【独占インタビュー】第1弾:世界一のウイスキーコミュニティ、ザ・スコッチモルトウイスキー・ソサエティに独占インタビュー
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嘉之助蒸溜所は、オーク樽貯蔵米焼酎「メローコヅル」で知られる小正醸造が鹿児島県日置市吹上浜沿いに設立した蒸溜所です。
今回は嘉之助蒸溜所に直接お伺いし、蒸溜所見学と所長の中村さんに独占インタビューをさせていただきました!特徴的な設備や建物についてや焼酎メーカーのウイスキー事業への取り組みについてなど様々なお話をお伺いしたので、その様子をお送りします!
嘉之助蒸溜所は、焼酎蔵・小正醸造株式会社が2017年に設立した蒸溜所で、2021年8月に小正嘉之助蒸溜所株式会社として分社化されました。
広々とした敷地には、コの字形2階建ての本棟があり蒸留設備の他、眺めの良いバー(ザ・メロー・バー)やオリジナルグッズを扱うショップなどを設け、蒸溜所を訪れた方々が楽しめるように様々な工夫が施されています。
小正醸造株式会社は1883年の創業以来、蒸留酒である焼酎造りを行ってきました。中でも、1957年に二代目・小正嘉之助氏が手掛けた長期樽貯蔵米焼酎「メローコヅル」が熟成焼酎の先駆けとして長く愛されています。
蒸溜所名 | 嘉之助蒸溜所 |
会社名 | 小正嘉之助蒸溜所株式会社 |
所在地 | 鹿児島県日置市日吉町神之川845-3 |
代表取締役社長 | 小正 芳嗣 |
所長 | 中村 俊一 |
その他 | TEL:099-201-7700 Mail:info@kanosuke.com 嘉之助蒸溜所では蒸溜所見学を受け付けています。 (通常月曜日が休館日、臨時休業あり) 見学後は、眺めの良い「THE MELLOW BAR」にて試飲もできます。 蒸溜所見学はこちらから |
嘉之助蒸溜所が立っている場所は約40年前に小正醸造が購入した土地です。
当時「メローコヅル」が特に売れた時期で、樽を保管するスペースがなくなってしまったため、新しく保管場所になる土地を探していた際に、2代目の嘉之助氏が見つけたことがきっかけです!
タンクの奥に見える少し赤茶けた屋根が、元々米焼酎のメローコヅルの樽の熟成庫になります。
日本の長い砂浜の1つと言われ、南北50km続く吹上浜(ふきあげはま)の横に嘉之助蒸溜所はあります。
冬場には海から非常に強い潮風が吹きつけるため、熟成中の樽に海のニュアンスがつくことを想いながら熟成を見守っているとのことです。
また、夏は35〜36℃になり冬は0℃を下回り、年間40℃ほどの激しい寒暖差があります。
スコッチウイスキーは十数年~数十年と長い期間をかけてゆっくり熟成が進むのに比べ、嘉之助蒸溜所は気候が大幅に変動するので熟成が早いのに加え、エンジェルズシェア(天使の分け前:樽の中で熟成する間に蒸発で失われたウイスキーの一部分)も高く、南国のこの場所ならではの熟成をしています。
初代の小正市助氏が鹿児島・天文館で創業を開始したのが、小正醸造の始まりです。当時造っていたものが焼酎なのか日本酒なのかは記録はないものの、小正家は日置市の八幡神社に納めるお神酒を造っていた一家だそうです。
初代市助氏は、米焼酎造りが得意で、行列ができるほど美味しい米焼酎を造っていました。しかし、太平洋戦争の激化により、当時小正醸造の蔵があった鹿児島市内も空襲に遭い、製造場も焼失してしまいました。
戦後、「焼酎は安価で粗悪な酒」という先入観があり、価値が低かったそうです。
そのような中で、2代目嘉之助氏が焼酎自体の価値を高めていくようなお酒造りを考え、目を付けたのが当時高級品として販売されていたウイスキーやブランデーでした。
焼酎の価値を高めたいという想いから、市助氏が得意にしていた米焼酎造りを復活させ、米焼酎の樽熟成をスタートさせました。
戦争後のため、お酒造りの難しい環境下にあったものの「焼酎の価値を高めて、お酒業界に貢献したい」という想いで必死に取り組みました。
そして、米焼酎造りと熟成を進めていき完成したのが、日本初の樽熟成酒であるメローコヅルです。
