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- ウイスキー基礎知識
日本のウイスキーブームに火をつけたドラマ「マッサン」。
その舞台となったのは、ニッカウヰスキーの余市蒸留所でした。
余市は、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏が、スコッチウイスキーの本場・スコットランドと気候がよく似ていることを気に入り、蒸留所の建設場所に選んだ土地です。この大切な場所の名前を、発売に際して与えられたウイスキーがあります。
シングルモルトウイスキー「余市」です。この記事では、余市と名付けられたウイスキーについて、特徴や種類、おすすめの飲み方などを紹介します。
余市は、北海道にある余市蒸溜所でつくられているシングルモルトウイスキーです。
ニッカウヰスキーが製造し、アサヒビールが販売しています。
シングルモルトとは、単一の蒸留所でつくられている原酒のみをヴァッティングしているウイスキーのことです。
ですから、「余市」はその名が示す通り、余市蒸留所でつくられたモルト原酒のみで構成されています。
余市蒸留所の個性が詰め込まれたウイスキーです。
かつて、ウイスキーづくりの理想郷を求めていた竹鶴政孝氏がたどり着いた地が余市でした。
冷涼でなおかつ湿潤な気候、澄んだ空、豊富な水、スコッチウイスキーづくりを学んだスコットランドの地とそっくりだと感じたのです。
更に原料の大麦と独特のスモーキーフレーバーを生み出すために欠かせないピートが採れることも後押しになりました。
理想のウイスキーを追い求める条件をすべて満たしている土地が余市だったのです。
余市蒸留所がつくられた当初、その場所は民家もまばらな原野でした。
海風が吹きすさぶ原野に蒸留所が建てられ、そこに設置されたポットスチルに石炭の火が入ったのは1936年。
実は、余市蒸留所では、現在も石炭直火蒸留という伝統の製法を守り続けています。
石炭直火蒸留は、適切な火力を保つのが難しく、職人の高い技術力を必要とする方法です。
そのため、スコットランドでもこの伝統製法を守っている蒸留所はほとんどなくなりました。
蒸留所は、設置されているポットスチルの形状や火の入れ方によって個性が出ます。
余市蒸留所は、初留釜4基と再留釜2基ポットスチルの計6基で、初留釜では石炭による直火焚きをしているのが最大の特徴です。
ラインアームが下向きについているストレートヘッド型のポットスチルも他とは異なります。
蒸気が早い段階で冷やされるため、蒸留後の原酒にアルコール以外のさまざまな成分も残るのです。
そのため、余市蒸留所でつくられる原酒は、男性的で奥行きのある深く複雑な味わいになります。
さらに800~1000℃にも及ぶ石炭で直火蒸留によってつくられた適度な焦げ、石狩湾から吹き寄せる海風は、香ばしさや潮の香りをモルトに加えます。
「余市」は多くのファンを持つ、日本を代表するシングルモルトウイスキーの1つです。
世界的に知られるシングルモルトウイスキーといえば、サントリーの「山崎」や「白州」がありますが、味わいが全く異なります。
サントリーの「山崎」は甘味が強く深みがあり、「白州」はみずみずしく軽快です。
それに対して、ニッカの「余市」は力強く無骨。荒々しさを感じる男性的なウイスキーなので、好き嫌いがわかれます。
香りも味わいも明らかに違うため、ニッカウヰスキー派とサントリー派で意見が分かれるのも仕方がありません。
竹鶴政孝氏が目指した「本場スコットランドにも負けない個性を放つウイスキー」が余市です。
シングルモルト「余市」が発売されたのは、ニッカウヰスキーが創立されてから55年後の1989年でした。
2001年には、ウイスキーマガジンが主催する「ベスト・オブ・ベスト」で最高得点を獲得します。
これは、WWAの前身となるコンペティションです。
そこでの快挙が、ジャパニーズウイスキーに注目が集まるきっかけを作ったといっても過言ではありません。
また、「余市」は、原酒をホワイトオークの新樽で熟成させています。
これは、これまでの常識を覆す新しい試みです。
