【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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大分県竹田市久住町にて、2021年に製造を開始したウイスキーの蒸溜所である久住蒸溜所。久住高原の一角、標高約600mに位置しており九州としては冷涼な気候の中、大分県で唯一ウイスキーを製造する蒸溜所です。
今回のインタビューでは、久住蒸溜所の代表であり、ウイスキートーク福岡の実行委員会の一員でもある宇戸田祥自さんに、ウイスキーとの出会いや久住蒸溜所ならではのウイスキーづくりの魅力について伺いました。
宇戸田祥自 様(有限会社 津崎商事/久住蒸溜所 取締役社長)
食品販売会社を経て実家が経営する酒販店でウイスキーの販売に注力。ウイスキートーク福岡の立ち上げ・運営にも携わり、2021年に地元・大分県竹田市久住町に久住蒸溜所を設立。世界一の蒸溜所を目指し、ウイスキーづくりに邁進する。 |
Dear WHISKY:
宇戸田さんがウイスキーに興味を持ったきっかけは何ですか?
宇戸田さん:
大学3年生の時に、友人に誘われてBarに行った際にマスターにお勧めしていただいたスコットランドのシングルモルトがとても美味しかったことですね!
当時はウイスキーづくりに対する想いはまだありませんでしたが、ウイスキーという飲み物を美味しいと思って飲んでいました。
Dear WHISKY:
ご実家が経営される酒販店に入社されましたが、入社を決められた理由は何ですか?
宇戸田さん:
元々全く違う会社で支社を作る仕事をしている中で、その事業が軌道に乗っていました。余力が少しずつ出てきたので、せっかくなら実家の酒屋で働きたいと思いました。
Dear WHISKY:
当時はウイスキー人気が落ち込んでいる時期だったと思いますが、大変だったことなどはありますか?
宇戸田さん:
正直大変なことは非常に多かった思い出ですね。
私が実家の酒屋に入社した時代にも既にウイスキーは販売してましたが、まだ通販を行っていなかったため、お店で1本1本手売りしていました。
ちょうどウイスキーが低迷している時代でしたから、売上はずっと低空飛行でしたね・・・。
Dear WHISKY:
世間的には少しウイスキー人気が低迷していた中でも、宇戸田さんはよくウイスキーを飲まれていましたか?
宇戸田さん:
そうですね!友人とBarによく行っていました。もしかしたら売るより飲む方が多かったかもしれませんね。そう思えるくらいにずっと変わらずウイスキーが大好きでした。
Dear WHISKY:
ぜひ印象に残っている銘柄を教えてください!
宇戸田さん:
一番初めに飲んだ銘柄のグレンフィディックが印象深いですね。他にも様々な種類のウイスキーをBarで飲ませていただきましたし、Barのマスターのおすすめを沢山飲んできましたね!癖があるウイスキーでもむしろ美味しいと思いながら飲んでいました。
Dear WHISKY:
ウイスキー事業に参入しようと思ったきっかけは何ですか?
宇戸田さん:
ウイスキーのイベントを開催したり、通販で様々な商品を扱えるようになったり、プライベートブランドも扱えるようになったりして、大きくやりがいを感じていた半面、造り手ではないため全て一からウイスキーをつくれるわけではなく、限界を感じていた部分もありました。
「いつか自分もウイスキーをつくってみたいな」と思いながらも半ば諦めかけていましたが、ある時ベンチャーウイスキーの肥土さんにお話しして「本当にウイスキーづくりをしたいのであれば、できない理由を1個1個クリアしていけば良いんじゃない?」とアドバイスをもらったことで、挑戦してみようと決意しました。
Dear WHISKY:
ウイスキー事業に挑戦する際には、肥土さん以外の方にもご相談されましたか?
宇戸田さん:
本坊酒造の本坊社長にもご相談させていただきました!「大変だぞ」とは言われても「やめとけ」というお話はなかったですね。
お二人とも「やめろ」とか「やめた方が良い」とは言われなかったので、もしかしたらチャンスはあるかも、と思い始めました。
Dear WHISKY:
宇戸田さんが生まれ育った久住町の魅力について教えてください!
宇戸田さん:
久住は畜産が盛んで、牛も豚も美味しいです。今は有名な観光地ではありませんが、これからに期待の場所ですね!住んでいる人も良い方々ばかりです。 ウイスキーづくりについても理解してくださっていますし、応援してもらっています。
久住町の皆様とウイスキーづくりをしているような気持ちです。
Dear WHISKY:
将来、久住蒸溜所が観光資源として久住町の大きなアピールポイントの1つになるかもしれませんね!
