【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
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北海道長沼町の馬追丘陵に位置するマオイ自由の丘ワイナリーが前身となり、2022年に誕生した馬追蒸溜所。ワインの醸造に加え、スコットランドのフォーサイス社よりハイブリッド式の蒸留器を導入し、ウイスキー、ブランデー、フルーツブランデーの生産を行なっています。
今回Dear WHISKYは、多種多様なお酒を造る馬追蒸溜所にお伺いし、MAOI株式会社代表取締役社長である、村田哲太郎さんにインタビューを行いました!村田さんご自身についてやウイスキー造りにおける想い、今後の展望などをお話しいただきました!
村田 哲太郎 さん MAOI株式会社 代表取締役社長。外資系企業勤務を経て、2015 年より全国各地の古民家再生に携わる。 |
Dear WHISKY:
村田さんは元々どのようなお仕事をされていたのですか?
村田さん:
実は外資系企業に勤めていたため、長年アメリカに住んでいました。アメリカでは、企業の再生やデータ解析の仕事などに取り組んでいました。
Dear WHISKY:
その後、日本に帰国してからはどのようなお仕事をされていたのですか?
村田さん:
帰国後は、日本文化に資する仕事を目指して、古民家の再生などに携わっていました。古民家や街並みの再生に取り組む中で、街の中心にある酒蔵が経営危機に瀕している光景を見てきました。
これらの酒蔵の再生のためのコンサルティングなどを通じて、次第にアルコールの世界に興味を抱くようになり、現在に至っています。
Dear WHISKY:
村田さんがウイスキーと出会ったきっかけは何ですか?
村田さん:
社会人2年目のころに『Pen』という雑誌を読んだことがきっかけです。
その中にあった広告記事に「ラフロイグやボウモアを飲む男は格好いい」と書いてありました。
それに感化されてウイスキーを飲みに初めてバーへ行きました。
Dear WHISKY:
初めてのウイスキーは雑誌がきっかけだったのですね!
村田さん:
初めてラフロイグとボウモアを飲んだ際は、その特徴的な香りに驚きました。その後、グレンモーレンジィのような飲みやすいウイスキーを飲むようになり、徐々にウイスキーにはまっていきました。
最終的には、キャンベルタウンやアイランズのウイスキーにはまってしまうほど、ウイスキーが大好きになりました。
Dear WHISKY:
当時からこれまで様々なウイスキーをお飲みになっていると思いますが、村田さんがお好きな銘柄はありますか?
村田さん:
クライヌリッシュやマッカランのオールドボトル、ライトリーピーテッドのハイランドパークのような、色々な要素が絡み合った複雑みのあるウイスキーが好きです。
Dear WHISKY:
MAOI株式会社のある長沼町の魅力は何ですか?
村田さん:
長沼町は名水の里と呼ばれるほど水の質が良いことが魅力です。水の質はもちろん、水源からも豊富な量の水が取れるので、水には非常に恵まれている場所だと思います。
Dear WHISKY:
ちなみに、水以外にも何か魅力はありますか?
村田さん:
気候が安定していることです。
長沼町は冷涼で安定した気候なので、長熟のウイスキーを造りやすいです。
長沼町は私の造りたい長熟のウイスキーを造る上で最適な場所だと思います。
Dear WHISKY:
ウイスキー以外に、どのようなお酒を造っているのですか?
村田さん:
馬追蒸溜所では、自家栽培の山ブドウ系の品種を中心にワイン造りも行っています。
Dear WHISKY:
長沼町の自然環境はワイン造りにおいてどのように活かされているのですか?
村田さん:
実は、長沼町は風が強く土壌が瓦礫質なため、ワイン造りには難しいテロワール(主にワインの世界において、その味や性質を左右するブドウ畑の土壌や気候、環境、職人の技術などを表す言葉)です。加えて、降雪量もそこまで多くないため、土地に対する毛布の役割を雪が十分に果たすことができません。
Dear WHISKY:
土地に対する毛布の役割とは何ですか?
