【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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北海道の北部に位置する利尻島。その小さな離島に日本最北の蒸溜所・Kamui Whiskyがあります。
スコットランドのアイラ島を連想させる美しく、自然の荒々しさも感じられる風景が広がる利尻島で、海岸から目と鼻の先のところに建てられたKamui Whiskyは、2022年に蒸留を開始した新鋭の蒸溜所です。
ここでは、他の蒸溜所にはない独自の手法で北海道の恵みを存分に生かしたウイスキー造りを行っています。
今回の現地レポートでは、工場長のハビエル・ネグレテ(Javier Negrete)さんの案内の元、Kamui Whiskyでのウイスキー造りについて、様々な話を聞きながら、実際に蒸溜所を見てきましたので、その様子をお届けします!
稚内の沖合に浮かぶ利尻島。島の中央にそびえる利尻山(別名、利尻富士)は日本百名山にも選ばれ、北海道土産の定番「白い恋人」のパッケージにも描かれています!
利尻島へは新千歳空港か札幌丘珠空港から飛行機(新千歳空港は6月から9月のみ)、または稚内港からフェリーを利用することで行くことができます。主要な産業は水産業と観光業で、特に水産業では利尻昆布やウニが全国的に有名です。
さらに、日本のほぼ最北端に位置している利尻島はなんと、東京や札幌よりもロシアの方が近いんです!
Kamui Whiskyは2020年にオーナー企業Kamui Whisky 株式会社の代表のケイシー・ウォールさんによって設立されました。ウォールさんはアメリカ出身の起業家で、旅行で利尻島を訪れた際にスコットランドのアイラ島を思わせる自然に感動し、蒸溜所をここに作ることを決めました。
利尻島の冷涼な気候や、良質な湧き水とピートが採れることからウイスキー造りに適していると考えたケイシーさんは、2016年ごろからKamui Whisky設立の構想を練っていたそうです!
蒸留所名 | 利尻蒸溜所 |
所在地 | 北海道利尻郡利尻町沓形神居128-2 |
設立 | 2020年 |
会社名 | Kamui Whisky 株式会社 |
代表取締役社長 | ケイシー・ウォール |
蒸溜所公式HP | Kamui Whisky公式ホームページ |
Kamui Whiskyはその名の通り、利尻町沓形神居(カムイ)に位置しています。漁師の番屋をイメージして作られた木造平屋建ての蒸溜所は、建築面積が約180平方メートルと非常にコンパクトなつくりになっており、製造工程を少人数で回せるようになっています!
蒸溜所を出てすぐのところに日本海が広がっているという非常にユニークな立地になっており、この立地によって潮風が吹き込み、造られるウイスキーに土地由来の個性が生まれます!
ウイスキー造りの原料になる大麦麦芽(モルト)はまず、モルトミルという機械にかけられ粉砕します。
この粉砕された麦芽をグリストと呼びます。
Kamui Whiskyでは、スコットランド産モルト3種、北海道中標津(なかしべつ)産モルト1種の計4種の麦芽を併せて使用しています。スコットランド産3種はそれぞれ、ノンピーテッドモルト、ライトリーピーテッドモルト、チョコレートモルトが使われています。
ちなみにグリストの配分はオリジナルレシピで非公開だそうです!
チョコレートモルトとは160℃で焙煎させた麦芽であり、超高温で焙煎するため黒く焦げています。高温で焙煎することにより、アルコール生成の機能は失われており、主にダークビールなどの香りづけに用いられています。
Kamui Whiskyではチョコレートモルトを使うことで、利尻の土地由来の風味を引き出す狙いがあるそうです。
この麦芽は2020年に初めてウイスキーに使用されたばかりの麦芽で、日本の蒸溜所でチョコレートモルトを使用しているのは非常に珍しいです!
麦芽に含まれるデンプンはそのままでは発酵しないので、デンプンを糖に変える必要があります。そのため粉砕したグリストにお湯を加え、糖化槽(マッシュタン)と呼ばれる大きな器の中で攪拌することによって発酵に必要な糖液を作り出します。
この作業のことを糖化(マッシング)といいます。
こうして得られた糖液は麦汁(ウォート)と呼ばれます。
マッシングによって得られたウォートは、発酵槽(ウォッシュバック)と呼ばれる大きな桶に移され、酵母(イースト菌)が加えられて発酵します。
この発酵が終わるとモロミ(ウォッシュ)と呼ばれるアルコール度数8%強のビールのような液体ができます。
モルトを原料にするウイスキー造りでは、ポットスチルと呼ばれる銅製の蒸留器が用いられます。
Kamui Whiskyでは、アメリカのヴェンドーム社製のポットスチルを導入しており、日本の蒸溜所のなかではかなり珍しいです。
ヴェンドーム社は様々なデザインの製品に対応しており、写真にある銀色の冷却装置(ワームタブ)はKamui Whiskyのリクエストでとりつけたものだそうです!
