
【国内蒸溜所向け特別イベント】2025年4月28日開催:英国クーパレッジ特別セミナー&熟成用空き樽即売会
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UNESCO世界遺産の中に存在する蒸溜所をご存じでしょうか?
レイク・ディストリクト国立公園内、バセンスウェイト湖の北岸に位置するレイクス蒸溜所は、スコッチウイスキーとは一線を画すイングリッシュ・モルトウイスキーの先駆者として注目を集める蒸溜所です。
2014年の設立以来、エイジステイトメント(熟成年数)を一切記載することなく、その巧みなブランディングと洗練されたウイスキーづくりから世界中にファンを増やしてきました。
この記事では、レイクス蒸溜所の製造設備やウイスキーについて詳しくご紹介しておりますので、是非最後までお読みください!
Dear WHISKYは過去に、レイクス蒸溜所のチーフウイスキーメーカーであるサラ・バージェスさんにインタビューさせていただきました。そちらではサラさん個人のお話やレイクス蒸溜所の理念などについてご紹介していますので、ご興味のある方は併せてお読みください。
(2024年3月取材)
レイクス蒸溜所はその美しい自然環境と、文化および環境保全を重んじるウイスキーづくりが、世界中から高い評価を得ています。
さらにWorld Whisky Award(ワールド・ウイスキー・アワード)やInternational Spirits Challenge(インターナショナルスピリッツチャレンジ)といった大きな舞台でも金賞を受賞するほど、ウイスキーの味わいや完成度の高さが証明されています。
レイクス蒸溜所は熟成年数にこだわらず、リラックを多用する「エレヴァージュ」という製法を駆使することで、複雑で奥行きある味わいを生み出しています。このスタイルは、伝統や歴史を重んじるスコッチウイスキーとはかけ離れた、多様性を特徴とするイングリッシュウイスキーの象徴と言えます。
レイクス蒸溜所の概要については、プロモーションビデオをご覧ください。(参考: The Lakes Distillery YouTube channel)
蒸溜所名 | レイクス蒸溜所 (The Lakes Distillery) |
創設者 | ナイジェル・J・ミルズ、ポール・カリー |
住所 |
The Lakes Distillery, Setmurthy, Bassenthwaite CA13 9SJ
|
操業開始 | 2014年 |
公式HP |
レイクス蒸溜所公式HP |
公式SNS |
Instagram:@lakesdistillery |
大自然の中にあるレイクス蒸溜所までは、車でエディンバラから3時間、マンチェスターから2時間半掛かります。
国立公園内の景色
しかし、その国立公園の美しさや、雄大な湖の景色を味わいながら進む道のりは、旅の疲れを感じさせないほどの魅力があります。
レイクスシングルモルトと、独特なデザインからファンも多いラベルアート
レイクス蒸溜所のシングルモルトは、他のウイスキー蒸溜所ではあまり見られない製法を取り入れています。
コニャックに多く用いられる「エレヴァージュ」製法は、熟成途中にカスクのサンプリングを行い、リラックを繰り返すことで味わいを完成させる製法です。
このエレヴァージュ製法を活かし、レイクス蒸溜所は多彩な種類のリリースを発売していることで知られています。ボトルの詳細情報に関しては、レイクス蒸溜所HPをご覧ください!
