【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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マスターディスティラーのニック・サヴェージさんが「200年の歴史を持つ、新設蒸溜所」と表現するように、ブラッドノック蒸溜所はその種類豊富なウイスキー、一つ一つにユニークな歴史と物語を秘めています。ウイスキー業界の伝説、イアン・マクミランさんの後を継いだニックさんは、ブラッドノック蒸溜所のみならず、業界全体に革新をもたらしています。
ニックさんを輝かしいキャリアへと導いたのは、彼の揺るぎない情熱と卓越した専門知識でした。
第1弾では、ニックさんの今までの経験がどのようにして彼を成長させ、類稀なスキルと創造性によってウイスキー界に新たな波をもたらしたのかをご紹介します。
Dear WHISKY:
ウイスキー業界に入ったきっかけは何ですか?
ニックさん:
私はオーストラリアでテニスラケットの研究を通して、構造機械工学の博士号を取得したのち、母国であるスコットランドに戻りました。その後はシェフィールドの鉄鋼工場で働いていました。そんなある夜、友達とお酒を飲んで二日酔いになりかけながら、求人広告のメールをチェックしていた時にある広告を見つけました。
その広告には「ウイスキー樽を最適化しよう」とだけ書かれていたのです。
Dear WHISKY:
初めはどう思われましたか?
ニックさん:
誰のために働くかなどは書かれておらず、ウイスキー樽を最適化するとだけ書かれていたので、明らかに説明不足でした。それにもかかわらず、私の友人たちは皆「ウイスキーがタダで飲めるんだから、試してみるべきだよ 」と言っていました。
Dear WHISKY:
結局誰からのどのような広告だったのでしょうか?
ニックさん:
差出人はDiageoで、樽の耐久性と寿命を調査し、エンジェルズシェアを減らす研究をするエンジニアを求めていました。こうして私はテニスラケットからウイスキーの樽へと研究分野を移行したのです。
Dear WHISKY:
当時からウイスキーはお好きでしたか?
ニックさん:
好きでしたよ。そのメールを受け取る前の晩にも、ウイスキーを飲んでいたことを覚えています。当時私は25~26歳だったので、ウイスキーを飲んではいましたが、良さを理解できてはいませんでした。甘党なので、バーボン・コークを好んで飲んでいましたね。
今と比べると、当時はウイスキーについての知識もゼロに等しく、ほとんど何も知りませんでした。
Dear WHISKY:
Diageoで働くことで、ウイスキーに詳しくなりましたか?
ニックさん:
2007年にDiageoに入社してからすぐに多くのことを学び始めました。Jamesonはアイリッシュウイスキーであり、Jonnie Walker 12年には何が入っているのかなどの概念を少しずつ理解していったのです。Diageoで働いていくうちに、私の知識はさらに深まり、各蒸溜所の特徴を理解し、それぞれの味わいや特定のフレーバーがどのように形成されているのかについて学びました。
Dear WHISKY:
Diageoでの経験はウイスキーに対する印象をどう変えましたか?
ニックさん:
どんなウイスキーに対してもより尊敬をもつようになりました。
もちろん味が苦手なウイスキーはありますが、特定のウイスキーについてまったく理解できないなんてことはありません。
例えば、多くのピートウイスキーは私には刺激が強すぎますが、彼らがやろうとしていることはわかります。彼らがどのように蒸溜所を運営し、どの消費者層に向けてつくっているのかを理解しているので、どのようなウイスキーであろうと評価しているのです。
Dear WHISKY:
Diageoで働かれた後はなにをされましたか?
ニックさん:
Diageoで8年間樽のみを扱った後、William Grant & Sonsに移り、ガーバン蒸溜所でディスティリング・テクニカルリーダーを務めました。
ここで私は今まで触れてこなかった分野である、醸造と蒸留の仕組みを学びました。
Dear WHISKY:
ガーバンで働いて一番変わったことは何ですか?
ニックさん:
ジンやグレーンウイスキーの製造は新しい経験ばかりでした。ガーバンはありとあらゆることを行っているため、醸造や蒸留について学びたい場合は、ガーバンに勤めるのをおすすめします。
Dear WHISKY:
ガーバンでは主に何を担当されていましたか?
ニックさん:
テクニカルサポートのような仕事をしていたので、修理が必要な場所を動き回り、たくさんのことを学びました。そのような環境に身を置くことができたのは幸運だったと思います。非常にきつい仕事でしたが、逞しく、敬意を忘れず、素早く学ぶ方法を身に付けました。私が勤務していた頃の年間生産能力は1億1,200万リットルだったので、何かトラブルがあれば即座に多額の損失が生まれてしまう環境でした。
Dear WHISKY:
入社した経緯を教えてください。
ニックさん:
彼らに誘われた形ですね。とはいうものの、そのまま役職につけるわけではなく、あくまで候補者の一人として面接に呼ばれました。
Dear WHISKY:
蒸溜所から直接声がかかるというのはどのような気分ですか?