それまで、新樽で熟成させると、樽の香りが強く、モルトの持ち味が消されてしまうと考えるのが当たり前とされていました。
そのため、通常はモルト原酒の熟成に新樽は用いません。
しかし、「余市」の場合は全く違います。熟成させる前から強い個性を持っているため、新樽に詰めても熟成させても、香りや味わいが負けることはないだろうと考えられたのです。
試験的に新樽を用いてみたところ、予想以上の風味を生み出すことに成功し、前出の最高得点を獲得することになりました。
業界の常識にとらわれず、独自のやり方を貫く余市蒸溜所の取り組みは、シングルモルトウイスキー「余市」の名を世界に広めることにつながっています。
シングルモルトウイスキー「余市」は種類が豊富です。通常のルートで購入できるもののほかに、余市蒸留所で飲み購入できるもの、本数限定で販売されたものなどがあります。
既に出荷が終了しているものでも、手に入る可能性のあるので、ここでは、2021年8月現在、入手の可能性があると考えられるものを選んで紹介します。
現行のスタンダードボトルです。
ノンエイジですが、余市の全体像が分かるボトルといえます。
色はほのかに赤みを帯びたブラウンゴールドです。
ピート香と潮の香りに余市独特の力強さを感じます。
シェリー樽に由来する甘味の後から麦芽の風味や果実感も現れ、短めの余韻ながら、フルボディの飲み応えを堪能できるボトルです。
熟成期間10年以上のみの原酒をヴァッティングしたボトルです。
ノンエイジの余市と飲み比べると、雑味が増していることがはっきりわかります。
焦がした麦芽の香ばしさが強く感じられ、ラズベリーのような甘酸っぱさとうっすらと香るピートが特徴的です。
口に含むと麦芽の甘味と粘り気のあるスモーキーフレーバー、遅れてドライマンゴーのようなフルーツの甘味が出てきます。
若干感じる塩気は、アイラ系とは異なるもの。複雑で奥行きのあるものです。
余市蒸留所でかつて販売されていた限定品です。
熟成期間10年以上の原酒を単一の樽の中から取り出しボトル詰めしています。
先に紹介した2001年のウイスキーマガジン主催「ベスト・オブ・ザベスト」で最高得点をたたき出したものと同じです。
アルコール度数が57度と高く、香りが気だっています。
濃いバニラ、煮詰めて香ばしさを出したメープルシロップ、シナモンを振りかけて焼き上げたアップルパイのような香りです。
口に含むとほのかな塩気と燻製のような風味が前面に出てきます。
奥にはレーズンやラズベリーのようなドライフルーツの甘酸っぱさ。
バニラカスタードのようなクリーミーな甘味も感じられる複雑さは独特です。
熟成期間12年以上の原酒を厳選しヴァッティングしたボトルです。
10年物と比べると、ヨードやピートの存在感は抑えられ、代わりに樽由来の甘さや華やかが乗って、贅沢感が増しています。
森を感じるような木樽の香りと柔らかいバラの香り、そこに若干プラスされる硫黄香がアクセントです。
口に含むと、麦芽が強く前面に出てきます。奥にドライフルーツの甘味、ナッツの香ばしさ、ジンジャー系のスパイスも感じられ、最後にほんのり塩味が現れるのが独特の味わいです。
熟成期間15年以上の原酒を選び抜きヴァッティングしています。
余市は全体的に強い個性が前面に出てくる傾向がありますが、15年を超える長期熟成ともなる荒々しさはかなり抑えられ、丸みを帯びた感じです。
リッチなバニラと濃厚なドライフルーツの香り、ほんのりと柑橘系の香りもします。
香り高いラムレーズンの入ったバニラアイスクリーム、遅れて甘酸っぱいラズベリーソースのような味わい。
スモーキーフレーバーと塩味も奥に潜んでいるところが余市らしさです。
20年以上の熟成期間を経た原酒のみを使用しているボトルです。
荒々しい個性を持つ余市らしい面を残しつつ、香りも味も角が取れ深みを増しています。
力強くリッチなアロマ、レーズンやドライマンゴーのような甘味、ドライラズベリーの甘酸っぱさ、ナッツの香ばしさ、ジンジャー系のスパイスが融合した複雑で深い香りです。口に含むと、まろやかでかすかに粘り気を感じます。
よく熟したブドウの渋みやビターチョコレートの苦みの奥に感じられるジンジャーの辛味がさわやかです。
「モルカテル種」はブドウの品種で、マスカットのことです。
