【現地レポート】日本の風土に合う理想的なウイスキーを追い求める富士御殿場蒸溜所
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- 蒸溜所(日本)
みなさんはUNESCO世界遺産の中に建てられた蒸留所をご存じでしょうか?レイク・ディストリクト国立公園内、バセンスウェイト湖の北岸に位置するレイクス蒸留所は、スコッチウイスキーとも一線を画すイングリッシュ・モルトウイスキーの先駆者として注目を集める蒸留所です。
レイク・ディストリクト・ナショナルパーク内部、バセンスウェイト湖の北岸に位置するレイクス蒸留所は、スコッチウイスキーとも一線を画すイングリッシュ・モルトウイスキーの先駆者として注目を集める蒸留所です。
2014年の設立以来、エイジステイトメント(熟成年数)を一切記載することなく、その巧みなブランディングと洗練されたウイスキーづくりから世界中にファンを増やしてきました。
この記事ではレイクス蒸留所の製造設備やウイスキーについて詳しくご紹介しておりますので、是非最後までお読みください!
Dear WHISKYは過去に、レイクス蒸留所のチーフウイスキーメーカーであるサラ・バージェスさんにインタビューさせていただきました。そちらではサラさん個人のお話やレイクス蒸留所の理念などについてご紹介していますので、ご興味のある方は併せてお読みください。
(2024年3月取材)
レイクス蒸留所はその美しい自然環境と、文化および環境保全を重んじるウイスキーづくりが、世界中から高い評価を得ています。
さらにWorld Whisky Award(ワールド・ウイスキー・アワード)やInternational Spirits Challenge(インターナショナルスピリッツチャレンジ)といった大きな舞台でも金賞を受賞するほど、ウイスキーの味わいや完成度の高さが証明されています。
レイクス蒸留所は、熟成年数にこだわらず、リラックを多用する「エルヴェージュ」という製法を駆使することで、複雑で奥行きある味わいを演出します。このスタイルは、伝統や歴史を重んじるスコッチウイスキーとはかけ離れた、多様性を特徴とするイングリッシュウイスキーの象徴と言えます。
レイクス蒸留所の概要については、プロモーションビデオをご覧ください。(参考: The Lakes Distillery YouTube channel )
蒸留所名 | レイクス蒸留所 |
創設者 | ナイジェル・J・ミルズさん、ポール・カリーさん |
住所 |
The Lakes Distillery, Setmurthy, Bassenthwaite CA13 9SJ
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操業開始 | 2014年 |
公式HP |
レイクス蒸留所 公式HP |
公式SNS |
Instagram:@lakesdistillery |
レイクス蒸留所は、エディンバラから車で3時間、マンチェスターからも2時間半と、大自然の中心に位置するため、アクセスには時間を要します。
しかし、その国立公園の美しさや、雄大な湖の景色を味わいながら進む道のりは、旅の疲れを感じさせないほどの魅力があります。
レイクス蒸留所のシングルモルトは、他のウイスキー蒸留所ではあまり見られない製法を取り入れています。
コニャックに多く用いられる「エルヴェージュ」製法は、熟成途中にカスクのサンプリングを行い、リラックを繰り返すことで味わいを完成させる製法です。
この「エルヴェージュ」製法を活かし、レイクス蒸留所は多彩な種類のリリースを発売していることで知られています。詳細なボトル情報に関しては、レイクス蒸留所HPをご覧ください!
概要 | ウイスキーメーカーのこだわりのつくりに息吹が吹き込まれる、美しい蒸留所の裏側を是非ご堪能ください。 |
所要時間 | 1時間 |
価格 | 18歳以上:£20 10~17歳:£5 |
営業時間 | 毎日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | 科学とアート、コントロールとクリエイティビティの狭間のダンスを堪能し、ウイスキーへの愛を満喫してみませんか。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £50 (18歳以上のみ) |
営業時間 | 水曜日から日曜日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | 美しい蒸留所ツアーを目と鼻で楽しんでいただいた後に、我々のシングルモルトウイスキーと共に、手作りのラグジュアリーチョコレートのペアリングを楽しんでいただけます。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £50 (18歳以上のみ) |
営業時間 | 毎週 土曜日 |
予約 | こちらから事前にご予約されることをお勧めいたします。 |
概要 | 今まで発売された、最もレアで人気なレイクスシングルモルトを取り揃えた、レイクス図書館へのお誘いです。 |
所要時間 | 2時間 |
価格 | £100 (18歳以上のみ) |
営業 | 完全予約制 |
予約 | こちらから予約フォームを埋めてください。 |
