
【国内蒸溜所向け特別イベント】2025年4月28日開催:英国クーパレッジ特別セミナー&熟成用空き樽即売会
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ピート香好きのウイスキー愛好家にとっての天国ともいえるアイラ島のすぐ隣に、ジュラという島があります。
この島の大部分は手つかずの自然に覆われています。北には世界で3番目に大きな渦潮であるコリーヴレッカンがあり、南には国定景勝地(NSA: national scenic area)であるホワイトファーランドベイがあります。この温かみのある町に住む約212人の住人は、島で唯一の蒸溜所である「ジュラ蒸溜所(Jura Distillery)」を愛しています。
今回、Dear WHISKYはジュラ蒸溜所のオーナーであるホワイト&マッカイのブレンダー、ジョー・リケッツさんと、蒸溜所の新しいマネージャーであるジェイミー・ミューアさんにお話を伺うことができました。伝統的なジュラ蒸溜所とウイスキー業界の新しい変化について、2人のウイスキーのプロフェッショナルが熱く語ります。
第1弾ではジョーさんとジェイミーさんのこれまでや、ジュラ蒸溜所での仕事に焦点を当てます。蒸溜所のウイスキーづくりや商品については第2弾でご紹介しますので、そちらも併せてご覧ください!
蒸溜所名 | ジュラ蒸溜所 |
設立年 | 1810年 |
所有者 | ホワイト&マッカイ |
公式ホームページ | ジュラ蒸溜所 公式HP |
説明 | ジュラ島唯一の蒸溜所。蒸溜所は島の小さなコミュニティの中で運営されており、熱心にウイスキーづくりに取り組んでいます。ほのかなスモーキーさと甘くフルーティーな風味から飲みやすい味わいが特徴です。 |
Dear WHISKY:
まずはご経歴を教えてください。
ジョーさん:
私は3年前にホワイト&マッカイに入社し、ブレンディングおよびウイスキー製造チームの一員として働いています。
それ以前は、シンガポールの「ラ・メゾン・ド・ウイスキー」という会社で働いていて、それがウイスキー業界に足を踏み入れたきっかけでした。そこでは、小売業務やイベント運営を担当し、シンガポールでのウイスキー文化の向上に取り組んでいました。
その後、ロンドンにある2つの蒸溜所で働き、モルトウイスキー、ライウイスキー、ジン、ボタニカルスピリッツなど、幅広い種類の蒸留酒を扱いました。そして、私が本当にやりたいと思っていたウイスキーづくりに本格的に携わるチャンスが訪れ、ホワイト&マッカイに参加しました。このような経歴で現在に至ります。
ウイスキーづくりに傾ける情熱
Dear WHISKY:
シンガポールでキャリアを始められたきっかけは何ですか?
ジョーさん:
私はロンドン出身で、思いがけないことからシンガポールに移って仕事を始めました。
移ったきっかけは、当時の私のパートナーがシンガポールの建築事務所に勤め始めたことです。
私は彼女について行き、何かできることを探してみようと考えました。ちょうどそこでラ・メゾン・ド・ウイスキーで働ける機会を得たので、私は即座にそのチャンスを掴みました。入社してすぐ研修のためにパリに派遣され、その後シンガポールに戻って現地での業務を担当することになりました。
Dear WHISKY:
シンガポールでのお仕事はどうでしたか?
ジョーさん:
シンガポールは東南アジア地域のウイスキーの中心地のような場所だったので、この国でウイスキー業界に入ることができたのはとても面白い経験でした。
東南アジアやそれ以外の地域からのお客さんやクライアントが来ていたので、地域ごとに異なる様々な価格帯、好み、文化を知ることができました。これは本当に興味深いことでした。
私は東南アジアのウイスキー文化にできる限り深く関わろうと努めました。プライベートでも、アジア各地を旅行しました。ホワイト&マッカイはアジアで多くのビジネスを展開しているので、今後も出張で行けるといいなと思っています。
Dear WHISKY:
アジアでの経験はどのように生かせると思いますか?
ジョーさん:
アジアでの経験によって、ウイスキー市場をヨーロッパ中心の視点だけでなく、グローバルな視点で理解できるようになりました。私たちがつくるレシピ、テイスティングノート、ストーリーをグローバルな視点で展開することは、様々なバックグラウンドを持つ人々に、ウイスキーをより親しみやすくするために非常に重要だと考えています。
Dear WHISKY:
あなたがアジアにいた時のウイスキーのトレンドや文化はどのようなものでしたか?
