【現地レポート】博物館併設!ノーサンブリアの文化を伝えるアドゲフリン蒸溜所
- 造り手
- 蒸溜所(海外)
スコッチウイスキーの聖地、スペイサイドの「スペイサイド・クーパレッジ」は、英国最大規模のクーパレッジ(樽製造会社)であり、熟練の職人たちが日々、伝統の技で樽の製造やリペア(修理)を手掛けています。
今回、Dear WHISKYはスぺイサイド・クーパレッジの現地ツアーに参加し、スコッチウイスキー業界を支える樽の製造工程や、クーパーの職人技に迫りました!
スコッチウイスキーの熟成に欠かせない樽のリペアが主な業務であり、現在、リペアが業務全体の99%を占めています。
一部、新樽の製造も手掛けており、顧客の要望に応じたビスポークや小ロットの注文にも対応しています。
1990年代初頭、急成長を続けていたスペイサイド・クーパレッジは、クライゲラキ村の中心にあった最初の敷地が手狭になり、1991年に村の郊外に移転。
現在の広々とした施設には、ビジターセンターも設置されており、見学可能なスコットランド唯一のクーパレッジとして多くの訪問者を迎えています。
2008年にはフランスのトネリー・フランソワ・フレール社の傘下に入り、さらにその存在感を強めてきました。
現在、スペイサイド・クーパレッジはイギリス最大のクーパレッジとして、1週間に1,800~2,000樽、1日に約350~400樽をリペアしています。さらに、スコットランドのみならず、アメリカのアロア、ケンタッキー、オハイオにも施設を構え、バーボン樽の製造も行っています。スタッフの中には、スコットランドとアメリカを行き来しながら働く方もいらっしゃるそうで、国を超えて樽造りの伝統を支えています。
企業名 | Speyside Cooperage Ltd. |
創業 | 1947年 |
所在地 | Dufftown Road, Craigellachie, Banffshire, AB38 9RS |
公式HP | スぺイサイド・クーパレッジ 公式HP |
ウイスキー愛好家なら一度は訪れたい名所、マッカラン蒸溜所やクライゲラヒ蒸溜所、そして名門Bar「ハイランダーイン」などが立ち並ぶスペイサイドの穏やかな丘陵地帯を抜けると、圧巻の75,000樽が積まれたスペイサイド・クーパレッジの巨大な樽置き場が見えてきました!
圧倒されながら足を踏み入れると、樽の廃材を再利用してつくられたユニークな人形や家具が出迎えてくれました。屋外で家族連れでも楽しめるスポットが設けられており、遊び心が感じられる温かなおもてなしです。
スペイサイド・クーパレッジには、現在13名のクーパーがおり、加えて8名の見習い、そして2名のメンターが日々樽のリペアを行っています。
スコットランドで1人前のクーパーとして認証されるためには、4年間の修行を経て、他のクーパレッジから派遣されたクーパーが監督するテストに合格することが求められます。
この試験に合格すると、クーパレッジ協会から正式にクーパーの道具が授与され、晴れてプロのクーパーとしての第一歩を踏み出します。
ちなみに、ウイスキーの聖地と呼ばれるスペイサイドには、スペイサイド・クーパレッジのほかにも多くのクーパレッジが点在しているため、比較的行き来は容易です。特にマッカランなどの大手蒸溜所は、自社クーパレッジを所有しており、自身でも樽修理を行っています。
ここでは、スペイサイド・クーパレッジの歴史や、樽のリペア工程について約8分間の映像で紹介があります。
迫力ある映像から、これから目にする工場の仕事ぶりが伝わり、期待が高まります!
