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【Exclusive Interview】Calum Rae-Holyrood Distillery
- 造り手
- 蒸溜所(海外)
霧島という連山があり、湧き水の名所として知られる鹿児島県霧島市には、1940年代から焼酎製造を続けてきた技術を持つ横川蒸留所があります。
今回Dear WHISKYは、横川蒸留所へ直接お伺いし、蒸留所を見学をさせていただきました!横川蒸留所は、公式HPで蒸留所の様子を公開していますが、一般見学は行っていません。そのため、今回は蒸留所内の様子をお届けする貴重な機会となります!
長年蒸留酒である焼酎を造ってきたからこその特徴や、蒸留所周辺の環境を活かしたウイスキー造りをお伝えしますので、最後までぜひご覧ください!
蒸留酒の生産が盛んな霧島市で初めてウイスキー製造免許を取得した蒸留所です。
ウイスキー造りを始めてから1年ほどの横川蒸留所ですが、敷地が2万㎡以上あり、年間の最大生産量は40万キロリットル以上を見込んでいます。
現在の横川蒸留所は、1949年から焼酎製造を行っており、五領酒造、黄金酒造と伝統が受け継がれたきたのちに、アットスター株式会社が事業を買収しました。横川蒸留所が建つ場所は、霧島横川酒造、出水酒造が、建設し、製造を行っていた施設をアットスター株式会社が縁あって譲り受けました。焼酎製造が長年行われていた歴史は横川蒸留所のウイスキー造りに活かされています。
会社名 | アットスター株式会社 |
蒸溜所名 | 横川蒸留所 |
製造開始 | 2023年5月 |
所在地 | 鹿児島県霧島市横川町上ノ3280番地5 |
電話番号 | 0995-64-6220 |
公式HP | 横川蒸留所 HP |
SNS | 横川蒸留所 Instagram 横川蒸留所 X 横川蒸留所 facebook |
横川蒸留所の外観
大自然に囲まれている横川蒸留所は霧島連山の麓、標高300m地点にあります。
昼夜の寒暖差は激しく、ウイスキーの熟成に良い影響を与えることが期待できます。
また、蒸留所のある霧島市横川町ではマグネシウムなどのミネラルが多い地下水が得やすいため、その地下水をウイスキー造りの過程でも用いています。
敷地内には、地下水をくみ上げる井戸があります。
汲み上げた水はウイスキー造りの際に利用するため、1分間に3,000リットルほど汲み上げることのできる仕組みになっています。
汲み上げる水は軟水に分類されていますが、ミネラル成分を多く含んでいます。
2万㎡以上にも及ぶ広大な敷地を持つため、将来的に敷地内に工場棟や倉庫棟を増設したり、ビジターセンターを開設するなど、多岐にわたり拡張することができます。
続いては製造過程を巡ります!
汲み上げ式の井戸
横川蒸留所では、1回の仕込みで800キロのモルトを使用しています。最大で1度に5,000キロの仕込みをすることも可能です。
モルトは自社で粉砕し使用することが多いですが、粉砕麦芽を仕入れて使用することもあります。
粉砕比率を横川蒸留所では、ハスク:グリッツ:フラワー=3 : 6 : 1にしています。
粉砕比率の黄金比はハスク:グリッツ:フラワー=2:7 :1といわれていますが、横川蒸留所は造りたい酒質や糖化工程の状況などにより割合を変えているとのことです。
横川蒸留所のモルトミル(麦芽粉砕機)
糖化とは、粉砕した麦芽に温水を加えて加熱し、穀類のデンプンからアルコールの素となる糖を生成することです。
横川蒸留所では二番麦汁までを使用する蒸溜所が多い中、糖化時に最初に絞れた一番麦汁のみを使用するという贅沢な造りを行っているとのことです。
これにより、すっきりとした味わいを期待することができます。横川蒸留所が目指す、「多くの方が飲みやすいと感じるウイスキー」を造るために一番麦汁のみを使用しているとのことです。
横川蒸留所のマッシュタン
発酵とは、糖が酵母の作用でアルコールに変わる化学変化のことを指し、アルコールが初めて生まれる工程です。
