【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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- 蒸溜所(海外)
米どころ日本酒王国の新潟県新潟市にて、2019年に設立した新潟亀田蒸溜所。
「はんこの大谷」として有名な株式会社大谷から、「MADE IN NIIGATAのウイスキー」を目指して、新たにウイスキー事業が始まります。
今回は、実際に新潟亀田蒸溜所に伺いましたのでその様子をお送りします!
独占インタビュー編では、異業種のはんこメーカーからウイスキー事業に参入し、挑戦を続ける取締役社長堂田浩之さんに、蒸溜所の誕生秘話やウイスキー造りへの想いを伺いました。
新潟亀田蒸溜所の蒸溜所見学もさせていただきましたので、そちらも併せてぜひお読みください!
新潟亀田蒸溜所は、「はんこの大谷」として有名な株式会社大谷の社長 堂田尚子さんと取締役 堂田浩之さんが2019年に「株式会社新潟小規模蒸溜所」として立ち上げました。
新潟亀田蒸溜所の目指すウイスキーとは「日本のウイスキー」、さらに、すべての原材料に新潟産を使用した “MADE IN NIIGATA” のウイスキーです。
2023年には、ウイスキーの世界的品評会『ワールドウイスキーアワード(WWA)2023』にて、「ニューポットPeated」がNew Make &Young Spirits部門におけるワールドベスト(世界最高賞)を獲得し、日本のみならず世界から注目を集めています。
会社名 | 株式会社新潟小規模蒸溜所 |
蒸溜所名 | 新潟亀田蒸溜所 |
蒸溜所所在地 | 新潟市江南区亀田工業団地1-3-5 |
代表者 | 堂田 尚子 様 |
取締役社長 | 堂田 浩之 様 |
蒸溜所HP | 新潟亀田蒸溜所公式ホームページ |
Dear WHISKY:
堂田さんはどのような学生時代を過ごされていたのですか?
堂田さん:
私は北海道出身で地元の大学に進学し、少し勉強をしつつ学生生活を楽しんでいました。
そして大学3年生のとき、ゼミの先生がニッカウヰスキーの余市蒸溜所に連れて行って下さいました。
Dear WHISKY:
ニッカさんの余市蒸溜所に行ったのですね!
堂田さん:
余市で飲んだウイスキーが、人生初めてのウイスキーで、頭に電流が走るような感覚がありました。
「なんて美味しいのだろう」と感動したと同時に、「どうやって造るんだろう」と好奇心が膨らんだことを覚えています。
Dear WHISKY:
初めて飲んだときから、味だけではなく、製造技術にも興味を持たれたのですね。
堂田さん:
すぐに、自分でも造りたいという想いが生まれました。条件が悪くても良いから、何とかしてこの蒸溜所で働けないだろうかと思ったほどです。しかし当時は1998年のバブル崩壊直後のため、ウイスキー業界も不景気に見舞われており、真剣にウイスキーを造りたいという想いがあっても、募集すら行われていない状況でした。そのため、ウイスキーの道は一旦諦め、商社や製薬会社で経験を積みました。
Dear WHISKY:
そこから就職を経て印章業界最大手である「大谷」に入社したとのことですが、何かきっかけなどはございましたか?
堂田さん:
新卒では普通の商社に入った後に、製薬会社に入ったのですが、その製薬会社で偶然新潟に赴任した際に、現在の妻である尚子と知り合いました。
Dear WHISKY:
現在株式会社大谷の代表を務めていらっしゃる堂田尚子さんとはその時に知り合ったのですね!
堂田さん:
私自身が株式会社大谷で働くようになったのは、ちょうど妻が両親から事業承継をしたタイミングでした。
大谷は日本の中でも印章業界の中でもトップクラスであり事業規模が大きいため、妻と一緒に仕事をするようになったのがきっかけです。
Dear WHISKY:
2019年3月に昔からの夢であったウイスキー造りに挑戦することになったきっかけは何ですか?
堂田さん:
始まりは、ささいな夫婦の会話です。私は竹鶴17年が好きで、晩酌でよく楽しんでいました。2016年頃のある日、当時3,500円ほどだった定価ボトルが、突然5,000円に値上がりしました。
その頃から徐々にジャパニーズウイスキーの人気も高まっていましたから「この値上げは止まらないだろうな」「もう私たちの手に届かないものになってしまうのだろうか」と一人ぼやいていました。
そんな私に対して、妻が言った一言は「だったら、自分で造ればいいじゃないの」それが全ての始まりでした。
Dear WHISKY:
「無いものは自分で造れば良い」というのは、長年ビジネスを共に営んできた堂田夫妻ならではの会話ですね!
