【独占インタビュー】ロバート・バーネカー、ソナト・バーネカー夫妻<第2弾> – KOVAL
- 造り手
- 蒸溜所(海外)
「日本のウイスキーの父」と呼ばれるニッカウヰスキー創業者・竹鶴政孝氏が、ウイスキー造りの地として選んだ北海道・余市。
スコットランドに似た豊かな自然と冷涼で湿潤な気候を併せ持つ余市で、創業時と変わらない伝統の技を約90年もの間守り続けてきました。余市蒸溜所は、2022年2月にキルン塔をはじめとした施設が重要文化財にも登録された歴史ある蒸溜所です。
そんな余市蒸溜所の工場長である岩武公明さんに、現地で独占インタビューをさせて頂きました!
スコットランドで学んだウイスキー造りを忠実に再現した竹鶴政孝氏の想いをはじめ、歴史ある建造物と技術を感じ、そして岩武工場長の余市蒸溜所やウイスキーに対する想いを伺いました。
また、実際に蒸溜所を案内していただきながら色々なお話も伺いました!余市蒸溜所の様々な事を知ることができる、余市蒸溜所現地レポート編もご覧ください!
蒸溜所名 | 余市蒸溜所 |
工場長 | 岩武 公明 様 |
所在地 | 北海道余市郡余市町黒川町7丁目6 |
電話番号 | 0135-23-3131 |
蒸溜所HP | https://www.nikka.com/distilleries/yoichi/ |
Dear WHISKY:
竹鶴政孝さんが初めての蒸溜所として余市を選んだ背景を教えてください。
岩武さん:
竹鶴政孝さんは、「一人でも多くの日本人に、『本物のウイスキー』を飲んでもらいたい」という想いを抱いてスコットランドへ渡り、ウイスキー造りを学びました。そんな竹鶴さんが、スコットランドに似た気候を持つ場所として、数多くの候補地を巡りここ余市を選びました。
Dear WHISKY:
スコットランドと似た環境であるというのは具体的にどのようなところですか?
岩武さん:
様々ありますが、豊かな雪解け水に恵まれ、ピリッとした冷涼で湿潤な気候であるというところです。また、湿度が高くわずかに潮の香りを含む澄んだ空気は、樽を乾燥から守るためウイスキーが蒸発しにくく熟成がゆっくり進む中で、余市特有の味わいや風味を生み出す役割も果たしています。
Dear WHISKY:
2022年2月に余市蒸溜所の複数の施設が重要文化財に指定された時はどのようなお気持ちでしたか?
岩武さん:
おめでたいという気持ちと、それ以上に多くの方への感謝の気持ちが大きかったです。
お話をいただいた2018年から始まり、実際に重要文化財に指定された2022年まで約4年もの長い期間、様々な方々に協力していただきました。
ご助言をいただいた方々にお礼を伝えたいのはもちろん、今まで余市蒸溜所で働いていた方々にも、受賞と感謝を伝えたいです。
Dear WHISKY:
登録まで4年ほどかかったのですね!ちなみに重要文化財の登録にはどのような手順があったのですか?
岩武さん:
重要文化財の対象となるかを確認するために昔の図面や稟議書をもとに、建造物を一つ一つ確認をする必要がありました。建設後に改装をした部分は対象にならなかったり、同じ建物であっても場所ごとに対象になるかが変わってきます。このような理由から過去の図面などでチェックをする必要がありました。
だからこそ今回の受賞は、古くなったからといって建て替えず、苦しい時期も大切に建屋や設備を守ってきた先輩方の想いの結晶だと感じます。
Dear WHISKY:
余市蒸溜所で使用しているポットスチルはどのような特徴がありますか?
岩武さん:
余市蒸溜所のポットスチルは、下向きのラインアームを持つストレートヘッド型のものを使用しています。
そのポットスチルからは多くの香味成分を含んだ力強く重厚な蒸溜液が生成されます。
Dear WHISKY:
余市蒸溜所ならではの他の特徴といえばどのような点がありますか?
岩武さん:
伝統的な石炭直火蒸溜を用いている点です。
石炭直火蒸溜を用いることによって、底の部分の温度は800度〜1,200度になり、適度な焦げが生まれます。
Dear WHISKY:
焦げですか?その焦げはウイスキーにどのような影響を与えるのでしょうか?
岩武さん:
この焦げとポットスチルの形状が相まって、力強く香ばしい香りができます。焦げというと少々ネガティブに聞こえるかもしれませんが、私はいつもトーストを焼いて取り出した時のような匂いと表現しています!いい香りのほどよい「焦げ」ですね!
Dear WHISKY:
ちなみに石炭直火蒸溜は世界でも稀だと思うのですが、蒸溜する際にはどのような技術が求められるのでしょうか?
岩武さん:
一概にこの技術というのは難しいですね。石炭は屋根のない屋外に置いてあるので、雨や湿気の多い日など、石炭の状態や気候によって燃えにくくなることがあります。
また、石炭を燃やしていると石炭中のシリカとアルミナなどが熱によりクリンカと呼ばれる物質ができます。
クリンカは燃焼に必要な下からの空気の通り道を塞いでしまうので、棒を入れてそれを崩すことによって酸素を供給し、燃焼を安定させる必要があります。そして、蒸溜を適切に進めるためにも温度をコントロールする必要があるのですが、天然物で一定でない石炭を燃やすことはとても難しいです。
ですので必要な技術を一言で表現するのは難しいですが、造り手の経験からもたらされる結果とさらに追求する技術ですかね。
Dear WHISKY:
新樽を使ったウイスキーもありますよね。なぜ新樽を選んだのでしょうか?