宇戸田さん:
そうですね。10年後くらいになってしまうかもしれませんが、蒸溜所の見学受け入れなどで我々も久住の発展に貢献できれば良いなとは思っています。
Dear WHISKY:
久住町の気候や自然環境は、ウイスキーづくりにどのような影響を与えていますか?
宇戸田さん:
九州にしては、明白に冷涼だと思います。標高100mごとに1度下がりますから、九州の一般的な気候よりは5~6度気温が低いという点において、非常におだやかなウイスキーの熟成が期待できると思いますね!
Dear WHISKY:
降水量も多いそうですが、ウイスキーづくりにとっても良い影響を与えていますか?
宇戸田さん:
山に降った雨が地下を通って濾過されて、ちょうど久住の辺りで湧くので湧き水が豊富ですね。日本酒蔵がここにあったのも、それが理由だと思います。
水質は硬度が低く柔らかい軟水であり、水の観点でもウイスキーづくりに向いている土地だと考えています。
Dear WHISKY:
ウイスキーづくりの場として久住を選ばれた理由は何ですか?
宇戸田さん:
久住は気温が低く、水も多いですし、何より私の出身地でもあります!ウイスキーづくりを始めるにはぴったりの土地だと思ったので、他を探す理由があまり無かったですね。
Dear WHISKY:
大分県では焼酎や日本酒が盛んな地域ですが、ウイスキー製造をする会社が少ない中で、ウイスキー事業に取り組み始めた際には苦労したことなどはありましたか?
宇戸田さん:
苦労よりもむしろプラスになったことの方が多いと思います。久住蒸溜所の場所もかつては日本酒の酒蔵で、長い間日本酒をつくっていた場所だからこそ我々が今ウイスキーをつくれているという側面もあり、間違いなくプラスに働いています。蔵元をサポートする業種の方も多くいるので、メリットが大きいと思います。
Dear WHISKY:
久住蒸溜所HPにある「世界一の蒸溜所、世界一のウイスキーを目指して」というメッセージに込められた想いは何ですか?
宇戸田さん:
皆様に商品としてウイスキーを飲んでいただくからこそ、作法として一番良いものを目指すという姿勢でいたいと考えています。他社を凌ぐというよりは、私たち自身が「これが本当に世界一だ」と胸を張れるようなものを目指そうという想いがあります。
他社を出し抜いてつくりたいということではなく、私たち自身に向けた覚悟のようなものですね。
Dear WHISKY:
つくっている皆様自身が「世界で一番のウイスキーである」と思えるまで、丁寧にウイスキ-づくりに向き合いたいということですね!
宇戸田さん:
常に向上心を持っていたいと考えています。「これがベスト」というものは、おそらく100年やっても辿り着かないかもしれませんが、100年後に久住蒸溜所で働く人にもそのような気持ちを持って欲しいですね。
Dear WHISKY:
原料の大麦全体の1割から2割ほどが大分県産とのことでしたが、地元の大麦を使うと決めた理由はありますか?
宇戸田さん:
せっかく大分県でウイスキーの事業を始めたので、大分県産の大麦を使ったウイスキーを飲んでみたいという素朴な想いがありました。
地元の大麦を使ったウイスキーづくりは、ウイスキーをつくろうとする人なら誰でも興味を持つものだと思いますが、ウイスキーは結果が出るまで5年・10年とかかります。蒸溜所を始める前から、やるのであれば一刻も早く仕込みを始めるべきだと考えていました。
Dear WHISKY:
実際にこちらの大麦を使用したニューメイクをテイスティングされたと思うのですが、宇戸田さんとしての感想はいかがですか?
宇戸田さん:
良く言えば素朴、悪く言えば野暮ったいというのが率直な感想です。ただ、ニューメイクはそういうものであって、今後どう熟成に影響が出るか、どのように品種を変えるか、酵母を変えるべきか、など色々と研究を重ねていきたいと考えています。
Dear WHISKY:
久住蒸溜所のウイスキーの特徴は何ですか?
宇戸田さん:
比較的重い酒質になって、ある程度樽感が強く出ても負けないような酒質になっていると思います。
ボディーがしっかりとしていてフルーツ感もあり、あまり他に負けそうにないしっかりとしたお酒の個性を感じてもらいやすい原酒になっていると思っています。
Dear WHISKY:
イベントや試飲会などでの評判はいかがですか?
宇戸田さん:
試飲会などでは「甘さがしっかりある」、「ボディが厚い」、「余韻が長く重さがある」というような評価をいただいていますね!試飲会などで皆様からの意見を直接聞くことが出来るのは非常に良い機会です!
Dear WHISKY:
久住蒸溜所においてウイスキーをつくる上で大切にしていることは何ですか?