ジョーさん:
当時はちょうど日本のウイスキーの人気が高まり始めていた頃だったので、私は非常にラッキーだったと思います。
ラ・メゾン・ド・ウイスキーが総輸入代理店として扱っていたニッカ、秩父、軽井沢など有名なジャパニーズウイスキーを販売するだけでなく、様々なバックグラウンドを持つ人たちと一緒に試飲する機会もあり、ウイスキーに対するさまざまな解釈を深く知ることができました。
この経験から、ウイスキー業界に対する理解がさらに広がりました。
Dear WHISKY:
ホワイト&マッカイにたどり着くまでの道のりはどのようなものでしたか?
ジョーさん:
私はイギリスの海岸沿いに友人と小さな蒸溜所を開きたかったので、当時は一時的に蒸溜所での製造の仕事から離れていました。その過程で「蒸溜所を開くタイミングは今ではないかもしれない」と思うことがあり保留にしたのですが、その製造から離れている間も、ウイスキー業界に戻って、製造やレシピ開発、新しい商品づくりに本格的に取り組みたいと考えていました。
そんな時、ホワイト&マッカイで近々求人があると突然連絡を受けて、私は採用審査を受け、最終的にこのポジションにつくことができました。
Dear WHISKY:
ホワイト&マッケイのブレンダー職の採用ステップはどのようなものでしたか?
ジョーさん:
グラスゴーでの官能評価に始まり、面接など、私がこのポジションに就くまでのステップは長く、かなり深掘りするものでした。採用決定の電話を受けた時のことは鮮明に覚えていますよ。
私にとってまさに夢のポジションでもあり、もし成功すれば、ある意味で自分の遺産を築けるような仕事だと思ったからです。本当にワクワクして嬉しかったです。
ここは、長期的に自分が活躍できる可能性がある場所だと感じています。
Dear WHISKY:
どうしてブレンダーというポジションを掴みたいと思ったのですか?
ジョーさん:
私は、これまでに働いた全ての場所で素晴らしい経験をしてきました。
それでも私がホワイト&マッカイに入社したいと思ったのは、ジェイミーさんや蒸溜所チームのような人たちと一緒に、蒸溜所の将来を形作る大きな役割を果たせる可能性があると感じたからです。
また、将来ブレンダーや蒸溜所マネージャーとなってくれる次世代のために責任をもって働く立場だとも感じています。もちろん私たちだけの使命というわけではなく、自分たちの能力の限り取り組み、次の世代に引き継いでいくだけなのですが、とても光栄に思います。
Dear WHISKY:
ジェイミーさんの経歴についても教えていただけますか?
ジェイミーさん:
私はジュラ蒸溜所の新しいマネージャーです。ホワイト&マッカイに戻ってきて10カ月が経ちます。
私はジュラ島出身で、ジュラ蒸溜所のマッシュマン兼スチルマンとしてウイスキー業界のキャリアをスタートしました。数年後にフェッターケアン蒸溜所に移り、その後、キルホーマン蒸溜所に移りました。
どの蒸溜所も全然タイプの違う蒸溜所でしたね。キルホーマン蒸溜所は、大麦の処理から瓶詰めまですべてのプロセスを蒸溜所で行う、スタートアップの小規模な家族経営の蒸溜所でした。そこで他の蒸溜所で経験したことのない製造工程に携われたことは、自分自身の成長にとって非常に有意義なものでした。
蒸溜所マネージャーのジェイミー・ミューアさん(参照:The Spirits Business)
Dear WHISKY:
様々な蒸溜所で経験を積んだことで、ウイスキー製造に対する幅広い視点が得られたのですね。
ジェイミーさん:
その通りです。キルホーマン蒸溜所の後、直近5年間はブリュードッグ蒸溜所で仕事をしました。ブリュードッグはビール製造の傍らで蒸留酒事業も行っています。
ジョーさんがジン、ウォッカ、ラムやウイスキーをつくったように、私も実験を経て自身で蒸留酒をつくり、ウイスキー業界だけでなく、蒸留酒業界の全体像を俯瞰的に見ることを目指しました。
その上で、ジョーさんと同じく私が本当にやりたいことは、あくまでウイスキーづくりでした。
Dear WHISKY:
キャリア形成における本質とは何でしたか?
