【イベントレポート】ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)2024 授賞式
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クリケットクラブの本拠地でもある歴史的なスポーツグラウンドとして有名なイギリス、ロンドンにあるキア・オーバル。そんなイギリスの歴史を感じさせるこの場所で、5月12日から13日に、「London Whisky Weekender 2023」が開催されました!
多くのウイスキー愛飲家がグレンケアングラス片手に盛り上がり、そのグラスに注がれるのはイギリス、スコットランドはもちろん、日本など世界各国から集まった有名な蒸溜所のウイスキー。少し酔いが回りながらウイスキーに対して熱く語り合い、笑い合うその会場は幸せな雰囲気で溢れ、ウイスキー本場の盛り上がりを感じました!
ウイスキー愛飲家から飲み始めたばかりの方まで幅広い方が、様々な味を楽しみ・学び・交流できるこのイベントは、毎年イギリスの各地で開催されています。主催者であるThe Whisky Loungeは、このようなウイスキーテイスティングイベントや講習会を開き、ウイスキーの学びや交流を深めることを目的に活動しています。本場スコットランドで造られたウイスキーだけではなく、フィンランド、インドや台湾、そして日本のニッカなど様々な蒸溜所を集め、去年よりもさらに大きい規模で行われました。
日時 | 2023年 5月12日(金)17:00〜21:00 5月13日(土)第一部:12:00〜16:00 第二部:17:00〜21:00 |
会場 | キア・オーバル |
主催 | The Whisky Lounge |
公式HP | London Whisky Weekender 2023 |
キア・オバールにむけて歩くにつれ、だんだんと同じ方向に歩く人が増えていき、会場に着く頃にはイベントを楽しみに待ちわびている多くの方々で賑わっていました!
受付では、紙のリストバンドとグレンケアングラスを一つもらい入場します。受付を抜けた先にある屋外のスペースでは、食べ物を売っているブースやベンチ・テーブルなどが用意され、ビアガーデンのような雰囲気になっています。
屋外スペースを抜けて扉を開けると、BowmoreやLaphroaigやニッカをはじめ20を超える蒸溜所のブースが私たちを待ち構えていました。ブースの周りは多くの人で溢れ、スタッフとの会話だけではなくお客さん同士でも会話が弾み、臨場感を感じられる光景でした!
蒸溜所の方々は皆さん非常に親切で、いくつものウイスキーの紹介やウイスキー造りにまつわる秘話など多くのお話をお伺いさせていただきました!
出展していた蒸溜所やブランドの例はこちらです。
蒸溜所名 | Bowmore |
設立年 | 1779年 |
オーナー | ビームサントリー社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
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公式サイト | https://www.bowmore.com/ |
特徴 | 有名な車会社、アストンマーチンなどとコラボもしている老舗の蒸溜所。アイラ島の中で一番最初にウイスキー製造の許可をもらっています。伝統的なフロアモルティングを行っています。味わいは、乾いた穏やかなピートスモークで多くの方から愛されています。 |
蒸溜所名 | Laphroaig |
設立年 | 1885年 |
オーナー | ビームサントリー社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
ラフロイグ蒸留所 - Laphroaig DISTILLERY |
公式サイト | https://www.laphroaig.com/ |
特徴 | 世界で最も売れているウイスキーの一つであるラフロイグは、その極端なほどピートが効いた味で知られています。伝統的なモルト製造の施設をまだ持っており、まず9時間の冷燻製法、その後17時間、熱風で乾燥させるそうです。この過程が大きく深い香りを与えます。蒸溜所の目の前の森では、波しぶきに当たったピートが採取することができ、ラフロイグにはこのピートが利用されているようです。 |
蒸溜所名 | Highland Park |
設立年 | 1798年 |
オーナー | エドリントン社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
ハイランドパーク蒸留所 - Highland Park DISTILLERY |
公式サイト | https://www.highlandparkwhisky.com/en |
特徴 | スコットランドのオークニー諸島に1798年からある、老舗な蒸溜所です。地元のピートを使っていて、ヘザーという花がその地域にはあるため、ヘザーが豊富に含まれているピートを使用しています。そのため、スモーキーなものでもハイランドパークは非常に滑らかで、甘い味、アロマティックなのが有名です。 |
蒸溜所名 | Auchentoshan |