次に、1階の作業場を2階のガラス窓越しに見学します。工場内は、3つのラインに加え、トーストエリアやテストエリアなどに区分けされ、どの場所も絶え間なく稼働していました。職人たちが重たい樽を軽々と回しながら作業する姿を間近は圧巻です!スペイサイド・クーパレッジでは、機械も使用しますが、依然として多くの工程が手作業で行われています。
伝統的な技術を守るとともに、地域の雇用を大切にすることにも力を入れているそうです。
樽は最大で約60年も使用可能な資産。
製樽業界は国際的で、樽はウイスキーをはじめ、さまざまなお酒を詰め替えながら各国を巡り、その過程でリペアやサイズ変更を行うことで長い寿命を保っています。
役目を終えた樽は細かく砕かれ、燻製所で再利用されることもあります。ウイスキーの香りが染み込んだ木片で燻されたスコティッシュ・サーモンは一度食べてみたい逸品です。
スぺイサイド・クーパレッジには、英国中、さらには世界中からリペアを待つ樽が集まります。屋外で管理された樽の中から、その日修理するものが選ばれ、工場内へ運ばれます。
リペアは、タガ(輪)や鏡板、側板などに問題がないか検品することから始まります。
また、リペアの際にはサイズ変更が行われることもあります。
200Lのバレルを250Lのホグスヘッドにつくり変えたり、125Lのクオーターサイズに小さくしたりすることも可能です。
リペアには、「ドナーカスク」が重要な役割を果たします。
200樽がリペアに出されると、10樽ほどが他の樽の部品供給に使用され、残りが修理されて戻ってくるのです。ウイスキーの樽は、前に詰められていた液体の種類がその後の熟成に影響を与えるため、通常は同じ種類の液体が詰められていた「シスターカスク」をドナーカスクとすることが一般的です。しかし、スペイサイド・クーパレッジでは、依頼主の要望に応じて、独自のドナーカスクのストックを使用することで、依頼された数の樽を返却することも可能とのことです。
鏡板や側板の製造は、伝統技術に則り、12~36か月自然乾燥させた厳選オーク材を使用します。
オーク材はまず長方形にカットされ、その後、慎重に組み合わせたり再度カットしたりしながら、鏡板や側板がつくり上げられます。釘や接着剤は使わず、木材の弾力を活かして組み合わせていきます。
リペア工程では、タガを外し、問題のある部分を取り除いた後、代わりの側板や鏡板などのピースを、正確に当てはめていきます。
側板の組み立て時にはスチームで木材を柔らかくし、力強く湾曲させてタガで固定します。
真っ直ぐで硬い木材を円弧に曲げるには大きな力が必要で、専用の機械が使われます。昔ながらの方法で、手作業で行うことも可能です。
漏れを防ぐため、木材の隙間は、スコットランドのハイランド産やデンマーク産の「葦」を使用して埋めていきます。
葦は水分を含むと膨張し、密閉性を高める天然シールの役割を果たします。ハサミで水中から切り取り、乾燥させた後、樽のリペアに利用されるそうです。
リペアの最終段階では、樽の内側を40分以上低温でキャラメル状に熱し、炭化層をつくります。
これにより木の香りを抑え、ウイスキーの熟成を深める風味が引き出されます。ひび割れの原因になるため、冷ましてから次の工程に進む必要があります。また、シェリー樽やワイン樽にはじっくりとトーストが行われ、バーボン樽ではさらに高温の直火でチャーが施されます。
さらに、樽の「バンホール」(栓口)も専用の機械で瞬時に開けられます。
完成した樽には、厳しい検品が行われます。
検査担当のクーパーによる目視のチェックだけでなく、1トンの圧力でタガの固定を確認したり、水を使ったエアプレッシャーテストを組み合わせて漏れを確認します。
この検品に合格すると、検査官はクーパーが貼った白いチケットを剥がします。不合格の場合は、何を修正すべきかを細かく指示が書き出され、追加のリペア作業が必要になります。
ツアーでは、スペイサイド・クーパレッジと近隣の蒸溜所がつくったオリジナルウイスキーも試飲できます。
廃材を利用した温かみのある家具に囲まれながら、クーパーの仕事やスペイサイドの風習について、ガイドさんとゆっくり会話を楽しむことができました。
2017年4月29日、ウイスキーフェスティバルの余興のひとつとして、スペイサイド・クーパレッジで4人のクーパーがギネス記録更新に挑戦しました。ギネスの認定員と300人の観客が見守る中、職人たちは190リットルの樽を組み立て、従来の記録7分30秒を大きく上回る熱戦が展開されたそうです。
その結果、デイビッド・マッケンジー氏が3分3.18秒という驚異的なタイムで新記録を樹立しました!
水を利用した漏れのテストも無事クリアしています。スぺイサイド・クーパレッジでは、当時の様子や実際に使われた樽が展示されていました。
ウイスキーにとっての樽のように、蒸溜所にとって良質な樽を提供するクーパーは欠かせない存在です。
工場内の職人たちの熟練の手さばき、そして会社全体を支えるスタッフの温かい姿からは、樽づくりへの熱意と誇りが伝わってきました。
スペイサイド・クーパレッジのツアーは、スコットランドのウイスキー文化の深さを体感できる、超希少な体験です。是非、足をお運びください!