ジェイミーさん:
私は常に多くのことに興味を持っていました。
自分自身に挑戦し続けること、それが私がキャリアで一貫して大事にしていたことです。
ずっと自分自身を試し、成長しようとしてきたのだと思います。今の職は夢ではあったものの、そのためにどう進むべきかという明確な青写真は持っていませんでした。
Dear WHISKY:
なぜジュラ蒸溜所に戻ろうと決心されたのですか?
ジェイミーさん:
ジュラ島は私の出身地なので、ジュラ蒸溜所に戻ることが私の最終目標でした。マネージャーポジションの募集があった時、私は迷わずそのチャンスに飛びつき、幸運にも自分がその仕事に適任だとアピールできました。入社してすでに10ヶ月が経ちましたが、今でもここで働けていることに感謝しています。
ジュラ蒸溜所の内部(参照:Jura Single Malt Scotch Whisky)
Dear WHISKY:
ジュラ島で育ったこと、そしてここで働くことの魅力は何ですか?
ジェイミーさん:
ジュラ島で育った私は、この島の文化をずっと愛しています。とても小さくて狭いコミュニティなので、ここでは一人一人が影響力を持っているのですが、これはコミュニティ内だけでなく蒸溜所についても同じです。
蒸溜所は成長を続けており、今後数年間で大きく変化する予定です。
そして、私は先頭に立ってその変化を推し進められることにとてもワクワクしています。
さらに、ジョーさんのような、私と同じような情熱や意欲を持ってジュラの将来を考えている人たちと一緒に仕事ができることも非常に魅力的に感じています。私はホワイト&マッカイの野心に惹かれて、ジュラ蒸溜所で働きたいと思ったのです。
Dear WHISKY:
蒸溜所のマネージャーポジションに応募したときはどうでしたか?
ジェイミーさん:
私は、応募したことはあまり周囲に話しませんでした。家族にすら伝えていませんでした。不思議なもので、入社初日、このマネージャー室はまるで私にとって聖地のように感じられました。それくらい、マネージャーの仕事は考えられる中で最高の仕事でした。
何年も経験を積んだ後、自分の履歴書を見て振り返ると、こんなに色々なたくさんのことをやってきたのだと分かります。経験する前は、自分がどれも成し遂げられるとは思ってもいませんでした。
ブリュードッグでマネージャー補佐をしていた時、「4種類もの違う蒸留酒を扱えているのだから、私はウイスキーという1つの大きな蒸留酒なら管理できるだろう」と思い、ジュラ蒸溜所のマネージャーポジションへの応募を決めました。
最終面接を受けてから初めて家族に応募したことを伝えました。
Dear WHISKY:
新しいマネージャーとなってどんな気分ですか?
ジェイミーさん:
まさに自分の夢が叶ったようなものなので、採用決定を告げられた瞬間のことは今でも覚えています。これまでのキャリアの中で、間違いなく一番誇らしい瞬間です。
また、ジュラ島に戻って来られて、この島で暮らし、家族とより多くの時間を過ごせることも嬉しいです。
また、蒸溜所マネージャーであるという責任も、これから進む道のりも、そして蒸溜所を動かしていけることも最高だと思っています。
Dear WHISKY:
ホワイト&マッカイの一員になったことはどうですか?
ジェイミーさん:
ジュラ蒸溜所とホワイト&マッカイで働くということは、グローバルな野心をもつ大企業の一員となることを意味します。そこで、自分がその組織の中でどのような立場にあるのかを理解することになります。
初めは組織のかなり下の方からスタートしましたが、そこで努力を重ねていれば、確実に昇進することができるのです。
これはウイスキー業界における、最も興味深いことの一つだと思います。
Dear WHISKY:
このウイスキー業界に入ると決めた理由を教えていただけますか?
ジョーさん:
私は昔から味に興味を持っていました。食べ物でも飲み物でも、味は私の人生の中で大切な思い出の多くを形作る要素で、おそらく私が思い出せる最も古い記憶も、香りや味に関連したものです。そのため、私はずっとその魅力に強く関心を持ってきたのです。
こんな経緯から、「自分の感覚を使って、人々が大切な人たちと共有して楽しめる最も面白い方法はなんだろうか?」と若い頃から常に考えていました。そして、適切に製造・熟成されると、本来備わった複雑さを持つ蒸留酒となるウイスキーにたどり着きました。
背景が何であれ、ウイスキーが人々に与える思い出や経験は、他のものづくりでは成し得ない方法で人々を結び付け、物語を紡ぐことができます。
Dear WHISKY:
味に対する興味があるジョーさんが、なぜウイスキー業界に情熱を感じるのでしょうか?