村田さん:
沢山の雪が降り積もることで、苗木がしっかりと根を張れるようにする役割です。冬の間にも苗木が生育するためにはある程度の生育温度が必要なのですが、長沼町ではあまり雪が降らないので生育温度を保つことができません。
Dear WHISKY:
ワイン造りには難しいテロワールであるにも関わらず、長沼町でワイナリーを続けているのはなぜですか?
村田さん:
ワイン造りを行うには難しい自然環境ではありますが、苗木もある程度育っており、ブドウの収穫量も年々増えているので、もう少し粘り強くワイン造りをしようと思ったからです。また樽のエコシステムを作りたいという想いもあります。
Dear WHISKY:
樽のエコシステムとはどういうものですか?
村田さん:
MAOI株式会社では造られたワインやブランデーの空き樽をウイスキーの熟成に再活用することです。逆に、ウイスキー熟成で使い終わった後の樽に、ワインなどを入れ再活用にも使用しています。同じ会社で複数の種類のお酒を造っている強みを活かしたいと考えています。
Dear WHISKY:
具体的にはどのような種類のワインを造られているのですか?
村田さん:
長沼町は、ワイン造りに恵まれたテロワールではありません。
ここで主に育つのは、山ブドウや白ブドウ系のシャルドネになります。
Dear WHISKY:
山ブドウで造られたワインはどのような味わいになるのですか?
村田さん:
山ブドウには、独特の土っぽさや強烈な酸味があります。
そのため、ワイン単体で味わうというより、癖のあるジビエなどの食事とペアリングすると相性が良いです。
Dear WHISKY:
お酒造りをする中でのこだわりは何ですか?
村田さん:
北海道に蒸溜所がある以上、北海道産の原料を大切にしたいです。
そして、地元の味を表現していきたいと思っています。
Dear WHISKY:
今ここでしか造ることができないものを大事にしたいということですね!
村田さん:
そうですね。
北海道の自然の恵みを活かして、北海道らしいウイスキーを造るということを大事にしたいです。
そして、ウイスキーに限らず、北海道の土地の味を表現し、地元に根差したお酒を造っていきたいです。
Dear WHISKY:
ウイスキーを造ろうと考えたきっかけは何ですか?
村田さん:
長沼町が長熟のウイスキー造りに適した気候だったからです。
日本酒やビールはすでに他の場所で製造しているので、他にはないものを造るという意味においては、ウイスキーが一番適していたのではないかと思います。
Dear WHISKY:
蒸溜所を新設するにあたり、何か苦労したことはありますか?
村田さん:
馬追蒸溜所には下水道が整備されていないため、排水設備の設置にはとても苦労しました。蒸留廃液を希釈して地中浸透させるなど色々な試みをして、排水問題にはかなり気を遣っています。
Dear WHISKY:
排水の中でも特にどのようなところに気を遣っているのですか?
村田さん:
例えば、浄化槽や沈殿槽をこまめに掃除したり、環境放出によって異臭が発生し周辺住民の方々に迷惑にならないように気を遣っています。
Dear WHISKY:
馬追蒸溜所の強みはどのようなところですか?
村田さん:
この北海道長沼町の気候を活かしたウイスキー造りができることだと思います。
温暖な地域に比べると熟成経過は穏やかなため、長熟のウイスキーを造ることができます。長沼町の気候を活かした長熟のウイスキーを造るために、より強く重心の低いニューメイクを造ることを心掛けています。
Dear WHISKY:
馬追蒸溜所で馬追蒸溜所倶楽部という会員制度を導入したのはなぜですか?
村田さん:
会員制度、いわゆるファン組織を作ることで、ファンの方々との会話の機会を設けたかったからです。会話によって、お客様の馬追蒸溜所に対する理解も深まると思いますし、逆にお客様からの声にも耳を傾けやすくなると思い、馬追蒸溜所倶楽部を設けました。
Dear WHISKY:
馬追蒸溜所倶楽部のイベントではどのようなことができるのですか?