設立年 | 1823年 |
オーナー | ビームサントリー社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
オーヘントッシャン蒸留所 - Auchentoshan DISTILLERY |
公式サイト | https://www.auchentoshan.com/ |
特徴 | スコットランドのローランド地方にある蒸溜所で、大都市グラスゴーに近いことから、都市にあるお洒落さという特徴を蒸溜所自体が押しています。色々な種類のオークを使って造っていますが、ピートが軽く、マイルドで飲みやすいことで世界的に有名です。 |
蒸溜所名 | JURA |
設立年 | 1810年 |
オーナー | Whyte and Mackay社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
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公式サイト | https://www.jurawhisky.com/en/#6 |
特徴 | 名前の通り、スコットランドのジュラ島にある唯一の蒸溜所。島の小さなコミュニティで造られていて、ジュラ島一体となってウイスキー造りに励んでいます。スモーキーさが少なく、甘くフルーティーで飲みやすい味が特徴としてよく知られています。 |
蒸溜所名 | 余市蒸溜所・宮城峡蒸溜所等 |
設立年 | 1934年 |
オーナー | ニッカウヰスキー株式会社 |
Dear WHISKY 紹介ページ |
余市蒸留所 - ニッカウヰスキー |
公式サイト | https://www.nikka.com/products/ |
特徴 | 日本のウイスキー業界を代表する、世界的にも有名な企業。ブラックニッカ、ニッカセッション、竹鶴など、色々な種類があり、有名な蒸溜所としては、北海道の余市蒸溜所、宮城の宮城峡蒸溜所と、二つの蒸溜所があります。それぞれの蒸溜所がシングルモルトウイスキーを出してきますが、余市はピートの効いたスモーキーなもの、宮城峡はライトで飲みやすいものと、正反対の味を造っています。 |
蒸溜所名 | KŸRO Distillery |
設立年 | 2012年 |
オーナー | キュロ ディスティラリー カンパニー |
公式サイト | https://kyrodistillery.com/distillery/story/ |
特徴 | フィンランドにある比較的新しい蒸溜所で、友達が集まってサウナに入っているときに思いついたという面白いエピソードがあります。大きな特徴としては、ライ麦を使って造っていることです。味も、蒸溜所の方々によると、他のライ麦ウイスキーとは全然違ったもので、蜂蜜のような甘さ、ライ麦特有の香ばしさ、それと同時にスパイシーな後味もあり、匂いはバニラなどが混ざったとても個性的なウイスキーです。スモーキーなものもありますが、一番オーソドックスなシングルモルトは、すっきりしていて飲みやすい感じです。 |
今回行った金曜日のセッションでは、19:30からThe Scotch Malt Whisky Societyによるウイスキーのマスターコースが行われていました。
参加者には三つのグラスが用意され、それぞれに別の種類のウイスキーが注がれています。最後まで銘柄、種類や産地などは一切明かされませんでしたが、それは「何も知らない方がより味を楽しめる」というポリシーがあるからだと行使の方が熱く語っておりました。それに対して、「どうしても先に知りたい!」とジョークで返し、盛り上がるお客さんなど、とてもフレンドリーでカジュアルな雰囲気でマスタークラスも大盛況でした!
主催会社 | The Whisky Lounge |
代表 | エディー・ラドロー(Eddie Ludlow) |
経歴 | IWSCのウイスキー審査員であり、The Whisky Loungeの創設者、共同経営者。”Whiskey: A Tasting Course: A new way to Think―and Drink―Whiskey”を2019年に出版し、Best Drinks Debut Books(お酒を始めるための本)賞を受賞。 |
実際にエディーさんにお話を伺いしました!
Dear WHISKY:
このようなウイスキーイベントを開催するようになったきっかけは?
エディーさん:
最初に開いたイベントは、私たちが住んでいるヨークで行われたフェスティバルでした。当時私はOddbinsというワインとスピリッツを扱う場所で働いていたため、ロンドンやスコットランドのウイスキーフェスティバルに参加したことがありました。その時に私が疑問に感じたのは、なぜ他の場所にないのか、なぜフェスティバルに参加するためにわざわざスコットランドやロンドンに行かなくてはならないのか、ということです。そこで、自分で他の場所で開催しようと思い、2001年にヨークでウイスキーフェスティバルを開催し始めました。それが私たちの最初のウイスキーフェスティバルで、ウイスキー・ラウンジが存在する前のことです。
Dear WHISKY:
それではなぜロンドンでも開催しようと思ったのですか?