堂田さん:
しかし当然、造ると言っても朝飯前で造れるようなものでは決してありません。
昔、税制が変わった際に日本のウイスキーメーカーが次々に廃業したという話もありますし、大手じゃないと生き残れないような難しい事業という印象や不安があったのです。
それでも、まずはウイスキー事業について調べてみようと思い、本格的に動き始めました。
Dear WHISKY:
蒸溜所設立のための調査とは、どのように行うのでしょうか?
堂田さん:
まずは、安積蒸溜所の方をはじめ様々な方にお話を伺いました。
そしてその後、新潟の佐渡島ご出身で、ウイスキー文化研究所代表の土屋守さんにご相談し、ウイスキー文化研究所の特別技術顧問である早川健さんをご紹介していただきました。
Dear WHISKY:
日本のウイスキー界を代表するような方々を含め、様々な方が携わっていたのですね。
堂田さん:
本当に多くの方に助けていただきました。蒸溜所のコンセプト作りや図面作成は、早川さんと共に行いました。機械については、木内酒造さんが協力して下さいました。
誰が1人欠けてしまっても、今の新潟亀田蒸溜所はありませんでした。
Dear WHISKY:
社名を「株式会社新潟小規模蒸溜所」とご自身で小規模を名乗られる会社様は珍しいですが、何か理由はあるのでしょうか?
堂田さん:
会社の礎として、マイクロ・ディスティラリーであり続けたいという想いを込めています。
将来、どんなに会社が大きくなっても、手間暇かけるというものを惜しまない。それがマイクロ・ディスティラリーの精神であり、私たちのやるべきことと考えています。
Dear WHISKY:
後世にもマイクロ・ディスティラリーという初心を忘れないで欲しいという想いが込められているのですね!
堂田さん:
新潟亀田蒸溜所を創業させていただきましたし、マイクロ・ディスティラリーとして手間をかける暇を惜しんで欲しくないと思っています。
大きくなったとしても丁寧に造る気持ちは忘れないで欲しいという想いです。
Dear WHISKY:
蒸溜所名である「新潟亀田蒸溜所」の名前の由来は何でしょうか?
堂田さん:
亀田というのは、この土地の昔の名前です。市町村合併によって、現在は新潟県新潟市となりましたが、昔は亀田町という、田んぼがたくさんある美しい町でした。亀田という町は無くなってしまいましたが、亀田の名称は今でも新潟市民に使われ続けています。
亀田がここにあったことを、後世にも伝えていきたい。
「新潟亀田蒸溜所」には、そんな願いが込められています。
Dear WHISKY:
新潟亀田蒸溜所は、亀田工業団地と呼ばれるエリアに位置していますが、土地選びはどのように決定しましたか?
堂田さん:
ウイスキー造りには水が大量に必要となりますので、水の質が良い場所である必要がありました。
この地域の水源である阿賀野川は、水質の良いことで知られており、ウイスキー造りに適していると考えました。
Dear WHISKY:
やはりウイスキー造りにおいて水は非常に重要なのですね!
堂田さん:
そのような中では山の中に建設するという考えもありました。
しかし、建設する際に製造場は、将来的に多くの人々に来ていただきたいと思い、アクセスの良い立地を選びました。
熟成においては、最適な自然環境を選定する必要がありますが、製造場自体は、皆様にお越しいただけるような場所に設立しています。
Dear WHISKY:
蒸溜所の設立にあたって、苦労した点はございますか?
堂田さん:
やはりコロナウイルスの影響を大きく感じました。計画では、2020年製造開始予定でしたが、海外から機材が届かない、技術者の方が来日できないなどのトラブルが続き、1年遅れてのスタートとなりました。機材の組み立てに関しては、急遽、地元の業者さんに依頼し、私自らチェックに立ち会いました。
大変でしたが、自ら携わった分、その後の不具合なども自分で直す技術が身に付きました。
Dear WHISKY:
キャッチフレーズとして「小さな蒸溜所、大きな琥珀色の夢。」を掲げていますが、どのような想いが込められていますか?