村田さん:
モルトの違いによるウイスキーの飲み比べをしたり、ハンドフィル(その蒸溜所で造られたウイスキーを、樽から直接ボトルに注ぐこと)をしたりすることができます。
Dear WHISKY:
お客様との会話を大切にしているのですね!
村田さん:
ウイスキー造りの土台は機械ではなく「人」だと思っています。人が造るからこそ面白いウイスキーが出来上がります。ウイスキー造りを全て機械化したら味気ないものになってしまうと感じます。
そのため、私たちが日々どのような想いでウイスキーを造っているのか、どれだけの情熱をかけているのかをお客様に届けることができればいいなと思っています。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りの工程で特徴的なものはありますか?
村田さん:
実は発酵工程は特徴的です。
ディスティラリー酵母を使っている蒸溜所が多い中で、馬追蒸溜所は馬追蒸溜所はエール酵を使っています。
また、人の手をより多く使って発酵させることも特徴的です。
Dear WHISKY:
ディスティラリー酵母とエール酵母では、ウイスキーにどのような違いが出てくるのですか?
村田さん:
香りにや扱いやすさに大きな違いが出てきます。
ディスティラリー酵母に比べると、エール酵母は発酵力が強く発酵の管理がしやすいんです。
そのため、現在はディスティラリー酵母とエール酵母の両方とも使っています。
Dear WHISKY:
エール酵母以外に使用したいと考えている酵母はありますか?
村田さん:
いずれは清酒酵母を使ってみたいと思っています。
乾燥酵母ではなく、色々な種類の自然培養の酵母を使って、様々な味わいの原酒を造りたいですね。
Dear WHISKY:
酵母のほかに、発酵過程で何かこだわっていることはありますか?
村田さん:
今は乳酸発酵にかなりこだわっています。
乳酸発酵させてウォッシュから造った原酒は香りが華やかになるという特徴があります。
Dear WHISKY:
ブランデー造りとウイスキー造りに何か共通点などはありますか?
村田さん:
単に蒸留するのではなく、ウォッシュやもろみを綺麗に造ることです。そうすることで、最終的に綺麗なニューメイクを造ることができると思っています。
Dear WHISKY:
蒸留はどちらのお酒造りでも重要なのですね!他にも共通点はありますか?
村田さん:
ホワイトブランデーもニューメイクも、かなり味が濃く強いものを造っていることです。
そのため、ブランデーもウイスキーも、長沼町の気候を活かして長熟させていきたいと思っています。
Dear WHISKY:
一方で、ブランデーとウイスキーの製造過程にはどのような違いがありますか?
村田さん:
ウイスキーと違い、ブランデーは製造過程でメタノールが出てくることです。そのため、メタノールを綺麗に除去することにはすごく気を遣っていて、毎回の検査で基準値を下回っていることを確認してから出荷しています。
Dear WHISKY:
今後、ウイスキーを造る上で使用したい原材料はありますか?
村田さん:
今月からピーテッドモルトを使い始めるので、北海道産のピートを上手く使いこなしながらウイスキー造りをしていきたいと思っています。
Dear WHISKY:
そうなのですね!何ppmくらいの麦芽が出来上がるのですか?
村田さん:
おそらく、20ppmくらいのミディアムピーテッドかライトリーピーテッドの麦芽が出来上がると思います。
ヘビリーピーテッドではありませんが、北海道産の原料のみを使ったウイスキーを世に出していきたいと思っています。
Dear WHISKY:
馬追蒸溜所が使っているのピートの特徴は何かありますか?
村田さん:
草のカヤの成分が多く繊維質なことです。スコットランドのピートは石炭っぽいですが、馬追蒸溜所で使われているピートはやや繊維っぽいと思います。そういう意味では、ピート層としてはまだ若いのかもしれないです。
Dear WHISKY:
馬追蒸溜所でプライベートカスクを販売しようと思ったきっかけは何ですか?