一般的に48~72時間発酵するといわれているところ、横川蒸留所では72時間~96時間かけて発酵させています。
また酵母も工夫をしており、フルーティで華やかな香りの元となる成分であるエステルを生成しやすくしています。
発酵槽はもともと焼酎製造で利用していたステンレス製のものがあり、7.9キロリットルの発酵槽が7つ、2.3キロリットルの発酵槽が4つ存在します。
そのうちの7.9キロリットルの発酵槽をウイスキー造りで現在利用しています。2.3キロリットルの発酵槽に関しては、ウイスキーの生産量が増え、現在活用している発酵槽では生産が追い付かなくなった際に、利用を考えているそうです。
また使用している発酵槽には水温調整機能があり、水温を一定に保ちながら発酵を行っています。最終的に水温が30度になるように、最初は水温が70度くらい(65度よりも少し高い状態)から始めて調整を行っています。
横川蒸留所の発酵槽
蒸留とは、もろみ(ウォッシュ)から水を取り除いてアルコール度数を高める工程です。
横川蒸留所は焼酎製造の時から使用している蒸留器を使っており、常圧と減圧を切り替える機能があるます。これにより、ずっしりとした味わいからすっきり軽やかな味わいまで酒質をコントロールすることが可能で、横川蒸留所が理想とする酒質に近づけることができます。
また蒸留温度を徹底的にコントロールし、不快とされる香りの原因成分を抑制しています。
蒸留中の蒸留器
「ミドルカット」とは、再留の時にフォアショット(前留)とフェインツ(後留)を取り除いたハート(中留)を抽出する作業のことを指します。この作業は五感を頼りに行われるため、ミドルカットの担当者は長い経験やトレーニングを重ねることで、特に嗅覚を高めていきます。
横川蒸留所の職人は焼酎製造を20年以上行ってきた方が多いため、そのノウハウを活かしつつ、度数や時間、香りからミドルカットを行っています。
焼酎の蒸留器
横川蒸留所では、2種類の貯酒タンクがあります。1つは貯蔵量を計測するため、もう1つは貯蔵するためのタンクです。
横川蒸留所は11.7キロリットルほど入る貯酒タンクをはじめとして、様々な大きさのタンクを21個所有しており、合計152キロリットルと大きな貯酒能力を持っています。貯酒タンクに入れられた原酒は、その後樽詰めされて熟成されます。
横川蒸留所の貯酒タンク
貯蔵庫では、20~30個ほどの樽を現在熟成しています。甘くてやわらかく、幅広い方に飲んでいただけるものを理想としています。そのため、PX(ペドロ・ヒメネス)樽を始めとしてホワイトオーク樽や焼酎を熟成した樽、さらには国内のワイナリーから取り寄せたワイン樽などで熟成しています。
できるだけ理想のウイスキーの味わいに近づけるように樽を選んでいます。
甘めに仕上がることが期待されているPX樽
今回は、蒸留所を案内してくださった工場長代理の伊古田さんに、横川蒸留所のウイスキー造りについて詳しくお伺いしました!
Dear WHISKY:
横川蒸留所がウイスキー業界に参入した経緯を教えてください。
伊古田さん:
鹿児島県は非常に焼酎製造の盛んな土地ですが、2000年代後半から焼酎の需要が少しずつ減ってきていました。
そのころに、日本全体でウイスキー需要が多いことを知り、苦しい状態からの脱却と焼酎の文化を世界に打ち出すには、ウイスキーが有効なのではと考え、ウイスキー造りを模索し始めました。
Dear WHISKY:
ハイボールブームがきっかけですか?
伊古田さん:
そうですね。サントリーさんが興したハイボールブームをきっかけに、横川蒸留所もウイスキー業界を視野に入れました。
Dear WHISKY:
伊古田さん自身、ウイスキー業界に参入することをどのように感じていましたか?
伊古田さん:
私自身、ウイスキーがとても好きだったこともあり、社長とよくウイスキー業界に参入することについて話していました。
Dear WHISKY:
それは伊古田さんが発案されたということですか?