堂田さん:
マイクロ・ディスティラリーとして、自分たちの手間をかけて造ることを惜しまないという想いを共有したいという想いです。
そして、ウイスキー事業は相手が世界ですから、いずれは世界の人々に「新潟亀田蒸溜所のウイスキーは美味しい」と認めていただくという夢を持ちながら、お酒を造りたいという想いがあります。
Dear WHISKY:
新潟産の原料を使用した「MADE IN NIIGATA」のウイスキー造りを追及しこだわる理由は何ですか?
堂田さん:
私は、原料は旅をさせるべきではない、お酒になってから旅をしてもらいたいと考えています。そして、クラフトウイスキー蒸溜所が増えている中で、私たちなりのオリジナリティーのあるウイスキーをどのように造るかと考えると、新潟県産という地元のものにこだわりたいと強く思いました。
Dear WHISKY:
新潟亀田蒸溜所らしいウイスキーというのが、地元産の原料を使用するということでもあるのですね!
堂田さん:
現在の日本のウイスキーは、原料の多くを海外に頼っている状況です。クラフトウイスキーとして、オリジナリティを出していくためにも、やはり地元産の麦にこだわっていきたいですね。
さらに現在は米どころ新潟の蒸溜所として、ライスウイスキーにも挑戦しています。
Dear WHISKY:
堂田さんが目指しているウイスキーはどのような味でしょうか?
堂田さん:
やはり、飲みごたえとボディー感に重きを置いています。ピート・ノンピート関わらず、長く続く余韻は一番大切にしていきたいです。
また、私たちはどんな飲み方でも美味しいと感じていただけるようなウイスキーを目指しており、水で割ってもバラけないボディー感を大切にしています。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りに携わる堂田さんが感じる、ウイスキーの魅力は何でしょうか?
堂田さん:
ウイスキーの魅力は様々ありますが、その中の1つにやはり多様性があると考えています。
本当に様々なウイスキーが世界にはありますし、多様な飲み方で楽しめますね。
Dear WHISKY:
確かにウイスキーにはストレートやハイボール、水割りなど様々な楽しみ方がありますね。
堂田さん:
他のものにもそれぞれ多様性はあると思いますが、ウイスキーの多様性は本当に広いなと造りに携わることでより感じます。
飲み方も皆様それぞれに適したお好きな飲み方で飲めるというのは、ウイスキーの多様性であり魅力だと思います。
Dear WHISKY:
多様性があるウイスキーの中でも堂田さん個人としてお好きなものはありますか?
堂田さん:
やはり1番最初のきっかけのウイスキーというところで、余市蒸溜所のウイスキーはよく飲んでいます。見学した当時の想い出やウイスキー造りに携わって感じる味の美味しさ、自分にとっては「好き」の一言で済むウイスキーではないかもしれませんね!
Dear WHISKY:
ワールドウイスキーアワード(WWA)2023 New Make &Young Spirits部門ワールドベスト(世界最高賞)受賞おめでとうございます。受賞した際の、率直なお気持ちはいかがでしたか?
堂田さん:
正直びっくりしましたが、素直に嬉しいです。創業してまだ2年の私たちの原酒が、世界から最高賞としてのご評価をいただいたということは、非常に光栄だと感じています。
この2年間にやってきたことは、間違っていなかったんだと思えた瞬間でした。
Dear WHISKY:
時間が造るお酒だからこそ2年間が報われた、安心感のようなお気持ちもありましたか?
堂田さん:
安心感もありましたが、それ以上に逆に身の引き締まる思いですね。原酒で世界一になったウイスキーとして、ボトルがリリースされたとき、皆さんの期待に応えなければなりません。嬉しさの反面、プレッシャーも感じていますが、全力で造りに向き合い続けていきたいと思います。
Dear WHISKY:
世界最高賞を受賞した「ニューポットPeated」のこだわりを教えて下さい。
堂田さん:
原酒に特有の粗々しさを押さえ、アルコール感がないまろやかな原酒となるよう調整しました。
高フェノール値の原酒でも、むさ苦しさはなく、フルーティーな香りや心地良いピート感をうまく表現できたと考えています。
Dear WHISKY:
New Make &Young Spirits New Make部門では「New Pot NonPeat」が、New Make &Young Spirits New Make部門では「New Born NonPeat」がそれぞれ銀賞に輝きましたが、これらの魅力はいかがですか?
堂田さん:
「New Pot NonPeat」と「New Born NonPeat」については、先ほど述べた新潟亀田ニューポットの特徴に加え、飲みごたえと余韻の甘さがずっと続くように、トップノートをそこそこにして余韻が長くなるような造りをしています。まだ研究を重ねていますが、私たちの造っているものは間違いないのだと、確信に変わりつつある段階です。
Dear WHISKY:
WWA入賞後、何か変わったことはありましたか?
