【現地レポート】江戸から続く伝統を礎に、自由な発想をもとに挑戦を続ける朝倉蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(日本)
1925年に清酒メーカーとして創業を開始し、1995年のビールの製造免許の規制緩和により京都で1番目の地ビールメーカーとしても名をはせてきた黄桜株式会社。
「華やかで芯のある味わい」を目指して丁寧にお酒を造ってきた黄桜株式会社が丹波蒸溜所で2018年からウイスキー造りをはじめました。
そんな丹波の自然とともにウイスキー造りに関わる「丹波蒸溜所」へ独占インタビューを行いました!今回は、黄桜株式会社営業統括部の友國さんと醸造部の野口さんにお話を伺いました!
インタビューでは、黄桜として様々な種類のお酒造りを行う理由、丹波蒸溜所の設備や使用している酵母・ピートについてジャパニーズウイスキー100周年に向けての想いまで幅広く言及しています。
丹波蒸溜所の歩みについては勿論、製造のこだわりや今後の展望についても深く知ることが出来るので、ぜひ今回の記事をお楽しみください!
丹波蒸溜所は、標高300mの豊かな山々に囲まれた丹波篠山の地に位置しています。
黄桜が培ってきたお酒造りの技術・経験を活かし新たな挑戦として、2018年より丹波蒸溜所にてウイスキー造りをスタートしました。
日本酒造りにも通じる繊細な熟成を基に、丹波蒸溜所にて「華やかで芯のある味わい」をもつウイスキー造りを行っています。
蒸溜所名 | 丹波蒸溜所 |
会社 | 黄桜株式会社(1925年設立) |
所在地 | 兵庫県丹波篠山市今田町本荘堂ヶ谷1-19 |
ウイスキー製造開始年 | 2018年 |
Dear WHISKY:
丹波蒸溜所は深い森に囲まれており、寒暖差が30℃を超えるような環境ですが、ウイスキー造りにどのような影響がありますか?
友國さん:
標高が高く寒暖差が大きい丹波蒸溜所の環境は、お酒の貯蔵にとても適しているといえます。
もともとは、日本酒の大規模な製造工場としてスタートしていたのですが、2018年にそこでウイスキー事業を始めることが決まり、蒸溜所と貯蔵庫を作ったというのが今の状況ですね。
Dear WHISKY:
お酒造りに使用している水がウイスキーに与える影響はありますか?
野口さん:
弊社で使用している水はカルシウムが多くミネラルが適度に豊富です。
こちらの水を使用するときわめて活発に発酵が進みます。
ウイスキーは数が少なく評価をいただく機会が少ないのですが、同じ水を使用しているビールでは「他と比べて綺麗な味がする」という評価をいただくことが多いです。
Dear WHISKY:
数に限りがあるとのことでしたが、増産は予定されていますか?
友國さん:
増産自体は、2022年の春先頃から本格的に進めています。
そのお酒を寝かせて2025年か26年に今よりは多く市場に出回る予定です。それまでは、数に制限がある状態になります。
京都のアンバサダーのお店などで飲んで頂くことは可能です。
Dear WHISKY:
もともと日本酒で有名な会社様だと思うのですが、ジンやビール・焼酎・ウイスキーなど手広くお酒造りを進めている理由や想いを教えていただけますでしょうか?
友國さん:
本格的に日本酒以外で大きい事業として進めているのはビールになります。1995年にビールの製造免許の規制緩和が行われ、そこから京都では最初に、国内で7番目の地ビールメーカーとしてスタートしたのが成り立ちになります。
実際に、日本酒とビールのお客様は大きく違います。ウイスキーも、新しく販売を始めると新しい層のお客様と出会うことが出来ました。
それがとても楽しいなというのがあり、これが新しい事業を手掛ける1番の理由だと思います。
Dear WHISKY:
クラフトビールやウイスキーの製造について、それぞれに通じる知見などございますか?
野口さん:
清酒にしろビールにしろ綺麗なお酒造りを心掛けてきました。
ウイスキー造りでも、誰が飲んでもおいしいと思ってもらえるような、華やかなお酒を目指したときに、透明度の高い麦汁を造るノウハウが役立ちました。
例えば、麦汁ろ過機の使い方、ハスク(殻)の割合や挽き方などです。また、華やかな香りを創り出す様々な種類の酵母を持っているので、目標とする味に向けて酵母を使い分けています。
Dear WHISKY:
酵母についてお聞きしたいのですが、「丹波のシングルモルト」を造る際はどのような酵母を使用されていたんですか?