ニックさん:
失敗する権利を得たのだと捉えています。蒸溜所が、「まだまだ多くのことを学ぶ必要はあるが、いい心構えと考え方を持っていると思う。挑戦したいのであればチャンスを与えよう」と言ってくれているのですから、私はただ「任せてください」という精神で挑みました。
Dear WHISKY:
マスターディスティラーの仕事とはどのようなものですか?
ニックさん:
私はよく蒸溜所の番人と表現しています。マスターディスティラーにとって重要なのは、ウイスキーを護ることです。私たちのこだわりと文化を皆さんに理解していただきたいのです。
そしてなによりも重要なことは、ボトルの中のウイスキーが蒸溜所の在庫を反映しているか、確認することです。
これは将来、私の次にこの役についた人を尊重するために、とても重要なことであり、未来を見据えて蒸溜所を護るのが私の仕事と言えるでしょう。
Dear WHISKY:
どのような心持ちで仕事に臨んでいますか?
ニックさん:
まず、なにがあっても、私は必ず仕事に行きます。毎朝のマインドセットは常に「クビになるな」です。一生懸命働かないとクビになってしまうから、毎日仕事へ行って、精一杯頑張ろうという考え方ですね。毎朝8時に出勤し、ほとんどの場合昼食も取らず、次から次へと仕事に取り組むのが好きなんです。
Dear WHISKY:
マスターディスティラーを続けるための秘訣は何ですか?
ニックさん:
一生懸命働いて成果を出していれば、クビになることはありません。夕方、仕事を終えて、「今日もクビにならなかった」と安心し、翌朝また同じように仕事に取り組むのです。それが私のメンタリティです。せっかく与えられたチャンスなので一生懸命働き、最大限に活かしたいと思っています。さらに私は、このマスターディスティラーの席を次の人のために温めていると考えています。ブラッドノックは200年前からこの土地にあり、もう200年は続くでしょう。そんな中、何年後かはわかりませんが、私のこの役はいつかは誰かが受け継ぐでしょうからね。
Dear WHISKY:
マスターディスティラーには何が必要ですか?
ニックさん:
勤勉さでしょうか。小さな学びも逃さぬように、自身の仕事に集中し続けることがとても大事です。
加えて、もっとも重要なことの1つは、周りの人の意見に耳を傾けることです。
自分の素晴らしいアイデアに一喜一憂するのは素晴らしいことです。しかし、私がこのような椅子に座れているのは、周りの人々のおかげです。
Dear WHISKY:
なぜ他の人々の声をそれほど重要視されるのですか?
ニックさん:
幸運にも私は自分よりもはるかに幅広い知識を持った人々に出会うことができています。だからこそ、私は彼らの意見に耳を傾け、彼らのアドバイスに敬意を持って従うのです。これは、番人としてウイスキーに対する敬意を持つことと繋がっています。
Dear WHISKY:
その姿勢はマスターディスティラーという重大な役職についても変わりませんか?
ニックさん:
私の好きな言葉に「自身がその部屋で最も賢い人ならば、あなたは間違った部屋にいる」というものがあります。周りの人々を助け、また彼らに助けられながら、常に動き続けることが重要です。少しずつ変化し、試しながら働くことで、もちろん時々ミスをすることもありますが、いつかはうまくいくのです。
Dear WHISKY:
消費者の声や意見も気にされますか?
ニックさん:
そう言った面では、私は自分の殻に閉じこもるようにしています。良い意見はもらうと嬉しいですが、批判などに追い詰められたくないからです。いまだにブラッドノック蒸溜所は誰にも知られていないのだと思うようにしています。
私たちがやりたいことをやり、それを気にいる人々を集めるのが理想です。
Dear WHISKY:
ブラッドノックに入社した経緯を教えてください。
ニックさん:ブラッドノックの現オーナーであるデイヴィッド・プライヤーから、一緒に蒸溜所を作らないかと連絡がありましたデイヴィッドは自分のブランドに対してこだわりをもっていますが、同時に皆のスキルを尊重しています。彼は昔、「私はあなたがこの分野で熟練しているから雇うのです。成功を信じていますし、失敗しても仕方ないと思えます。」と言ってくれました。
Dear WHISKY:
ブラッドノックのどこに惹かれましたか?
ニックさん:
何か新しいことをするチャンスですね。マッカランは蒸溜所として、成長の余地があまりないほどに完成されていました。その点ブラッドノックはまだ初期の刺激的で向上心にあふれた段階にあり、達成すべき目標を掲げた完成されていない蒸溜所でした。
それが、試してみようと思った大きな要因の一つでした。
Dear WHISKY:
入社前のブラッドノックと比べて今は、何が一番変わりましたか?
