【現地レポート】江戸から続く伝統を礎に、自由な発想をもとに挑戦を続ける朝倉蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
標高1,200mという特殊な環境下で、県内屈指の湧水と自社材のミズナラ樽を使用したウイスキー造りを展開する井川蒸溜所。
第1弾では、井川蒸溜所の設立の背景や井川蒸溜所ならではの自然を活かしたウイスキー造りについてお伺いしました。
第2弾となる今回は日本のウイスキー業界や井川蒸溜所の今後の展望について取り上げます。
今年2023年にジャパニーズウイスキー100周年を迎えることに対する想いや、製紙会社からウイスキー事業へ、そして自然とともに目指すこれからの姿など、環境を大事にする井川蒸溜所だからこそ思い描くこれからについて盛りだくさんの内容をお届けします!
ぜひご覧ください!
静岡県最北部、長野県と山梨県に隣接する井川山林の中で、井川山林の管理とウイスキー製造を継承している十山株式会社。
製紙業という異業種からの挑戦ながら、南アルプスの山々の恵みから造られる味わい深いウイスキーは、東京ウイスキー&スピリッツコンペティション2022におけるニューカマー賞の受賞やWorld Whiskies Awards2023において銀賞を受賞するなど、品評会で高い評価を受けています!
社名 | 十山株式会社 |
所在地 | 静岡県静岡市葵区田代字大春木1299-1 |
開業 | 2020年11月 |
代表取締役 | 田中 秀紀 様 |
Dear WHISKY:
2023年はジャパニーズウイスキーの100周年の年となりますが、蒸溜所という「造り手」の立場からどのように感じていますか?
瀬戸さん:
ジャパニーズウイスキーの歴史は、サントリーさんやキリンビールさん、アサヒビールさんといった偉大な先人たちが積み上げてきた歴史でもあります。
つまり、さまざまな苦しい時代を乗り越えてきたウイスキー事業に関わる全ての人たちの功績でしかありません。
だからこそ、最近ウイスキー造りを始めた私たちが言えることは「おめでとうございます!」の一言に尽きると思います。
もともと造り手の技術がなかったところから、研鑽を積んで100年後には五大ウイスキーの1つと言われるまで飛躍的な成長を遂げている点には純粋に尊敬しています。
Dear WHISKY:
これから先のジャパニーズウイスキー100年に向けてどのような想いをお持ちですか?
瀬戸さん:
私個人としては、これからの時代苦しい時期もあるだろうと思っています。
しかし、そのような中でもウイスキー造りをやめてはいけないことは確かです。なぜなら、ウイスキー造りの技術の担い手である後の世代にウイスキーを伝えていくことは何よりも大事だからです。
Dear WHISKY:
ウイスキーは時間をかけて造るからこそ、後世に繋げるという想いがあるのですね。
瀬戸さん:
今、ウイスキーに携わる人たちが造り出す文化圏が、少しずつではありますが日本でも形成されてきているように感じます。こういった流れが失われるのはもったいないので、私たちはこれからもジャパニーズウイスキー業界を盛り上げていきたいと思っています。
そのために、ウイスキーに関わる人たちとはより交流の輪を広げていきたいですし、地元の皆さんとももっと関わっていきたいですね。
Dear WHISKY:
瀬戸さんはなぜウイスキー造りに挑戦しようと思ったのでしょうか?
瀬戸さん:
もともと私は親会社である製紙会社に勤めていたのですが、その中でウイスキー事業を始めるにあたり、責任者を決めることになりました。
お酒が好きであること、そしてウイスキーを造る上で必要になる科学的な知識を持っていることの2点が条件だったそうです。
そこで白羽の矢が立ったのが、当時その製紙会社で、紙の中の異物混入の原因を探る警察の鑑識のような仕事をしていた、化学分析官の私だったというわけです。
私としてもお酒造りに興味があったので2つ返事で快諾してしまったのですが、いま思うとあの時どこに蒸溜所を建てるのか聞いておけばよかったなと思っています...(笑)
Dear WHISKY:
実際に化学分析官として培ってきた科学的な知識は、ウイスキー造りにどのように活用されているのでしょうか?
瀬戸さん:
私たちの蒸溜所は、各設備にさまざまなセンサーを入れています。もちろん何か特別なものではなく、温度計であったりpHメーターだったりなのですが、それらを使って毎日もろみを取り、分析項目を設けてその数値がどのように動いているか調べ、酵母や酸味の変化量を計測しています。
要するに、自分の鼻で嗅いで、舌で味わい、数値を見てウイスキーを蒸留しているのですが、こういった考え方は科学的な分析をしてきた人ならではだと思います。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りに化学的な分析を用いるとどのような効果があるのでしょうか?