伊古田さん:
社長の判断で参入することが決定しましたが、ウイスキー造りに挑戦してみたいという話は私からしていました。
私のようなウイスキー好きがいて、素晴らしい技術を持つ職人もいる蒸留所だからこそ、ウイスキー業界でも戦うことができると思いました。
Dear WHISKY:
横川蒸留所が目指す理想のウイスキーはどのようなものですか?
伊古田さん:
多くの方に愛していただけるような、飲みやすいウイスキーを造りたいと思っています。
そのため特徴的な味わいというよりは、飲み始めの20代の方から好んで選んでいただけるように、フルーティーで甘くやわらかいウイスキーを造ろうと試行錯誤しています。
Dear WHISKY:
まずは、やわらかく飲みやすいものを造っていこうという方針なんですね。
今後ピートを使ったものを造る可能性はあるのですか?
伊古田さん:
将来的にセカンドブランドや、実験的に味わいなどが特徴的なウイスキーを造る可能性はありますが、まずはやわらかく広く皆様に愛していただけるウイスキーを造りたいという想いが強いです。
Dear WHISKY:
伊古田さんは以前からウイスキーがお好きだったとのことですが、どのようなものがお好きですか?
伊古田さん:
私はウイスキー全般が好きです。やわらかく飲みやすいもの、ピートが効いたものもどちらも飲みます。
Dear WHISKY:
最初に好きになったウイスキーは何ですか?
伊古田さん:
バルヴェニーの15年です。21年前に初めてこれを飲んだ時にすぐに好きになりました。
当時はアルコールが54度くらいあり、ウイスキーを飲んで2、3秒後に鼻からすっと抜ける感じが気持ちよく、驚くと同時に魅了されました。
Dear WHISKY:
バルヴェニーの鼻から抜けるところに、はまってしまったんですね!
他には好きなウイスキーはありますか?
伊古田さん:
銘柄ではありませんが、基本的にスコッチウイスキーが好きです。そのため、いろいろな種類のスコッチウイスキーを飲んでいます。
Dear WHISKY:
もともと横川蒸留所は焼酎製造を行っている蒸留所ですが、ウイスキー造りを行うにあたり苦労した点はありますか?
伊古田さん:
工程は焼酎製造もウイスキー造りも似ている点が多いのですが、発酵や熟成にかける時間や時期、温度やタイミングは全く違います。
原料が異なるため製造の違いが生じる部分に関しては、試行錯誤を繰り返したり、文献やほかの蒸溜所にお話を伺ったりすることで、横川蒸留所にとっての最適解を見つけています。
Dear WHISKY:
確かに製造工程は似ている部分が多いですね。
では、焼酎製造の経験が活きたエピソードはありますか?
伊古田さん:
作業を行う前の準備や、設備等の洗浄に関してどの部分に気を付けるかなどは、焼酎製造でもウイスキー造りでもあまり差がないので経験が活きたと思います。蒸留に関しては、今まで全く失敗がなく、77℃でキープするなどの細かい温度対応ができるのは、長年の蒸留経験者によるものです。新しいウィスキー蒸留所にない、焼酎蒸留所ならではの技術だと感じております。
Dear WHISKY:
新しく方法を模索するというのではなく、ノウハウを活用するという形になったのですね。
では、今後横川蒸留所が行っていきたい取り組みなどについて教えてください。
伊古田さん:
大前提としておいしいものを造りたいですが、そのうえで横川蒸留所らしい最高のウイスキーの造り方というのを、常にブラッシュアップさせていきたいと思っています。
鹿児島の水や蒸留所が位置する自然環境が、原酒にどのような特徴を与えるかというデータを収集し研究することで、理想のウイスキーを造り続けることができると思います。
横川蒸留所の現地レポートはいかがでしたか?
焼酎製造の経験を活かしたウイスキー製造を行っている、横川蒸留所の工場内を見る貴重な機会でした。
また工場長代理の伊古田さんにインタビューを行い、横川蒸留所のウイスキー業界に参入したきっかけや、どのようなウイスキーを理想としているかなど、様々なお話を伺うことができました。
霧島連山から流れるミネラル豊富な天然水を使った原酒が、今後どのような香りや味わいとなり、どのようなウイスキーとして完成するのかがとても楽しみです!