野口さん:
今出ている初期のウイスキーについては、しっかりした造りをまず基本としてやっていこうということでしたので、ディスティラリー酵母(ABマウリ社の酵母)を使用しました。途中からは、ケリーの固形酵母といったものも使い始めています。
Dear WHISKY:
今後出てくるウイスキーには、色々な酵母を使用する予定があるのでしょうか?
野口さん:
そうですね。ビール工場でブルワーズ酵母なども使用しているので、そういったものもふんだんに使っていくことが出来ます。今後に関してもまた期待して頂ければと思います。
Dear WHISKY:
目標としている「華やかで万人が美味しいと感じるウイスキー」を目指すための工夫はありますか?
野口さん:
仕込み設備で言いますと三宅製作所さんの最新式醸造設備を導入しています。先ほどお伝えしたように、非常に透明度の高いクリアな麦汁を造るのに適した条件を造り出せる醸造設備になっています。
また、蒸留器は2021年にフォーサイス社の銅製ポットスチルを2基導入しました。
それらの導入以前は、ステンレス製の蒸留器を使用しており、ステンレス製蒸留器特有の硫黄臭さを取り除く為に様々な工夫をしていました。
Dear WHISKY:
丹波蒸溜所では、麦芽をイギリス産のピートとノンピートを使用していると拝見したのですが、選定の際のこだわりなどがあれば教えていただけますでしょうか?
野口さん:
酵母や樽は種類がかなり多いということがあり、原料はなるべく固定したものを使おうという方針です。
誰が飲んでも美味しいと思ってもらえるお酒を目指しているので、ピートを多く使ってしまうとウイスキー通好みな味になってしまうと考えノンピートを使用しているという理由もあります。
原料に関しては、ビールで使用する麦芽のノウハウなども、今後取り入れていきたいと思っています。
Dear WHISKY:
華やかで芯のある味わいという「丹波のシングルモルト」は、丹波蒸溜所が目指す理想に近いものですか?
野口さん:
そうですね。丹波蒸溜所自体が目指している味わいが「誰が飲んでも美味しいと思ってもらえる、華やかで芯のある味」なので。ただ、こういったものを目指してはいるんですが、まだまだ駆け出しなので、理想のウイスキーにたどり着いてはいません。やはり、我々の目指すスコッチは素晴らしいなとつくづく実感しています。少しでも、スコッチの素晴らしさに近づきたいという思いから「サクラクロノス」というブレンデッドモルトウイスキーを出しています。
こちらは、かなりの本数を販売しているので多くの方に飲んでいただいて、丹波蒸溜所の目指す理想を感じてもらえればと思っています。
Dear WHISKY:
それでは、今後も「サクラクロノス」のようなブレンデッドモルトウイスキーはどんどん出していく方針ですか?
野口さん:
どんどん出していきたいと思っているんですが、海外原酒の調達に苦労しているのが現状です。ただ、昔買った原酒の熟成を丹波で進めているので、それらのスコッチを出していけるのではと思っています。
Dear WHISKY:
丹波蒸溜所のある地域の市役所には「黄桜」の商品を紹介するコーナーがあるというお話をお聞きしたのですが、地域とのつながりという部分も丹波蒸溜所の強みでしょうか?
友國さん:
元が製造専門の設備ということもあり、どなたでも来て見学していただける状態までもっていくことが出来てないというのが現状です。
近隣の方に見学に来ていただいたり、地域の団体と協働で何かを行っていくことが出来る状態を目標にしています。
Dear WHISKY:
今後、丹波蒸溜所では熟成年数何年くらいのものを出していく予定ですか?
友國さん:
当面は、3年くらいのものを出していくことになると思います。
ゆくゆくは5~8年の熟成期間を要したものを出したいです。
まずは、去年から増産したものを世の中に出せるようになってから始まると思っています。まだ、数も限られていて評価を頂く機会も少ないので、色々な人のお話を聞きながら進めていきたいです。
Dear WHISKY:
3年の熟成期間はジャパニーズウイスキーの規定でも定められていますよね。製造を担当しておられる野口さんにお聞きします。理想とする熟成年数などはありますか?