焼酎において、メローコヅルが日本で1番最初の樽熟成でしたが焼酎、メローコヅルの発売当初は安価な焼酎が身近にある鹿児島県では売れ行きが伸びませんでした。しかし、県外から訪れた観光客の方等がお土産として購入した際に「焼酎を樽熟成したメローコヅルは美味しい」と評判が広がり、県外に向けての出荷が増えていきました。
その後、第1次焼酎ブーム(昭和50年代から60年代)をきっかけにメローコヅルは全国展開していきました。その当時、東京や大阪をはじめとした大都市に出荷するようになり、より多くのメローコヅルを作成するために樽を置く場所が必要となりました。それが、この土地を購入したきっかけです。
「子どもから大人まで楽しめるようなテーマパークにしたい」という想いで、丘の上という場所に家族皆で楽しめて、テニスもできるそんな施設の設立を夢見ていたとのことです。
「鹿児島の芋焼酎は『芋臭くて、飲みづらい』という評価を覆すほど高品質な焼酎を造りたい」というのが3代目芳史氏の想いでした。
そこで目を付けたのが 原料のサツマイモです。芋焼酎の臭いの原因は、芋の傷んだ香りや低品質の芋を使っていることではないかと考え、 焼酎専用の新鮮な芋を原料にするため近隣の農家さんと契約栽培を始めました。
サツマイモ生産量全体の9割近くを契約栽培が占めていたので、一般的にサツマイモが手に入りにくい時期でも質の良いサツマイモで良い焼酎を造ることができ、そのような努力の末に新事業などに挑戦できる環境を整えることが出来ました。
非常にコストのかかるウイスキー事業に挑戦できる土台は、3代目の努力なしにはなかったといえます。
4代目芳嗣氏が1番力を入れていたのが海外展開でした。しかし、海外においては焼酎自体の認知度が低くニーズが少ないため海外展開が難しい状況にありました。その後、スコットランドの商社から「メローコヅルは高品質である」と大絶賛を受けたのですが、焼酎そのものの飲用機会の低さなどから海外での販売は難しいとされてしまいました。
だからこそこれからは「今までの技術を用い世界で通用するお酒を造らなければいけない」ということで土台である焼酎を世界に広めるためにも、世界共通言語ともいえるウイスキー事業に取り掛かりました。
ウイスキー事業開始に向けて準備を進める際に、 ウイスキーの製造免許を取らなければならなく、製造免許を取得するのに苦戦しました。
「ウイスキーの製造にまつわる研修とレポートの提出」をするための研修先を見つける必要があり、国内で研修を受けられるところが無く苦労したのですが、スコットランドのストラスアーン蒸溜所に、2週間ほど研修をされたそうです。
そして2016年に製造許可が下り、2017年11月に念願の嘉之助初のウイスキーを造り始めたそうです。
4年後の2021年には、ディアジオ社から出資協力のお話を受け、2021年8月小正醸造株式会社と小正嘉之助蒸溜所株式会社に分けました。
ディアジオ社の協力を踏まえた新しい体制で、「世界に羽ばたくような嘉之助蒸溜所のウイスキーを造りたい」と考えています。
本館の建物はコの字型になっています。
「この場所に来たお客さんが感動してもらえるような蒸溜所にしたい」という想いで、コの字型の建物が、この場に立ったお客さんを温かく優しく包み込むような形になっています。
このような想いを抱いたのは、社長の小正芳嗣氏が2ヶ月かけスコットランドの蒸溜所を回った中でビジターセンター(蒸溜所の見学施設)の充実さが大事だと感じたからだそうです。
原料となる麦芽は主にイギリス産と、一部国内モルトも使用した仕込みを行っています。
蒸溜所立ち上げ当初の2017から2019年頃まで使用していたイギリスの麦芽は、マントン社がメインで、現在はマントン社、ベアード社、クリスプ社、ポールズモルト社、と様々なモルトを使用しています。
イギリス以外の様々な国のモルトも試し、中でも国産モルトとイギリス産のモルトは、相性が良く製造しやすいとのこと。
モルトスター(麦芽製造業者)が変わっても、今まで通りや少し加える程度で良いため、「この麦芽だから、こうしないといけない」のように極端に変える必要はないとのことです。
嘉之助蒸溜所では、ハスク:グリッツ:フラワーが2:6:2になるようにグリスト(粉砕した麦芽のこと)を製造しています。一般的にこの割合は2:7:1としますが、独自の割合であるこの配合が、効率やニューポットの質が高いそうです!