エディーさん:
2008年ごろビジネスが本格化すると、ニューカッスル、マンチェスター、ブライトン、シェフィールドなど多くの地域で開催していきましたが、そこでロンドンで開催するか否か悩みました。すでにロンドンには「ウイスキー・ライブ」という大きなイベントがありますし大きな出費もかかりますので、正直なところロンドンでの開催は怖かったです。
しかし、わたしの妻でありウイスキーラウンジの共同経営者であるアマンダがロンドンでの開催を後押ししてくれたのです!そんなアマンダが「もし私たちがビジネスとして存在感を持ちたいなら、ロンドンで開催しなければならない」と言い、ロンドンで開催することを決めました。これが始まりです。またロンドンで開催することで、世界各国からも来やすくなるだろうとも感じています。
Dear WHISKY:
ご夫婦で経営されているのですね!アマンダさんはどのような方なのですか?
エディーさん:
アマンダはしっかりと仕事をこなし成し遂げるビジネスマンのような存在で、私はアーティストのような存在です。大切な存在の彼女との出会いは、ヨークのフェスティバルで私が行っていたテイスティングに参加したことです。そこでアマンダに、「エディ、そこにビジネスの可能性があるかもしれないよ。今は、これはあなたが楽しんでやっていることかもしれないけれど、これでビジネスを作り上げることができるかもしれないんだ。」と言われました。この言葉が、ウイスキーラウンジの始まりです。アマンダが、私がやっていることの可能性に気付き、ヨークから全国へ人気を博すきっかけになりました。
Dear WHISKY:
ちなみに今年のイベントで特に力を入れていること、例年と違うことは何ですか?
エディーさん:
世界各地から参加する新しい出展者が増えたことです!例えば、フィンランドのKŸROなどです。彼らはライウイスキーを造っていることもあり非常に興味深いですね!
Dear WHISKY:
ライウイスキーについての考えを聞かせてください。
エディーさん:
私としては、ライウイスキーの原料となるライ粒はピノ・ノワールという非常に扱いにくいブドウの作り方に似ています。大麦と同じように処理すると、とてもべたつき、ひどく取り扱いにくくなります。そのため、純粋にライウイスキーに焦点を当てた蒸溜所の存在は素晴らしいと思います。
ヨーロッパのライウイスキーは、アメリカのライウイスキーやカナダのライウイスキーとは非常に異なるもので、まったく新しいフレーバーや香りを教えてくれました。初めてヨーロッパのライウイスキーを試したとき、「これがウイスキーなのか?」と思ったほどでしたね!
Dear WHISKY:
エディーさんはなぜウイスキーなどのお酒に関わる仕事をしようと思ったのですか?
エディーさん:
最初は単純に仕事が必要でした。20代前半から中盤で、美術大学や音楽大学に通ったりしていて芸術家を尊敬していましたが、どちらも給料や生活費を稼ぐことはできないと感じてしまい、私としては貧しくなるリスクを負いたくはありませんでした。次に好きなことは何かと考えて、お酒関連の仕事を始めることにしました。そして、ウイスキーやワインの両方にすぐに魅了されました。私が働いていた店は、ワインとウイスキーを専門に扱っていて、ワインの方が多かったのですが、それでも100種類以上のウイスキーがありました。
Dear WHISKY:
ワインやウイスキーについてのお仕事をしていたのですね!ちなみにどのようなお仕事をしていましたか?
エディーさん:
私の仕事の一つは、ワインやウイスキーの説明が書かれたボトルの首に付けられるカード、通称「トーキーズ」を書くことでした。私たちは積極的に製品を知り、味わうことを推奨されていましたから、ウイスキーについて知るために多くのウイスキーを試飲させていただきました。また、店の営業時間外には、法人の顧客や個人の顧客向けに会場でテイスティングも行っていました。それが最初の、ウイスキーラウンジへのインスピレーションかもしれません。そして、ヨークに引っ越した時に、店以外で顧客向けにウイスキーテイスティングを始めました。
Dear WHISKY:
なぜワインではなく、ウイスキーを選んだのですか?
エディーさん:
その店はスタッフを蒸溜所に派遣してウイスキーについて学ぶ機会を提供してくださったため、スコットランド現地の蒸溜所に実際に訪れていました。現地でウイスキーを学ぶうちに、ウイスキーはもちろん、ウイスキーの造り手や関係している全ての方々にますます魅力を感じていました。そしてスコットランドという国も非常に美しく、そのウイスキーに関わる全てに魅了されました。また、今は全て素晴らしく成長し、飲まれていますが、その時点では他のスピリッツはあまり発展していませんでした。ジンもウォッカもわずかなブランドに限定されていました。だからウイスキーが一番のチョイスだったのです。私はその伝統、味も好きで、全てが好きだったのです。
Dear WHISKY:
ウイスキーの仕事といえば、I W S C(International Wine and Spirit Competition:イギリスで開催される酒類の品質を競う競技会)にも携わってらっしゃいますね!I W S Cの審査員であることをどう感じていますか?