このポットスチルを用いて造ることで、スムースで滑らかな味わいのウイスキーになるそうです!
形や機能も、日本やスコットランドで用いられているものとかなり違っていて、非常にユニークな外見です!
蒸留工程によって得られる蒸留液はすべてがウイスキーになるわけではなく、適切なアルコール度数で不快な香味成分を含まない蒸留液だけを熟成に回します。
この適切な部分だけを抽出する作業をミドルカットといいます。
通常、日本の蒸溜所ではスコットランド式の「スピリットセーフ」と呼ばれる透明な箱状の器具を用います。
しかし、このポットスチルはミドルカットを行う器具の形状が大きく異なり、名前もアメリカ式で「セーフボックス」と呼ばれます。
他にも、温度計が摂氏(℃)表記ではなく、華氏(℉)表記であるなど、一般的に日本で使用されるものと異なる特徴がたくさんあります!
蒸留を経て得られた透明な液体はニューメイク(またはニューポット)と呼ばれ、樽の中で寝かせることによって、はじめて琥珀色のウイスキーになります。
この工程を熟成といい、ウイスキーの味や風味を最も左右する大事な工程です。
現在、Kamui Whiskyでは年間に40樽ほど樽詰めを行っており、主にバーボン樽を用いて熟成を行っています。
熟成庫を見ていると、ワイルドターキー、フォアローゼス、ブラントン、ジャックダニエルなど様々な刻印の入ったバーボン樽が並べられています!バーボン樽以外にも、ワイン樽やミズナラ樽もあり、ミズナラ樽は来年から本格的に使う予定だそうです!
Kamui Whiskyで使われているミズナラ樽は利尻島の向かい、稚内の南にある幌延(ほろのべ)町で採られています。幌延町では、地元産のミズナラ樽を使って熟成した赤ワインをふるさと納税の返礼品として出しており、ミズナラ樽が名産品の一つになっています。
昨年蒸留を開始したKamui Whiskyからはまだウイスキーは発売されておらず、熟成を経ていないニューメイク「神居原酒」が本数限定販売されています。
製造工程でのさまざまなこだわりが反映されており、麦芽由来の優しい甘さがあるスムースな口当たりが特徴となっており、利尻に吹き付ける潮風をたっぷり吸いこんだことで、利尻島のテロワール(※)がしっかり感じられる味わいになっています!
※テロワール・・・ウイスキーやワインなどの原料が育った環境を指す言葉で、ここでは麦芽やピートの生育環境が味に与える影響を指しています。
工場長のハビエルさんにKamui Whiskyが目指すウイスキーの味や、今後出していきたい商品についてお伺いしました!
Dear WHISKY:
Kamui Whiskyで目指すウイスキーのコンセプトや味わいなどはありますか?
ハビエルさん:
Kamui Whiskyでは、オークの風味がしっかり感じられ、甘くバニラのニュアンスのある複雑な風味を持つウイスキーを目指しています。複雑なアロマの中にも穀物の味わいがあり、新鮮な塩分をたっぷり含んだ潮風の影響が感じられるようなものを造っていきたいと考えています。
Dear WHISKY:
今後Kamui Whiskyでどのようなウイスキーを出していきたいですか?
ハビエルさん:
今は原料の一部に使っている北海道の中標津産モルトと利尻島で採れるピート(泥炭)を使って、地元の恵みをふんだんに活かしたウイスキー造りを行っていきたいです。
以上が、Kamui Whiskyの現地レポートでした。冬には-10℃を下回る事もある利尻島で、こだわり抜いたウイスキー造りを行っているKamui Whiskyは見ていて飽きさせない特色がいっぱいありました。
「神居ウイスキー」の販売開始は2026年を予定しており、美しい夕日の見える試飲スペースの設置やオリジナルグッズの販売なども予定しているそうです!
また、Kamui Whiskyの代表を務めるケイシー・ウォールさんへのインタビューさせていただきました!ケイシーさんご自身の背景や、Kamui Whiskyが出来るまでのお話などお伺いしましたので、是非こちらのインタビュー記事もご覧ください!今回案内していただいた、ハビエルさん、誠にありがとうございました!