【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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大分県竹田市久住町にて、2021年に製造を開始したウイスキーの蒸溜所である久住蒸溜所。
久住高原の一角にあり、標高は約600mと九州としては冷涼な気候の中、大分県でウイスキーを製造する唯一の蒸溜所です。
使用するモルトは主にスコットランド産ですが、地元大分県産の大麦を一部使用するなど、「ローカルバーレイ」にも取り組んでいます。
今回は久住蒸溜所に実際に伺い、製造責任者の武石さんに、ウイスキーの製造設備などの蒸溜所見学や新作のブレンデッドモルトなどのお話を伺いました!
久住蒸溜所は、2021年2月に九州のほぼ中心に位置する大分県竹田市に設立されました。久住高原という広大な自然に囲まれるこの場所は、澄みきった空気と豊かな湧き水に恵まれているため、ウイスキーづくりに適しています。
久住高原での「野焼き」は、「くじゅう四季の草原、野焼きのかおり」として環境省の「かおり風景100選」に選ばれています。
蒸溜所名 | 久住蒸溜所 |
会社名 | 有限会社津崎商事 |
蒸溜所代表者 | 宇戸田 祥自 様 |
所在地 | 大分県竹田市久住町大字久住6426 |
蒸溜所公式HP | 久住蒸溜所公式ホームページ |
現在、久住蒸溜所では見学の受け入れを行なっていませんが、今回は特別に久住蒸溜所の武石さんに蒸溜所を案内していただきました!
久住蒸溜所のある場所には元々日本酒を造る酒蔵があり、その跡地を購入して久住蒸溜所が設立されました。
酒蔵は大正時代に造られたもので、老朽化した木造の建物はほぼ全て取り壊されましたが、鉄筋コンクリートの建物だけは現在も蒸溜所の一部として利用され続けているそうです。
久住蒸溜所の製造設備一式はフォーサイス社(スコットランドのメーカー)製です。
製造設備のサイズは、1バッチ(1回の仕込みでできるウイスキー量)500kgです。この量はメジャーなクラフトウイスキー蒸溜所の半分程度で、久住蒸溜所は比較的小規模な蒸溜所と言えます。
大麦を発芽させ、乾燥させることで、ウイスキーの大元となる麦芽が作られます。
久住蒸溜所では、スコットランド産の麦芽をメインの原料として使用しています。
やはりスコットランド産麦芽のクオリティは非常に高いそうです。
同じスコットランド産でもモルトスター(麦芽製造業者)による違いもあるため、調達先を1社に限定せず複数社に分散させています。
昨年からは地元・大分県の大麦を使用しているそうです。
地元の農家さんに大麦を栽培してもらい、製麦の工程を委託して、実際に使える状態の麦芽を納入してもらうという協力体制のもと、大分県産の大麦を原料として使用する取り組みも始めています。
現在は、蒸留所で年間に使用する麦芽の約10%が大分産となっています。
麦芽を粉砕し、グリストと呼ばれる粉末状にする工程です。
大麦麦芽に含まれる糖分を酵母に供給する際に水の中に糖を溶かし出す必要があるため、大麦麦芽を細かく粉砕します。その粉砕された麦芽(グリスト)は、荒いものから順にハスク・グリッツ・フラワーと呼ばれます。
久住蒸溜所では「ハスク:グリッツ:フラワー = 3:5.5:1.5」 を基本として粉砕しています。黄金比率と言われる 「ハスク:グリッツ:フラワー = 2:7:1」 と比べるとハスクの比率が少し高いのが特徴です。
この後マッシュタン(糖化槽)で、糖分を出来るだけ多く含んだ最も望ましい状態の麦汁をつくるため、毎回比率の調整は行っているそうです。
久住蒸溜所ではAB Biotekの「PINNACLE MG+」という酵母を使っていましたが、現在は試験的に違う酵母に挑戦しているそうです。
現在使用している酵母は、ビール酵母でも有名なラルマン社のウイスキー用酵母である「ディスティラマックスMW」です。
PINNACLE MG+が計画よりも少ない量しか輸入できなかったため、一時的に違う酵母を試験的に導入しているそうです。久住蒸溜所では、ベースの酵母を完全に変更するのは初の試みとのことです。
マッシュタンと呼ばれる糖化槽へ、粉末状にした麦芽をウイスキーの仕込み水と共に投入します。これにより、澱粉(でんぷん)が糖化し甘い麦汁(ウォート)が出来ます。
久住蒸溜所では、フォーサイス社製の容量約3,000リットルの銅製マッシュタンを使用しています。
出来上がった麦汁に酵母を加えて、発酵工程に入ります。酵母が麦汁の糖分をアルコールと炭酸ガスに分解することでもろみができ、ウイスキーの独特な香りが生まれます。
蒸溜所を始めた当初は、日本酒作り時代に残っていたホーロータンクを使っていたそうですが、去年の8月に全てダグラスファー(米松)のウォッシュバック(発酵槽)に入れ替えました。