エディーさん:
今年は3月頃に審査員をさせていただきました!年に2日間だけですが、業界の友人に会えたり素晴らしいウイスキーの数々に出会うことが出来ます。このような素晴らしい経験が出来ることは本当に恵まれているなと感じますね!
Dear WHISKY:
日本の蒸溜所に関わったことはありますか?
エディーさん:
日本にある小諸蒸溜所の開設で関わっています。
Dear WHISKY:
そうなんですね。ちなみに、小諸蒸溜所の開設に携わった経緯は何ですか?
エディーさん:
きっかけは偶然でした!世界的なブレンダーでウイスキーコンサルタントのジム・スワン博士の指導のもと、イアン・チャンという若者がウイスキー界に現れました。イアンは大学生のとき、スワン博士に見出され、台湾のカヴァラン (Kavalan) 蒸溜所のマスターブレンダー、ディスティラーとなりました。私はIWCでスワン博士に出会ったのち、2010年に私たちが開催したマンチェスターでのフェスティバルでイアンを紹介していただき、それから私とイアンは親しい友人になりました。残念ながら、スワン博士は2017年に亡くなりましたが、イアンと私は常に連絡を取り合っていました。2020年初頭、彼はカバランを去ったと聞き、また長い間彼から連絡がありませんでした。
ついに、2020年夏にイアンからメールが届き、その内容は私が日本でのプロジェクトに興味があるかどうか尋ねたものでした。私は興味があることを伝え、彼からさらなる情報を送ってもらい、彼の共同創設者である日本のビジネスマン、島岡さんと会議を行いました。島岡さんは、スコットランドや世界中の蒸溜所を作るエンジニアたちを知っていて、イアンのことを知っていたそのエンジニアたちが、彼らを繋げました。
Dear WHISKY:
なぜ日本にある小諸蒸溜所に、エディーさんが関わることになったのですか?
エディーさん:
実は、イアンと島岡さんが話している中で、島岡さんが「私がウイスキーについて知っていることはすべてこの本から学んだのですよ。著者をご存知ですか?」とイアンにきいたのですが、それが私の本だったのです!イアンは「ええ、それは私の友人であるエディー・ラドローです」と答え、島岡さんはイアンに、私を呼んで助言や相談を頼めるか聞いたのです。そうして私は島岡さんを助けることになりました。
Dear WHISKY:
2023年7月23日にビジターセンターがオープンしますが、どのようなお気持ちですか?
エディーさん:
2020年の8月頃から約3年間彼らと一緒に仕事をしているので、非常に嬉しい気持ちです。2020年にその話がきたときは、コロナの真っ只中で、私たちのビジネスは悪影響を受けていました。コロナ禍では私たちのメインであるイベントを行うことが出来ず、政府からの助成金や援助も受ける事が出来ませんでしたので、メンバーはみな落ち込んでいました。だからこそ、イアンからのメールが届いた時は精神的にも非常に嬉しいチャンスでした!タイミングも完璧だったからこそ、本当に偶然の賜物ですね。
イアンは涼しい気候でウイスキーを造る経験が無かったので、小諸蒸溜所の完成をとても楽しみにしています。イアンのいた台湾では、非常に高い湿度と温度なので、暑い気候でしかウイスキーを造ったことがありません。だからこそ、小諸蒸溜所がこれからの年月においてどのように発展するのか、そしてスワン博士からの学びを活かせるのかを心待ちにしていると思います。
このLondon Whisky Weekender 2023 では造り手・繋ぎ手・飲み手の全てのウイスキー愛飲家が集い、笑い合い、熱く語り合う、幸せな空間が広がっていました。お話をお伺いしたお客さんの中には、台湾や中南米などから来た方もいて、本当に世界中にウイスキーが広がっているのだと感じました。
6月17日には、同じウイスキーラウンジ主催の2023 Edinburgh Whisky Festivalがスコットランドのエディンバラでイベントが開催されました!このように、イギリス・スコットランドの様々な場所で頻繁にイベントを開催されているので、ぜひみなさんもこの素敵なウイスキーのコミュニティにみなさんも参加してみてください!