村田さん:
ウイスキーは、数多ある食品系の商材の中で完成に一番時間がかかるものです。
その上で、お客様と一緒にウイスキー樽を見守りながら育てていくことに楽しさがあると思ったことがきっかけです。
Dear WHISKY:
プライベートカスクを通して、蒸溜所とお客様の繋がりをより強くしていこうということですね。
村田さん:
私たちだけが樽を見守るのではなく、お客様も樽を気にかけ、そして馬追蒸溜所を応援していただくきっかけも作ることができればいいなと思っています。
Dear WHISKY:
これからの馬追蒸溜所としてはどのようなものを思い描いておりますか?
村田さん:
馬追蒸溜所は超小規模の蒸溜所ですが、超小規模であるが故に小回りは効きやすいというメリットがあります。
そのため、一般の蒸溜所ではできないようなことにも挑戦したいと考えています。
Dear WHISKY:
シングルモルトの初出荷はいつ頃の予定ですか?
村田さん:
2022年10月に蒸留を開始し樽詰めをしていますが、熟成経過が穏やかなので、シングルモルトが出来上がるまで4年から5年を見込んでいます。
Dear WHISKY:
どのような味わいのウイスキーを造っていきたいとお考えですか?
村田さん:
麦の強さはこれからも大事にしていきたいです。最近は樽を重視したウイスキー造りが多くなっていると感じています。
しかし、私はニューメイクの麦々しさと樽の味のバランスが、ウイスキー造りにおいては最も大事だと思っています。そのため、馬追蒸溜所のウイスキーは他のウイスキーと比べると、モルトの味わいがしっかり感じられるウイスキーになると思います。
Dear WHISKY:
樽だけでなくモルトの味わいも大事にしたウイスキー造りをされていきたいということですね!
村田さん:
馬追蒸溜所のウイスキーは、熟成期間が短いうちに飲むと麦の味がかなり強いと思います。
しかし、10年、20年と経過するにつれて、麦の味わいと樽のバランスがとれて、非常に良いウイスキーが出来上がると思います。
Dear WHISKY:
2023年、ジャパニーズウイスキーは100周年を迎えましたが、それに対する率直なお気持ちはいかがですか?
村田さん:
日本の蒸溜所が増えてきているのはとても良いことだと思います。
その上で、しっかりと蒸溜所間の連携を取って情報交換をしながら、切磋琢磨できるように、各蒸溜所の特性を出していくことが重要だと思います。
Dear WHISKY:
各蒸溜所の特性とは具体的にどのようなものをお考えですか?
村田さん:
ジャパニーズウイスキーは日本のウイスキー文化において、急速に開花しようとしています。その中で、100周年は岐路になる可能性もあると考えていて、自分たちなりの特色を出せない蒸溜所は、この先淘汰されていくかもしれません。
そのため、「地ウイスキー」のような、その土地の味をしっかりとウイスキーに反映させたウイスキー造りが、これからは非常に重要になってくると思います。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者に向けてメッセージをお願いします!
村田さん:
私たちは北海道の蒸溜所として北海道らしいウイスキーを造っていきたいと思っています。
シングルモルトが完成するまで時間はかかりますが、ニューボーンのようなものは、数回リリースしていきたいと思うので、ウイスキーの進化の過程を楽しみながら、馬追蒸溜所のシングルモルトの発売をお待ちしていただけたら非常にありがたいです。
以上、馬追蒸溜所を運営するMAOI株式会社の代表取締役社長である村田哲太郎さんへのインタビューでした!
北海道産にこだわり、長沼町の気候を活かしたウイスキー造り、そして2022年に誕生したばかりの馬追蒸溜所の展望など、とても興味深い内容ばかりでした。
村田さん、この度はありがとうございました!また、馬追蒸溜所の様子をお届けする現地レポートもぜひご覧ください!