ジョーさん:
ラム酒やメスカルなど他の蒸留酒を飲んだ経験はもちろん素晴らしかったのですが、私にとって最も思い出深い瞬間は、友人と共にウイスキーを飲んだ時のことです。
その経験がウイスキー業界に進む動機となり、他の人々にもその思い出を再現する機会を提供したいと思うようになりました。
ウイスキー製造過程の中でも、個人またはチームで何かを作り上げていくとき、それが特別な思い出を呼び起こすことがあります。そうすると、その思い出に基づいて、さらに製造の過程に深く関わりたいと思うのです。
Dear WHISKY:
ジェイミーさん、ジュラ蒸溜所での仕事におけるジョーさんの役割についてどうお思いになりますか?
ジェイミーさん:
ジョーは特に広範囲にわたって仕事をしています。ここではチーム全員で蒸留酒を製造して樽詰めしますが、ジョーはその管理人です。蒸留酒が樽に詰められたら、皆で協力し、ジュラ蒸溜所が可能な限り最高の製品を生み出せるように全員でベストを尽くします。私にとってこの協力の精神が大切です。ジョーこそが、ジュラ蒸溜所を今日のような形に作り上げた人物です。
ジョーさんと蒸溜所メンバーのパートナーシップのおかげで、ジュラ蒸溜所がとても素晴らしいものになっていると思います。
Dear WHISKY:
ジェイミーさんがウイスキー業界に入ったきっかけを教えていただけますか?
ジェイミーさん:
私はジュラ島から多くの影響を受けています。この島でウイスキー産業は文化そのものです。幼少期に住んでいた頃は、島民がたった150人しかおらず、主要産業はこのジュラ蒸溜所でした。当時は最大の雇用主で、今でも蒸溜所は島最大の産業の一つです。私は当時から蒸溜所で働いていた人も知っていました。そして、今が自分の番だと思うようになったのです。
それに加えて、現在10カ所以上の蒸溜所がありウイスキー産業がとても盛んなアイラ島に毎日通学していたので、私の周りで起こるあらゆることにウイスキー産業が深く関わっていました。
ジュラ島の風景(参照:Jura Single Malt Scotch Whisky)
Dear WHISKY:
ジュラ島のユニークな環境によって、自然とウイスキー業界の一員に導かれたというのはとても興味深いですね。
ジェイミーさん:
そうですね。しかし私は、ジュラ蒸溜所のあの白くて巨大な美しい建物の中で何が起きているのか、当時は全く知りませんでした。私が知っていたのは、バーに置かれていたり、ジュラ島で行われるあらゆるイベントで目にする、このボトルに入った「黄金の液体」ともいえる最終的な結果だけでした。この島でお祝いごとがあると、必ずどこかにジュラウイスキーのボトルがあります。自分が飲んだり、父親が試飲したり友達と分け合ったりするのを見て成長してきたのですが、私が蒸溜所の壁の向こうで何が起こっているかは知らなかったのです。
しかし、何かすごいものがあることは知っていましたし、みんなが楽しんでいるのを見て、自然に興味や想像力が掻き立てられたのだと思います。
Dear WHISKY:
ジュラ蒸溜所は単なる仕事場としてだけでなく、常に人々の生活の一部であり、文化の中心でもあるのですね!
ジェイミーさん:
そうですね。また、ジュラ蒸溜所やアイラ島にある蒸溜所はどれも、長年にわたってこうした物語を語り継ぎ、神秘的な雰囲気を醸し出してきました。
私はその神秘的な雰囲気に引きつけられました。そのため、蒸溜所の壁の向こう側を見たいと思って私がウイスキー業界に入るのは自然な流れでした。
ここで仕事を得られて、本当に誇らしく思います。この世界に足を踏み入れ、ウイスキー産業の素晴らしさや世界への広がりに気がつきました。この小さな島からでもアジアでのウイスキー産業の成長を感じることができるのです。最初は信じられませんでした。
さらに、その成長のために費やされる仕事や皆の努力を目の当たりにすると、ますます魅了され、この業界に残りたいと思う気持ちが強くなりました。今、自分が他の場所にいることは考えられません。
ジュラ蒸溜所(参照:Jura Single Malt Scotch Whisky)
Dear WHISKY:
ジョーさんも蒸溜所の纏う神秘性に惹かれましたか?