概要 | 職人のユニークなこだわりが活きる、最新鋭の蒸溜所の舞台裏を覗いてみてください。 |
所要時間 | 1時間 |
価格 | 18歳以上:£20 10~17歳:£5 |
開催日 | 毎日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | 科学と芸術、コントロールとクリエイティビティが巧みに融合する世界で、ウイスキーを存分にお楽しみください。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £50 (18歳以上のみ) |
開催日 | 水曜日から日曜日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | 蒸溜所ツアーを五感で楽しんでいただいた後に、我々の最高級シングルモルト・ウイスキーと手造りの高級チョコレートのペアリングをお楽しみください。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £50 (18歳以上のみ) |
開催日 | 毎週土曜日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | ザ・レイクス・ライブラリーでは、最も希少で人気の高いシングルモルト・ウイスキーの厳選されたコレクションをご覧いただけます。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £100(18歳以上のみ) |
開催日 | 応相談 |
予約 | こちらから予約フォームにご記入ください。 |
レイクス蒸溜所外観
美しい景色と澄んだ空気の中、湖畔を抜けると、重厚な煉瓦づくりの建物が見えてきます。古風な外観と所々にモダンなガラスが融合したレイクス蒸溜所は、ウイスキー蒸溜所としては独特の雰囲気を放っています。
蒸溜所の建物は、20年間手付かずだった160年前の酪農場を再生したもので、補足材もすべて国立公園内で調達されています。
近年、脱二酸化炭素の動きが活発なイギリスでは、新たな蒸溜所を建設する際に使われなくなった建物をリフォームして再利用するケースが増えてきています。
建物を一から建てるよりも手軽に思えるリフォームですが、実は蒸留機器を既存の建物に巧みにはめ込んだり、建物を補強したりする必要があるため大変手間のかかる工事だそうです。
壁面に埋め込まれたカトルフォイル
レイクス蒸溜所の大規模なリノベーションを通して、元々の建物に使われていたカトルフォイル(Quatrefoil)と呼ばれる四つ葉の飾りが、26個発掘されました。
カトルフォイルは「信仰」「希望」「運」「愛」を象徴するこの地方の伝統的なシンボルで、今でも蒸溜所の壁面に埋め込まれています。このシンボルはレイクス蒸溜所が大切にする信条を表すものとして使われており、ボトルデザインにも取り入れられています。
カクテルキットやギフト用の詰め合わせなど、豊富な品揃えのショップ
門をくぐり中へ入ると、蒸溜所ショップへと続きます。ここではレイクスのウイスキーはもちろん、ロゴ入りのカクテルキットや国立公園のグッズなどあらゆるものが陳列されています。レイクスウイスキーの人気の秘訣のひとつは、コレクション性です。アーティストとコラボすることも多い綺麗なラベルやその生産本数の少なさから、コレクターズアイテムのような扱いをされることも多いです。
彼らのウイスキーは世界中で着実にファンを増やしており、今では発売日に熱狂的なファンがわざわざ蒸溜所まで足を運びにくることも多いそうです。
この蒸溜所ショップでは、そのようなレアボトルや限定品なども取り扱っています。
カフェレストランの外観
レイクス蒸溜所にはカフェレストランも併設されており、ウイスキーだけでなく美味しいコーヒーや食事も楽しめます。
カウンターには所狭しとレイクス蒸溜所のウイスキーとジンが並んでおり、飲み比べや発売したばかりのエディションの試飲など、ファンにはたまらない場所となっています。
カウンターに並ぶレイクスウイスキーボトル
蒸溜所から150mの地点には、ヨーロッパで流れが一番速いと言われるダーウェント川が流れています。以前は、この豊富な美しい水が蒸留酒の製造に利用されてきました。レイクス蒸溜所は、イギリスの産業革命を支えたこの歴史ある清流を、水質保全活動に取り組みながら活用してきました。しかし、数年前から地球温暖化の影響により水質の安定性に懸念が生じたため、利用を中止したそうです。