瀬戸さん:
ウイスキー造りをしていると個人によってどうしても香りや味わいに差が生じてしまいますが、こういった問題も科学的な説明を用いることで、蒸溜所内だけでも何か共通意識のようなものを見つけることができればと思っています。
Dear WHISKY:
これからリリースするウイスキーとしてはどのようなものを考えていますか?
瀬戸さん:
実はまだどんなウイスキーをリリースするかは検討している最中です。
今は、我々のニューボーンを皆さんに客観的に判断してもらう段階であると考えています。最近いくつかコンペティションに出品し、ありがたいことに一定の評価を得ることができたノンピートのニューボーンを私たちは「ラボシリーズ」と呼んでいて、井川蒸溜所のウイスキーの現段階の方向性を表すものだと位置づけています。
今後、コンペティションなど適した時期に合わせてリリースすることはあるかもしれませんが、今後数年間は井川蒸溜所の未来のウイスキーを想像したり、ご期待いただけるようにリリースを考えている所です。
このあたりの情報はホームページなどで皆さんに適宜お知らせしていく形になりますね。「ラボシリーズ」はもう少し続けていく予定です。
Dear WHISKY:
ちなみに、先ほどお話に挙がっていた「ラボシリーズ」は先日のWorld Whiskies Awards2023で銀賞を獲得していましたが、その際の率直な感想をお伺いしたいです。
瀬戸さん:
素直にうれしかったです。
当たり前ですが、私たちは自分たちのウイスキーが少しでも美味しくなるように努めています。しかし私たちの知名度の低さやリリース量の少なさもあり、多くの人からの評価をいただける機会をなかなか持つことができません。
そのため様々なウイスキーを飲まれている審査員の方々に評価していただいたことは、1人の造り手として光栄に思っています。
Dear WHISKY:
井川蒸溜所の今後のウイスキー造りについて、道野さんの想いをお伺いしたいです。
道野さん:
私たちは、もともと製紙業の会社として100年余り時間のかかる林業を行なってきました。
昔も今も「時間」を価値に変えていく仕事をするという意味では、ウイスキー造りにも通じる部分があると思っています。
私たちが蒸溜所を建てている場所はユネスコエコパークの核心地域(コアゾーン)にほど近い場所ですし、時代が変わって皆さんの環境に対する関心が高くなってきている今、環境に対する責任をますます感じています。
だからこそ、南アルプスの自然の恵みを皆さんにウイスキーを通じてお届けすることで、少しでも環境について関心を持ってもらえれば良いなと思っています。
Dear WHISKY:
「造り手」として、瀬戸さんはどのような想いをもってウイスキー造りに取り組んでいきたいと考えていますか?
瀬戸さん:
まず第1に、私はもともと山が好きでこの事業に手を挙げたわけではなく、お酒が大好きでこの事業に加わりました。
今では山で生活する中で、山の良さは分かってきていますし、山に対する想いはさまざまある中で、今は1つの指針としてお酒の質を第1にしようと決めています。
自分が美味しいと思えるようなウイスキーを将来的には多くの人たちに共感してもらいたい、もっとウイスキーの楽しさを広めたい、ウイスキーのさまざまな可能性を追求していきたい...挙げだしたらキリがないです!
とりあえず、美味しいウイスキーを造りたい!ウイスキーの楽しさを追求していきたい!といった感じです。
Dear WHISKY:
最後にDear WHISKYの読者にメッセージをお願いします!
瀬戸さん:
まずは「ウイスキー」という文化に興味を持ってくれてありがとうございます!造り手としてこれからも美味しいウイスキーを造っていけるように頑張っていきたいと思います。
まだウイスキーをあまり飲んだことがない人は、ぜひBarに行ってみてください。バーテンダーさんに尋ねれば、分かりやすく丁寧に教えてくれるはずです。
Barでボトルを見ながら飲むウイスキーは格別です!
以上、井川蒸溜所所長の瀬戸さんと総務部の道野さんへの独占インタビューをお届けしました。
第1弾では蒸溜所設立の背景や熟成環境へのこだわり、そこで造られるウイスキーについて取り上げました。
第2弾では日本のウイスキー業界や井川蒸溜所の今後の展望について取り上げました。
静岡の最奥で南アルプスの山々の恵みをたっぷりと浴びたウイスキーは、標高1,200mの冷涼湿潤な気候の中でリリースの時を静かに待っています。
皆さんのお手元に届くまでもうしばらくお待ちください!