美しい景色と澄んだ空気の中、湖畔を抜けると、重厚な煉瓦づくりの建物が見えてきます。古風な外観と所々にモダンなガラスが融合したレイクス蒸留所は、ウイスキー蒸留所としては独特の雰囲気を放っています。
20年間手付かずだった160年前の酪農場を再生したもので、補足材もすべてナショナルパーク内から調達されています。
近年、脱二酸化炭素の動きが活発化するイギリスでは、新たな蒸溜所を建設する際、使われなくなった建物をリフォームして再利用するケースが増えてきています。
新たに建設しない分、一見シンプルにも思えるこのプロセス、実は蒸留機器を巧みにはめ込み、補強したりと大変手間のかかる工事だそうです。
レイクス蒸留所の大規模なリノベーションを通して、元々の建物に使われていたクォーターフォイル(Quatrefoil)と呼ばれる四つ葉の飾りが、26個発掘されました。
クォーターフォイルは「信仰」「希望」「運」「愛」を象徴する、この地方の伝統的なシンボルだそうで、今でも蒸留所の壁面に埋め込まれています。レイクス蒸留所はこのシンボルを大切な信条として掲げており、ボトルデザインにも取り入れられています。
門をくぐり中へ入ると、蒸留所ショップへと続きます。ここではレイクスのウイスキーはもちろん、ロゴ入りのカクテルキットやナショナルパークのグッズなどあらゆるものが陳列されています。レイクスウイスキー人気の秘訣のひとつは、コレクション性です。アーティストとコラボすることも多い綺麗なラベルやその生産本数の少なさから、コレクターズアイテムのような扱いをされることが多いレイクスのウイスキー。
彼らのウイスキーは、世界中で着実にファンを増やしてきました。今では、発売日に熱狂なファンがわざわざ蒸留所まで足を運びにくることも多いそうです。
ここ蒸留所ショップではそういったレア度の高いレイクスウイスキーや限定品なども取り扱われています。
レイクス蒸留所にはカフェレストランも併設されており、ウイスキーだけでなく、美味しいコーヒーや食事も楽しんでいただけます。
カウンターには、所狭しとレイクス蒸留所のウイスキーとジンが並んでおり、飲み比べも楽しめるほか、発売したばかりのエディションも試飲できたりとレイクスファンにはたまらない場所となっています。
蒸留所から150mの地点には、ヨーロッパで流れが一番早いと言われるダーウェント川が流れています。以前は、この豊富な美しい水が蒸留酒の製造に利用されてきました。レイクス蒸留所は、イギリスの産業革命を支えたこの歴史ある清流を、水質保全活動に取り組みながら活用してきました。しかし、数年前から地球温暖化の影響により水質の安定性に懸念が生じたため、利用を中止したそうです。
現在は近くに掘削坑を整備し、そこを水源として利用しているそうで水質も安定しています。そんな中でも、レイクス蒸留所は水質改善・保全のための活動は続けており、国立公園内部のダーウェント川以外の環境保全活動も積極的に行なっています。
レイクス蒸留所付近の水は火山岩を通り自然に濾過されているため、非常に多くのミネラルを含んでいます。
モルトの仕入れから粉砕~蒸留までの全工程を一つの屋根の下で行っているレイクスは、ツアー内容も実にシンプルです。製造が行われる建物に入ると、奥にはすでにポットスチルが見えており生産能力に制限がある理由がわかります。
しかし詳しく見ていくと、その歴史深い外観とはかけ離れた、現代の技術が詰め込まれた製造機器で溢れていました。
レイクス蒸留所では、スタンダードで現代的なミルが採用されており、ワンバッチ1トンずつ粉砕されます。使用されるモルトはイングランド産で、粉砕割合は一般的な2:7:1(ハスク:グリッツ:フラワー)です。
マッシング用に2つのHLT(ホット・リカー・タンク)を備えており、マッシングの工程を終えた後に残る余剰な糖分や熱湯を保管し、次のバッチの製造に再利用しています。
このシステムにより、廃棄部分がほとんど出ず、効率的で環境に優しいウイスキーづくりが可能になっています。
しかし、カルシウムを豊富に含む水を温め続けると、ケトルで見られるように白く結晶化して固まってしまうことがあるそうです。この問題を防ぐため、使用される水はカルシウムフィルターを通しています。フィルターはカルシウム結晶を集めて大きくさせ、HLT内に入った際も側面に付着せず底に沈むように働きます。「これにより掃除が圧倒的に楽なんだ!」と、現場ならではのお話を聞かせていただきました。
レイクス蒸留所では、元々使用していた4つのウォッシュバックに加え、新たに8つ整備したことで、いまでは12個もの5,000Lのステンレススチール・ウォッシュバックを備えています。以前は週に3日しか行なっていなかった発酵工程を、現在は週7日、1日2回実施できるようになりました。その結果、2024年の生産量は過去最大の、27万8,000Lにも及ぶとされています。
将来的には24時間365日稼働し続けることを目標にしているそうで、それにつれ毎年少しずつ生産量を伸ばしていくそうです。
ホッパー内のモルトの量や各ウォッシュバック内部の液量や温度などを、すべてコンピューター上で確認することができ、12個ものウォッシュバックの状況を一目で把握できます。発酵工程を終え準備が整うと、ポットスチルへの移し替えもプログラムから操作可能です。ただし、ウォッシュバックとポットスチルをつなぐパイプの繋ぎ直しは手動で行っているそうです。全てを自動化するのには、大きなリスクが伴うため、手作業での確認を行いつつ製造プロセスが進んでいきます。