マスカットで仕込んだワイン樽を後熟に使用しました。
2017年9月26日に3500本の本数限定で販売されたものです。
レーズンの香りとほのかなスモーク香、柑橘香がバランスよく感じられます。
バニラ系よりも柑橘系の甘酸っぱい香りが好きな人におすすめです。
名前が示す通り、ラム樽で追熟させた余市です。
アメリカやヨーロッパ向けにリリースされたもので、2017年11に3500本の本数限定で販売されています。
ノンエイジの余市に柑橘系の甘酸っぱさをプラスした感じです。
フルーツの甘さにピート香や香ばしさが時折感じられます。
冷却ろ過を行っていないので、ピート感や香ばしさがほどよく、ビターチョコに浸したオレンジピールのような余韻が長く表れるのも特徴です。
追熟にマンサニーリャ樽を使用しています。
2018年9月、ニッカウヰスキーが誇るもう1つのシングルモルト宮城峡のマンサニーリャウッドフィニッシュと同時にリリースされました。
レーズンやイチゴのような甘酸っぱいフルーツの香りと共にハーブの香りがするのが特徴です。
冷却ろ過せずにボトル詰めされているので、香りも味わいも複雑で奥行きがあります。
宮城峡蒸留所設立50周年の際に、「シングルモルト宮城峡リミテッドエディション2019」と同時販売された限定品です。
「余市リミテッドエディション2019」の方は、余市蒸留所でつくられた原酒を1960年代、1970年代、1980年代、1990年代、2000年代の5つの年代に分け、それぞれの年代からモルトを厳選してヴァッティングして仕上げました。
余市らしい強いピート香とダークチョコレートに近いほろ苦さと香ばしさが特徴です。
これ以外に、余市蒸留所限定のボトルとして「シングルモルト余市 ウッディ&バニラ」「シングルモルト余市シェリー&スウィート」「シングルモルト余市ピーティ&ソルティ」があります。
いずれもアルコール度55%と高めです。
余市はシングルモルトウイスキーなので個性が強めです。
余市らしい個性を十分に味わうなら、まずはストレートで味わってみましょう。
確かに、余市特有のスモーキーフレーバーとリッチで華やかな香り、濃厚なコクと口当たりは、好き嫌いがわかれるところです。
しかし、アイラモルトほど個性の主張は強くありません。
ウイスキーの持ち味を確かめて、自分にぴったりの飲み方を探るためにも、一度ストレートで味わっておきましょう。
特有の香りをしっかり堪能するなら、テイスティンググラスを用意するのがおすすめです。
ピーティーなモルトはほとんどの場合ドライ感が強いのですが、余市の場合は、意外なほど甘味を感じます。
カラメル系のほろ苦い濃厚さやフルーツの甘酸っぱさも相まって、余韻のピート感が思ったほど悪くないと感じられるかもしれません。
スモーキーフレーバーも、熟成の進んだものは余韻として感じられるくらいです。
実際に味わってみると印象が変わることがあるので、チェイサーを傍らに用意して、少しずつ味わってみるとよいでしょう。
余市の飲み方としては、ハイボールもおすすめです。
高級なシングルモルトをハイボールで飲むのはもったいないと思うかもしれません。
しかし、余市はもともと日本人向けに作られたウイスキーです。
日本人の口に合うハイボールに仕上がります。
個性が際立ちながらもピート感は薄れるので、ストレートよりはかなり飲みやすくなります。
通常のウイスキー1:ソーダ3のハイボールはかなり重厚に仕上がるので、飲み応えは抜群です。
余市の場合、1:4くらいの薄めに作っても余市の存在がわかります。
揚げ物など濃厚な食事のお供にぴったりです。
また、しょう油で味付けした食べ物と相性がいいので、和食と一緒に飲んでもよいでしょう。
余市は、アイラ系ほどではなくても、ジャパニーズウイスキーとしてはクセが強めです。
洗練された香りや味わいを求める人には、最初受け入れにくいと感じられるかもしれません。
しかし、元々日本人の嗜好に合わせて開発されたウイスキーです。
スモーキーフレーバーは日本人の許容範囲内に納められています。
食わず嫌いで最初から飲まないと決めてしまうのはかなりもったいないです。
余市の無骨さも魅力のひとつとしてしっかり味わいましょう。