麦芽は年間生産量の85%くらいがノンピート(精麦時にピートを炊いていない麦芽)で、残りの15%くらいがピート麦芽です。
ピートの麦芽は主に50ppmの麦芽を使用しています。
仕込みは1.15tの麦芽を使用し、0.15tには国産の麦芽を使用して仕込みを行うこともあります。国産の麦芽は供給が安定して確保できないため0.15tだけ入れていますが、
今後は、鹿児島の農家さんにも協力を依頼し、鹿児島で造った材料のみでウイスキーが造れないかと考えているとのことです。
2022年夏頃までは、1日1tの仕込みを週6回ほどだったのに対し、現在は発酵タンクを追加し増産を行っており、 1回1.15tの仕込みを平日2回、土曜日1回の合計週11回行っています。
嘉之助蒸溜所の糖化槽は三宅製作所製を使用しています。
嘉之助蒸溜所の根幹にある『リッチでスイートな酒質』に『華やかさ』を加えるため、清澄麦汁を取ること心がけています!現在は約4時間ほどかけ糖化とろ過をすることで、出来る限り綺麗な麦汁を造っています。
清澄麦汁へのこだわりのため、今までは人の目で濁り具合を評価していましたが、2023年のメンテナンスの際に濁度計を導入し濁り具合を数値化してより正確に確認できるようにしています。
今後は、麦汁の様子からニューポットを予測・把握できるように、データとして残していきたいとのことです。
嘉之助蒸溜所では1.15tの麦芽につき、麦汁を5,000~6,000リットル回収し、約100時間程発酵させ、発酵開始から5日目に蒸留しています。
嘉之助蒸溜所では、雑菌汚染を防ぎやすいステンレス製の発酵タンクを使用しています。
木製の発酵槽を使用することで複雑な味わいを持ったもろみが造りやすいですが、独自の処方を採用することで、ステンレス製の発酵槽でも木製の発酵槽に負けないほど複雑な味わいを持ったもろみを造っています。
酵母は主に2つ使用しています。1つは、お湯に溶かしてアルコールを造るタイプの乾燥酵母です。もう1つは、イーストタンクで必要量を培養して添加し、アルコールを造るタイプの培養酵母です。この乾燥酵母と培養酵母を合わせて仕込みに使っています。
発酵タンクを増設する際に、元々樽詰めを行っていた場所に発酵タンクを設置し、第2発酵槽として使用しています。
マッシュタンと蒸留器は一旦空になれば、何度でも使用できるのですが、発酵槽は5日間寝かしておく必要があるので製造量を増やす事を考えた時に発酵タンクを増設する必要があったとのことです。
ウイスキーの蒸留は、基本2回行うので、2つのポットスチルがあれば良いのですが、嘉之助蒸溜所は3つのポットスチルを導入しています。3つのポットスチルを使い分けることで、多彩な原酒を造っています。
蒸留の流れとしては、初留機(写真手前)でもろみを沸かして、アルコール度数20%のローワインを取ります。その後、初留器から出た蒸留液を再留釜1(写真真ん中)で3分の2、再留釜2(写真奥)で3分の1を再留し、原酒の造り分けを行っています。
再留釜1は、ラッパをひっくり返したようなストレートヘッド型であり、アームが下向きになっているので、様々な香りや味わいの成分をそのまま原酒に移すことが出来るため、リッチな原酒が生まれます。
再留釜2は、立ち上がりがくびれたランタン型で、ラインアーム上向きになっているため、軽快で繊細なタイプの原酒が生まれます。
様々な原酒が多種多様な樽で熟成することで、全く個性の異なる原酒が生まれ、その中から1つのウイスキーに合うイメージのものを選択しブレンドすることにより、いろんなフレーバーや表情を持ったウイスキーが出来ます。