発酵期間は93時間と、スコッチの平均と比べると大幅に長く設定されています。これは、さまざまな試行錯誤を経て辿り着いた、現段階でレイクスウイスキーに最も適した発酵時間だそうです。新たにウォッシュバックを増設し生産力が安定した今、毎日24時間体制での製造を目指し、発酵時間に関しても細かな調整を行う予定です。
レイクス蒸留所では、発酵時間の管理を自動化せず、ウォッシュバック内の温度が自然に下がっていくのに任せています。外気温の影響を強く受けるため、発酵時間は季節や日によって異なります。
そこで、ウォッシュバックの温度推移を記録したKPIレポートのようなデータを毎日取り、外気に合わせてつくりをシフトしています。
使用しているウォッシュバックは、ビール設備を主に作っていたマスク社製で、レイクス蒸留所はこの設備を最初に導入したウイスキー蒸留所の一つです。
レイクス蒸留所はウォッシュスチルとスピリットスチル各1基ずつ備えており、スーザンとレイチェルと命名されています。
これはスコットランドの伝統だそうで、それぞれ創業者であるポールさんとナイジェルさんの奥さんのお名前を冠しているそうです。
レイクス蒸留所では、再利用された古い建物に収まるサイズのポットスチルを使う必要があったため、スチルはどちらも比較的小ぶりです。小さめのスチルでは泡立ちやすいため注意が必要ですが、その分多くのリフラックスが得られ、すっきりとした酒質が生まれます。
レイクス蒸留所はウイスキー蒸留所としては珍しく、ステンレス製のコンデンサーも保有しています。
一般的な銅製のコンデンサーを使うとリンゴを思わせる甘くフローラルな味わいの酒質になり、ステンレス製のものを使うと、よりミーティーでオイリーな重い酒質になるそうです。
取材時にはステンレス製のコンデンサーが使用されており、チーフウイスキーメーカーのサラさんのお気に入りでもあったため、数か月はこのまま使い続ける予定だと話されていました。このように、蒸留の段階から酒質にバラエティを持たせることで、将来的なウイスキーづくりのポートフォリオを広げているそうです。本来、つくりの段階で変化を加えても、実際に酒質がどうなるかを判断するには、スコッチウイスキーの定義上の最低年数である3年が必要です。しかし、レイクス蒸留所では頻繁にエルヴェージュを行うため、数か月のうちにサンプリングを繰り返すことで、早い段階からどのようなウイスキーに仕上げるかの方向性を固めていくそうです。
蒸留工程によってできた排水は畑の肥料に、麦芽の残りは牛などの飼料に活用され、全てを無駄なく利用しています。
レイクス蒸留所の熟成庫は現在、同じ敷地内にはなく車で20分ほどの距離に3箇所あるそうです。設立当初熟成庫として利用していた建物を発酵専用の建物として作り替え、新たにウォッシュバックを8個増設しており、レイクス蒸留所の急速な成長がうかがえます。熟成庫の大きさは様々で、ぞれぞれに1,200~7,000カスクずつ全てラック式で保管されているそうです。そのうち1つの倉庫には、ブレンドやエルヴェージュを行うための作業場が隣接されています。
8段にも及ぶ大きなラックを使い効率的に熟成を進めていますが、現在倉庫が埋まりつつあるため、新たに倉庫を建設する計画があるそうです。
蒸留所の裏には、もともと母家だった建物が改装された施設があり、テイスティングルームやサラさんのブレンディングスタジオなどがあります。外観は当時のままを残しており、この建物もまた歴史を感じる風貌です。
テイスティングルームの窓からは、美しい川とそのほとりでくつろぐアルパカを眺めることができ、とても心温まる空間となっています。
壁の棚には、歴代のレイクスウイスキーが並べられており美しいラベルとボトルデザインが綺麗にライトアップされています。
レイクス蒸留所のテイスティングツアーは、あえてテイスティングの時間を1時間たっぷりと取っており、雑談なども交えながらウイスキーを楽しみ、学べることが魅力です。
テイスティング銘柄は参加するツアーや、タイミングによっても様々で、レイクス蒸留所がつくるジンも飲むことができます。
なかでもコアなファンに人気なのがAccess to the Archives(アーカイブへのアクセス)というツアーです。こちらは2時間のテイスティングセッションとなっており、市場では売り切れてしまっているような歴代のレイクスウイスキーをテイスティングできます。
コレクターやファンたちの間では、手に入らなかったレイクスウイスキーを嗜める機会としてとても人気だそうです。
そのユニークな土地柄とエルヴェージュなどの様々な技法を組み合わせ、唯一無二な蒸留所として世界中にファンを持つレイクス蒸留所のご紹介でした。レイクス蒸留所は、豊富なストックと個性豊かな原酒のつくり分けを通じて未来のブランド形成に注力しています。また、イングリッシュウイスキーギルドの創設にも携わり、イングリッシュ・モルトウイスキーの先駆者としての地位も確立しています。
ナショナルパークの美しい自然環境を活かし、守り、再生しながら独自の道を切り開くレイクス蒸留所のウイスキーをぜひご堪能ください!
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