宇戸田さん:
なによりも「信じる」ことですね。
先人を信じる、スタッフを信じる、飲み手のウイスキーへの敬意・愛情を信じることかなと思います。
やはりウイスキーは良いものをつくろうとすればするほどシビアになります。もっと安く、楽につくる方法などはありますが、伝統的な製法のベースがあった上で良いものをつくろうと思うと、やはり我慢しないといけないことの方がはるかに多いです。
Dear WHISKY:
ウイスキーづくりに携わる方々を信じることが大切なのですね。
宇戸田さん:
スコットランドでは200年以上前から「良いウイスキーとは?」と考えられていますし、日本でも100年前の先人がスコットランドの製法を持ち帰り、それを守って確立してきています。それをあえて踏み外すのではなく、先人を信じて守るべき部分はしっかりと守ろうと考えています。
先人による伝統、頑張っているスタッフ、強いウイスキー愛を持つ飲み手などを信じながら、真摯に取り組むことが大切だと考えています。
Dear WHISKY:
宇戸田さんの目指す理想のウイスキーはどのようなウイスキーですか?
宇戸田さん:
僕が昔ウイスキーを飲み始めた頃は、30年物や40年物も1杯1,000円~1,500円も払えば、様々な種類のウイスキーを飲むことが出来ました。あの頃に飲んだとても長熟で美味しいウイスキーが私の理想ですね。
そのようなウイスキーが久住でもつくれるように頑張りたいですし、いつか「久住の50年物は非常に美味しい」と言っていただけるようになりたいです。
Dear WHISKY:
ジャパニーズウイスキーが今年で100周年を迎えますが、宇戸田さんはどのような想いをお持ちですか?
宇戸田さん:
ジャパニーズウイスキーの100年間には、良い時代もあれば悪い時代もありました。ウイスキーづくりを定着させた先輩方は、僕らが今味わっている苦労とは比較にならない程大変な思いでウイスキー文化を守ってきたと思います。
私たちのような新興のウイスキーメーカーが名誉を傷つけることは良くないと思っていますから、重いバトンを託されているという覚悟を持っています。
先人の想いをしっかり重く受け止めて、久住蒸溜所も次の100年へ繋がっていくような良いウイスキーをつくりたいと考えています。
Dear WHISKY:
一人の飲み手として、ウイスキーをずっと飲まれてきた宇戸田さんから見て、ジャパニーズウイスキーの魅力はどのような部分だと考えていますか?
宇戸田さん:
スコットランドの製法を踏襲しつつも、日本らしさもしっかり兼ね備えている部分だと思います。
基本を守りつつも、日本人としての感性や材料をウイスキーづくりに取り入れて、日本らしさを丁寧に表現してこられた先輩メーカーさんの忍耐と探究、手腕には本当に敬意と感謝しかありません。
そのハードルに対して私たちはどのように挑んでいくかという大きな宿題を抱えていると考えています!
Dear WHISKY:
最後にDear WHISKYの読者の方に向けて、メッセージをお願いします!
宇戸田さん:
スコットランドやもバーボン、ニューワールドなど、ウイスキーにも様々なものがありますから、あまり偏らず色々なウイスキーを飲んでいただきたいと思います!
造り手としてもバーボンの消費量が増えれば、私たちはバーボンバレルが買えますから、「これを飲んだら、これが負ける」みたいなWin-Loseという関係でもないと思います。
様々なウイスキーを飲むことで審美眼が磨かれますし、それぞれ好みがあると思いますので、皆様には自分好みのウイスキーを見つけて欲しいと思います!
Dear WHISKY:
ありがとうございました!
ここで2023年6月15日に発売されたばかりのウイスキー情報です!
「久住蒸留所ワールドブレンデッドモルト Green Dram」
46度/700ml ノンチルフィルタード
2023年6月15日に久住蒸溜所から新商品が発売されました!
自社熟成庫で追熟された海外からの調達モルトと久住蒸溜所の早熟のニューボーンをブレンドした商品です。
“Green”は、大分県竹田市に位置する久住高原を一般的にイメージするカラーであることと、久住蒸溜所はまだ若い蒸溜所であることが由来となっています。
引用:https://www.isego.shop/
以上、久住蒸溜所の宇戸田さんへの独占インタビューでした。
ウイスキーをつくる上で大切なことは「信じる」ことであるという想い、そして先人の思いを重く受け止め伝統的な製法を守りながらも、自分たちなりの表現を模索して良いウイスキーをつくりたい、そんな熱い想いを語る宇戸田さんのお姿が印象的でした。
そんな久住蒸溜所がつくるニューボーンが発売されました!「甘みがしっかりあって、ボディが厚い」と評判のウイスキーを皆様もぜひお楽しみください!