。

大麦

ノーサンブリアの大麦畑

ノーサンブリアの大麦畑(出典:アドゲフリン蒸溜所

アドゲフリン蒸溜所では、地元の農家と提携し、周囲15マイル圏内で育てられた最高品質の大麦「ディアブロ」を使用しています。

収穫された大麦は、車で20分ほどのシンプソンモルト社でモルティングされ、再び蒸溜所に戻って自社で粉砕されます。このように、地元産の原料を使い、移動距離を最小限に抑えることで、環境負荷を軽減する取り組みがなされています。

仕込み水

水に関しても、アドゲフリン蒸溜所は徹底した地元資源の活用を行っています。

敷地内にあるボアホール(深井戸)からChet Hillsの地下水脈の水をくみ上げており、部の水道水は一切使用しません。

ポンプは24時間365日稼働し、水の硬度を調整するための軟水装置も設置されていますが、酵母の発酵に影響を与えないように完全な軟水化はせず、適度に硬度を残したまま調整を行っています。

粉砕・糖化

粉砕機(左)と糖化槽(右)

粉砕機(左)と糖化槽(右)

アドゲフリン蒸溜所の設備は、糖化槽を含め、すべて伝統的なスタイルを採用しています。運ばれてきたモルトを粉砕する粉砕機とホッパーが隣接しており、大麦だけでなく、ライ麦や小麦といった穀物の粉砕も可能です。モルトには、20%ヘビーピーテッドモルトを使用しています。

発酵

4基の発酵槽

4基の発酵槽(出典:アドゲフリン蒸溜所

発酵には、スペイサイド製の伝統的な木製の発酵槽を4基使用しています。内部の温度調整は行わず、季節の変化が発酵に影響を与えることを妨げないようにしています。

暖かい時期と寒い時期で、発酵のプロファイルが異なるのも魅力の一つと考えているそうです。

発酵期間は90時間で、年間の生産能力は純アルコール換算で約80,000リットルです。スコットランドと比べると小規模ですが、イングランドではかなり大きな規模とのことでした。

蒸留

蒸留器

蒸溜器

アドゲフリン蒸溜所では、スコットランドの最大手フォーサイス社製の蒸溜器を使用しています。スぺイサイド クライゲラキのフォーサイス工場から、ハイランドを経て、特別な車両でイングランドまで運ばれてきました。

その際、蒸溜所のスタートを祝うため、地元では大きなセレモニーが行われたそうです。

道端に集まった多くの人々が、蒸溜器が到着する様子を見守り、蒸溜所の新たな一歩を祝福しました。

熟成

熟成庫

熟成庫

アドゲフリン蒸溜所の熟成庫は、見学スペースからガラス越しに見下ろせるデザインになっています。ラック式の倉庫で、効率的に樽を管理することができます。

現在、使用している樽は約50%がバーボン樽、残りの50%はニューオーク、シェリー、コニャック、赤ワイン、トカイワインなど、多様な樽を利用しています。

新たに設立されたばかりの蒸溜所ですので、毎日少しずつ倉庫が埋められていく様子が目に見えて分かり、将来のリリースに期待が高まります!

テイスティングルーム

テイスティングルーム

テイスティングルーム

ツアーの締めくくりには、美しい映像が投影されたモダンなテイスティングルームへ!

シングルモルトは未発売ですが、アドゲフリン蒸溜所が手掛けるブレンデッドウイスキー「Tácnbora」、地元のボタニカルを利用した「Thirlings」、そしてニューメイクのスピリッツを、心温まるおもてなしとスタッフの解説と共に味わえます。

ギフトショップ・レストラン

レストラン

レストラン

見学後に立ち寄りたいのが、ギフトショップとレストランです。ギフトショップでは、アドゲフリン蒸溜所の限定ボトルや地元のクラフト品、素敵なウイスキーグッズが揃っています。また、レストランでは、地元の新鮮な素材を活かした料理や軽食、デザートが提供されており、レストラン目当てで訪問する方々もいらっしゃるそうです。

さいごに

アドゲフリン蒸溜所は、歴史、文化、そして地域コミュニティが交差する新しい形のイングランドの蒸溜所です。

ウイスキーの蒸留をノーサンブリアに再び花咲かせ、「黄金時代」を彷彿とさせる圧倒的なビジターエクスペリエンスを提供しています。

ぜひ、古代の物語と現代、未来を繋ぐアドゲフリン蒸溜所を訪れて、その魅力を体感してください!

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