ジョーさん:
そうですね。私たちのつくるウイスキーに対する人々の神秘性やロマンは、私たちの仕事にとって重要なもので、本質的なものです。なぜなら、ウイスキーづくりにおいては業界としてもまだ完全に解明できていないプロセスがいくつもあるからです。そういう意味では単に機械のボタンを押すだけではなく、私たちが手を動かして製造に取り組んでいく必要があります。ウイスキーは、工場でコントロールされ、ベルトコンベアに乗せられて、均一の規格・品質で生産されるような製品ではありません。
私たちは自然のなすがままに、天然の原材料や自然のプロセスを使って、素晴らしいものをつくり出そうとしています。
この自然に任せるということは、生み出されるものもそのプロセスも毎回異なるということで、私にとってウイスキー業界で最も興味深い部分の1つでもあります。
Dear WHISKY:
その自然のなすがままという特徴が最も顕著に見られるのは、どの製造工程ですか?
ジョーさん:
私たちは時に試飲して樽をチェックするのですが、例えば同一の蒸留酒が詰められた同一の樽が倉庫の中で40年間隣り合っていても、異なる熟成過程を経て、最終的に異なる風味を持つ全く違う製品となる場合があります。こうした予測不可能な要素がウイスキーづくりにおいて重要な役割を果たしているのが私は好きです。これはまるでオーケストラが、演奏する楽器やセクションが増えることで、音楽を作り上げていく様子に似ています。
このことから分かる通り、同じ樽は2つと存在しません。
もちろん類似する部分もありますが、それでも確かにわずかな違いがあるのです。これは、レシピの作り手としても飲み手としても感じられる、ウイスキーの持つロマンと神秘性の大部分を形作っています。
Dear WHISKY:
ウイスキー製造を芸術の1つとして捉えられているようですね。他の芸術作品からインスピレーションを受けることもありますか?
ジョーさん:
もちろんです。私がウイスキーについて学び始めた頃、最初に読んだ書籍の中に、ウイスキーはかつて芸術と科学に関連付けられていたという引用がありました。
つまり、ウイスキーは芸術と科学の組み合わせであって、どちらか一方が重要というわけではありません。
芸術全般や創作過程に関して、作家、アーティスト、ミュージシャンなどあらゆるものから、私は常にインスピレーションを探しています。近所を歩いていて誰かの家の前庭にある花の香りを嗅ぐだけでも、私の創造的なインスピレーションにつながることがあります。それらは新たなウイスキーのコンセプトやアイデアに繋がり、テイスティングノートにも反映されることがあります。
Dear WHISKY:
私たちが目にするジュラのボトルも、こうした日常の小さなことからインスピレーションを得たものかもしれないと考えると魅力的ですね。
ジョーさん:
私はインスピレーションの引き出しをできるだけ広く深く保つようにしていて、そういう意味では何事も当たり前だとは思わないようにしています。
表面上はまったく関係ないように見える経験から、素晴らしいものが生まれることがあるからです。
だからこそ、いつインスピレーションが湧くか分からないので、目、耳、鼻、すべてをオープンにしていつも周囲に注意を払っています。
ジュラ・シングルモルト・スコッチウイスキー(参照:Jura Single Malt Scotch Whisky)
Dear WHISKY:
ジョーさん、普段ブレンダーとしての一日をどのように過ごしていますか?
ジョーさん:
ほぼ毎日、異なる動きをしていますね。比較的小規模なブレンディングチームの一員として、ホワイト&マッカイが所有する他の地域の蒸溜所にも携わっています。そのため、他の蒸溜所、ブランド、そして協力している他の部署にまたがって様々なプロジェクトに取り組みますし、品質管理も日々行っています。
Dear WHISKY:
具体的にはブレンダーとして、どのような仕事をしているのでしょうか?
ジョーさん:
グラスゴーの本社にあるサンプルルームに行くので、私の拠点はその本社です。定期的な官能評価と品質管理として、週に40~50のサンプルの評価を行っています。
ホワイト&マッカイが生産する全ての製品の品質と一貫性を維持しながら、独自のレシピを試作して開発も行っています。
基本的には日々このような業務を行なっていますが、もちろん私たちの仕事は他にもたくさんあります。世界中を旅して蒸留酒の評価や市場調査を行うことや、テイスティングノートを書くこと、ウイスキーにまつわる物語をつくることもあります。
Dear WHISKY:
ジェイミーさん、あなたはジュラ蒸溜所のマネージャーとしてどのように1日をお過ごしですか?