現在は近くに掘削坑を整備し、そこを水源として利用しており水質も安定しているそうです。そんな中でも、レイクス蒸溜所は水質改善・保全のための活動は続けており、国立公園内部のダーウェント川以外の環境保全活動も積極的に行なっています。
蒸溜所の裏に流れるダーウェント川
レイクス蒸溜所付近の水は火山岩で濾過されているため、非常に多くのミネラルを含んでいます。
蒸溜所の各所にあるカトルフォイル
モルトの仕入れから粉砕〜蒸留までの全工程を一つ屋根の下で行っているレイクスは、ツアー内容も実にシンプルです。製造が行われる建物に入ると、奥にはすでにポットスチルが見えており生産量に制限がある理由がわかります。
しかし詳しく見ていくと、その歴史深い外観とはかけ離れた、現代の技術が詰め込まれた製造機器で溢れていました。
上部に見えるホッパー導入以前は、モルトを袋から直接注ぎ込んでいた
レイクス蒸溜所では、スタンダードで現代的なミルが採用されており、モルトはワンバッチあたり1トンずつ粉砕されます。使用されるモルトはイングランド産で、粉砕割合は一般的なハスク:グリッツ:フラワー=2:7:1です。
蒸溜所はマッシング用に2つのHLT(ホット・リカー・タンク)を備えており、マッシングの工程を終えた後に残る余剰な糖分や熱湯を保管し、次のバッチの製造に再利用しています。
環境に配慮したウイスキーづくりを徹底
このシステムにより、廃棄部分がほとんど出ず、効率的で環境に優しいウイスキーづくりが可能になっています。
しかし、カルシウムを豊富に含む水を温め続けると、ケトルなどで見られるように白く結晶化して固まってしまうことがあるそうです。この問題を防ぐため、使用する水はカルシウムフィルターを通しています。フィルターを通すことでカルシウム結晶が集まって大きくなり、HLT内に入った後も側面に付着せず底に沈みます。「フィルターのお陰で掃除が圧倒的に楽なんだ!」と、現場ならではのお話を聞かせていただきました。
マスク社製のマッシュタン
レイクス蒸溜所では、元々使用していた4基のウォッシュバックに加えて新たに8基整備したことで、現在は5,000Lのステンレススチール・ウォッシュバックを12基備えています。以前は週に3日しか行なっていなかった発酵工程を、現在は1日2回・週7日実施できるようになりました。その結果、2024年の生産量は過去最大の27万8,000Lに上る見込みとのことです。
将来的には24時間365日稼働し続けることを目標にしていて、毎年少しずつ生産量を増やしていくそうです。
ウォッシュバック内部の様子を映したモニター
ホッパー内のモルトの量や各ウォッシュバック内部の液量や温度などは、すべてコンピューター上で確認することができ、12基ものウォッシュバックの状況を一目で把握できます。発酵工程を終え準備が整うと、ポットスチルへの移し替えもプログラムから操作可能です。ただし、ウォッシュバックとポットスチルをつなぐパイプの繋ぎ直しは手動で行っているそうです。全自動化には大きなリスクが伴うため、手作業での確認を行いつつ製造プロセスを進めていきます。
発酵期間は93時間と、スコッチの平均と比べると大幅に長く設定されています。これは、さまざまな試行錯誤を経て辿り着いた、現段階でレイクスウイスキーに最も適した発酵時間だそうです。新たにウォッシュバックを増設し生産力が安定した今、毎日24時間体制での製造を目指し、発酵時間に関しても細かな調整を行う予定です。
初期に導入されたウォッシュバック
レイクス蒸溜所では、発酵時間の管理を自動化せず、ウォッシュバック内の温度が自然に下がっていくのに任せています。外気温の影響を強く受けるため、発酵時間は季節や日によって異なります。
そこで、ウォッシュバックの温度推移を記録したKPIレポートのようなデータを毎日取り、外気に合わせてつくりをシフトしています。
使用しているウォッシュバックは主にビール製造設備を作っていたマスク社製で、レイクス蒸溜所はウイスキー蒸溜所の中でもこの設備を最初に導入した蒸溜所の一つです。
スピリットスチルのレイチェルと右奥にある名無しのジン用スチル
レイクス蒸溜所はウォッシュスチルとスピリットスチルを各1基備えており、それぞれスーザン、レイチェルと命名されています。