岩武さん:
2001年に『シングルカスク余市10年』が英国のウイスキー専門誌「ウイスキーマガジン」で一位を獲得し、世界で認められました。ということは、その10年前に発案したブレンダーの発想や、それをやってみようと言う決断の結実です。新樽が余市のウイスキーに合うと思って選んだんだと思います。
Dear WHISKY:
新樽を使用することで余市の原酒にどのような影響を与えるのでしょうか?
岩武さん:
新樽は木の勢いが強くなってしまいがちです。
しかし余市のウイスキーは、原酒が力強く重厚であるため、新樽の木の香りなどと非常にマッチしたんでしょう。
Dear WHISKY:
岩武さんは工場長になられるまで、どの様なお仕事に携わっていらっしゃいましたか?
岩武さん:
これまでには、ニッカの研究所やワイナリー、ビールの調達部といった様々な分野に携わってきました。
実は、ウイスキーを造る蒸溜所に携わるのは、工場長に着任した今回が初めてです。
Dear WHISKY:
ウイスキー造りに初めて携わったのですね!そのような中で大切にしている事はありますか。
岩武さん:
「こんな事をやりたい」という想いが仕事のパワーの源だと思いますし、大切な事だと思っているので、そのような想いを持つメンバーが増えるように、蒸溜所のメンバーとのコミュニケーションを大切にしています。
Dear WHISKY:
なるほど、そのような想いで働いている中で、嬉しいと思う瞬間はどのような時ですか?
岩武さん:
「こんな事がやりたい」と従業員から聞く時です。それを聞くと、じゃあどうやったらそれを実現できるかという事を考えるという嬉しい悩みが生まれます。設備が必要であったりと、簡単には実現できないものもありますが、一緒に考えていきたいと思っています。
さらに、組織全体として動けるようになった時は、夢がバーっと動いていくようで、もっといい瞬間で、いい顔も溢れているでしょう。
Dear WHISKY:
岩武さんは工場長としての役割は何であると考えていますか?
岩武さん:
ニッカウヰスキーの長期的な未来を考えていくことです。また、そのために人を育てていくことが自分の使命であると感じています。
工場のみんなには、その日の仕事をこなすだけでなく、5年先、10年先を想像して、一つ一つの仕事に真摯に向き合ってもらいたいです。創業者の竹鶴政孝さんの「一人でも多くの日本人に、本物のウイスキーを飲んでいただきたい」という想いを忘れず、「本物のウイスキーとは何か」を一人一人に問いかけ続けていきたいです。
Dear WHISKY:
従業員一人一人に問いかけることを大切に思っているのですね!
岩武さん:
そうですね。また、工場長としてニッカウヰスキーや余市蒸溜所の未来について考えるだけでなく、従業員に今の瞬間に幸せでいてほしいと思っているので、一人一人の明日明後日、その先の未来についても考えるようにしています。
現在の仕事は一言で言えば全体統括ですが、工場の未来と、どうしたらみんなが楽しくやれるかを考える仕事であると思っています。
Dear WHISKY:
今年日本のウイスキーが100周年を迎えますが、どのような想いですか?
岩武さん:
特に意識してやろうとしていることはないです。竹鶴さんは「ウイスキー造りにトリックはない」と言っていましたが、まさにそうだと思っています。
私たちはただウイスキーに真摯に向き合って、ウイスキーを造っていきたいなと思います。その中で、変えても良い所と変えてはいけない所を意識しながらやっていきたいです。
Dear WHISKY:
ニッカウヰスキーは来年で90周年ですが、どのような想いですか?
岩武さん:
90周年も100周年も、単なる通過点だと思っています。元々ニッカウヰスキーはウイスキーが熟成し売れるようになるまで、りんごジュースを販売していました。
そんな中、ニッカウヰスキーがここまで続けてこれたのは、地域の人に愛され、理解していただいた多くの方がいたからです。90周年は、改めてその事を思い起こして、感謝を伝える一年にしたいです。
これからも変わることなく大事にしたい想いだと思います。
Dear WHISKY:
最後に、Dear WHISKYの読者にコメントをお願いします。
岩武さん:
私にとってウイスキーは、楽しい時も悲しい時もちょこんとそばにいてほしい存在です。
皆さんにも「気付いたらどんな時もウイスキーがそばにいたな」と呟いてほしいと思っています。そして一人でも多くの人に、「本物のウイスキーってこれだ!」となる瞬間があると、嬉しいです。
以上、余市蒸溜所工場長の岩武さんへのインタビューでした!今回のインタビューでは、余市の自然環境や重要文化財にまつわる秘話、そして余市蒸溜所の伝統的なウイスキー造りなど多くのお話を伺いました。
竹鶴政孝氏の想いを現在から未来へ繋ぐ岩武さんが工場長を務める余市蒸溜所は、景観も想いも全てが美しく壮大でした!
余市蒸溜所の様々な事を知ることができる、余市蒸溜所現地レポート編もご覧ください!