【現地レポート】江戸から続く伝統を礎に、自由な発想をもとに挑戦を続ける朝倉蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
鹿児島県南さつま市加世田津貫に位置するマルス津貫蒸溜所。
100年以上焼酎を造り続けてきた大変歴史のある蒸溜所です。2016年からはウイスキーの製造にも取り組み、南さつま市の温暖な気候・豊かな自然環境を生かしたウイスキー造りを行っています。
今回Dear WHISKYは蒸溜所 所長の折田浩之さんとチーフディスティリングマネージャーの草野辰朗さんに独占インタビューを行い、ウイスキー造りにかける想いを伺いました!
1985年本坊酒造入社、営業から始まり、福岡支店、関東支店の支店長、その後マルス津貫蒸溜所の新設プロジェクトに携わった。2018年、マルス駒ヶ岳蒸溜所 所長、2022年から現在の津貫蒸溜所 所長に就任した。
2013年本坊酒造入社。マルス駒ヶ岳蒸溜所でウイスキー原酒の製造業務に携わる。2016年、マルス津貫蒸溜所へ赴任し、ウイスキー製造責任者として原酒製造やウイスキーのブレンドに携わる。2021年よりチーフディスティリングマネージャー兼ブレンダーに就任し、現在に至る。
Dear WHISKY:
なぜマルス駒ヶ岳蒸溜所に続き鹿児島の地でマルス津貫蒸溜所を新設することにしたのでしょうか?
折田さん:
近年ウイスキー人気が高まる中で、異なるテイストのウイスキーを造りたいという想いがあったからです。マルス駒ヶ岳蒸溜所のウイスキー造りも非常に力を入れていますが、やはり異なる場所で他のウイスキーを造ることで本坊酒造のウイスキーをさらに広げることができると考えました。
Dear WHISKY:
なぜ南さつま市でウイスキー造りをしようと思われたのですか?
折田さん:
ここ南さつま市は本坊酒造発祥の地になります。またそれだけではなく、南さつま市の自然環境がウイスキー造りに適していたことも大きな理由の一つです。
Dear WHISKY:
南さつま市はどのような自然環境ですか?
草野さん:
東西を山に囲まれた盆地の地形なので寒暖差の大きい環境となっています。
また、水も豊富にある上にシリカが含まれているのも特徴です。
Dear WHISKY:
駒ヶ岳と津貫の気候を比較したとき、ウイスキー造りにおいてどのような違いを生むのですか?
草野さん:
寒冷な気候の駒ヶ岳では熟成がゆっくりと進むのが特徴です。
一方で温暖な津貫では、寒暖差を活かしたダイナミックな熟成が可能になっていると感じます。
Dear WHISKY:
水の特徴も駒ヶ岳と津貫では異なるのでしょうか?
草野さん:
駒ヶ岳の澄んだきれいな水に対して、津貫の水は「味がある」と感じます。
その違いが最終的にウイスキーの出来上がった味に違いをもたらしてくれるのではないかと考えています。
また、マルス駒ヶ岳蒸溜所で使用している水は井戸水ですが、津貫蒸溜所で使用している水は湧き水であるという点も違いです。
Dear WHISKY:
本坊酒造はこれまで焼酎を長い間造ってきたと思いますが、その経験はウイスキー造りにも活きているのでしょうか?
草野さん:
基本的な衛生管理やお酒造りのノウハウはウイスキー造りにも活きています。ただ、同じお酒とはいっても焼酎とウイスキーは別物なので、製造の考え方が異なる部分が多いと感じています。ウイスキーと真剣に向き合って着実に学びながらウイスキー造りに励んでいます。
Dear WHISKY:
津貫蒸溜所では石蔵を使われると思うのですが、熟成を石蔵で行うのは何故ですか?
草野さん:
石蔵が急激な温度変化に強いためです。分厚い石を使っているので、なだらかに温度変化してくれるところが石蔵の良さです。特に津貫の寒暖差が激しい自然環境では、このような温度変化に対応できる石蔵は非常に大切です。
折田さん:
他には、趣のあるところも石蔵の良さです。歴史の重みを感じさせてくれる風格があり、石蔵の雰囲気に、何か息づいたものを感じ取ってくださることが多いです。
Dear WHISKY:
津貫蒸溜所のウイスキーの味はどのようなコンセプトで造っているのでしょうか?