スコットランドの伝統に則って命名されているそうで、それぞれ創業者であるポールさんとナイジェルさんの奥さんのお名前を冠しているとのことです。
レイクス蒸溜所では、再利用された古い建物に収まるサイズのポットスチルを使う必要があったため、スチルはどちらも比較的小ぶりです。小さめのスチルでは発酵液が泡立ちやすいため注意が必要ですが、その分多くのリフラックスが得られ、すっきりとした酒質となります。
ポットスチルの内部状況などもモニターから確認できる
左側が銅製、右奥がステンレス製のコンデンサー
レイクス蒸溜所はウイスキー蒸溜所としては珍しく、ステンレス製のコンデンサーも保有しています。
一般的な銅製のコンデンサーを使うとリンゴを思わせる甘くフローラルな味わいになり、ステンレス製のものを使うとよりミーティーでオイリーな重い酒質になるそうです。
取材時にはステンレス製のコンデンサーが使用されており、チーフウイスキーメーカーのサラさんのお気に入りでもあったため、数か月はこのまま使い続ける予定とのことでした。このように、蒸留の段階から酒質にバラエティを持たせることで、将来的なウイスキーづくりのポートフォリオを広げているそうです。
本来、製造段階で変化を加えても、実際に酒質がどうなるかを判断するには、スコッチウイスキーの定義上の最低熟成年数である3年待たなくてはなりません。しかし、レイクス蒸溜所では頻繁にエレヴァージュを行うため、数か月のうちにサンプリングを繰り返すことで、早い段階からどのようなウイスキーに仕上げるかの方向性を固めていくそうです。
蒸留工程によってできた排水は畑の肥料に、麦芽の残りは牛などの飼料に活用され、あらゆるものを無駄なく利用しています。
レイクス蒸溜所の熟成庫は、現在同じ敷地内にはなく車で20分ほどの距離に3箇所あるそうです。設立当初に熟成庫として利用していた建物を発酵専用の建物として作り替え、新たにウォッシュバックを8基増設しており、レイクス蒸溜所の急速な成長がうかがえます。熟成庫はそれぞれ大きさが異なりますが全てラック式で、1つの熟成庫あたり1,200〜7,000カスクが保管されているとのことです。そのうちの1つには、ブレンドやエレヴァージュを行うための作業場が隣接しています。
8段にも及ぶ大きなラックを使って効率的に熟成を進めていますが、既存の熟成庫が埋まりつつあるため新たに建設する計画があるとのことです。
窓から見えるアルパカたち
蒸溜所の裏には、もともと母家だった建物を改装した施設があり、テイスティングルームやサラさんのブレンディングスタジオなどがあります。当時のままの外観からは歴史が感じられます。
テイスティングルームの窓からは、美しい川とそのほとりでくつろぐアルパカを眺めることができ、とても心温まる空間となっています。
大人数でのテイスティングなどに使われる部屋
壁の棚には歴代のレイクスウイスキーが並べられており、美しいラベルとボトルデザインが綺麗にライトアップされています。
レイクス蒸溜所のテイスティングツアーは、あえてテイスティングの時間を1時間たっぷりと取っており、雑談なども交えながらウイスキーを楽しみ、学べることが魅力です。
テイスティングの銘柄はツアーやタイミングによっても様々で、レイクス蒸溜所のジンも飲むことができます。
レイクス蒸溜所オリジナルのテイスティンググラス
ツアーの中でもコアなファンに人気なのがAccess to the Archives(アクセス・トゥ・ザ・アーカイブス)というツアーです。2時間のテイスティングセッションでは、市場では売り切れてしまっている歴代のボトルなどをテイスティングできます。
コレクターやファンたちの間では、手に入らなかったレイクスウイスキーを堪能できる機会として非常に人気があるそうです。
以上、そのユニークな土地柄とエレヴァージュなどの様々な技法を組み合わせ、唯一無二の蒸溜所として世界中にファンを持つレイクス蒸溜所をご紹介しました。
レイクス蒸溜所は、豊富なストックと個性豊かな原酒のつくり分けを通じて未来のブランド形成に注力しています。また、イングリッシュウイスキーギルドの創設にも携わり、イングリッシュ・モルトウイスキーの先駆者としての地位も確立しています。
国立公園の美しい自然環境を活かし、保護・再生しながら独自の道を切り開くレイクス蒸溜所のウイスキーをぜひご堪能ください!
レイクス蒸溜所の始まりやチーフウイスキーメーカーのサラさんが語る秘話などにご興味のある方は、ぜひ下記の記事もご覧ください。