主にスコッチウイスキーでは2回蒸留を行うのに対し、アイリッシュウイスキーでは3回蒸留をすることで、より度数が高くてクリーンな原酒を生み出すそうです。アイリッシュウイスキーから発想をうけ、3回蒸留にチャレンジしたことがあるとのことです。
実際に3回蒸留を行って2回蒸留では得られない、綺麗でクリーミー、そして少しシトラス系のフレーバーをもった原酒が造れることがわかったので、今後3回蒸留の回数も増やしていきたいと考えているとのことでした。
嘉之助蒸溜所も当初は2つのポットスチルを設置する予定でしたが、スコットランドへ研修に行った際、ある蒸溜所でポットスチルが3つ設置されており、焼酎造りでも多くの蒸留器を使用していることから、一般的な蒸溜所より多い3つのポットスチルの導入を決めました。
また、冷却器部分が3つとも国内では非常に珍しいワームタブを使用しているため、金属との接触面積が少なくなり、元々のもろみやローワインにある、様々なフレーバーの成分が強くパワフルな原酒が造れることです。
鹿児島県の暖かい気候の特性上、環境に負けず長期間の熟成でも伸び続ける原酒を造りたいと考えており、そのため、原酒自体もパワフルでないと樽に負けてしまうのではと考え、3つともワームタブを使用しています。
ミドルカットをするタイミングはバッチ毎に時間、アルコール度数と官能特性で決めています。蒸留工程の従業員は、大体1週間のうち3日間は蒸留を担当し、3日間は糖化を担当するというサイクルで行っています。
嘉之助蒸溜所全体としては、2024年3月末時点で6,000樽ほどあり、
その内の3,600樽がシングルモルト用で、グレーンウイスキーの樽が2,400樽ほどありますが、実はグレーンウイスキーの方は焼酎の蔵で製造しています。
このグレーンウイスキーは2020年から製造しているため、ブレンデッドジャパニーズウイスキーも造りたいと考えています。
一般的にバーボン樽とシェリー樽ですが、嘉之助蒸溜所の強みはアメリカンホワイトオーク材で、焼酎のメローコヅルの熟成で使われていた樽です。10年から20年ほどメローコヅルの熟成に使用したものを、一旦中身を空にして樽を削り、使用しています。
また、赤ワインや白ワインなどのワイン樽にコニャックの古樽を使用しています。
「MELLOW LAND, MELLOW WHISKY」と言う言葉には、ゆったりした場所で甘いメローが心を解きほぐすような、ウイスキーを造りたいという想いが込められています。
メローコヅルの熟成に使った樽は、ニッキ(シナモン)の甘さや少し懐かしさを感じる味わいになる特徴があります。
ウイスキーですが、特にこの原酒を飲むと懐かしい日本の和を感じる仕上がりになっています。
嘉之助蒸溜所でヴァッティングを行いリリースしたウイスキーでは、この焼酎樽の原酒を使っていないウイスキーは1つもありません。
シングルカスクはバーボン樽が多いですが、嘉之助蒸溜所ならではの味を造る上では欠かせない原酒です。
以上、嘉之助蒸溜所の蒸溜所見学レポートでした!
蒸溜所の施設を学ぶだけではなく、蒸溜所の歴史や各工程へのこだわりなど、詳しく学ぶことができました!
嘉之助蒸溜所の見学は、1日2回行なわれています。小正醸造で長年培われた蒸留と樽熟成の歴史と、南国の潮風を感じに訪れてみてはいかがでしょうか?
嘉之助蒸溜所の所長中村俊一さんにはインタビューもさせていただきましたので、下記よりぜひご覧ください!