草野さん:
一番意識していることは、マルス駒ヶ岳蒸溜所との差別化です。
「ディープ&エネルギッシュ」をコンセプトに、長野の冷涼な気候とは対照的な鹿児島の温暖な気候を生かしたエネルギッシュで深みのある味を目指しています。
Dear WHISKY:
シングルモルトウイスキーとブレンデッドウイスキーそれぞれの魅力は何ですか?
草野さん:
シングルモルトの魅力は、蒸溜所のスタイル・特徴が出るところです。蒸溜所それぞれが異なる特徴を持つので、その違いを楽しんでいただきたいです。逆にブレンデッドウイスキーの魅力は、様々な原酒を使うことによる調和感です。
多くの原酒が使われることによる複雑で奥行きのある味わいが非常に面白いと感じます。
Dear WHISKY :
ブレンドの際にはどのようなことを大切にしていますか?
草野さん:
やはり「ディープ&エネルギッシュ」のコンセプトに沿ったものを造ることを大切にしています。
Dear WHISKY:
「ディープ&エネルギッシュ」を表現するためにどのような味をイメージしていますか?
草野さん:
厚みやふくよかさのある味を目指しています。
香りについても、駒ヶ岳のシャープなものよりも濃厚な香りを意識しています。
また、最終的にチーフブレンダーがこれまで培ってきた経験をもとに味を研ぎ澄ませてくれることで、津貫の目指す味わいになっていると感じます。
Dear WHISKY:
ちなみに、ブレンドはどのように行っているのですか?
草野さん:
まずお酒のイメージを固めて、そこから何百とある原酒の組み合わせを考えていきます。
数えきれないほどのブレンドの組み合わせを一つ一つ確かめていくので、非常に大変な作業です。
また、ブレンド室内でのブレンドと樽出しした後の原酒のブレンド後も最終調整が必要になります。
Dear WHISKY:
「シングルモルト津貫 2023 エディション」をヴァッティングする上で心掛けたことはありますか?
草野さん:
「シングルモルト津貫 2022 エディション」との差別化と、将来的にシングルモルト津貫のノンエイジを造ることを見据えた味の方向性の明確化です。
Dear WHISKY:
「シングルモルト津貫 2022 エディション」と「シングルモルト津貫 2023 エディション」の味の違いは何ですか?
草野さん:
「シングルモルト津貫 2023 エディション」のほうが「シングルモルト津貫 2022 エディション」よりもシェリー樽の原酒を多く使っているため、香味がリッチになっています。また、シェリー樽の原酒だけではなく、バーボン樽原酒の比率も変えています。
Dear WHISKY:
購入する樽の種類を選ぶ際も、ノンエイジを造ることを見据えられているのでしょうか?
折田さん:
ノンエイジを造るための樽構成を見据えた樽の購入・管理を行っています。
Dear WHISKY:
「シングルモルト津貫 2024 エディション」はどのようなウイスキーを目指されるのでしょうか?
草野さん:
「シングルモルト津貫 2023 エディション」のイメージを引き継いでより津貫らしいウイスキーを造りたいです。
Dear WHISKY:
マルスウイスキーHHAEを造る上でのこだわりはありますか?
草野さん:
基本のベースの種酒はマルス駒ヶ岳蒸溜所から仕入れているのですが、津貫の原酒を入れることによって駒ヶ岳のブレンデッドウイスキーにはない香味・厚みのある味わいを生んでいます。そこで津貫らしさを出せていると感じます。
出典:本坊酒造公式HP
Dear WHISKY:
Dear WHISKYの読者の方へメッセージをお願いします!
草野さん:
日本のウイスキー業界も今すごく盛り上がっていますし、ぜひウイスキーを楽しんでいただければ嬉しいです。
また、蒸溜所にもぜひ足を運んでいただきたいです。
折田さん:
様々なウイスキーを味わっていただき、また、蒸溜所見学などに足を運んでいただいて、造り手と交流することでウイスキーのファンになっていただけると一番ありがたいです。鹿児島は食べ物もおいしいですし良いBarも多くあるので、ぜひ多くの方に来ていただきたいです。
今回のインタビューでは、マルス津貫蒸溜所 所長の折田浩之さんとチーフディスティリングマネージャーの草野辰朗さんのお二人にウイスキー造りにかける強い想いと津貫で造るウイスキーへのこだわりについてインタビューさせていただきました!
蒸溜所に隣接する本坊家旧邸「寶常」のカフェBarでは多くのマルスウイスキーを楽しむことができ、蒸溜所内部の見学では、ウイスキー造りについて肌で感じることができます!
皆さんもぜひ実際に蒸溜所に足を運んで、造り手の想いを感じてみてはいかがでしょうか!