堂田さん:
ヨーロッパを中心に、海外からの引き合いが多くなりました。また、ウイスキーイベントに参加した際は、新潟亀田蒸溜所をお目当てに来て下さるお客様も多くいるほど、注目度が高まっているのを実感しています。
Dear WHISKY:
イベントの時などはやはり注目を集めていたのですね!
堂田さん:
ありがたいことに実際に神戸のウイスキーイベントでは、いつも4人でブースを回して問題が無かったにも関わらず、大変盛況でずっと慌ただしい時間でしたね。
皆様に目の前でウイスキーをお飲みいただき、「美味しい」と言ってもらえることが何より嬉しかったです。
Dear WHISKY:
逆に変わらず大切にし続けていることはありますか?
堂田さん:
今までかけてきた手間と暇は、今後も丁寧に心掛けていきます。これからもずっと変わらない、マイクロ・ディスティラリーの精神は後世に続きますしいまももちろん1番大切な造りへの想いです。
Dear WHISKY:
2023年はジャパニーズウイスキー100周年ですが、この節目の年を迎えるにあたり堂田さんはどのようなお気持ちですか?
堂田さん:
日本のウイスキーの転換点になっていると思います。非常に多くの蒸溜所が生まれ、また海外から原料を得ることで日本のウイスキーは進化しました。ただ、海外から原料を得ることが悪い、日本産でなければならないというのは、一刀両断出来るすぐ答えの見つかるものではないと思います。そのような日本のウイスキー造りを将来的にどのようにしていきたいか、造り手として考えなければならないと思います。
Dear WHISKY:
100年間続くこのジャパニーズウイスキーの魅力は何ですか?
堂田さん:
ジャパニーズウイスキーはスコッチウイスキーの製法に近いので、ジャパニーズウイスキーをどのように定義するのかと考えると、それは「洗浄」だと思います。
Dear WHISKY:
洗浄とはどのような意味でしょうか?
堂田さん:
その名の通り、とにかく洗う、すなわち綺麗・クリーンなものということです。製造方法はスコッチウイスキーと同じでも、クリーンに保ってお酒を造ることで、全く違うものが生まれます。
綺麗好きな日本人らしいものづくりの心であり、まさしくスピリッツそのものだと思います。
Dear WHISKY:
日本人がずっと心に宿しているものがお酒造りに現れる、それがジャパニーズウイスキーの魅力なのですね!
Dear WHISKY:
これから先の100年に向けて、新潟亀田蒸溜所としてはどのような想いで過ごしていきたいですか?
堂田さん:
まずは、私たちが次の100年まで事業を続けていきたいという想いです。
そのためには、自分たちの立ち位置は忘れずに、手間暇をかけ続けることが大切だと思っています。
Dear WHISKY:
マイクロ・ディスティラリーという想いは忘れずに心に宿し続けるのですね。
堂田さん:
現在はウイスキーブームと言われていますが、そのブームがここで終わってはいけないと感じています。定着してもらうために、ウイスキーメーカーがやるべきことは多くあります。そういった意識を持ってやっていかなければなりません。
Dear WHISKY:
日本のウイスキーがこれからどのような存在になっていくことが理想ですか?
堂田さん:
これまで同様に、世界から注目を集めるウイスキーでありたいです。
これから先、5大ウイスキーが10大、15大など広がっていったとしても、ジャパニーズウイスキーの生産力を強く保ちつつ、品質も良いものを皆様に提供し続けていきたいです。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者に向けて、メッセージをお願いします!
堂田さん:
ウイスキーの多様性を感じてもらいながら、末永くウイスキーを楽しんでもらいたいと思っています。値段に限らず、素晴らしいもの、高品質なものが多くありますから、ご自身の手に入るものから、多様性を楽しんでいただけたらと思います。
Dear WHISKY:
ありがとうございました!
以上、新潟亀田蒸溜所取締役社長堂田さんへのインタビューでした!
「小さな蒸溜所、大きな琥珀色の夢。」という想いを根底に掲げ、MADE IN NIGATAにこだわり、手間暇かけてウイスキー造りに挑む新潟亀田蒸溜所の想いについて伺いました。
WWAで見事世界最高賞を受賞した原酒が熟成され、飲むことが出来る日が待ちきれません!
堂田さん、この度はありがとうございました!