久住蒸溜所では、あえて一年中同じ発酵時間で発酵させています。
もちろん季節ごとに気温が異なるため、麦汁を仕込む際の温度を調整することで麦汁がその季節に適した温度になるように工夫しています。
夏の暑い時期は酵母自身の熱で温度が上がるため、麦汁を強めに冷却して仕込むことで低い温度で発酵を進め、逆に冬の寒い時期は真夏よりも温度を少し高く設定しているそうです。
このような工夫により、どの季節でも2日目の麦汁が狙った温度になるように調整しているそうです。
発酵日数は4日間(94時間)です。発酵を始めて5日目の朝に、蒸溜工程へと移ります。日本のウイスキーメーカーの中では、比較的発酵期間が長いとのことです。
発酵時間を長くすることで、乳酸が高発酵する時間を取り、エステル成分(フルーティーな香りの成分)が多く生成されることを重要視しているそうです。
木製の発酵槽では微生物や細菌が増殖しやすいため、乳酸の高発酵という点では、金属製よりも有利です。
その一方で、薬品で洗い流せないため殺菌を充分に行えず、望ましくない菌などが増える可能性があり、管理がとても難しいというデメリットもあります。
このようなメリット・デメリットを比較した末、久住蒸溜所の所在地が九州でも寒い地域であることから、保温性のある木槽を導入しました。
発酵槽の温度を適度に保ちつつ、乳酸菌を始めとした様々な菌を住み着かせることで、大手メーカーのように手をかけなくても充分に発酵に適した状態をつくり出せているそうです。
発酵させたもろみを蒸溜器(ポットスチル)で蒸留することにより、アルコール度数が高められます。
久住蒸溜所では、初溜、再溜共に同じ形状のストレートヘッド型を使用しています。
初溜器と再溜器の形はほぼ同じですが、再溜器のネックの部分が、本体のサイズに対して非常に長いのが特徴です。
初溜、再溜にはそれぞれ6時間半から7時間くらい掛けています。
ポットスチルで蒸留された液体から、熟成に使用する中心部分(ハート)を分けるミドルカットという作業を行うことで、より良いウイスキーの原酒を生み出します。久住蒸溜所では、ミドルカットを官能評価(人間の感覚を利用した評価)とアルコール度数で判断して行っています。
蒸留を担当するメンバー全員が官能評価によるカットをできるよう訓練するそうです。
蒸留されたニューメイク(熟成前のウイスキーの原液)は樽詰めされ、久住蒸溜所にある第1熟成庫と第2熟成庫の2か所で熟成が行われます。第1熟成庫は以前、日本酒を保存するのに使用されていたもので、庫内の温度が外よりも低くなるように設計されています。
第1熟成庫と第2熟成庫で内部の温度が異なるため、熟成の速さが異なり、仕上がりに大きく違いが生まれるそうです。
第2熟成庫は移動式ラックとなっており、去年の8月から稼働しています。1年で一杯になる計画で製造を進めており、現在はほとんど原酒の詰められた樽で埋まっている状態になっています。
第2熟成庫に貯蔵されている樽の割合は、約7割がバーボン樽、残りの3割がシェリー樽をはじめとするその他の樽で、ブランデー、アルマニャック、コニャック、ラム、カルヴァドスなどの樽もあり、様々な樽での熟成が行われています。
熟成庫にある樽は基本的に武石さんが全て把握されており、テイスティングなどを通じて熟成経過を見られているそうです。
同じロットで購入した同じ種類の樽でも熟成による仕上がりに大きな差が出ることも多々あり、そのような差をどこまで細かく把握できるかが良いウイスキーをつくる上で重要なポイントになるそうです。
久住蒸溜所からブレンデッドモルト”Green Dram”がリリースされます。
蒸溜所の熟成環境由来の香味もしっかりと表現されており、武石さんも仕上がりには自信を覗かせていました!
ウイスキーのブレンドは、それぞれ個性を持つ原酒同士をどのように混ぜていくのかという大変難しい判断を伴う作業ですが、ウイスキーづくりの魅力を実感できる大変面白い工程でもあるそうです。
造り手として、地元産の大麦を使用したウイスキーづくりをしたいという想いも強いため、将来的には大分産ウイスキーも目指しているそうです。
以上、久住蒸溜所の蒸溜所見学レポートでした!
ウイスキーづくりにおいて久住蒸溜所が何を大切にし、どのようにつくっているのか、ボトルからは想像できなかった想いを拝見することが出来ました。
また、2023年6月15日発売のブレンデッドモルトについて、自社原酒と海外原酒のブレンドや熟成に使用する樽の選定など、完成までに困難が多々ある中でも「非常に面白かった」とお話しされる姿に、ウイスキーがお好きであることを強く感じた瞬間でした。
クラフトウイスキー蒸溜所ならではの、試行錯誤を繰り返したウイスキーがどのような仕上がりになるのか、1人のウイスキー愛飲家として非常に楽しみです。