野口さん:
スコッチの熟成期間のスタンダードは12年だと思っています。
その12年に該当する日本の熟成年数は、秩父蒸溜所さんが10年を出しておられるように、8~10年が目安かなと考えています。
製造の立場からすると、これくらいのものを出してみたいなという思いがあります。スコッチでもちゃんとしたものを飲もうと思うと18年くらいになると思うので、後輩達がそういうものを造って丹波蒸溜所を盛り上げていってくれればと願っています。
Dear WHISKY:
ここから、少し質問の主旨を変えてインタビューを行います。ジャパニーズウイスキーが100周年を迎えることについて、ウイスキーの造り手としてどう感じていますか?
友國さん:
弊社でいうと事業を始めてから数年しか経ってないので、100周年というタイミングで関わることができて恐縮する気持ちもあります。ジャパニーズウイスキーという市場ができ、近年では多くの企業が高品質なウイスキーを造っています。そして、我々も間違いのない、確かな品質のウイスキーを目指して造っており、とても素晴らしいことだと思っています。
野口さん:
また、弊社は現在も地ビールを造っていますが、地ビール業界に参入してからしばらくして、地ビールブームはすぐに廃れてしまいました。多くの地ビールが値段にあってない、品質の劣るものだったからです。現在、ジャパニーズウイスキーが大ブームになっていますが、後ろを走っている我々がしっかりとした品質のものを造り、同じ轍を踏まないように努力していきたいです。
Dear WHISKY:
なるほど。日本国内でもクラフト蒸留所を立ち上げる動きが多くなっていますが、新たにウイスキー造りに関わる人は危機感や責任感を持たなければいけないということですかね?
野口さん:
そうですね、先人たちが造ってきたウイスキーは多くのコンクールや品評会で高い評価を得てきました。そのおかげで、ジャパニーズウイスキーは全体的に非常に高い評価を受けています。現在我々が造っているウイスキーには、改善できる点がたくさんあると思っています。
先人たちのためにも「ウイスキー造り」、ひいては「ものづくり」に対して妥協しないように心掛けていきたいです。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りに対する熱い思いをお話しいただきありがとうございます。話は変わりますが、Dear WHISKY はウイスキー上級者だけでなく初心者の方にも見て頂いております。ここでは特に、初心者の方にむけて、丹波のウイスキーに注目してほしい点などはありますか?
野口さん:
ウイスキーは飲み手を選ぶものだと個人的に思ってます。
そういった意味では、丹波のウイスキーは、皆様が安心して味わっていただける、皆様に好んで飲んでいただけるような味だと思います。
玄人好みのウイスキーではございませんので、まずはより多くの方々に飲んで頂けるように努力しています!
Dear WHISKY:
絶対に飲んでみたいと思います!ここからは、「造り手」と「飲み手」の両方の視点からウイスキーに対するお二人の思いを教えてください。
野口さん:
黄桜のウイスキー部門には、ビール部門や日本酒部門のような部門の垣根を越えて、メンバーが集まっています。みんなウイスキーが大好きなので、当然ウイスキーにかける熱量は大きいです。ウイスキーはじっくり味わうのであれば、一人で向き合うのが一番のお酒だと考えています。私は重要な決断の際には、いつも良いウイスキーを飲みながら考えてきました。
皆様の大事な決断や重要なことを考える際に、皆様の隣に良いウイスキーがある。そして、それがいつか黄桜のウイスキーであってほしいという想いでウイスキー造りに日々励んでおります。
友國さん:
私は商品を通してお客様と接するのが楽しいというのが大きいです。先ほどお話しましたが、ウイスキーのお客様は、日本酒やビールのお客様とは全然違います。
ウイスキーは想像以上に深くて広い世界だというのを日々感じております。
Dear WHISKY:
「大事なことを考えるときにはいつも、隣には良いウイスキーがある」というのはとてもかっこいいですね。最後に、Dear WHISKYをご覧になっている方へのメッセージをお願い致します!
野口さん:
我々はウイスキー事業を初めて間もないので、まだまだこれからの将来性のあるウイスキーだと思っています。なかなかお目にかかる機会はないと思いますが、もしご覧いただく機会があれば、是非ここでのインタビューの話を思い出して飲んでみてください!
以上、丹波蒸溜所の友國さん・野口さんへのインタビューでした。本インタビューでは、丹波蒸溜所の環境や製造のこだわりについて、そしてジャパニーズウイスキー100周年に対する想いについてまで、様々なことをお伺いしました。造り手としてのウイスキーかける熱い想いを強く感じることができました!