ニックさん:2019年に私が着任したときの従業員数は14名でしたが、わずか5年で65、66名になっています。そのほとんどが地元の人々であり、このような環境を地元の方々の力を借りて作り上げていることに大きな意味と誇りを感じています。
Dear WHISKY:
ブラッドノックに来て初めにされたことは何でしたか?
ニックさん:彼らの蒸溜所を理解し、敬意を払いたかったので、彼らの原動力について全員と話す時間を設けました。さらに、蒸溜所そのものについてより深く理解するために、すべての樽を試しました。
Dear WHISKY:
なぜ全ての樽を試そうと思われたのですか?
ニックさん:それほど大きな在庫を持っていなかったので、正しくサスティナブルな使い方をしなければ、無駄使いをしてウイスキーを枯らしてしまうと危惧したからです。
Dear WHISKY:
在庫の理解はどれほど重要なのでしょうか?
ニックさん:どのようなウイスキーが、どのくらい熟成が進んでいて、どのような製品になり得るか理解し、それらすべてをうまく組み合わせた時にのみ、いい製品を生み出すことができます。
資産を管理する、蒸溜所の守護者のようなものだと思います。
Dear WHISKY:
これらのサンプルはどれくらいの頻度で入れ替えるのですか?
ニックさん:毎日新しいウイスキーが追加されるため、常に入れ替わっています。3~4年目がウイスキーの最初のピークなので、私はまずそこでサンプルを採取します。もちろん、時々サンプルを取り直してフレーバーを確認することもありますが、3年の段階で良し悪しの評価ができ、その評価は10年経ってもあまり変わりません。
Dear WHISKY:
レシピはどのようにして思いつくのですか?
ニックさん:例えば、ブラッドノック11年をつくるように言われたとしましょう。まず、ハチミツやシリアルなど、さまざまなフレーバーに基づいてグループ分けされたバーボンをいくつかピックアップし、比率をいじって前のブラッドノック11年と一致させるのです。/span>
Dear WHISKY:
マスターディスティラーとして他にどのようなことに気をつけていますか?
ニックさん:
ハチミツとシリアルは、スタイルが何であれ、2 つの最重要フレーバーであるため、必ず在庫を残しておく必要があります。加えて、うまく熟成が進まない樽などがある場合、ウイスキーをより優れた樽へと移すことも必要です。5~6年先も今と同じ商品をつくり続けることを考えなければなりません。もし私が将来のため、正しく在庫を把握できていなかったとしたら、次にこの椅子に座っている人に怒られてしまうでしょうね。
Dear WHISKY:
ブラッドノック蒸溜所での主な役割は何ですか?
ニックさん:マスターディスティラーは運営の責任者です。毎日何か違う仕事をしています。午前中は蒸溜所の安全衛生について決め事をし、残りの時間は梱包やボトリングなどを行うこともあります。今朝はラベルをデザインし、音楽を選んでいました。
Dear WHISKY:
音楽を選ぶとはどういう意味ですか?
ニックさん:
次のシリーズの発表用です。プロモーション用の写真、映像、音楽がウイスキーの特徴を引き立たせるように選びました。
Dear WHISKY:
ブラッドノック蒸溜所の守護者として、蒸溜所をどのように扱っていますか?
ニックさん:
私はブラッドノックをよく「200年の歴史を持つ、新設蒸溜所」と表現します。
だからこそ、私は蒸溜所の全員にいつも、すべてを清潔に整頓して、完璧に保つように言っています。
もしあなたが蒸溜所の中を歩いていて、散らかっていたり、環境に配慮がない様を目にしたら、「ウイスキーも美味しいのだろうか?」と疑うでしょう。
ニックさんはウイスキー業界での17年間で、Diageoでカスクマネジメントの専門知識を学び、ガーバン蒸溜所でウイスキー製造の経験を積み、マッカランのマスターディスティラーとして確固たる名声を築きました。
現在これらの貴重なリソースを活用して、ブラッドノック蒸溜所へ新たな伝統を生み出しています。ブラッドノック蒸溜所の特徴である革新と歴史の融合を体現するニックさん以上に、「200年の歴史を持つ、新設蒸溜所」の守護者として最適な人はいないでしょう。ブラッドノック蒸溜所の現在のウイスキーと将来のブランドに対するニックさんの献身は目を見張るものであり、今後200年間にわたってブラッドノックをサスティナブルに保とうとする、彼の揺るぎないこだわりを表しています。
この記事の第2弾では、ニックさんがブラッドノックの代表的なウイスキーとその魅力について説明するとともに、世界的に人気な「Waterfall」シリーズを通じて、ウイスキーづくりにおける彼のユニークな創造性を語ってくださいました。