ジェイミーさん:
ジョーさんと同じく、ジュラではルーティンワークというものがありませんね。この質問から得られた重要な気づきかもしれません。日々の業務とスタッフとの確認作業ですべてが常に変化しており、 大抵どこかで発生するトラブルにも対応しなければなりません。
しかしそれがウイスキーの魅力でもあります。大変な毎日ですが、顔に笑顔を浮かべない日はほとんどないのですよ。
また、このような業務とは別に、私たちは色々な進行中のプロジェクトも抱えています。
Dear WHISKY:
小さな離島で生活する上で、何か困る事はありますか?
ジェイミーさん:
孤立した島の自然は非常に厳しく、物資の運び込みも労力が掛かりますし、人が定住するのも難しいです。私が若い頃は、兄弟やたくさんの友人が学校を辞めてまでもジュラ蒸溜所での仕事を探したものでした。しかし、今はこの島で仕事を探す人はあまりおらず、昔と状況は変わりました。住居の問題もあるので、島外から人を雇うのも難しいです。またフェリーや天候の問題もつきまといます。さらに、私たちの旧式の工場では故障のリスクがあるので、バックアップや電力などのメンテナンスを計画的に行い、もしもの事態に備える必要があります。
困難は1つのことだけではなく、色々なことの積み重ねなのです。
ジュラ島の自然(参照:Jura Single Malt Scotch Whisky)
Dear WHISKY:
このような問題をどのように乗り越えていますか?
ジェイミーさん:
とにかくできる限り最善を尽くすだけです。問題を乗り越えていくことは、ジュラ島で育つ中で自然なことでした。例えば、私が子供の頃には、フェリーの運休で学校に行けないことがありました。
今でもフェリーが運航しない日や、誰かが病気で休む日がありますが、それは単なる問題の一部であって、皆協力し合って乗り越えていけばよいのです。結局、そうした困難を受け入れて共に生きるしかないんです。
この島では人生観がゆったりしていて、こういった問題が起こってもすんなり受け入れられます。なにしろ自分のコントロールが及ばないことですからね。
Dear WHISKY:
ジュラ蒸溜所の人気を活かして、島により多くの人を呼び込みたいと思っていますか?
ジェイミーさん:
それが私にとっての最終目標です。もし住居やフェリー、その他の色々な問題が解決して、求人広告を掲載すれば、きっと何百人もの人々がここに来たいと思ってくれるでしょう。この素晴らしい会社が運営する素敵な蒸溜所がありますからね。この島はこれからますます成長していきます。
理想としては、人々がこの島に来て「なんて美しくてロマンチックなところなんだろう」と感じ、ウイスキーだけでなく島自体を心から好きになってくれることです。
ジュラ蒸溜所の魅力の一つは、このウイスキーが私たちの島の美しい文化を反映していることだと思います。
Dear WHISKY:
ジョーさん、ジュラ島での生活はグラスゴーのような大都市での生活とどんな風に違うと感じますか?
ジョーさん:
私は都会にいた時も、常に都会の生活の喧騒に巻き込まれないよう努めてきました。ジュラ島にいると、物流やインフラなどはどうしても自然に左右されるところがあるので、自分たちにはどうにもできないことがあるのだと感じざるを得ません。ウイスキーづくりについても同様で、私たちはこの環境を受け入れて適応しなければなりません。これは自然を尊重し、理解することだと思います。時には望むものが得られないこともありますが、基本的にはそのような環境と共存しなければなりません。
空に太陽が輝き、物事がうまくいくと、あらゆることに一層感謝する気持ちが湧きます―それがジュラ島の生き方であり、ジュラ蒸溜所の理念でもあると思います。
第1弾は以上です!ここまではジョーさんとジェイミーさんに、ウイスキー業界でのキャリアにまつわるお話や、ジュラ蒸溜所での仕事の様子を教えていただきました。
第2弾では、ジュラ蒸溜所のウイスキー製造、理念、そしてウイスキーコレクションについて詳しく伺っていきますので、ぜひご期待ください。